40 魔法使いたち 2
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それから俺たちは、軍隊の人間を見て回った。
だが、すでにめぼしい人材はいないようだった。
訓練している様子を見ても、ぱっとしたものはいない。
素人の俺から見てもそうなのだ。
プロ中のプロであるマキは、すぐにあきらめたようだった。
「駄目ね。ぜんっぜん、話になんない」
一通り見終わってから部屋に戻ると、開口一番、マキはそう言った。
「そうな風にいっても、しょうがないよ」
と、コトトがなだめる。
「彼女たちの中から探さなきゃいけないんだからさ。あ、そうだ。一人、バッジを4つつけてる人いたじゃない? 紫色の髪をした、すごい背の高い人。あの人とかどう? 4つって、ほとんどいなかったけど」
「モ、モイス師団長ですね!」
アリスが言った。
「い、いいと思います! あの方はお年ですが、とても経験のある方ですから」
「ナシね」
マキは腕を組んだ。
「悪いけど、あんなのと組んでもほとんど意味ないわ。私一人で戦ってるのと同じ」
「えぇ!?」
突然、アリスが大きな声を出した。
俺たちが目をやると、彼女は「す、すいません」と肩を縮めた。
「なに?」
マキはじろり、とアリスを見た。
「何か、いいたいことある?」
「い、いえ、何でもないです」
アリスはますます小さくなった。
「おいおい、脅してやるなよ。怖がってるじゃないか」
「脅してないわよ。失礼ね」
「お前は口が悪いんだから、子供には気を付けて喋れって」
「うるさいわね。仕方ないでしょ。こういう性格なんだから」
「開き直るな」
「す、すいません」
俺たちが言いあっていると、アリスがいよいよ恐縮した様子で頭を下げた。
「謝らなくていいよ。悪いのはこいつだから」
俺は膝を曲げ、ほほ笑みながらアリスと同じ目線になっていった。
すいません、と彼女は俺の目を見返した。
「ん?」
つと、俺は顎に手を当てて首を傾げた。
彼女の目、よく見ると片方が微かに赤い。
「ど、どうかしましたか?」
俺の目線に気付いたアリスが、おどおどとした様子でこちらを見る。
すると、瞳の色はまた黒に戻った。
どうやら、角度によって色が変わるみたい。
「なーによ」
マキが頬杖を突きながら半眼になる。
「あんたまさか、やっぱりこんな幼女に惚れたの?」
「だからやめろよ」
俺は口を曲げた。
「で、でも」
と、アリスが口を開く。
「あ、あの、マキさんって、モイスさんを見ても、驚かれないんですね」
「あんなのでビビるわけないじゃない」
高らかに、マキは言った。
「あんたね。私を誰だと思ってんの? 天下一の魔法使い、マキ=フォール=フォールよ」
「す、すいません! 聞いたことないです!」
ぶん、とアリスは勢いよく頭を下げた。
「ず、ずばり言うわね」
ちょっと傷ついたみたいだった。
「でもまあ、アビちゃんには負けるけど、私だって結構有名なんだから」
「分かります!」
アリスは胸の前で祈るように手を組んだ。
「私も、魔法使いの端くれですから! マキさんがすごいってことは、なんとなくわかります」
「そうよ。遠慮なく、崇めなさい」
「崇めます!」
「憧れなさい。届かない高見でしょうけど、憧れるだけで憧れるがいいわ」
マキは腰に手を当て、偉そうにアリスを睥睨した。
「はい! 憧れます!」
アリスは胸の前で手を組み、目をキラキラさせる。
なんだこのやり取りは。
俺は思わず項垂れた。
「でも、わかんないわよー」
と、コトトが冷やかすように言った。
「アリスちゃん、まだ若いんだし。もしかしたら、マキを超える大魔法使いになっちゃうかも」
「そんな」
アリスはぶんぶんと首を振った。
「そんなことはありえないです」
「わかんないって。若いってのは可能性の塊なんだから」
「いえ、可能性の問題ではなくて。その、もう答えは出てるって言いますか」
「ん? どういうこと?」
「わたしはもう、駄目なんです。もう、魔法使いとして出世は出来ないんです」
「よくわかんないんだけど」
「この国では、小さい時に判別されるんです。魔法使いの才能は遅くとも10歳までには現れるといわれてますから、それまでに才能がなければ一般兵か、雑用に回されるんです」
「そ、そうなの?」
マキに聞いた。
「ま、そうね」
マキは言った。
「長じてから魔力が飛躍的に伸びるなんて話は聞いたことないわ」
「……そっか」
コトトはアリスを見た。
「ごめんね。知らなかった」
「いえ」
アリスはにこりと笑う。
「ありがとうございます。励ましてくれて、嬉しかったです」
そうして、またぶん、と頭を下げる。
どうやら、これが彼女の癖らしい。
「でも、酷い話ね。子供たちを小さな内に判別しちゃうなんてさ」
「そう?」
「そうよ。子供たちには、もっと他の未来があるはずなのに」
「それがこの国の強さなんでしょ」
マキは肩を竦めた。
「弱いものは切り捨て、強いもののみ育てる。理想じゃない」
「馬鹿げてる」
コトトが顔をしかめる。
「馬鹿げてるわ、そんなの」
「あたしに怒らないでよ」
マキは肩を竦めた。
「ま、たしかにやりすぎかもね。物事には例外ってものもあるし」
マキはそう言うと、ちらとアリスを見た。
アリスは条件反射のように、ぶん、と頭を下げた。
「それじゃあ、また明日、迎えに来ます」
と、アリスが言った。
「えーもーいいよー」
マキは口を尖らせた。
「どうせ、もうろくなのいないよー」
「そういわず、探しましょうよ。今回の世界樹は、マキにかかってるんだから」
コトトが言う。
すると、マキは「しょうがないわね」と不機嫌そうに頬を膨らませた。
「では、明日は別の訓練場を見に行きましょう! また明日、朝来ますね!」
そういって、アリスは部屋を出て行った。




