23 探索
◆
「私のミスだ」
アビゲイルは下唇をかんだ。
「ここは元々ゴードンがいるという前提で来る場所だった。奴らの戦闘力は知っていたのに――コトトに変更になった時点で、順番を変えるべきだった」
アビゲイルは下を向いて首を横に振った。
「大佐は悪くないです」
俺は目を伏せた。
「俺です。俺が、無理やりコトトをこの旅に連れていこうって言ったから。やっぱり、あいつにこんな冒険は無茶だったんだ」
「二人とも、ウジウジすんじゃないわよ」
マキは肩を竦めた。
「まだ、コトトが死んだわけじゃないのに」
その言葉に、俺は顔を上げた。
そうだ。
今は嘆いている場合じゃない。
「た、大佐! 早くガビビ族の集落を探しましょう!」
俺はそう言うと、アビゲイルを見た。
「うむ」
アビゲイルは頷き、その場にしゃがみ込んだ。
「だが、その前に――」
辺りには奴らの武器――折れた槍などが散乱していた。
アビゲイルはそれを手に取り、何やら考え込んだ。
「な、何やってるんスか?」
「……いや」
アビゲイルは顎に手を当てた。
「これを見ろ。妙だと思わないか」
「何すか?」
見たところ、黒い石を研磨して作った原始的な武器だ。
「この槍が、なにか」
「この先を見ろ。どれもこれも先が尖っておらん」
「ほんとだ」
「やつら、私たちを殺すつもりはなかったようだな」
アビゲイルは立ち上がり、眉根を寄せた。
奴らに殺意は――なかった?
「たしかに、変だと思ってたのよねー」
マキが地面に落ちていた網のようなものをつまみながら言った。
「不意打ちしてきた割に、やり方に手が込んでるし」
「どういうこと?」
「普通さ。人を殺すつもりなら、網なんて使わないっしょ」
「あ」
俺は口を丸く開けた。
「た、たしかに」
「最初から、生きたまま捕獲することが目的だったのかもしれんな」
アビゲイルは顎に手を当てた。
「だが、私やマキが想像以上に手ごわいと感じて、我々全員を捕まえることを諦め、一番か弱そうなコトト一人に狙いを定めた」
「な、なるほど」
と、俺は頷いた。
「しかし、何のために?」
「……まあ、考えられるのは、何かの儀式に使うためであろうな」
アビゲイルは深刻そうに言う。
「ぎ、儀式!?」
なにやら不穏なワードに、鳥肌が立つ。
「そ、それって、どんな――」
「そりゃ、生贄ってやつじゃないのー?」
マキは大きな息を吐いた。
「だってやつら、首狩り族だし。世界中で一番野蛮なやつらだし」
俺はごくりと喉を鳴らした。
嫌な予感で、背中に冷たい汗がにじむ。
「でも、生け贄だとしたら、悪いことばかりじゃないよ」
と、マキが言う。
「どうして! コトトが死んじゃうかもしれないのに!」
俺が大きな声を出した。
「たしかに、マキの言うとおりだ」
アビゲイルもマキに同意した。
「どういうことですか! 大佐まで」
アビゲイルはゆっくり首を振り、「落ち着け」と言った。
「いいか、ユウスケ。奴らが生け捕りにしたということは、贄は絶対に生きた状態で捧げねばならん、ということだ。つまり、奴らは儀式まではコトトを生かしておく必要がある」
「な……なるほど」
俺は短くうなずいた。
たしかにそうだ。
生贄と言うのは、逆を言えば、それまでは絶対に生きている証拠にもなる。
ならば。
その儀式までにコトトを探しだせばいいだけだ。
「なんにしても、急がなきゃねー」
マキが山の奥深くを睨むように見つめた。
◆
それから俺たち3人は、記憶を頼りに山を歩き回った。
悪いことに、コンパスと地図を持っているのはコトトである。
ほとんど闇雲に歩いているのと同じだ。
「少し休むか」
アビゲイル大佐が俺を慮ってくれた。
いいえ、と俺は息を切らしながら言った。
時間は1秒でもおしい。
疲労はピークだったが、足は止まらなかった。
コトト。
コトトを救わないと。
そのことしか考えられなかった。
山中にはそこかしこにガビビ族の“威嚇”が設えてあった。
何者かの骨が木や岩につるされてあるものだ。
不気味だが、もはや恐怖の感情は湧いてこなかった。
こうしている間にも――すでに儀式は始まっているかもしれない。
いや、そもそも、その生贄の儀式というのだって単なる大佐の推測にすぎない。
もしかすると、すでにコトトは奴らの手によって――。
嫌な想像が浮かんでは消える。
俺はそれを振り払うように首を振り、とにかく歩き続けた。
◆
どれくらい歩きまわっただろうか。
すでに、辺りは蒼い闇が覆っている。
これ以上は探索出来ないかと思われたその時。
ようやく、彼らの痕らしきものを見つけた。
「なにか臭うな」
アビゲイルは遠くに目をやり、目を細めた。
「何かを焼いたような臭い。そう遠くない場所に、奴らがいる」
「あ、あれ見て、アビちゃん」
マキが指を指す。
すると、その先には細い煙が立ち上っていた。
「間違いない。あそこにやつらの集落がある」
大佐が硬い声を出す。
「どうする? 正面突破する?」
「いや、まずは様子見だ。下手に刺激して、コトトを盾にされてはまずい。監視できる場所を探して、村の様子をうかがう」
「分かりました」
「了解」
俺とマキはそれぞれてんでに頷いた。
「それからユウスケ」
と、アビゲイル。
「これを持っておけ」
アビゲイルはそう言って、魔石を放った。
俺は「おっと」と、それをうけとった。
手のひらの魔石は赤色に光っていた。
「な、なんですか、これ」
「雷系魔法の魔石だ。ランク度Aの中でも、最高レベルの魔法が発動する」
最高レベルの魔法――か。
俺はごくりと喉を鳴らした。
「ただしキットには入れず、懐に隠しておけ」
と、アビゲイルは言った。
「キットには入れず?」
「お前のような一般人が戦う場合、まず狙われるのがキットだ。生身で負けるはずがない相手に負けるとしたら、魔石を使われた時だけだからな」
なるほど、と俺は顎をひいた。
「代わりに、キットにはスピードを上げる魔石を入れておけ」
「分かりました」
「では行くぞ。ここからは、足音に気をつけろ」
大佐の言葉で、俺たちは歩きだした。




