60 早朝の出来事
◆
次の日。
俺は目を覚ました。
体が少し痛い。
やはり固いところで寝ると、眠りが浅いのかもしれない。
窓の外はまだ暗い。
壁掛け時計に目をやると、まだ早朝の5時前だ。
ずいぶん早起きしてしまった。
もうひと眠りしようと、俺は寝返りを打った。
「ん?」
と、その時――。
俺のすぐ横に、誰か寝ころんでいるのが分かった。
俺は驚いて、目を丸くし、体を強張らせた。
危うく声が出てしまいそうだった。
布団の中に――誰かいる。
俺はまず、昨夜の言葉から、すわコトトか!? と俺は思った。
俺に気を使って、俺と同じ場所で寝たのかと頭をよぎった。
だがそれは――アリスだった。
どうしてアリスが?
一瞬、頭が真っ白になる。
アリスが、目の前ですーすーと寝息を立てている。
その事実で、俺は体が固まった。
アリスの寝顔は思わず見とれてしまいそうになるほど、とてもかわいらしかった。
本当に整った顔をしている。
薄くて形の良い唇。
かわいらしい鼻。
こぼれそうなほど大きな両目。
あ、思ったよりまつげが長い。
「ん――」
アリスはむにゃむにゃと口元を動かし、そして寝ぼけているのか――
俺に抱き着いてきた。
今度こそ、いよいよ体が硬直する。
腕に――微かなふくらみの感触があった。
「ま、まずいって、アリスちゃん」
俺は小声で言う。
だが、アリスはさらにきつく俺に抱き着いて離さない。
足までがっちりとホールドしている。
免疫のない俺は、身動きが取れなくなった。
こんな風に女の子に抱き締められたことなど1度もない。
「キューン!」
と、その時。
俺の横にあるバスケットの上で、ポチが鳴いた。
その声で――コトトがむくりと体を起こす。
「うん……あれ? アリスは?」
コトトはすぐに横に寝ているはずのアリスがいないことに気付く。
そうしてきょろきょろとあたりを見回し――
俺と目が合った。
パジャマ姿のアリスと抱き合っている、俺と。
「なに……やってるのかな?」
コトトは口元をひくひくさせた。
「い、いや、俺にもわからないんだけど――」
俺は弁明した。
だが――コトトの耳には届いていないようだった。
「くぉの」
コトトはゆらり、と体を揺らした。
「ロリコンやろおおおおおお!」
そういいながら、俺にドロップキックをお見舞いした。
◆
「す、すす、すいませんでしたっ」
翌朝。
アリスはぶんと頭を下げた。
「わ、私、寝ぼけちゃって、とんでもないことをっ」
顔中に汗をかいていて、こちらが申し訳なくなるくらい恐縮している。
「私、いつも床で寝ていたから、トイレから帰ったときに、いつもの癖で床に――」
「いいのよ」
コトトは微笑んだ。
「アリスちゃんは悪くないんだから。悪いのはユウスケ」
「おい」
と、俺は言った。
「どうして俺が悪いんだよ」
体のあちこちが痛い。
あのあと、俺はコトトにぽかぽかと叩かれた。
「なによ」
コトトはじろりと俺を見た。
「じゃああんた、アリスちゃんが悪いっていうの?」
「い、いや、そういうわけじゃないけどさ」
「じゃあ、悪いのはやっぱりあんたじゃない」
こうなったらもう黙ったほうがいい。
俺ははあ、と息を吐いた。
「あんたさあ」
と、マキが俺の耳にささやく。
「絶対、尻に敷かれるタイプだよね」
俺は背を丸めて、うん、と頷いた。
自分でも、そう思う。




