運転少年
車に乗り込む先輩少年と後輩少年。
運転席には後輩少年、助手席には先輩少年が乗っている。
「……はぁ」
「仕方ないだろー?俺は免許持ってないんだからさ」
「僕だって免許取って1年運転してないんですよ?……はぁ」
「気にすんな。気にすんな。出発進行!」
車はゆっくりと動きだす。注意をしすぎているせいかスピードはかなり遅い。
「緊張してんなー。そんなに力入れてハンドル持ってたら事故するぞ?」
「一歩間違えば人を殺してしまう機械に乗っているんですよ。気にしすぎるほうがいいぐらいなんです」
「運転なんてのはな?ゲームだと思えばいいんだよ」
「ゲーム?」
「そうだ。ゲームだ。男をひき殺したら10ポイント。女をひき殺したら5ポイントだ」
「……先輩はサイコパスか何かですか」
「リラックスさせるためにこんな話をしてんだよ」
車は信号待ちのため、一時停止する。
「……ちなみに信号を渡っているおばあちゃんは何ポイントですか?」
「あのババアか?あれはボーナス50ポイントだ。レベルが上がるごとにババアは変則的な動きをするから気をつけろよ」
「よくそんな適当に不謹慎なことをべらべらと喋れますね」
「ちなみにババアは0.5%の確率で魔法の杖をドロップするからな。見つけたら迷わず引き殺せよ」
「そういうレアアイテムみたいな設定好きなんでやめてください」
「だよな?俺も好きなんだよ」
信号は青になり、ゆっくりと車は動きだす。
最初の頃よりも肩の力が抜け、落ち着いて運転しているように見える。
「運転安定してきたじゃん。こういうのって気にしすぎると逆に危ないんだよ」
「不覚にもそんな気はします」
「何事もリラックスが一番だ。さあもっとスピード出そうぜ」
「……前見てください。警察です」
事故があったのだろう。目の前には車二台がぶつかった状態で止まってある。近くにはパトカーが数台止まってあり、警察が事情聴取を行っているようだ。
「警察はひき殺すとゾンビみたいに無限に沸いてくるから気を付けろよ」
「言われなくてもひかないです」
「でもな?50人警察をひき殺すとショップでパトカーが買えるようになるんだ」
「そういう条件を達成すると、買えるものが増えていく感じ好きなんでやめてください」
「さらにな、100人警察をひき殺すとコスチュームもゲットできるんだ」
「服装が変わる系も好きなんでやめてください」
二人の会話は、当然のことながら警察の耳には届かず、何事もなかったように横を通過する。しばらく運転を続けると、後輩少年も慣れてきたのか、片手でハンドルを操作する。
「お?だいぶ余裕出てきたじゃん」
「真っ直ぐの道なんでハンドルを両手で持とうが、片手で持とうが一緒だと思って」
「良い調子。良い調子。ちなみに片手でハンドルを操作すると経験値が通常よりも1.5倍増えるからな」
「ずっと片手で運転したくなるんでやめてください」
「両手を放した場合の経験値は3倍だ」
「それは流石にしません」
車は目的地に向かい、順調に進んでいく。
「ここまで大きなミスもなく来れたのは俺のおかげだな」
「不覚にもそんな気はします」
「リラックスが一番だって。リラックスが」
後輩少年の運転は順調に思えた。
――しかし、運転に対して気が緩みすぎたせいかボールを取りに来た子供に車は激突する。
子供の体は動かない。
「……これってゲームですよね……?」
「……」
「…………レアアイテムにボールが落ちてますよ……」
「……」
「……これは結構ポイント稼げたんじゃないですかね……」
「……救急車を呼んで、その後警察に行こう」
「……はい」