29 結末
◆
「すいませんでした!」
集落に戻ってきたムヒタリは、その場で土下座をした。
彼は状況を把握するなり、すぐに降伏した。
それも当然だろう。
俺たちが人質になっていない限り、アビゲイル大佐とマキに勝てるわけがないのだから。
事情を聴いたアビゲイルたちは、とても驚いていた。
ムヒタリは紳士的で、すっかり騙されてしまっていたようだ。
「大佐、そっちは大丈夫でしたか?」
と、俺は聞いた。
「うむ」
アビゲイルはこともなげに頷いた。
「敵ではなかった」
はあ、とため息がでる。
俺はチート技を使って命からがらバトルに勝利したってのに。
「そんなことより、ユウスケやるじゃん!」
マキが興奮気味に言った。
「まさか、あんたが倒すなんてね」
「アビゲイル大佐が貸してくれた魔石のおかげです」
俺は後頭部を掻いた。
「本当に助かりました。あれが無かったら、ガチで死んでましたよ」
「謙遜するな。コトトを守ったのは、お前の力だよ」
俺は少し顔を赤らめた。
やべえ。
大佐に褒められると、ちょー嬉しい。
「そんなことより」
アビゲイルはそういうと、ムンタリのほうを見た。
「とりあえず、その話はまたあとだ。今は、もっとやるべきことがある」
「では、本物のガビビ族がいる場所へ案内してもらおうか」
アビゲイルがすごむ。
するとムヒタリは「はい」と言って、その場に平伏した。
◆
それから、山の中腹に隠れるように存在する洞窟の中から、本物のガビビ族は救出された。
俺たち4人は、それこそ部族を救った英雄として、今度こそ本物の歓待を受けた。
ムヒタリとオンバメの処分は、村の人たちに任せることにした。
俺たちがダーダリアンの法で裁くより、そちらの方がいいように思えた。
「どうぞ、好きなだけ魔石を引いてください」
話を聞いたガビビ族の村長は、喜んでそう言ってくれた。
ずいぶん柔和な人だ。
腰は曲がり、顔は皺だらけで、顎にはたっぶりと白いひげをたくわえている。
首狩り族、なんていうのはやっぱり古い情報だったのだ。
「いえ、一度だけで結構です」
と、アビゲイルが言った。
「一度でいいんですか?」
村長はつぶらな目を丸くした。
「ええ。それで十分です」
そう言って、俺を見る。
「我々には、図抜けた幸運の持ち主がおりますゆえ」
「あの……そのことなんですが」
と、俺は言った。
「ん? どうした?」
「実は、オンバメをやっつけるために、『チート=ラック』を使っちゃったんです」
「チート……ラック?」
ああ、そういえばアビゲイルたちに能力の話をしていなかった。
俺はそこで、転生のことなどをうまく隠しながら、彼女らにチート=ラックの話をした。
アビゲイルとマキは驚いていたが、どうにか上手く伝えられた。
そして二人はやっと腑に落ちたようだった。
だから、SSが一発で引けたのか、と。
「しかしそうなると、当分はその能力は使えないのだな?」
と、アビゲイル。
「はい、三日はあの能力が使えなくて――」
「要するに」
と、すでに酔っぱらっているマキが口を挟んだ。
「あと三日、ここの村にいなくちゃいけないってこと?」
「……そうなるな。しかも、その間は村の人たちにも魔石を引かないでもらわないと」
アビゲイルは腕を組み、しばし思案した。
「ほほ」
話を聞いていた村長が、髭を絞りながら言った。
「構いませんよ。あなたたちには、いくら感謝してもしきれませんから」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
アビゲイルは口元を引き締め、丁寧に頭を下げた。
「えー? こんなとこにあと3日もいるわけー?」
マキが不満げに言う。
「ほんと、最悪。あー、もうあんな固い布団でねたくなーい。不味い料理も食べたくなーい」
「こ、こら」
アビゲイルが慌てる。
「そ、そんなことはありませんよ! 寝床も食べ物も、大変素晴らしいです! こいつは、かなり酔っ払っちゃってるみたいで――」
「気を使わなくてもよろしいですよ」
村長はにっこりと笑った。
「好きにくつろいでください」
「さすが爺さんは器がでかいわね」
マキはうんうんと頷いた。
「やっぱ、禿げてるだけのことはあるわ」
「禿げって――お前、口を慎め」
「いいじゃん実際禿げてるんだし」
「な、なかなか面白いお嬢さんで」
額に、青筋が浮いている。
「本当に……すいません」
アビゲイルは頭を下げ、「禿げ禿げ」と喚くマキの口を無理やりふさいだ。
あほな部下を持った上司って大変だな、と俺は思った。




