72 マキとアリスの休日 2
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メーティス幻想大図書館を出ると、日はすっかり傾いていた。
俺たちはマキたちと合流するため、待ち合わせのホテルの前へと急いだ。
「少し遅れてしまったな」
オレンジに染まる街を眺めながら、アビゲイルが言った。
「でもさー、ユウスケが勇者かもしれないって知ったら、マキ驚くわよねー」
と、コトトが言った。
「全力で否定してくるぞ、きっと」
俺はちょっとげんなりしていた。
絶対、面倒くさい。
「ある程度は仕方ないだろう」
と、アビゲイル。
「私もまだ信じられんくらいだ」
そんな話をしていると、少し先から「おーい」というマキの声がした。
「あ、いるいる。……え? でも待って」
コトトはそういい、眉を寄せた。
「隣にいるの、あれ、アリスちゃん?」
「いや、マキのほうもおかしいぞ」
と、俺が言った。
「な、なんだ、あの格好は――」
◆
「ヤッピーゲロゲロー」
マキはそう言って、ピースサインを上下に交差させた。
「アビの助ー、コトピョン吉、ユウスケ氏、ブリボリ遅かったじゃーん」
マキはアフロヘアみたいなヅラを被り、トンボみたいな巨大なサングラスをかけていた。
目に染みるような真っ黄色のボディコン姿である。
手には蛇の人形のついた扇のようなものを持っていた。
俺たちの頬を一筋の汗がたら、と流れた。
まずい。
どうリアクションすればいいかわからん。
「ほら、アリスも言ってやりなさい」
アリスに促され、アリスはおずおずと前に出た。
こちらもすっとんきょうな格好だ。
首回りにファーのついたエミネムが着るようなコートを羽織り、インナーはラメ入りの派手なTシャツ。
パンツが見えそうなくらいミニスカートを履き、首には巨大な髑髏のついたチョーカーをつけていた。
俺はそこで、いよいよ顔をしかめた。
こ、これがあの可愛らしかったアリスちゃん?
「お、お待ちしておりました! お疲れ様です!」
見た目とは裏腹に、アリスはいつものようにぶん、と頭を下げた。
(ばか! そうじゃないでしょ!)
マキは小声で言った。
(もっとこう、ナウい感じでボキャブラなきゃ)
(す、すいません。わ、私、やっぱりよくわかりません)
アリスは涙目でぶんぶんと首を振った。
「だっさ……」
思わず、俺は言った。
「なんですって?」
その言葉を聞いて、マキが右の眉を上げた。
「今なんつった? このモロスケ」
「モロスケ!?」
俺はぺこりと頭を下げた。
「す、すまん。悪かったよ。で、でもよ、はっきり言うけど、結構ひどいと思うぞ、お前。どう見てもださい」
「は?」
マキは眉根を寄せ、ヤンキーのように俺に顔を寄せた。
「あんた、感覚古いんじゃないの? いい? うちらが今日行った『ジュクハラ』は世界の最先端のファッション街なの。このサイケでアヴァンギャルドな感性が分からないんじゃ話になんないわね」
「分かってないのあなたのほうよ、マキ」
と、コトトが顎に手をあてて言う。
「マキ。それからアリスちゃん。あなたたちその服、本当に着たいと思って着てるの? 私が見る限り、どう見てもそうは見えない。二人とも、服を着てるんじゃなくて服に着せられてるわ。いい? ファッションってのはね、要するに自分はこういう人間だというアピールなのよ。今のマキからは、そういう主張が一切感じられない。ただジュクハラの人たちが着てるから着てる。そういう風にしか見えないわ。そんなの――」
オシャレだなんて言えないわねっ。
コトトはずびしッとマキを指さした。
「ぬ、ぬう」
ぐうの音も出ない正論に、マキが怯んだ。
だが、まだ諦めきれないマキは、よろよろとアビゲイルのほうに向いて歩いた。
「ね、ねえ、アビちゃん」
マキはアビゲイルに縋りつくようにして言った。
「この格好、お洒落だよね?」
「うーん……そうだな」
アビゲイルは少し考えるそぶりを見せた後、
「とりあえず、冒険にファッションは不要だから、防御力が低そうなその装備は全部着替えて来い」
と、言った。
コトトを超えるド正論に、マキは肩を落として「……はい」と答えるしかなかった。




