第二部 「平凡な日常」
「列車がまいります。白線の内側に下がってお待ちください。列車がまいります…」
駅の構内にお節介な放送が響く。
構内放送、話し声が混ざりあい騒然とした雰囲気を醸し出している。
様々な色に塗り分けられた列車が、構内へと侵入してくる。
金属の車輪が軋む音とともに、長々とした車体が停車する。
入れ替わりにして乗車していく人々の波に俺も乗り込んでいく。
朝の通勤時間ピッタリなので、列車内の混雑は金属結合のようだった。
人波に混じって、吊革に掴まりつつ電車に揺られる。
列車が止まり、人波に混じって降りていく。
欠伸が中々治まらない。
昨日夜更かししすぎたせいだろう。
欠伸をしている間、駅のホームにある地図が目に入る。
タレスティア公国モレスティアーナ市。
モレスティアーナ市はラティア海に面し、8つの大運河と67の橋があるため、スティニア大陸の貿易、外交の中心地となっている。
面積は1245.43平方キロメートル。
数年前に行われた調査では人口82万人ほどの中規模都市である。
観光都市としても有名で、博物館や史跡がある。
長い欠伸がようやく治まった。
実際の街は違うのだが、それも良しとしよう。
俺は街へと歩き出した。
少なすぎた朝食の足しになるものを買おうと軽食店の前で足を止める。
湯気が上がる窓口に立つと、店の店主が顔を出してきた
「おや、フィーか。」
注文するまでもなく、コロッケが差し出される。
これが遅めの珈琲によく合うのだ。
「景気が今悪くて、フィーが来るだけでも嬉しいよ」
「こちらこそ、毎度のことながら無礼な接客に感謝しているよ」
「ははは、言ってくれるじゃないか。そちらの景気はどうだ?」
「ほぼ倒産しかけの店に心配されるほどではないよ、と言いたいがあまり良くはないね。」
コロッケを詰める作業を眺めていたが、明らかにあっちの方が肉が多い。
「その、肉が多い方を入れてくれよ」
「これだから魔道鑑定士相手の商売はあがったりだね」
嫌そうに俺の顔を見る。
「そういえばお前、まだ彼女できないのか?」
「うるさい、今度俺の前でそのことを言ってみろ、お前の顔とコロッケが横に並ぶことになるだろうよ」
「あんたも苦労してるんだねぇ・・・」
あざ笑うように肩をすくめつつ鼻にかけた言い方をしてくる。
「そうだな・・・・」
少し感傷的な気分に浸っていると
「では、これでも持ってけ」
「なんだ?」
「最近巷で流行りのラッキーアイテムだそうだ」
「いらない」
「またまた、遠慮するな」
「俺の口をよく見ろ、い、ら、な、い」
ラッキーアイテムという割には見た目がグロテスク。
カエルの形をした脳みそにニッコリ笑顔が張り付いた鳥の顔。
わぉ、素敵。と言えるほど俺の性根は腐ってない。
「そのラッキーアイテムのせいで客が減ってることに気付け」
「大好評だと思うんだけどね。」
どうでもよくなった。
「じゃあな」
俺は急いで撤退することにした。