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チートスキルで世界樹ガチャを引きまくれ!  作者: 山田マイク
第4章 『幻想大図書館の世界樹』編
67/137

66 メーティス幻想大図書館へ 6 


 ◆


 唐突に、俺たちとネズミの館長・バギムによる俳句バトルが始まった。

 お題はずばり『秋空と図書館』。


 アビゲイルは俳句を知らなかったので、俺が簡単に教えてあげた。

 コトトのほうはそれが「5・7・5」の定型詩であることは知っていたが、詠んだことはないらしい。


「ど、どうする? 私は、そんなもの一度も作ったことはないぞ」

 と、アビゲイル。


「私もありませんよ! 文学とか小説とか、そういうの苦手で……」

 と、コトト。


「あ、俺、一応、学校の授業でやったことありますけど」

 と、俺は手を上げた。

「しかも、クラスで賞も取りました」


 そうである。

 俺は、実はちょっと自信があった。

 テレビ番組でやっているのを見て、一時期ちょっとハマったのだ。


「本当か!?」

 アビゲイルは目を見開いた。

「それじゃあユウスケ、ここはお前に任せるぞ!」


「いやいや、みんなでやりましょうよ。どうやら、いくつ詠んでも良いみたいですし。手数は多いほうがいいです」

「そ、それもそうだな」

 俺が言うと、アビゲイルとコトトは頷いた。


 そうして、俺たちはとりあえず、各々俳句を考え始めた。


 ◆


 さて、どうしたものか。

 俺は頭を捻った。

 俳句で重要なのは、季語のチョイスだ。

 そして、少し捻るとこ。

 なんとなく、いい感じに雰囲気を出すのだ。

 

 難しいけど――そこが面白い。


「はい、出来ました」

 しばらくして、まずはアビゲイルが手を上げた。

 初心者の割に先陣をきるところはリーダーっぽい。


「うむ。詠んでみろ」

 と、バギムは目を細めた。


 アビゲイルはこほんと咳払いし、いきます、と言ってから口を開いた。



『バギム氏は ネズミさんの 館長です』



「…………」

「…………」

 アビゲイルの俳句を聞くなり、俺とコトトはお互いに目を合わせた。


 まずい。

 大佐は、俳句をあまり理解していない。


 他方、アビゲイルは大真面目である。

 どうだ、と言わんばかりにバギム館長を見つめている。


「0点だ」

 館長のジャッジは当然の却下。

「貴様、ふざけてるのか? 季語がないじゃないか、季語が。ったく、基本もなっておらんな」


 アビゲイルはショックを受けたように目を見開き、そして肩を落とした。

 どうやら――あれで自信があったようだ。


「はい」

 続いて、コトトが手を上げる。

「出来ました」


「詠んでみろ」

 足を組んで見守るバギムに、コトトは口を開いた。



『秋の空 メーティスの空に 本の空』



「0点だ」

 と、再びバギム。


「はやっ」

 コトトは驚いて身を引いた。

「は、早くないですか」


「空が被りまくってるだろ。お前どんだけ空好きなんだよ。もっと意味を持たせろ、意味を」

「0点……」

 そういって、がっくりと肩を落とした。

「大佐のあれと同レベルか……」


「はーい。できましたー」

 と、今度はパリィが手を上げる。


「お前は関係ないだろうが」

 バギムは眉を寄せた。

「まあいい、詠んでみろ」


「いきまーす」

 と、パリィが詠む。



『館長様 学芸員キュレーターの 給料あげて』(字余り)



「ただの労働条件改善要求じゃねーか! そういうのは投書でしろ投書で!」

 バギムははあ、と息を吐いた。

「やはり、ど素人どもに任せたのが間違いだったか」


「ちょっと待ってください」

 と、俺は言った。


「ん?」

 バギム館長は俺を見た。


「出来ましたよ。あなたを満足させうる俳句がね」

 俺はにやりと笑った。


「ほ、本当か」

 バギムはごくりと唾をのんだ。

「よし。では、言ってみろ」


 はい、と頷いて、俺は口を開いた。



『晩秋の 図書と舞い散る 木の葉かな』



 ほう、とアビゲイルがうなった。

 なるほどね、とコトトも頷いている。


 俺はどや顔になった。

 どうだ。

 前の3人よりも数段出来がいいはずだ。

 

 そう思っていたのだが――

「汚点だな」

 バギムは即答した。


「汚点!? 点数じゃないの!?」

「お前みたいなのが一番恥ずかしいのだ」

 と、バギムが呆れ交じりに言う。

「お前の言葉のチョイスは、なんとなく耳障りの良いものを選んでるだけだ。それではどんな感情も想起させることは出来ん。事実、この句では何の情景も浮かんでこない。いいか。良い句とは、わずか17音のみで豊かな場面を活写し、それを頭の中で鮮明に想起させるものなのだ」


「な、なるほど……」

 俺は打ちのめされた。

 そうだ。

 俺は俳句を舐めていた。

 なんとなく。

 雰囲気で。

 こんなのが通じる世界ではない。


「大佐。コトト。みんなで館長に挑もう!」

 俺はぐ、とこぶしを握った。


「……まあ、そうだな」

「そ、そうね」

 二人は少し引き気味に頷いた。


 ◆


 それから俺たちは、数えきれないほどの句を詠んだ。


 だが――どれもこれもうまくいかず、そのまま30分が経過した。

 館長の持っていた専門書などで勉強したが、やはり俳句は奥が深い。

 俺たちが一朝一夕で館長を納得させるようなものなど詠めようもはずもないのだった。


「どうやら、大したものは作れんようだな」

 バギムははあ、と息を吐いた。


「バギム館長」

 そこで、俺は言った。

「一つ、お願いしてもいいですか?」

「なんだ?」

「是非――館長の俳句を一つ、聞かせていただきたい」


「私の俳句を?」

 バギムは言った。

 ちょっとうれしそうなのは気のせいか。


「いいだろう」

 バギムは頷いた。

「では、達人の句を聞いて勉強しろ。いくぞ」


 俺たちは息をのんだ。

 満を持して、バギムが俳句を詠む。



『秋の本 私館長 チューチューチュー』



「……」

「…………」

「………………」


 俺たちは無言で見つめあった。

 ……ひどくないか?


 これのどこが情景が思い浮かぶんだよ。

 カタルシスがあるんだよ。

 つか、なんだよチューチューチューて。

 

 俺たちはお互い無言のまま、目顔で突っ込んだ。

 それから――パリィを見る。


(館長、俳句は好きだけど、全然才能ないんです)

 パリィが小声で言った。

(下手の横好きってやつで)


「どうだ? 私の俳句は?」

 バギムが聞く。


「え? どうだ、と言われても――」

 ぶっちゃけ、全然いいと思わない。


(でも館長、へたくそだけに褒められるの大好物ですよ)

 パリィが小声で言う。


 それを聞いたコトトが動いた。

「感動しました!」

 コトトはぱん、と胸の前で手を打った。

「素晴らしい俳句でした!」


「そ、そうか?」

 バギムは明らかに嬉しそうににやけた。


 コトトはちら、と俺たちを見た。

 そして、顎をしゃくる。


 な、なるほど。

 その作戦で行くのか。


「す、素晴らしすぎて涙が出ました」

 俺は目頭を押さえた。

「バギム館長、あなたは俳句の才能の塊だ」


「わ、私も同意見です。天才すぎます」

 アビゲイルは棒読みで言った。(どうやら、大佐は演技というものがまるでできないらしい)


 バギム館長はフルフルと震えた。

 そしてそれから――

「気に入った! 世界樹へと案内してやろう!」


「本当ですか!」

 アビゲイルが嬉しそうに声を上げた。

 よし、とコトトも小さくガッツポーズをしている。


 俺はというと――なんだか力が抜けた。

 なんつー不毛な時間だったんだ。



 ◆


「館長」

 と、その時。

 初めて、バギムを肩に乗せている鬼族の男が口を開いた。

「お遊びはこの辺でよろしいのではないですか」

 見た目から想像できない、意外と高い声だ。


「うむ。そうだな」

 バギムは急に真面目な顔つきになり、肩をすくめた。

「どうも、戯れが過ぎたかもしれん」

「館長も人が悪いですね。黒魔石の召喚獣を見たときから、彼らのことは認めていたはずなのに」


 俺たちは眉を寄せた。

 バギム館長が、最初から俺たちを認めていた?


「まあな」

 そういって、バギム館長はくつくつと肩を揺らして笑った。

 そして――こう続ける。


「だが私は、どうしても『伝説の勇者』が詠んだ句を聞いてみたかったのだ」

 

 結果は散々だったがな、とバギムは苦笑した。



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