85 ラプラスのゲーム
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カイルは説明を続けた。
「ラプラスはゲーム好きの悪魔だ。ここに侵入してきたものに、その人数に応じて、色んな種類のゲームを提案してくる。そしてゲームを終えて生き残った者にのみ、世界樹の恩恵を与えてくれるんだ。今から、そのルールについて話しておくよ」
「ゲームだって?」
俺は眉を寄せた。
「そう」
と、カイルは頷いた。
「ただ、ルールと言ってもとてもシンプルなものだから安心してほしい」
カイルは人さし指を立てて続けた。
「”2~3人用のゲーム”の内容は一言でいうと『くじびき』だ。くじを引く”代表者”が『当たりを引けば助かる。ハズレを引けば死んでしまう』という単純明快なもの。その結果が、その場にいるものに適用される」
「くじ引き――か」
「そう。そして、ここが重要なんだが、くじには3種類があるんだ。それぞれの条件によって、くじの数とあたりの数が異なる。その中から『代表者』が好きなものを選べるようになっている」
カイルはそこで言葉を一旦止め、指を3本立てた。
「その3種類とは次の通りだ」
そして、カイルはその”3つのくじ”について説明を始めた。
彼の話をまとめると、くじの種類と当たりの数は以下の3パターンである。
A 当たれば全員助かるくじ=100個中1個が当たり。(当選確率1%)
B 当たれば代表だけ助かるくじ=100個中90個が当たり。 (当選確率 90%)
C 当たれば代表者以外全員助かる=100個中99個は当たり。 (当選率 99%)
それぞれの特徴を一言で言うと――。
A 低い確率だが全員を助かる。
B 高確率で代表者だけ助かる。
C 代表者は100%死んでしまうが、他全員はほぼ助かる。
そして、くじを引くのもこのAからCのパターンを選べるのも『代表者』である。
つまり、俺たちの運命を握っているのはくじを引く「代表者」なのだ。
「な、なんてこった」
と、俺はアビゲイルを見ながら言った。
「どうしますか、大佐?」
「どうもこうもないだろう」
アビゲイルは決意のこもった表情で言う。
「物理的な攻撃が効かぬなら、向こうの条件で戦うしかない」
「そうですね……」
俺は頷き、覚悟を決めた。
「では、代表者は誰がやります?」
「うむ。このゲーム、全ての肝はそこにあるな。そうすると――」
「先に言っておくが」
カイルがアビゲイルを遮った。
「代表者は僕がやる。いやだと言っても、議論の余地はないよ」
「なんだと?」
俺は眉を寄せた。
「なんだよ、それは。そんな勝手が許されると思ってるのか。そんな重要なことは、きちんと話し合って決めるべきだろう」
「話し合うも何も、もう決まっているからね」
カイルは肩をすくめた。
「ラプラスは、くじを引く『代表者』を誰にするか、この空洞に一番に足を踏み入れたものに聞いてくるんだから」
空洞内に最初に足を踏み入れたもの。
それは当然、灯りをもって道先案内人をするカイルだ。
「カ、カイル、貴様」
アビゲイルが唇を噛む。
「最初からすべてわかっていて――」
「悪いが、僕は自分を『代表者』に選ぶ」
カイルはアビゲイルの言葉を無視して、歪んだ笑みを浮かべた。
その顔を見て、胸にいやな予感がよぎった。
もしかするとカイルは――最初から、そのために俺たちをここにおびき寄せたのではないのか、という考えが浮かんだのだ。
そうすると、次々に疑念が湧いてくる。
彼は『代表者』になり、『自分だけ助かるくじ』を引こうとしているのか?
そうして、一人だけ助かるつもりなのではないか?
だが、そうだとするなら――目的はなんだ?
俺は頭をフル回転させる。
すると、すぐにある一つの言葉が頭に浮かび、はっとした。
『世界樹の葉で巨万の富を得たものはたくさんいる』
洞窟内でのカイルのセリフを思い出し、俺は思わず声が出そうになった。
カイルは自分の父親が金儲けが下手でずいぶん苦労したと言っていた。
金があれば、村での虐げられた暮らしもしなくてすんだ、とでも言いたげに。
つまりカイルは。
最初から、俺たちを『ラプラスのルール』の犠牲にして、『世界樹の葉』を独り占めしたかったのではないか――?
きっとそうだ。
そうに違いない。
そう思える根拠が、俺にはもう一つある。
先ほど、カイルはかつてここにきていると言っていた。
それなのに、彼が今まだ生き残っているということは――
それはつまり、過去に誰かを犠牲にしたということではないか!
今思うと、コトトを治すというのも、アルアインマラリという病だというのも、全て俺たちをここに連れてくるための嘘だったのか。
「この洞窟が入り組んでいると嘘をついたのも、俺たちについてくるためのウソだったんだな」
と、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「まあね」
と、カイルは言った。
「君たちは強い。それは一目見て分かった。だから、ここに僕抜きで来られるとまずいと思ったのさ。さっきも言ったが、「ラプラスのくじ」は2人以上が必要だ。君たちにはどうしても、ここにいてもらう必要があった」
なんてことだ――。
俺は思わず、唇を噛んだ。
『カイルに騙されるな』
バルの店主の言葉が頭によみがえる。
俺たちはこの男を――大した根拠もなく、信じ込んでしまった。
「世界樹の葉を持ち帰り」
カイルは血走った目で言った。
「今度こそ――この僕が、真の勇者になるんだ」




