53 褒美
◆
次の日。
俺たちはメインクーン女王に呼ばれて、再び玉座の間へと招かれた。
「昨日は誠に失礼いたしました」
アビゲイルはそう言って、傅いた。
「陛下に対し、考えられぬ非礼を」
「か、構わんぞえ」
メインクーンは明らかに動揺した様子だった。
「こちらも、そちらには危険な目に合わせてしまった」
声がわずかに震えている。
無理もない、と俺は思った。
昨日のあのアビゲイルの眼。
あんな目で脅されたら――誰でもこうなるはずだ。
「アニーは――どうなったのでしょうか」
と、アビゲイル。
「やつに関しては、現在調査中だ。治療が終わり次第、裁判にかける」
「そうですか……」
アビゲイルは少し間をあけ、それからメインクーンを見た。
「どうか、寛大な処置を。幸いにも死者はでておりません。後ろに控えるマキも、それを望んでおります故」
「うむ。そうだな」
メインクーンはない顎を引いて頷いた。
「やつには――過度な期待をかけてしまった。十分に酌量するつもりだ。禁止麻薬についての監視の強化も行おうと思っておる」
覇気のない顔。
どうやら、本気で反省しているようだ。
「ありがとうございます」
アビゲイルは丁寧に頭を下げた。
◆
「では、魔燭の宴優勝者に褒美を授ける」
と、メインクーンが話を切り替えた。
「マキ。それからアリス。前へ」
二人は立ち上がり、楚々と女王の前に進んだ。
「そなたたちには、それぞれ褒美をやることにする。マキ=フォール=フォール。そなたは『世界樹の恩恵』でよかったな?」
「はい。そちらに控えておりますユウサク=モロタに受けさせてくださいませ」
「あいわかった。して」
メインクーンはそれから、アリスを見た。
「アリス。お前にも、何か褒美をやろうと思う。むろん、バッジの贈与以外に、だ。何が欲しい?」
アリスは返事をしなかった。
目をやると、彼女は緊張でカチンコチンに凍り付いていた。
「どうした?」
「す」
アリスはそこで、ぶん、と頭を下げた。
「すすす、すみません! 陛下にお声をかけられ、固まってしまいました!」
「苦しゅうないぞ。好きなものを言ってみろ」
「で、では、一つだけ!」
アリスは少し間をあけた後、メインクーンを見た。
そして、背筋を伸ばし、こういった。
「この国を出て、マキさんたちと旅をする許可をくださいませ」
「なんだと?」
予想外だったのか、メインクーンは眉を寄せた。
「宴の優勝者であるそなたには、アニーのようなエリートの道を歩ませてやろうと思っているのだが――それでも出ていこうというのか?」
「はい」
アリスは迷いなく顎を引いた。
「私は、私の人生を歩んでみたくなったんです」
メインクーンは考え込んだ。
それはそうだ。
アリスのあの力は、アベル国にとって貴重な戦力となるはずである。
「駄目だ――」
と、メインクーンは目線を強めた。
アリスはびくりと体を震わせる。
やはり無理があるか――
そう思った次の瞬間。
メイクーンはふっと頬をほころばせた。
「と、言いたいところだが、特別に許可しよう」
「陛下っ!」
と、大臣が狼狽した様子で何事か耳打ちする。
「よいのだ」
メインクーンはアリスを見た。
「我はアニーとの決勝を見て確信した。この娘は、マキどのと一緒にいるほうが成長するのだ」
そうであろう? と、メインクーンは目を細めた。
アリスは一瞬、きょとんとした。
そして次の瞬間、「はいっ!」と大きくうなずいた。
「ありがとうございます。女王陛下!」
そういって、頭をぶんと下げる。
「うむ」
メインクーンは頬杖をついて、口の端を上げた。
「必ず成長して帰ってくるようにな」
それから女王は俺たちの方に向き、
「世界樹の恩恵は明日行う。今日はゆっくり休むがよい」
と言った。




