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チートスキルで世界樹ガチャを引きまくれ!  作者: 山田マイク
第3章 『魔法国家アベルの世界樹』編
38/137

37 休日 2 アビゲイルとマキ


 ◆


 魔法都市『アベル』での休日。


 アビゲイルは早朝トレーニングの後、食事をとり、シャワーを浴びて汗を流した。

 部屋へ戻ると、自らの装備品の手入れを始める。


 ダーダリアン国王から直々に頂いた伝説の剣クラウソラス。

 胸に鳳凰の意匠の入った魔法と鉄を錬成させて作ったパレードアーマー。

 それらを丁寧に、時間をかけ、砥石と粘度の高い特殊な油を使って磨いていく。


 彼女にとって、これらはただの道具ではなく自分の相棒のような存在であった。

 つらい時も悲しい時も、彼らはいつも自分のそばにいて、自分を守ってくれた。

 

 だからこそ、念入りに、愛と謝意を込めて丁寧に研磨する。

 作業に入るといつも夢中になり、時間を忘れてしまう。

 アビゲイルにとって、この瞬間は楽しみの時間でもあるのだった。


「んみゅー……アビちゃん、おはよ」

 マキが 目をこすりながらやっと起きてきた。


 日はすっかり上っている。


「まったく、いつまで寝ているのだ」

 しょうがないやつだ、とアビゲイルはため息と共に言った。

「お前は小さなころからそうだ。いくつになってもだらしないのだから」


「んもー、起き抜けに説教はやめてよー」

 マキはアビゲイルに抱き着いた。

「あー、アビちゃん、石鹸の匂いがするー」


「離れろ。作業の邪魔だ」

「やだよー」


 マキはへらへら笑いながら、さらに足まで絡みついた。


 仕方がない、とアビゲイルは鎧を拭く手を止めた。

 全く、と軽い息を吐く。


「そう言えば、マキ、お前は今日、何をするのだ」

 と、アビゲイルが問うた。


「何って―?」

「いや、なにかするつもりなのかと思ってな」

「んー? 適当、かな。別にやることもないし。魔法具とか興味ないし、ごろごろしていようかな」


「そうか」

 アビゲイルは少し嬉しそうにほほ笑んだ。

「それじゃあ、街を見て歩かないか。アベルはとても綺麗な街だ。いい天気だし、どこかで昼ご飯でも食べようじゃないか」


「えぇ!?」

 マキは大きな声を出し、目を丸くした。

「なにそれ! 珍し! めっずらし!」


「な、なんだ、その反応は」

 アビゲイルは狼狽した。

「わ、私はなにかおかしなこと言ったか」


「ううん」

 マキは首を振った。

「おかしいことは言ってないけど、それがおかしいよ」


「なんだそれは」

「いやー、あの超絶堅物真面目大魔王のアビちゃんから、まさかランチのお誘いがあるとは!」

 

 マキは目を丸くして、大仰に両手を突き上げた。


「大げさなことを言うな」


 アビゲイルはなんだか恥ずかしくなり、目をそらした。

 確かに――マキとは長い付き合いになるが、こんな風に誘ったことは初めてだ。


「どういう気持ちの変化?」

 と、マキは訝しげに眉を寄せた。


「さてな」

 アビゲイルは肩を竦めた。

「ただ、そういう気分だっただけだ」


「……そう」

 マキは少し感慨深げに目を細めた。


 なにを考えているのか分からないが、少し瞳が潤んでいる。


「そういえば、アビちゃんってば、旅に出てからちょっと変わったよね」

 マキは視線を外していった。


「そうか?」

「うん。変わった。なんていうか……前よりよく笑うようになった」

「どうかな。自分ではよく分らんが」


「城にいるときはいつも眉間に皺が寄ってたもん」

 こーんな風に、とマキはわざと大げさに眉を寄せた。

「どんな時もピリピリしてたし、人を寄せ付けないオーラがあった」

 

 確かにそうかもしれない。

 アビゲイルは顎を擦った。


 軍の仕事はいつだって緊張感があり、気を抜く暇などなかった。

 一つの決断が国を危機に晒すことになるかもしれないし、一つの決断が民に苦しみをもたらすかもしれない。


 それに、城内にはアビゲイルの味方もいたが、同じ数だけ敵もいた。

 常に足を引っ張ってやろうという鵺のようなやつらが、アビゲイルを見張っていた。


「やっぱ、外に出て気が晴れたんじゃない?」

 マキの声で、アビゲイルは思案から覚めた。

「ほら、ユウスケとかコトトみたいな一般人と旅するってのも新鮮だろうし」


「そうかもしれんな」

 アビゲイルは頬をほりほりと掻いた。


 あの二人はとても接しやすい。

 これまで、なんのしがらみもない人間関係というのは、マキ以外には一人もいなかった。


 アビゲイルは刹那、ふっと微笑んだ。

 ユウスケたちのやりとりを思い出すと、自然と頬が緩む。


 たしかに、自分は少し変わったのかもしれない。


「ほんと、別人みたい」

 その様子を見て、マキが物珍しそうに言った。

「なんかさ、すごい可愛いんだけど」


「茶化すんじゃない」

 アビゲイルは恥ずかしそうに視線を外した。


「茶化してないよ!」

 マキは大きな声を出す。

「ぜんっぜん、茶化してない! てかさ、それってすごい素敵じゃん!」


 マキは真面目な顔で言った。

 お調子者の彼女が、こんな表情をするのは珍しい。

 どうやら馬鹿にしているわけではないらしい。


 可愛い、か。

 その言葉が喜ばしいものかどうか。

 正直言って、今はもう自分でもよくわからない。


「でもさ、ちょっと悔しいな」


 マキが言う。


「悔しい? 何がだ?」


 んー、とマキは短い時間、考えた。


「なんていうかさ、親友の私としては、これまでは私だけのアビちゃんだったのになー、とかね、思っちゃうわけよ」

「なんだそれは」


 アビゲイルは苦笑した。


「しかし、お前だって今日はどこかおかしいぞ」

「なにがよ」

「いつもより、真面目だ」

「何言ってんのよ。私はいつでも大真面目よ」

「そうなのか?」

「そうよ。私は、いつだってアビちゃんのことを考えてるんだから」


 マキは真剣な面持ちで言う。

 その表情がなんだか可笑しくて、アビゲイルはくすりと笑った。


「あ! なんで笑うのよ!」

「はは。悪いな。お前の顔が面白くてな」

「なにそれ! 酷くない?」


 マキがぷんぷんと怒る。

 アビゲイルはもう一度あははと笑った。


 ひとしきり笑うと、彼女は壁がけ時計に目をやった。

 もう正午近い。


「さ、そろそろ支度をしろ。私はもう腹ペコだ」

「そうだね!」


 マキは大きく頷いた。

「よーし! それじゃあ、今日は久しぶりに、アビちゃんを独り占めじゃー!」


 マキは天に拳を突き上げ、元気よく言ったのだった。



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