51 魔燭の宴 7 アリス
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アニーが恐ろしい魔力をためながらこちらを睨んでいる。
だがアリスは、不思議と恐怖を感じなかった。
いつもの自分なら、恐ろしくて震えていたはずなのに。
アリスはマキをかばうように立ち、目をつむった。
そして、魔法の詠唱を始める。
まずアリスは、マキに言われた通りイメージを開始した。
足先からつむじまで。
すべての魔力を手のひらに送るのだ。
普く細胞から、エネルギーを一極に集中させるところを夢想する。
そして――決意する。
私はこれまで、自分には生きる価値はないと思っていた。
怒鳴られて殴られて、嗤われてバカにされて。
自分の人生はこれが当たり前なんだと、勝手に悟って諦めていた。
だけど――だけどっ!
――あなたはこれから、楽しく生きるの。
マキさんの言う通りなら。
――アリスちゃんに生きる価値がないなんて、そんなことはない。
ユウスケさんの言う通りなら。
私はまだ、死にたくない!
やがて――アリスの体を金色のオーラがまとい始めた。
右目はいよいよ赤く――紅く染まっていく。
小さな体に、膨大な魔力が凝縮されていく。
そして。
圧倒的な熱量を帯びた魔力が、その手のひらに装填された。
◆
「食らえっ!」
先に動いたのはアニーだった。
『魔龍炎神波』
アニーが魔法を発露させる。
漆黒のすさまじいエネルギーのうねりが、アリスを襲った。
アリスは不思議な感覚に襲われていた。
辺りのすべてがひどくスローに見えた。
アニーの恐ろしい魔法が、はっきりと視認できたのだ。
私は生きるのだ。
アリスは下唇を噛み、もう一度、強く願った。
そう。
大事なのは――意志の力なのだ。
「わたしはマキさんたちと一緒に――楽しく生きるんですっ!」
アリスはカッと目を見開き、両腕を突き出して魔法を発露させた。
『破壊神矢』
手は黄金に輝き、金色のエネルギー派が顕現する。
アニーの漆黒の炎と。
アリスの金色の稲妻。
二つの力は、ガチィイイイッという巨大な破裂音と共にぶつかった。
◆
「すごい」
すさまじい爆風に目を細めながら、マキは思わず見とれた。
「こんなに美しい魔法、見たことがないわ」
二つの力は互角だった。
アニーは顔をゆがめ、必死に魔力を振り絞っている。
つと、アリスの顔を見る。
その顔は必死というより、遠慮しているように見えた。
マキは思わず口の端を上げた。
なんて子なの。
この期に及んで――アニーを傷つけてしまうことを恐れて手加減している。
恐らくはこれまで、人を傷つけたことがなかったから。
「アリス! アニーなら大丈夫! この国の救護班は本物よ。だから」
マキは残るすべての力を振り絞って怒鳴った。
「やっちまえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
アリスははっと目を開いた。
それから小さく、頷く。
「はああああああああああああ」
アリスは表情を一変させ、さらに強力な波動を放出させた。
ほぼ互角に思われたエネルギーの衝突は、やがてその均衡を崩し始めた。
金色の波動が、漆黒のそれを凌駕し始めたのだ。
「ま、まさかこんな」
アニーが驚愕の表情を浮かべる。
「このエリートの私がこんな屑どもに負けるなんて――」
そして――
アニーは金色の波の中に吞まれていった。




