67 メーティス幻想大図書館 7
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「伝説の勇者というのは……一体、何の話でしょうか?」
と、アビゲイルが聞いた。
「その魔石獣だよ」
と、バギムは俺の頭の上に乗っているポチを指さしながら言った。
「ユウスケの上に乗っている、その狐の仔のような獣」
「ポチが――どうかしましたか?」
と、俺は言った。
「貴様」
バギムは顔をしかめた。
「ポチなどという名をつけたのか。なんと神をも恐れぬ行為だ」
「キューン」
ポチは目を細めて鳴いた。
「ふむ……この鳴き声も『預言書』の通りだ。みみずくのような羽角を持ち、腹には無限のポケットを有している」
バギムは顎をさすった。
「この魔石獣の正体を、ご存じなんですか?」
コトトが驚い表情を見せた。
「無論だ」
と、バギム。
「この私を誰だと思っておる。知の国メーティスの大図書館を司る男だぞ」
ごくり、とコトトはつばを飲み込んだ。
視線に、畏怖の色が混じっている。
「この魔石獣は、正式にはラリーポスという。腹にある袋にあらゆるものを収納でき、さらに魔石獣の中で唯一、成長するという特徴を持つ」
「せ、成長するんですか?」
「うむ。最終的には、おそらく小山ほどになるだろう」
「そ、そんなに――?」
「そもそもラリーポスとは、古代言語で『乗り物』という意味なのだ。古文書によれば、その背に人を乗せて移動していたという」
俺は頭上のポチを見た。
こいつ――そんなすごい能力まであったのか。
「そして、ここが最も重要なのだが」
と、バギムは目線を強めて俺を見た。
鋭い視線に、思わず緊張する。
バギム館長は少し間をあけ、こういった。
「伝承によれば『魔石獣ラリーポス』は、”勇者にしかひくことが出来ない魔石”であるとされているのだよ」
◆
「なんですって――?」
大きな声を出したのはアビゲイルだった。
「バギム殿。それは――それは本当なのですか?」
「嘘など吐くわけあるまい」
バギムはふんと鼻を鳴らした。
「ちゃんと預言書にそう書かれておるのだ」
「預言書、というのは?」
と、アビゲイルが聞いた。
「ふむ」
と、バギムは頷いた。
「最古の文書と呼ばれる『天使の福音書』と呼ばれる書物のことだ」
「天使の福音書」
アビゲイルは確かめるように、そうつぶやいた。
「そうだ。そして、そこにはこう記されている――」
『魔王復活せしとき、伝説の勇者がラリーポスの背に乗り、普く悪を滅し再び人々に安住の地を与えん』
「魔王復活せしとき……」
アビゲイルは呟いて、真偽を確かめるかのように俺を見た。
美しく、鋭い目。
俺は思わず体を硬直させた。
「あ、あの」
と、俺は半笑いになって言った。
「な、何かの間違いじゃないですかね? 俺、どう見ても勇者って感じじゃないんですけど」
「そ、そうですよ」
コトトがアビゲイルと俺との間に割り込んでいう。
「ユウスケが勇者だなんて、そんなことあり得ないですって。見てくださいよ、この間抜けな顔。とても勇者って感じじゃないです。アビゲイル大佐なら分かりますけど――」
「いや、アビゲイルは違うな」
と、バギムが遮る。
「勇者は無属性なのだ。光属性であるアビゲイルは該当しない。そしてその点でも、ユウスケはあてはまる」
「ユウスケ――殿」
と、アビゲイルが言った。
「よもや、あなたが伝説の勇者であったとは。知らぬこととはいえ、これまで数々の無礼をしてしまいました」
どうかお許しを、と丁寧に頭を下げる。
「や、やめてくださいよっ」
俺は手のひらを突き出し、ぶんぶんと首を振った。
「まだ、俺が勇者だと決まったわけじゃないし」
「しかし、バギム館長がそうだと言っておられる」
アビゲイルは頭を下げたまま言う。
「預言書にも、そう書かれている」
「では、確認しに行ってみようじゃないか」
と、バギムが言った。
「確認?」
「うむ。この幻想大図書館にはな、その最深部に『使徒の部屋』というものがあるのだ。勇者が来た暁には、そこへ勇者を連れていくよう、歴代の館長は政府から言付かっている」
「そこへ行けば――真実が分かるんでしょうか」
「さてな。私も行ったことがないのだからわからんよ」
バギムは肩をすくめた。
「だが、そこに行けば、きっとすべてが分かるはずだ」
「分かりました」
とアビゲイルが言って、俺を見た。
俺は大きくうなずいて、「行きましょう」と言った。




