61 メーティス幻想大図書館へ
◆
それから。
俺とコトトとアビゲイルは早速『幻想大図書館』へと赴いた。
マキとアリスは、予定通り早朝からウィンドゥショッピングに繰り出した。
アリスは戸惑っていたが、マキに強引に誘われて嬉しそうだった。
なんだかんだ言って、いいコンビなのかもしれない。
メーティスは朝からとても活気があった。
人々は斜めに行き交い、露店や客引きが往来を賑わせていた。
◆
10分ほどでメーティス大図書へ到着した。
図書館はすさまじい大きさだった。
端から端まで歩くと一時間くらいかかる。
この中にぎっしり本が入っているのだとすると――
なるほど、本当に世界の知が詰まっているように見えた。
エントランスの前には鬼族と呼ばれる3メートルを超す巨人の警備兵がいた。
俺とコトトは少し身を縮めながら(アビゲイル大佐は堂々としていた)、彼らの間を通って入口へと向かった。
「3人、ですか?」
ホビット族の男が、観察するようにじろりと俺たちを見た。
「はい」
と、アビゲイル。
「来館の目的は?」
「天祐世界樹を観覧したくて参りました」
「世界樹を?」
男の顔が曇る。
「残念だが、それは不可能だ。もうすぐ魔石が生成される時期だから、観覧は中断されている」
「そうですか……」
アビゲイルは顎に手をあてた。
「つかぬことをお聞きしますが――ここの管轄はどの組織が行っているのですか?」
アビゲイルの質問に、受け付けは少し怪訝そうな顔になった。
「……管轄は国だ。議会政府。そこから任命された現在の館長が、全ての責任を有している」
「なるほど」
アビゲイルは顎を引いた。
「では、その責任者はどこに行けば会えます?」
「この中にいるよ」
と、受付は顎をしゃくった。
「バギム館長。国から、すべての権限を任されている」
「バギム館長、ですね」
「そうだ。まあ、あの人は人嫌いだから会えるとは思えないけどな」
受付はにやりと口の端を上げた。
「で、どうする? 中に入るか?」
「ええ、お願いします」
と、アビゲイルは言った。
「では、まずは検査をさせてもらう」
「検査、ですか?」
「そうだ」
受付は頷いた。
「幻想大図書館では来場者を全て検査している。お前たちが危険因子ではない、ということを調べるんだ」
受付はそれから、「これも読んでおけ」と横にある看板を指さした。
『入館料 一人1万カル』と書かれてある。
日本円すると――約20万だ。
……高い。
「審査に通ったら、お金もこれだけもらう。それから、その前の検査費だけで2000カルだ。法外な値段だと思うだろうが、ここを運営するには金がかかるんでな。あんたら、払えるか?」
「それは問題ない」
アビゲイルは躊躇いなく頷いた。
「よし」
受付は頷いた。
「じゃあ、こっちへ来い」
彼はそういうと、エントランス横にある小部屋を指さした。
「あの、あっちの仰々しい入口は?」
と、俺は聞いた。
「ああ、フェイクだよ。あそこから中へは入れん」
「それも、襲撃対策の一つですか」
「そういうことだ。かつて、強引に正面突破を試みたやつがいたからな。もし今無理やり正面入り口から侵入しようとすると――結界の餌食でお陀仏だよ」
受付の男はそう言って肩をすくめた。
◆
中に入ると、何やら背の高い民族衣装を着た男が立っていた。
能面のような面を顔に被っている。
俺は思わずぎょっとして身を固くした。
「コッチニキテ。ヒトリヅツ」
男は片言でそう語った。
俺たちは彼の従い、一人づつ、彼の前に立った。
「精査」
男は俺たちに、それぞれそう唱えた。
全員にその魔法を唱え終えると、今度はそのままそこで長い間待たされた。
◆
「ずいぶん念入りに調べてますね」
と、俺は言った。
「もう一時間になりますよ」
「まあ、当然と言えば当然だろう」
と、アビゲイル。
「ここは人類の財産そのものだ。厳重になってなりすぎることはない」
「さっきの魔法」
と、コトトが聞いた。
「あれはなんです?」
「あれは対象者の種族、強さ、属性などが分かる呪文だ。かなり特殊な魔法で、唱えられる人間は少ない」
「つまり、俺たちの強さとか賢さとかが丸わかりなんですね」
「うむ」
と、アビゲイルは頷いた。
「丸わかりだ」
「な、なんか恥ずかしいな。そういうの、調べられたことないし」
コトトは恥ずかしそうに体をくねらせた。
「もしかして――スリーサイズとかもわかっちゃうのかしら」
「なに!?」
アビゲイルははっとして、ものすごい速さで俺を見た。
「それは本当か? 胸か? 胸の大きさも数値化されるのか?」
「い、いや、俺に聞かれても――」
すごい剣幕に、俺は上半身をそらしながら言った。
「だ、大丈夫だと思いますよ」
と、コトトが言った。
「私が適当に言っただけですから」
「そうか」
そういうと、アビゲイルは胸に手をあて、露骨にほっとした表情を見せた。
◆
そうして、そのまま2時間が経とうというころ。
扉が開いて、先ほどの男とは違う、白いフードつきコートを着た女性が顔を見せた。
「私、このメーティス幻想図書館の学芸員をしております、パリィと申します」
女性――パリィはぺこり、と頭を下げた。
その頭には、猫耳が2つ、ついていた。
顔には両頬に3本づつ、ぴょこりと髯が生えている。
身もふたもない言い方をすると……猫みたいな人だ。
おそらく、獣人族なんだろう。
「お待たせしてしまいましたね」
と、パリィは言った。
「普通ならこんなに審査に時間はかからないんですけどね。えー、アビゲイルさんが、当図書館の規定に少しかかってるんじゃないかってことになりまして」
「私が?」
アビゲイルは眉を寄せた。
「どういうことだ?」
「えーと、それを説明する前に、まずはこちらを見ていただきましょうか」
パリィはそういって、数枚の紙きれを差し出した。
「これは、先ほどの『精査』の魔法による結果をデータ別に数値化したものです」
俺たちはそれを受け取った。(残念だが、スリーサイズは載ってなかった)
まるで通知表を受け取った中学生のように、すぐに各々で見せあう。
「た、大佐、これマジですか」
「す……すごい」
そして見た瞬間。
俺とコトトはアビゲイルのステータスに、驚いてしまった。




