表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートスキルで世界樹ガチャを引きまくれ!  作者: 山田マイク
第5章 『勇者の村の世界樹』編
92/137

91 カイルとナタリア 3


 ◆


 それから、僕とナタリアは村はずれにある洞窟へと向かった。

 ナタリアの話では、そこはきつく立ち入りが禁止されているらしかった。

 彼女自身もなぜ入っていけないのか、中に入るとどうなるのか、具体的なことは知らないようだった。


 知っているのは――この奥に、『世界樹』という不思議な樹があり、その葉にはあらゆる病を治す不思議な力があるらしい、ということと、この洞窟には絶対に中へ入ってはならないということだけだった。


「村長様に、ここにだけは足を踏み入れないように言われていたんだけどね」

 と、ナタリアは言った。

「でも――今回は仕方ないよね」

「……ごめんね」

 と、カイルは謝った。

「危険な目にあわせて」

「私は勇者なんだから。何が出てきても、倒してやるわ」

 ナタリアはそういうと、自分の胸をどんと叩いた。


「危なかったら、すぐに逃げようね」

 カイルは眉を下げながら言った。

「大丈夫」

 ナタリアはぽん、とカイルの頭に手を置いた。

「それに、私だって、ゾーイには何としても助かってほしいもの」


 洞窟の入り口は板で封鎖してあった。

 ナタリアはそれを持っていた剣で見事に断ち切った。

 彼女の剣さばきは子供のものとは思えないものであった。 


 真っ暗な洞窟の中を、ナタリアがたいまつを掲げながら歩く。

 カイルはナタリアの腰にしがみつきながら、おそるおそるついていった。


 と、一番奥の空洞までついたとき、辺りにギャアアアン、という聞いたこともない音が鳴り響いた。


 僕は身を縮め、ナタリアが剣の柄に手をあてた。


 そうして――奴が現れた。


 ◆


『くジびキをしよウ』

 歪で凶悪な姿を姿をした悪魔・ラプラスが、そのような提案をしてきた。

 どうやらこの悪魔はゲーム好きなようで、それをやり終えるまではここから出してくれないようだった。


 そして、ラプラスは恐ろしい選択ゲームを提示してきた。


 命を賭けた『くじ引き』である。

 外れを引けば、その場にいるものは全員死ぬ。


 引けるくじには種類があった。

 当たれば”全員が助かるくじ”は、当たる可能性はすごく低い。

 当たればくじを引いた”代表者だけが助かるくじ”は、当たる可能性が高い。

 当たればくじを引いた”代表者以外が助かるくじ”は、当たる可能性がものすごく高い。

 簡単に言うとこの3種類。


 くじを引く”代表者”は、この空洞内に一番に足を踏み入れたナタリアだ。

 

 話を理解したカイルは、恐怖で足がすくんだ。

 そして、激しく後悔をした。

 

 僕はナタリアと父親の言うことを聞いておくべきだった。

 我がままを言った自分が悪かったのだ――。


 僕の命はいいんだ、とカイルは思っていた。

 自分の命が惜しいんじゃない。

 僕の命でゾーイが助かるんなら、それはそれで全く構わない。

 だけど――。


 カイルはそこで、ナタリアを見た。

 彼女はきっと、自分を犠牲にする。

 誰よりも優しいナタリアはきっと――。


「……カイル」

 と、ナタリアが口を開いた。

「世界樹の葉をとったら、お父さんに頼んで、ちゃんとゾーイを助けてあげてね」


「ま、待って!」

 カイルは大きな声を出した。

「ナタリア! ちょっと待って! もっと冷静に考えようよ!」


 やっぱりだ。

 恐ろしい予感に、カイルは体の芯から震えた。


 ナタリアは――『代表者じぶん以外が助かるくじ』を引く気だ。


「わがままを言ったのは僕だ! ナタリアは、自分が助かるくじをひいて!」

「それは出来ないよ」

 ナタリアはゆっくり首を振った。

「私のほうが、カイルよりもお姉ちゃんだもん」

「そんなの理由になってない!」

 カイルは体中から汗が噴き出してきた。

「ナタリアは勇者なんだから! この世界のためにも、君は生きなきゃいけない”運命”なんだから!」


 運命、という言葉に、ナタリアの動きが止まった。

 そして彼女は――少し笑った。


「天使様、うっかり間違っちゃったのかな」

 と、ナタリアは言った。

「それとも――運命って、本当はもっと揺蕩っているのかな」

「やめてよ、ナタリア!」

 カイルは彼女にとびついた。

「そんなこと言うのはやめてよ! そんな言葉、聞きたくないよ!」


「カイル」

 ナタリアは目を細め、カイルの頭を撫でた。

「私、あなたに出会えてよかったよ。恥ずかしくって言えなかったけど、実はさ、私、あなたのこと――」

「やめて! やめてったら!」

 カイルは涙でぐしゃぐしゃの顔を、ナタリアの胸に押し付けた。


 ナタリアは短い間、そのままにしておいた。

 それからカイルの頭にキスをし、「好きだよ、カイル」と声に出さずに言った。


 そして、ナタリアはカイルを強引に引き離した。

 

『さア、ドのクジにスル?』

 悪魔が聞いてくる。


 ナタリアは迷いのない顔で、悪魔に対峙した。

 そして「私は――」と口を開く。


「分かったよっっっ!」

 カイルは自分の出せる最大限の声を出した。

「それじゃあ、せめて『全員が助かるくじ』を引いてよ! どんなに低くても、その可能性に賭けようよ! 僕は、ナタリアのいない世界になんて生きていたくないんだ! ナタリアが死ぬんなら、僕もここで死ぬ!」


 本気だった。

 カイルは自分の人生を、ナタリアのために生きようと決めていたのだ。

 だからカイルは、必死に懇願した。

 喉が裂けるくらいに叫んだ。

 

 だが――。

 ナタリアはもうそれ以上は何も言わなかった。

 

「ナタリア! やめてよ、ナタリアぁ!」

 ナタリア。

 ナタリア。

 カイルは跪き、彼女の名前を叫び続けた。


 彼女はただ、少し困ったようにカイルを見ていた。

 愛おしそうに、名残惜しそうに。

 

 そしてやがて。

 彼女は悪魔に向き直った。

 そして凛とした、どこまでも澄んだ声で、こう言った。


「悪魔ラプラス。私は、『代表者わたし以外が助かるくじ』を引くわ」



 ◆


 気がつくと、悪魔は消えていた。

 そして目の前で、ナタリアが横たわっていた。

 まるで眠っているように見えたが、息はしていなかった。


 カイルは何も考えられなかった。

 ただただ茫然として、涙が枯れるまでナタリアの亡骸に寄り添っていた。


『ゾーイを助けてあげてね』


 どれくらいそうしていたのか。

 ふと、頭にナタリアの声がよみがえった。


 カイルはのそのそと立ち上がり、世界樹から葉を一枚ちぎりとった。

 それポケットに突っ込むと、ナタリアの体を抱えて洞窟を出た。


 ◆


「どうしたんだ、これは!」

 カイルの父親はナタリアの亡骸を見ると、血相を変えた。


 カイルは何も話さなかったが、右手に握りしめていた「世界樹の葉」を見て父親は何かを悟ったようだった。

 どうやら彼は世界樹の葉と、悪魔ラプラスの伝説を知っていたようだった。

 父親は薬師として、いつか”万能薬”を作ってみたいと考えており、この村に住み着いたらしかった。


「……世界樹の葉を採りに行っていたのか」

 父親は聞いた。

 カイルはやはり、何も答えなかった。


 父親は無言でカイルの頬を思い切りぶった。

 父親がカイルに手を上げたのは、後にも先にもこれ一回だけだった。


 カイルは父親に葉を渡し、万能薬を作ってくれと頼んだ。

 ゾーイを助けるためだというと、父親は断った。

 ナタリアの命を犠牲にしたのだから、この薬は村の人たちのために使うべきだといった。

 だが、それがナタリアの最後の願いなんだと伝えると、父親は渋々了承し、出来上がった薬をゾーイに飲ませた。


 ◆


 カイルと父親は共に村へ降り、二人で頭を下げた。

 二人とも、怒った村人にいいだけ誹られ、なじられ、そして殴られた。


 当然、カイルは村人から厳しい詰問を受けた。

 だが、カイルは「自分のせいで死んでしまった」ということ以外、何も語らなかった。

 言い訳は一切したくなかった。

 そのせいで、村人たちに殺されても構わなかった。

 

 村人たちからは口々に出て行けと言われ、父親もそれには同意した。

 だが、いよいよ出て行こうというとき、カイルの家に村長に引き留められた。

 村長は、カイルの父親が栽培する薬草がどれだけ村を助けているか、知っていたのだ。

 

 結局、カイルたち親子は村のとどまることになった。

 彼ら親子はこの事件で再び村八分にされてしまうことになり、カイルは殺人者と呼ばれるようになった。


 カイルはどんなにひどいことを言われても構わなかった。

 どんな仕打ちを受けようとも、それは村の人たちからナタリアを奪ってしまった罰だと思った。

 

 そうしてカイルは、いつの日か、誰かを救うために自分の命を使おうと決めたのだった。

 あの日のナタリアのように。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ