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チートスキルで世界樹ガチャを引きまくれ!  作者: 山田マイク
第5章 『勇者の村の世界樹』編
93/137

92 父親


 ◆


 バシュ、という音がして、目の前の景色が洞窟前のロイスに戻った。

 『記憶』はどうやら近くにいる人にも効くらしく、俺も断片的な出来事が見ることが出来た。


 日はすでに沈んでおり、蒼い闇が辺りを包んでいる。

 ミミズクがホオホオと鳴き、頭上を蝙蝠が乱れ飛んでいた。


 カイルとナタリアの過去を見た俺は、しばらく何も言えなかった。

 悲しい話だった。

 誰も悪くないのに、幼気な少女が一人、犠牲になってしまった。

 

 悪魔ラプラスが本当に人の愚行により神が遣わせた悪魔なら――。

 世界を救う勇者を殺したのは神の意志ということになる。

 俺たちはそれを、どう受け止めるべきなんだろうか。


 ただ一つ言えること。

 カイルは、やはり悪いやつではない。

 確かに少し駄々をこねてはいたが、それで負う業としては、ナタリアの死はあまりに重すぎる。


「やはり――勇者は死んでしまっていたか」

 アビゲイルはそう言うと、小さく息を吐いた。

 その声で、俺は思案から覚めた。


「……そのようですね」

 俺は呟いた。

「なんていうか、やるせない話でしたね。カイルは――まだ自分を責めているんでしょうか」

「おそらくな」

 アビゲイルはそういうと、半身だけ振り返った。

「心の傷というのはそう簡単には癒えない。それは根雪のように記憶にこびりつき、ふいにフラッシュバックを起こして、また古い記憶ををえぐりだし我々を苦しめるのだ」

 アビゲイルは悲しそうな顔をしていた。


 ”我々”を苦しめる、か。

 アビゲイル大佐にも、そのような記憶があるのだろうか。


「そうですね……」

 と、俺は言った。

「でも、過去に囚われてばかりではいけないと、俺は思います。人は――また歩き出さないと」


 アビゲイルは是とも非とも答えなかった。

 暗闇にとけているせいで、表情もよく見えない。


「では、カイルの家に戻ろう」

 アビゲイルはそういって、足を踏み出した。

「コトトが元気になり次第、メーティスに戻り、このことをミカエル様に報告に行かねば」

「わかりました」

 俺も彼女について歩き出す。


「えーと、あの」

 少し歩いて、ふと、俺はアビゲイルの背中に声をかけた。


「ん? どうした?」

 アビゲイルは前を向いたまま言った。


「いえあの、どうでもいい話なんですけど」

 そう前置きを置いて、俺は聞いた。

「その『記憶』の魔石、”ポチ”に入れておかないんですか?」


「……」

 アビゲイルはしばらく返事をしなかった。

 そして10秒ほど沈黙した後、

「……この魔石は、しばらく私が預かる」

 と、そういった。


 ◆


 2日後の朝。

 コトトはすっかり回復し、いつもの彼女に戻った。

 俺たちは出発の準備をすませ、いよいよ出立の時間となった。


「あー! 健康って素晴らしい!」

 コトトは腕を伸ばしながら、言った。 

「で、カイルは見つかったの? 早くお礼を言いたいんだけど」

 コトトはそういって、リビングをきょろきょろと見回した。


「い、いないです」

 アリスが言った。

「い、今、アビゲイル様が、畑のほうまで探しに行ったんですけど……」

「照れてるのかしらね」

 マキがしししと笑いながら言った。

「ああ見えて、意外と純なのかも。もしかして、私たちと別れるのが悲しいとか」

 

 そうである。

 どういうわけか、今日は朝からカイルの姿が見えないのだ。


「どうかなあ」

 俺は頭をがりがりと掻いた。

「たしかにちょっと、あいつは素直じゃないとこはありそうだけど」


 その時、こんこん、と扉がノックされた。

 どうぞ、と返事をすると、壮年の男が顔を覗かせた。

 白髪で、皺の多い男。

 難しそうに、太い眉毛を寄せている。


 カイルの父親だ。


「ちょっと、いいかな」

 父親はそう言って、部屋に入ってきた。


「ああ、お父さん」

 コトトが立ち上がり、頭を下げた。

「この度は、本当にお世話になりました。あなたたちのおかげで、命が救われました」


「そんなことはない」

 父親は不愛想に言い、俺たちを見渡した。

「顛末はカイルから聞いた。礼を言うのは、こちらのほうだ。ありがとう」


 突然の出来事に、俺たちは目を合わせた。


「あ、あの、どういうことでしょうか」

 と、俺が聞く。


「奇妙な話だがね」

 父親は小さく息を吐いた。

「君たちを救うことが、あいつの救いでもあったようだ。昨日見せたあの顔は、私も久しぶりに見るような、清々しい顔だった。まるで――」

 あの子と遊んでいたころのように、と父親は言った。


 あの子。

 それは――ナタリアのことだろう。


「そこで、君らに一つ、頼みがあるんだ」

 と、父親が言った。


「頼み、ですか?」

「ああ」

 父親は頷き、深く頭を下げた。

「どうか、君たちの仲間にカイルを加えてあげてくれないか」


「ど、どういうことですか?」

 俺は戸惑った。


「私は、あいつには、この村から一度出てみてほしいんだ」

 父親は少し俯いた。

「カイルは母親似のいい奴だ。私と違い、きっと、たくさんの人の役に立てる人間になれる。でも、このまま村にいて私と暮らしていたんじゃ、あいつは駄目になってしまう。自らの一生を、棒に振ってしまう気がするんだ」


 父親はかすれた声で続けた。

 彼は年齢以上に、老けて見えた。

「村の人たちへの贖罪なんて言ってるが、今のままのあいつでは、そんなことは一生出来ない。カイルは村人に怯えている。自分への呵責が強すぎて、まっすぐ彼らを見られないんだ」


「ま、いいかもね」

 マキが頬杖をつきながら言った。

「よくわかんないけどさ、旅に出るってのは悪くないことよ。アビちゃん見てたら、そう思うし」


「私も賛成」

 コトトが言った。

「カイルは私の恩人だし、何より彼の病気や薬草に関する知識は旅の役に立つわ」


「わ、私もいいと思います!」

 アリスは大きくぶんぶんと頷いた。

「仲間は多いほうが楽しいですからっ!」


「……そうだな。あとで大佐に聞いてみよう」

 俺は大きくうなずいた。

「その前に――カイルはどこにいるかわかりますか?」


「私も探しているんだがね」

 父親は短く首を振った。

「どこにもいないんだ。姿を見せないときは大抵、ゾーイの墓かナタリアの墓にいるんだが」


 そうですか、と俺は言った。

「じゃあ俺たち、もう少しカイルを探してみます」



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