45 魔燭の宴 1
◆
次の日。
俺たちは城塞都市の一番奥にある施設に案内された。
さながら中世ヨーロッパのコロッセオのような円形闘技場。
客席はすり鉢状になっていて、全ての場所から戦いが良く見える。
しかし、でかい。
俺はその威容を見上げて、しばしぽかんとしてしまった。
アビゲイルを除く俺たち4人は、大臣に案内され、『魔燭の宴』の控室に通された。
どうやら、アビゲイルは直前まで女王の接待らしい。
室内は簡素な造りになっていた。
椅子とテーブルしか置いていない、味気の無い部屋。
そこには選りすぐられた魔法使いたちが控えており、みな一様にピリピリしていた。
「あ、あの、本当に私でいいんでしょうか?」
と、アリスがおびえた表情で言った。
「わ、わわ、私、何にもできないんですけど」
「まーだ言ってんの」
マキは杖にもたれかかりながら、肩をすくめた。
「あんたはとにかく、ケガしないように控えてればいいから。あとはまあ、なんか念じてるフリでもしてんさい」
「で、でも――」
アリスは不安そうに俯いた。
「アリスちゃん、本当に嫌じゃないの?」
コトトが口をはさむ。
「嫌なら今からでもキャンセルして、ユウスケにしてもいいよ」
「俺なの?」
思わず、俺は言った。
「仮になんかあっても、あんたは一回なら、チートラックで何とかなるでしょ」
コトトが言う。
「そ、そうだな」
俺は頷いた。
言われてみればその通り。
そうしたら魔石を引くのが遅くなるけど――
彼女に比べれば、俺のほうがましかもしれない。
「アリスちゃん。やっぱり俺と変わる?」
俺は聞いた。
「だ、大丈夫です」
アリスが即答した。
「儀式に出られることは身に余る光栄ですから。た、ただ、わ、私みたいなものが出ていいのかと思っているだけで」
「本当に……大丈夫なの?」
コトトが顔を覗きながら、心配そうに言う。
アリスははい、と満面に笑みを浮かべた。
「わ、私、『魔燭の宴』に出られるなら、死んでもいいと思ってますから」
「死――って、だからそういうことは」
思わず横から口をはさんだ。
「命を賭ける価値があるんです」
と、アリスはマキを見た。
「この大会に出れば、この国での地位が上がります。私が出られる可能性は、マキさんが選んでくれなければ0%だった。つまりこれは、人生で一度きりのチャンスなんです」
決意に満ちた目だった。
きっと、昨夜、ずっと考えていたんだろう。
俺とコトトは、もうそれ以上何も言えなかった。
一晩でこうも変わるのか。
この子は俺たちなんかよりずっと大人だ。
「分かってんなら胸を張りなさい」
マキはいつになく大真面目な口調で言った。
「こうなったらもう身分なんて関係ないんだから。堂々としてればいいのよ」
そして微かに、口端で笑った。
その笑みにはどこか自信の色が浮かんでいた。
◆
「あんたがズルで出たダーダリアンのボンボンお嬢様ね」
声をかけられ、俺たちは目をやった。
すると、そこにはショートカットの女の子がいた。
丸眼鏡をかけていて、目が細い。
勲章は6つ。
「あんただれ」
見るなり、マキは首を傾げた。
「これからあんたと戦う相手でしょ」
コトトが小声で言う。
「演目表にイラスト付きで書かれてたでしょ。たしか、名前はクリスタ。読んでないの?」
「読んでない。興味ないし」
マキはこともなげに答えた。
こいつは本当に図太いというかなんというか。
「噂通りの女ね」
アリスタはイライラした様子で顎をあげた。
「その傲慢な鼻をへし折ってやるから」
「はいはーい」
マキは手のひらをひらひらさせた。
ぐ、とひと睨みして、彼女は出て行った。
「ほっほっほ」
すると今度は、また別の方向から笑い声がした。
目をやると、ターバンを巻いた老婆が立っていた。
胸にはバッジが7つ。
「怖いもの知らずでいいの。他国のものよ」
背を丸め、歩み寄ってくる。
「また出たー!」
マキはいかにも嫌そうに身を縮めた。
「わしはお主と2回戦で当たるモーロウじゃ。丸焼きにしてやるから、楽しみにしておけ」
ほっほっほ、と再び笑う。
「あーら、皆さん、ごきげんよう」
さらにその後ろから、声がする。
「私はあなたと3回戦で当たる、モールよ」
縦ロールの巻き髪のお嬢様みたいな子だ。
バッジはモーロウと5つ。
「またまた出たー!」
マキは両手をあげた。
「にゃははは。何を楽しそうにしてるのだー。アチキだって、負けないづら」
さらに一人、横から口を挟んできた。
マキは「あーあー」と言いながら、耳をふさいだ。
「もう! ワラワラ湧いてこないで! はっきり言って覚えきれないから!」
マキは心底うんざりしたように言って、背を向けて長椅子に寝転がった。
「す、すごい」
アリスが羨望の眼差しで言う。
「み、みなさん、すごいエリート様です。雲の上の存在です」
「あんなモブに緊張してどうすんの」
マキは寝転がったままピースサインを出した。
「大体、あんたのバディは誰だと思ってんのよ。私は天下無双の美少女ヒロインよ。スーパーミラクルサンダー完璧萌え萌えプリティー魔法少女、マキ様なんだから」
「すいません! 知らなかったです!」
アリスは律義にそう答えて、また頭を下げていた。




