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チートスキルで世界樹ガチャを引きまくれ!  作者: 山田マイク
第4章 『幻想大図書館の世界樹』編
59/137

58 船上にて


 ◆


「あー気持ちいい」

 コトトは髪を押さえながら目をつむった。


「ほんとだな」

 俺は思い切り息を吸い、そして吐いた。


 ひんやりと冷えた潮風が心地よい。

 頭上では、うみねこが気持ちよさそうに鳴いている。


 俺たちは今、メーティスに向かす船の上にいた。

 アベル地方とメーティスを結ぶ、運河を渡す民間の巨大客船である。

 その舳先の甲板に、俺とコトトは出ていた。


 マキは初めて乗る客船でテンションが上がりまくっていて、アリスを連れて二人で船内を走り回っている。

 そしてアビゲイルはというと――船酔いでダウン中である。


 完全無敵と思われたアビゲイル大佐の意外な弱点。


「海の上がこんなに気持ちいいなんて、知らなかった」

 と、コトトが目を細める。


 少しどきりとする。

 改めてみると、やっぱりコトトもかわいい。

 そういえば、こうして二人きりになるのも久しぶりだ。


「キューン」

 俺の頭の上で、ポチも機嫌よさげに鳴いている。


「なあ」

 と、俺は言った。

「アベル得た魔石の鑑定、まだ時間かかりそうなのか?」

「んー……そうね。かなり特殊な魔法みたいだから、ゴードン師匠に古文書とか引っ張り出して調べてもらってる」


「ふーん……そっか」

 俺は頷いて、前を見た。


 目の前は一面の海である。

 今日は快晴で空気が澄んでいるのか、はるか向こうの稜線が微かに見えた。


「でさー」

 と、俺は前を向いたまま言った。

「実は、ちょっと気にかかってることがあるんだよね」

「なによ、改まって」

 コトトはこちらを見た。


「んーと……アビゲイル大佐のことなんだけどさ」

「大佐? 大佐がどうしたの?」

「えーとさ、その」

「なによ、言いにくいことなの?」


 コトトは少し眉を寄せて言った。

 俺は「まあちょっと」というようなことを、口の中でもごもごと言った。


「なによ。まさか、大佐に不満でもあるんじゃないでしょうね」

「不満はないよ」

 俺は苦笑した。

「たださ、アビゲイル大佐って、昔なんかあったのかなって」


「なんかって……何?」

「ほら、アベル国の女王が言ってたじゃん? 『ガインシャ公国を亡ぼしたのはお前だったのか』って」


「ああ……」

 コトトはそういって、少し声を落とした。

「言ってたわね」

「あれって、本当なのかな?」

 俺はコトトを見た。


 コトトは俺から目を背け、前を向いた。

 そして、しばらく喋らなくなった。

 だから俺も、コトトが口を開くまで、景色を見ていた。


 ぽっぽー、と大きな汽笛が鳴る。

 俺たちの横を、子供が楽し気に二人走り抜けた。


「さあね」

 やがて、コトトが口を開いた。

「私にはわからないわ。でも……」

「でも?」

「噂は、聞いたことがあるわ」

 コトトはそういって、俺を見た。


「噂?」

 俺は眉を寄せた。


「うん……かつて、ガインシャ公国はダーダリアン王国の属国だったの。そして一緒に他国へと向かっていた時に、当時のダーダリアン軍が暴走して、ガインシャ軍を壊滅させてしまったって。そしてその事件をきっかけにガインシャ公国は消滅して、ダーダリアンの国の一部になってしまった。そういう話はダーダリアンの市井では有名な話よ」


「当時の軍隊」

 俺は言った。

「そこに、アビゲイル大佐がいたのかな」


「多分、そういうことなんだと思う。しかも、大佐は幼いながら、かなり主戦として戦っていた、と。それなら、女王の話とも合致するし」

「ということは、やっぱり――」


 俺はそこで口を閉じた。

 やっぱり、アビゲイル大佐は一つの国を滅ぼしたのだ。

 そして、その暴走とは――


 『私の中には鬼がいる』


 ガビビ族の村での、アビゲイルの言葉を思い出す。

 おそらく――アビゲイルが力を制御できなかった結果なのだ。

 一国を滅ぼしてしまうほどの力を――


「だとしたら……」

 と、コトトが言った。

「アビゲイル大佐が、恐ろしくなるかしら?」


 まるで俺の心を読んだかのような言葉。

 コトトは俺をじ、と見つめている。


「いや」

 俺は首を振った。

「そんなことはないよ」


 俺の脳裏に、これまで一緒に旅してきた大佐が思い浮かんだ。

 振舞はいつも上品だし、行動には常識もあるし、俺たちに対する思慮もあった。

 そして何より。

 彼女は、よく笑っていた。


 鬼なんかには、とても見えなかった。 


「どんな過去があろうとも、大佐は大佐だ」

 と、俺は言った。

「上品で、優しくて、ちょっと天然な、強くてカッコイイ剣士ってことに変わりない」


「そうだよね」

 コトトはにこりと笑った。

「私もそう思う」


「じゃあ、この話はここまでにしよう」

 と、俺は言った。

「これ以上、大佐の過去を勘ぐるのは止めにするよ」


「そうね。そのほうが――わっと」

 コトトが急に前のめりによろめいた。

 何事かと思ったら、後ろにマキが張り付いていた。


「あんたたち、何してんのよ! 機関室すげーわよ! 燃料入れまくってて、すげー迫力!」

 マキは興奮気味に言った。


「そ、そんなにすげーの?」

 と、俺は苦笑しながら聞いた。


「そうよ、ついてきなさい! 案内してあげるから!」

 マキはそう言って、踵を返した。

 その後ろを、アリスがてくてくとついていく。


 俺とコトトは目を合わせた。

 そしてどちらともなく微笑んで、マキのほうへ走り出した。



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