78 カイル=カシージャ
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次の日。
俺たちは早速、カイル=カシージャの家へと向かうことにした。
だが、いざ出かけようというとき、一つトラブルが起きた。
コトトの体調がすぐれないというのだ。
おでこを触ってみると、たしかにちょっと熱っぽかった。
「大佐、ごめんなさい。今日は一緒に行けそうにないです」
簡易の布団に寝ころんだまま、コトトが言った。
「うむ」
アビゲイルは頷いた。
「無理はするな。今日はゆっくりと体を休めろ。アリスを置いていくから、何かあれば事付けるように」
はい、とコトトは頷いた。
「大丈夫か?」
と、俺は聞いた。
「なんなら、俺も残ろうか?」
「大げさよ、このくらい大丈夫」
コトトは気丈に微笑んだ。
「ていうか、ユウスケはいかなくちゃ。勇者様のことはあんたのことでもあるんだから」
俺は名残惜しかったが、結局はコトトの言う通り、アビゲイルたちと出かけることにした。
◆
こうして。
俺とアビゲイルとマキの3人は、カイルの家へと向かった。
俺たちは村の人にカイルの家の場所を聞きながら歩いた。
結局、あれから店主は彼の家を教えてくれなかったのだ。
彼の家を聞くついでに、その評判も聞いて回った。
すると、誰もがカイル=カシージャという名を聞くと眉を顰め、口を重くした。
以下が大まかなその内容である。
父子ともども変わり者。
特に息子は嘘つきで偏屈。
完全に頭がおかしい、村の嫌われ者。
散々である。
そしてやはり――かつて、村の娘を誘拐し、殺した、というものもあった。
噂だけだと、どう見ても勇者とは思えない。
「つーかさー」
マキは二日酔いに頭をふらふらさせながら言った。
「ほんとに大丈夫なの? その、カイルってやつ。かなりやばそうなやつじゃん」
「確かになあ」
と、俺。
「特に、村娘を殺した、なんてさ、ちょっと物騒ってレベルじゃねえよな」
「ま、行けば分るだろう」
こともなげに、アビゲイルが言った。
「怖くないんですか?」
と、俺は聞いた。
「大丈夫だ」
と、アビゲイルが言った。
「どんな奴だろうが、私が負けると思うか?」
うーん。
すごい説得力。
俺たちは「思いません」と声をそろえた。
◆
カイルの家は村の中心から少し離れたところにあった。
バルの店主が言っていた通り、農園(農園というには少し小さいかもしれないけど)が家の隣にあった。
「すいません」
アビゲイルは言いながら、玄関のドアをこんこんと叩いた。
反応はない。
アビゲイルがもう一度叩く。
すると、今度は音もなく扉が開いた。
俺たちは思わず身構えた。
だが――誰も出てこない。
俺は眉を寄せ、首を伸ばして入口の中を覗いた。
すると――
いた。
家の少し入ったところに、男が妙なポーズをとりながら、無言で立っている。
「あ、あのぅ」
と、俺が言った。
「ここ、カイルさんのお宅ですかね?」
「……」
男は黙ったままだ。
金髪に細い体。
服装は普通の布製の上下。
相変わらず――変なポーズをとったまんまだ。
顔を右手で隠し、左手は右側の腰に回している。
微妙に体を傾け、上半身をくねらせていた。
一言でいうなら――ジ〇ジョ立ちだ。
「……何か」
と、そこで男が喋った。
「何かようかい?」
「あ、あの、ですから、カイルさんは――」
「カイルは僕だ」
今度は急に早口で返してくる。
「この僕に、何か用なのかい?」
「ええ」
と、そこでアビゲイルが前に進み出た。
「私はダーダリアン王国からの使者で、アビゲイル=ジョブワと申します。少し、お話を聞かせてくれませんか?」
「…………」
男――カイルは再び黙り込んだ。
そしてゆっくりと「……いいよ」と言った。
そこでようやく、男が家から出てくる。
顔は右手で隠したまんま、のっそりと、ゆっくり出てくる。
「…………だー!」
と、それまで黙っていたマキが突然でかい声を出した。
「もう我慢できないわ! あんた、さっさと出てきなさいよ! 何よ、その無駄なたっぷりとした間は! あんたは昭和の大御所俳優か! 銀幕のスターか!」
マキはそう言って、カイルを引っ張り出した。
カイルは思わず前につんのめって――そこで初めて、彼は俺たちの前にその面相を見せた。
「え? これマジ?」
マキはカイルの顔を見て、口元に手をあてた。
「ちょっとなにこれ、やばくない?」
「た、たしかに――こいつはやばいな」
俺も思わず同意する。
カイル=カシージャは――信じられないほどのイケメンだった。
◆
カイルは長身でモデルのような体躯をしていた。
髪は美しいブロンドで、目は透き通るような青。
涼し気な両眼は完璧なシンメトリーで、鼻梁は高くすっと伸びている。
あんまり言いたかないが。
男でも見惚れるほどの――イケメンである。
「勇者だわ!」
マキが目をハートにして即答した。
「決まり! これもう決まり! この人、勇者様だわ!」
「お、おい、マキ」
と、アビゲイルは言った。
「あまり不用意に近づくな」
「ふっ」
カイルは少しよろめいたものの、すぐに先ほどの格好いいポーズに戻った。
「すまないね。カッコよくて。いやあ、今日もかっこいいなあ、僕」
懐から鏡を取り出し、うっとりと自分に見惚れている。
「は?」
俺は眉を寄せた。
「あ、あんた、何いってんの?」
「僕がイケメンだって話だよ。あ、イケメンってのはイケてるメンズって意味だよ」
「知ってるよっ!」
俺は思わず怒鳴った。
「うるさいなあ。全く、ブサイクは声がでかいから嫌いだ」
カイルはやれやれという風に首を振る。
ぐさり。
あまりの直球に、俺はよろめいた。
俺の本能が告げている。
こいつは――敵だ。
その時、ぽん、と肩を叩かれた。
マキが悲しそうな目で短く頷いた。
「やめて! 同情が一番傷つくから!」
「とにかく、この彼女を責めないでやってくれないか」
カイルはジョジ〇立ちに戻って言う。
「僕が悪いんだ。僕が格好良すぎるんだ。彼女がはしゃいでしまうのは仕方がない」
アビゲイルはあっけにとられていた。
気持ちはわかる。
まさか――こんな奴だとは思っていなかった。
そんなアビゲイルに、カイルは手を差し出した。
「あ、どうも、申し遅れました。イケメンです」
ここに至り、俺は完璧に気付いた。
この男――相当アレな人だ。
「ん? どうしたんだい? その顔は。ああ、そうか」
カイルはやれやれという風に首を振った。
「なるほどなるほど。そういうことか。ごめんね、気付かなくって」
「なんのことだよ」
と、俺は口を尖らせた。
「君たち――」
と、カイルは無意味に両手を広げた。
「君たち、僕のサインが欲しいんだね?」
「いらねーよ!」
と、俺は怒鳴った。
「……顔は確かにいいけど」
一瞬で目が覚めたマキが、半眼になって言った。
「この男、いわゆる”残念なイケメン”だわ」
何はともあれ――この男に勇者かどうか聞かなければなるまい。




