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ひとまず完結です。

 小屋は戦場から国一つ隔てた先の山中にある。

 というか建てた。火薬炸薬鉱物素材等の採掘採取の拠点として。

 PMとミニモデルの検証試験に改造修正と増産拠点として。

 セリスもミニモデルの武装とか、他の事もあるから少し腰を据えたいようなので。

 もちろんカイヤとクロさんも手伝いに熱心。

 高度な専門会話も理解が怪しいあたしは、足を引っ張る訳もいかず蚊帳の外。

 あたしはミニモデル達と、普通の食材や日用雑貨用素材の為の狩りを黙々と続けてた。

 大戦の影響で魔物の動きにつられてこの辺りの動物の生息域も日々変化してるっぽい。

 そんな考察と記録を続けている内にミニモデル用の武器2つが検証試験にこぎつけた

「連接ランスはカートリッジ(12・7㎜)を単発で装填する必要があますが連接剣の連刃鎖と同仕様です。

 なので破壊力はともかく射程は三十mですし銃は組込めませんせした」

 ミニモデルの身の丈の4・5倍(1メートル以上)もある連接ランスはランスと言うより細身の剣。

「シールドの裏には7.62㎜のライフル…と言うより拳銃ですね。

 サイズの割には長いシールドですが、バレルが圧倒的に足りません。

 こちらも破壊力はともかく命中射程は百mを切るかもしれません。

 薬室()弾倉()で4発オート機構を内蔵させましたが、ガンナーは無理ですよ?」

 良くやるなあ、と思うけれど、初期装弾数合計5発はつらいから奥の手かな。

「セリスの言う通り、火器は奥の手にして、小鳥クロさんみたいにウイングブレードと連接ランスの高速高機動戦闘が主体だね。

 プラモのモデルの固定武装に両前腕部に2連装グレネードランチャーってのと頭部機関砲って設定があるけれど?」

「三・四㎜でここまでショートバレルではどこまで錬金・付与術しようが2m前の人にも外す可能性ありますよ?ダメージにならないかもしれません。目眩しがいいとこです」

「ならスモーク弾…狙えないなら、いっそ近接用にスプレーとかは?催涙とか塗料とか」

 ここで初めてセリスがあたしのイメージした缶スプレーの概念に違和感を持った。

「すぷれー、ですか…」セリスは目を閉じ疑似憑依CSぎじひょういコントロールシステムに集中する

「煙幕魔術とかあるよね?塗装用にエアブラシとか?」

「随分昔にこの概念を利用した塗装魔術が極一部で開発された形跡がありますよ?

 今はアプローチの方向性すら魔力効率等の関係で廃れて失伝状態ですよ?

 私も疑似憑依CSのデータベースと検索能力がなければ見向きもしませんでした」

「あれ、そうなの?便利だと思うけどな」

「すぐ再現できると思いますよ?。

 超圧法術器(バーニア)の小型化は、既にミニモデルに組み込んで実証済みなので。

 ただ、塗装魔術としては魔力を食い過ぎです。

 気化前の魔力燃料を生産する工程、保持する工程、制御気化工程。

 全てに常時魔力を消費しますし、多重工程が多くて制御も繊細です」

「道具にすれば?超圧法術器(バーニア)みたいに」

「素材が希少過ぎてお金を出せば買える類の物ではありません。

 術式も高度過ぎて、私が模倣にアレンジに改造・強化、それぞれ仕様書と見本がありながら試行錯誤してやっと理解して来た所ですよ?」

「あたし、セリスは天才で楽勝でやってると思ってた。

 あたしにはさっぱり解らない高みに居るよ」

 目を閉じて何かをPC作業してたカイヤが交じって来る。

「確かにセリスは色々特別です。

 それでも疑似憑依CSなしでは、まず常識を超える事が出来ません。

 (わたくし)も基礎知識からして常人とはスタート位置から有利でした。

 ですが疑似憑依CSの情報量と検索能力なしでは未だ平均的魔術師だったと考えます」

「あたし、セリスよりかなり前から使ってるけど?」

「セリスと(わたくし)が例外だとしても、向き不向きはあるのですよ。

 セリス、収納魔術の件、目途が立ちました。

 資料と私なりのアプロ-チですが、エミュレーターでは不整合はありませんでした」

「ありがとです。私のほうでも不整合がなければ試験構築してみますね?」

「休憩の散歩がてらに村に行ってきます。

 なにか買い物等のリクエストはないですか?」

「調味料なんかで珍しいのがあればお願いします」

「あたしも行く。カイヤじゃまだ珍しいとか、あたしより知らないでしょう?

 あとまだ人の集落にカイヤ単独は面倒事を起こしそうで怖いからねえ」


「少し待って下さい…?」

「うん?…難民?」

「戦争のですか?こんな所まで…」

 村の外れにて。

 村内まではWWSCSの範囲に指定してたけれど、異常反応はなかった。

 近付くにつれ自動的にあたし達を中心に範囲が移動して反対側の外れにキャンプを発見。

「村自体二百人くらいなのに二十人は超えるキャンプだね」

「まだ戦火の及んでない首都を挟んだここまで逃げ延びねばならない程とは思っていませんでした。首都はまだ混乱はないようですが」

「うん、首都からは追い返されたんだと思うよ?あの人達。大きな街もね。

 見るからに難民でしょ?

 資産が基準を満たしてないとかで」

「そんな、基準が資産なのですか?

 この国は住処を追われた者を保護しないのですか?

 国民、領民が増えるのは良い事ではないのですか」

「セリスに教わったんだけどね、ギルドカードを確認されて街に入るよね?

 でも偽名でも全然問題ないんだって。この辺は分かるよね?」

 女神も唯一の名ではないって言ってたしね。

「生来の名前も親なりの誰か人がシルシとして呼んだものです。

 名を変える事がそれだけで悪い事とも不審者だとも考えていません。

 本人としては不本意でしたり、後天的に不利益な名となってしまう場合もあるでしょう」

「じゃあ何が入行を許可する根拠なの?」

「…資産、お金なのですか?」

 カイヤは馬鹿ではなく人同士の今の慣例知らないだけ。

「入っている金額が担保になって信用信頼の根拠になるのね。

 最低限、問題を起こした時に罰金が取れる、というのは防犯の担保になるよね?

 難民でなくとも帰る可能性の高い余所者や流れ者が職や賃金を得るのは難しいわ。

 得られたとしても元からの住民は取られたと悪感情を感じるわね。

 だから入れる人は外貨を落とせる資産がある人。

 首都で分かれたと思う」

「人の営みは難しいのですね」

「ええ、本当にそう思うわ」

「では同じ理由で村に入れないのでしょうか?」

「多分違うと思う。

 あの人達だって自分達が村に受け入れ辛い存在である事は分かるはずよね?」

「わきまえて無理に入らず、狩猟や採取等で生活物資を取引している感じでしょうか?」

「多分、ね。それも長くは続かないはずよね?」

「…村の狩人などの仕事を圧迫するからですか」

「一割以上もいきなり人数が増えたらどうしたって歪むよ?」

「国や領主は手を打たないのてしょうか?

 土地はあるのですから、新たに開墾させるなりして仕事を与える事もできるでしょう?」

「彼らが帰化する事を確約できるなら、それもありかな。

 でも田畑はいきなり収穫できないし、収益が出るまで年単位の事業になるわよね。

 権力者も人同士の戦争に慣れてなくて手を打つのが怖いのよ」

(わたくし)達に出来る事はないのでしょうか?」

「とりあえず慈善にならない程度に外貨を落としに行く(こと(くらい)かしらね」


「それでこんな量を買い込んできたのですか?

 慈善にならない程度という話ではなかったのですか?」

 …『これであたし達は半年は戦える』って位の大量の消耗品に生活物資。

「いやあ、単純に安かったのよ、今までのどこより。鑑定したから品質も高い部類よ?

 収納術あるし、いいでしょ」

「…それだけ経済破綻が近かったという事でもありますよ?

 デフレは収束するかもしれませんが、それは領主が調整するべき事ですよ?」

「それは話し合った時に『他国とは言え大戦時と言う慣れない状況で手を打つのが怖い』のではないかとマツリは推測しました。

 ならば、比較的余裕のある私達がサンプルになっても良いのではないかと考えました」

「これなら商人の投資の範疇でしょ?あたし達も損するわけでもないし。

 住民の当座分まで買い占めてないよ?」

「それでも多過ぎですよ?」

「それでは売ってしまえば良いと考えます」

「確かに少し離れたら十分利益は出るけど、あたし達はお金に困ってないよ?

「収納魔術があればそれだけで行商は儲かりますよ?

 でも都市部の魔術師で百人に1人も使い手がいないのですよ。

 行商で儲ける必要がない高位魔術師ばかり使えるのです」

「空間系魔術は犯罪利用され易いからね。

 使える事を知られるだけで、商人として信用できないんじゃないかな?」

「そこまでメジャーでもないですし、使えるまで研鑽した者は既に厚遇されていますよ?」

「儲けを出すのが主目的ではないのです。

 二次被害で混乱している周辺地域の需要と供給を安定させたいと考えています。

 大戦の余波で魔物の被害が増えているのは周辺地域もです。

 権力者や商人が手を打たないのは、それも理由と考えます」

「行商ついでに魔物討伐ねえ。ガラじゃないんだけれど?

 23シリーズで商人は怪し過ぎるし、セリスは目立ち過ぎて向いてないし」

「そこは(わたくし)の我儘ですが、協力を御願いできませんか?」

 カイヤがヒトらしく我儘を言えるようになった事はなんか嬉しい。

 我儘は言い換えれば欲であり、欲は生物の知性としての根源だと思う。

 欲を共感できないからAI(人工知能)は一線を超えられない、と言う話を聞いたのね。

 また欲を共感できる道具は必要ないから作らない、と言う話を聞いて腑に落ちた。

 カイヤはAI(人工知能)ではないけれど、欲を理解しているだけで共感できないのはマズイ気がしてた。

 あとは滅私で善人過ぎる所は痛い目に遭って慣れるしかないかな。

 そういう意味でも他人と接する行商は良い経験かも。

「…移動は23シリーズがあるから早いし、やってみようかしらね」


「近い地域が思ったより物資に余裕があるのは何故なのでしょうか?」

「あたしの知識なら戦地で略奪して近辺に横流しで売ってるとか?」

「…マツリ、前から感じてはいましたが、どんな荒んだ人生だったのですか?」

「物語、創作物の知識よ…半分は」

「それにしても余裕がある割には物価は高いのも気になります」

 カイヤに経済の概念が定着してきたのが頼もしい。

「まあ隣の村は戦場ではなくても戦争してる国だもの、安くなる理由はないよね」

「それも違和感があります。

 隣が戦場ではないのならもっと遠くから略奪するなり運送してきた事になります。

 魔物の分布が変動して危険度が解らないのに?」

「…そうね。一応安く流してWWSCSも拡散して様子見しましょうか。

 擬似眷属魔法生物(リレイヤー)を増やしてPMを近辺に隠して重点を置いとこ」

 魔術的擬似生物の使い魔(サテライト)は消滅してもリレイヤーが再生できるし増やせもする。

 でもリレイヤーはそうもいかない。護衛と逃走機としてPM(量産型)を利用させる。


「何故値が落ちた?」

「最近、近辺で荒稼ぎする商人が居る様です」

「こんな所までか?

 ワシらと違って魔物の脅威があるはずだが」

「魔物も異常な速さで討伐して回る一団が居るようです」


「聞き捨てならない事言ったね。顔を確認しよ。

 …四級悪魔種?見た事ある誰かに似てる気がするけど」

「…元リース公、デギルス・ザービストではないですか?」

「ああ、遠隔地隔離されたのよね。

 本人ならずいぶん悪魔らしく凄みが出たね。

 成った(・・・)かな? 」

「可能性は高いですね。遠隔地と言うのも戦地方面だったと思います」

「戦争のドサクサに逃げたかな?遠隔地隔離って別に牢屋で生活ってわけじゃないよね」

 死刑ではなく遠隔地隔離って事は、島なり地方領で幽閉くらいで、私財もある程度持ち出せるよね。

「討伐しますか?」

「…手下がいるのよね。仲間とか上位(バック)も居るかも?

 少なくとも今一緒のにいるのは悪魔種よね?ヒトに化ける奴もいるかも。

 商売規模的に百人くらいいてもおかしくないね。

 その内どれだけが魔物か調べないとマズイかも」

「マツリらしくありませんね。盗賊には容赦しないでしょう?」

「あたしを何だと思ってるの?強盗と泥棒は区別してるよ?

 知らずに加担してる可能性もあるでしょうし、その場合は手出しいないよ?」

「それを確かめる手段は、官憲でも特別な申請と審議が必要な禁術に近い術ですね」

「…国際法と言うには足りないけれど、掟みたいな不文律はあるのね。

 先刻の通信でできれば早く戻って欲しそうだったし、セリスにも相談してみようか」


「上半身と肩腕部と下半身に分離変形して3機の飛行形態(A・B・Cファイター)になりますよ?

 肩腕部(Bファイター)下半身(Cファイター)は単体では簡単な自動操作しか出来ませんが、小鳥クロさんが分体を創造できますから、コクピットのある2機の上半身(Aファイター)とそれぞれ合体してBアサルトCバスターとして航空戦術が広がりますよ?」

 二mの黒い全身鎧がアサルト連接剣で高速飛行物体(Aファイター?)と連刃鎖の修行中。

 変形合体って…セリス…何を目指してるの…?

「…二勝目のジー…?またクロさん…?」

「はい、クロさんは目の付け所が違います。さすがです。

 アサルトバスターと名付けたそうです」

 AとかBとかアサルトバスターとかこちらの言葉ではあるけれど…ぶいつーとかよりマシではあるけれど…目の付け所が間違ってるよ?多分。

「翼もなしに何であんなに安定してるの?」

「そこはクロさんの種族特性の生体フィールドを空力的に変化させる術と、それを参考にして研究した錬成魔導器ですよ?PMにやミニモデルにも搭載してますよ?」

「セリス、思い付いたからホイホイ模型感覚で作ってみるってどうなの?」

「私達も慣れてきたので今回は(アサルトバスター)そこまで苦労してないですよ?

 BW2(6番目のジー)の変形機構はPM(量産型BW2)のサテライトで検証も続けますよ?

 今回は変形合体分離機構です。クロさんにしか出来ません

 光の翼や剣も再現したいですが難しいです」

「生体フィールド変化術では難しいですか?」

「そこまで硬質化できても普通には見えないので事故が怖いですよ?

 メリットが間合いを見せない程度ですから、私達にとってはあまり有利とは言えません。

 基本的に私達が使用するものですから恒常的に事故リスクを負うの避けます」

「そうですね、連接系の武器があれば間合いは問題になりませんね」

「カイヤのおかげでBファイターCファイターとサテライト達の武装問題も一段落です」

 スッとカイヤを見ると目を逸らす。

 あたしが微妙な気分になるのが分かっていて加担したね?

 そもそもあんた達、セカンドジョブって何?エンジニアって何?クロさんもよ?

 クロさんのファーストジョブの操縦者(パイロット)も意味不明。

 元竜種が種族クロ、ジョブが操縦者(パイロット)とエンジニア?スキルでなく?

 最近大型にならずにBW2で作業ばかりだから?

「…色々飲み込む。

 元領主悪魔種の話をしましょう」




「これ、泥棒よ?」

 村と首都との間の街にて。

 屋根の上の23シリーズ(GG達)内から疑似憑依CSぎじひょういコントロールシステムでミニモデルで事務拠点を家探し。無防備な肉体(23シリーズ)BW2(クロさん)とDMに警戒させる。

「今更な事を言いますね?」

「言い出したのはマツリでしょう」

「そうだけど、ミニモデルを初めての遠隔疑似憑依が慣れないのよ。

 感覚はGGと変わらないのが凄いけれど視点がねえ」

 家探しも大変。

「見つけましたよ?律儀にもリストを作ってくれてますよ?

 書面画像を記録しますね」

「後はこちらで記録した風体と言動、行動と突き合わせないといけません」

「んー。グレイはどうしてもいるねえ」

「でもかなり絞り込めました。サテライト(擬似生物の使い魔)を付けてフォローできます」

 23シリーズ(GG達)へと戻り配置確認。

「じゅあ、やりますか」

 各地に散ったミニモデル(サテライト)達が蠢き始める。


「なっ、え?げほ、なんらぁ、げほ、げほ、げほ、なみらが、げほ…」

 3機一組のミニモデル(サテライト)達が振り撒く催涙スプレーに為す術もなく無力化されて行く各地の構成員。

 生体フィールドがあろうと植物由来なら効くらしいね。

 魔術由来なら生体フィールドがある程度弾くらしいけれども。

 塗料も目に向けて試すと効くねー。

 返り血とか体液を普通に被ってるわけだから当然と言えば当然。

 中には悪魔種の姿に戻る者もいるけど毒とか状態異常ではないのよね。

 状態異常無効の特性でも持っててそれをアテにしたのかもしれないけれど、収まる様子もないね。

 そしてそれは討伐への特定材料。

 ミニモデル(サテライト)達のシールドが7.62㎜を叩き込み連刃鎖がカートリッジ(12・7㎜)で撃ち込まれる。

 しかも収納術リロードまで実装。

 セリス、もう何でもアリなの?

「私達の研鑚を理不尽みたいに言わないで下さい。

 その辺りはカイヤが担当ですよ?」

 結局は弾倉等に術式さえ付与してあれば、WWSCSを通してリロードを要請すれば疑似憑依CSが自動であたし達のと同じ収納術リロードを行うとの事。

 …そうは聞かされても実際どう組むのか、ちょっとあたしには厳しいねえ。

 ともあれ普通にランスも使い、危なげなく討伐。

 さあ次はあたし達ね。


 サイズのでかい奴らが根城に使う街の倉庫街の倉庫の一つ。

「また貴様達か!

 今度はいいようにはさせん!」

 四級サイクロプスを4体盾に元領主悪魔種が怒鳴る。

「強気ねえ。

 四級Bってトコ?随分頑張ったみたいだもんね。

 街の外にはB以上の二十五級上位竜種4。

 他にも色々、A以上の最上位の悪魔(アークデーモン)の親分もいるんでしょ?」

「…そこまで分かっていてよく来たな。ほめてやる」

「分かってる?親分達は裏から出てったよ?

 BWとGG2、ここはあたしが貧乏くじ引くから後よろしく」

 BW(セリス)GG2(カイヤ)は黙って背を向ける。

 一瞬表情が歪むが、残るのがあたし一人と思い少し余裕を戻したかな?

 一応ミニモデル(サテライト)達が5機と素のサテライトも十ばかり残ってるんだけども。

 アサルトバスター(クロさん)は最初から竜種の方へ向かってる。

「分かってる?あんた達はあたし一人で十分って舐められてるのよ?」

「ふん、よく囀る!行け!」サイクロプスを4体をけしかけて呪文を紡ぎ出す。

「ひょっとして貧乏くじを戦力不足(そっち)で捉えたの?不憫な…ってそれナパーム!

 味方ごと焼くつもり?街の中で?」

 とりあえず伸ばした棍でまとめてサイクロプスを吹き飛ばして右手でアサルト連接剣を出す。

「そいつらは10分くらいは保つ!

 ワシを嵌めた人共の街など知った事か!」

 そもそも、あたしにゃ効かないよ?街に火を放つのは避けるけれど。

 連刃鎖のトリガーを絞り左肩を粉砕、そのまま連刃鎖で首半分を削る。

 術は止まったけれど、どうせすぐ再生するんだろうけどね。

「フォローなしの養殖ならこんなもの?思ったよりダメージ入ったね」

 左手の聖炎属性解放した棍で元領主悪魔種を突きつつサイクロプス共を連刃鎖で削り7.62㎜も叩き込む。

 …あたしも器用になったものよね。

 あっちなら棍一発ずつ突き込んで、動き出したのから繰り返しって感じだったからもうちょっと手間取ったよね。

 聖炎属性を解放すると結構痛いのよね。

 ダメージより再生量が勝ってるし、GG越しならマシだけれども。

 認めざる得ない。アサルト連接剣、上手く使えば意外と効率いい。

 …結局セリスすげえ、って事なのだけれども。

「…おのれ、グリグス…」を最後の言葉に倒れる。

「グリグス?誰?」あ、ジジイね。

 あたし達、ジジイの配下と思われてた?

 …多少踊らされた事は否定できないけれども、こいつ自身が否定してたよね?


 Cバスターのガンランスから12.7㎜焼夷弾が4体二十五級上位竜種の翼を焼く。

 Bアサルトのアサルト連接剣から7.62㎜が火傷を狙い飛行可能までの再生時間を広げる。

 動力降下しながら変形合体…アサルトバスター。

 一つ残るAファイター(分体)が行きがけの駄賃にと混乱する奴らを翼刃(ブレードウイング)で切り付けて離れる。

 さすがに光の翼は再現できなかったが、代わりに可変翼のブレードウイングを横付けした。

 そして地に降り立ったアサルトバスター(クロさん)本体。

 これみよがしの二基の大型背面スラスターは伊達ではない。

 DON!

 ガンランス正面に構え、脅威判定B以上の目を持ってしても瞬間移動かの様な超加速。

 ランスとスラスターのみによって首の根本に生体フィールドを抜いて傷穴を穿ち、薬室に残っていた焼夷弾一発+徹甲弾十発。

 一合でB以上二十五級上位竜種を仕留めた。

 続いて二体目。秒殺。

 まだ飛べるまで再生していない二体が足でドスドス逃げ始めるが超加速で前に出て除装、巨大(15m)化。

『つまらん、飛べるまで待ってやる。主もこれ位の遊戯は許してくれよう』

 脅え切っていた二体だが蓋を開けてみれば少し変わってはいるが十五級竜種。

 基本大きい方が強い上位竜種。例外もあれど十の差は絶望的と言っていい。しかも二対一。

 脅え切っていた分、小賢しい道具に頼ってプライドを傷付けられたと感じた二体。

 再生を待たずに襲い掛かる。

 二体が左右の翼を顎に捉える…が、ガキッと文字通り牙が立たない。

 翼刃(ブレードウイング)でエッジを立て上顎の歯肉もろともと牙を斬り取る。

 もちろん生体フィールドはあるが口腔内は薄く弱点。

 そして斬る、という動作の理屈を理解している。

 たまらず後退して悲鳴を上げる二体。

『つまらん、飛べるまで待ってやるというに』

 離れて小鳥サイズまで小型化。準備運動とばかりにヒュンヒュン飛び回る。

 突然片方が翼を広げた。もう片方を置き去りの生贄にして逃げる腹積もり。

 しかし逃がさない。

 遊んでいる様にみえて実は速度を積んでいた。

 小鳥のまま口腔内へ特攻、長い首を蹂躙して付け根を抜けた。あの位の速度ではここらが限界。

 更に本気の加速で傷穴・口腔といいように特攻されるが、12.7㎜よりは大きいが速度が足らない。

 残り片方もこそこそ動き出したから逸れて口腔内へ特攻、翼刃(ブレードウイング)を駆使して胸にたどり着く。

 これでも再生するのがここの強者なのだ。

 ふと思い付き、巨大(15m)化。ブレードだらけといっていい体躯を回転させて。

 血肉の爆散。

 脅える瀕死の残りを切り捨てて任務完了。


 吾輩はクロである。名前もクロである。

 なのに名を知る全てがこう呼ぶ。「クロさん(・・)」と。

 信愛・敬意を込めた呼び方である事は知っているが、おそらく一度も呼び捨てられた事はない。

 主はおろか脳筋娘ですらも。

 …脳筋娘は、さん、までが名前だと思っているかもしれない。

 疑似憑依CSのスキンにしっかり書かれているのであるから、さすがにそれもないか。

 主達と出会い、クロと成り(・・)WWSCSを知り、BW2・アサルトバスターのパイロットと成った(・・・)

黒竜として生を受けてからの長い年月は何だったのかとも思うほど眷属生活は充実している。

 カイヤなる者を除けば、他所の眷属はこうではない。

 感謝せねばなるまい。

 主はもちろん、脳筋娘にも。

 ただ今回は怒られるだろう。

 血塗れの身体を振り返って溜息をつく。


 夜陰に紛れ飛翔する大型の影四つ。

 追いつかない。追いつけないではなく。

 想定通り、街外の竜種のもとへ向かってくれている。

「そろそろ仕掛ける頃合いと考えますが?」

「そうですね、みなさん行きますよ?ごー、です」

 同時に二十機の無線PM(ラジコン)とGG2・BWから煙幕グレネード弾とガンランスの徹甲弾の一斉射。

 セリスは音を曲げる範囲魔術もこっそり混ぜる。

 続いて二十機のミニモデルが煙幕に飛び込み催涙・塗料スプレーニトロセルロースラッカーを敵の感覚器に噴霧。

 ミニモデル達は包囲散開しているPMの電波式レーダーや各種センサーをGG2の統合処理された位置情報により煙幕を苦にしない。

「魔力です総員散開」

 十分な距離が取れた後、炎と電光が爆散する。味方を巻き込んでミニモデル達を払ったのみ。

「焼夷弾斉射。

 あの位なら余裕で弾けましたね」

 普通の魔物なら速乾性のプラスチックを溶かすような塗料の上から焼き付けたら生体フィールドなんか関係なく、死ななくても瀕死か行動不能。

「精神的に追い込まれて十分な威力ではなかったかもしれませんよ?味方も巻き込んでますし」

「申し訳ありません。慢心してミニモデル(あのコ)達の危険水準を上げる所でした」

 煙幕が晴れる前に所々蛍光色に塗られた四体共落下。おそらく音を曲げる魔術に気付いてわざと。

「日々成長するサテライト(あのコ)達に、ちょっと親馬鹿になる気持ちは分かりますよ?」

 操縦者の魔術的擬似生物である小型ネズミ達がホムンクルス(ハトやネコ)のといえど使い魔(ファミリアー)である以上、ある程度自立性を持つ事は想定していた。

 しかし想定以上に自立性とスキルやパラメーター的成長を始めた。

 眷属先のホムンクルス(ハトやネコ)が死なない限り本質的に死なないと、分かってはいるが可愛いものは仕方ない。

「いえ、(わたくし)如きが親などと不相応です。

 このまま距離を取った位置から半数は徹甲弾に切り替えて斉射。反応が変わるまで続けます」

「これやるくらいなら、私がチェーンガン使った方が目立たないよね?マツリ、ケチくさい」

「いえ、今更目立つとかそんな…?」

 カイヤはマツリからチェーンガンを使わない真の理由を聞いている。

 これ以上セリスが行き過ぎた火器マニアにならないように…と。

 さすがにカイヤでも現時点で少し技術者の範囲を超えている事は理解できる。・

「あ、クロさんが来ました。

 ここまでしても滅ばないというのはアークデーモンとは相当ですね」

 器用な隠し事や嘘が下手である自覚があるカイヤは強引に打ち切った。

「クロさんみたいに途中で食べちゃえば早いよ?クロさんもそのつもりで来ましたよ?

 それにタイム的にはクロさんがタイマンで十分位ですから四体まとめて1/3くらいですよ?」

「え、ええ、そうですか…普通の事みたいに言わないで下さい。

 騙されそうです」

「普通とは元々遠い縁が遥か遠くになってしまいました」

「貴女達の様に無敵な存在が人の争いに加担するのは確かに怖い事を実感します」

「カイヤもそう変わらないですよ?

 それに私達が束になってもマツリには勝てませんが、そのマツリが直接の知り合いだけで勝てる気がしない存在が2つはいるそうですよ?

 まだまだ無敵なんて驕れませんね」

「言葉もないです

 そのマツリから伝言が残っていますね。寄り道するそうです」

「合流しましょう。クロさんも今日の分はお腹一杯だそうですよ?

 あとクロさんは後でお説教ですよ?」

「…言葉もないです」



「んー、あの尾根辺り?なるほど…らしいと言えば、らしい(・・・)ね」

 声に出して反応をみる。

 始末する前に元領主悪魔から搾り取った情報の確認にGGで大きく回り道。

「めんどくさい、あの山潰しとくかねえ…痛いなら『デデコイ』」

 サッと冬の冷たさとは違う冷気が満ち、魔力が結合。

 八級位の灰色鎧を纏った悪魔種の姿…魔神(・・)が現出する。

「いきなり乱暴な事を言い出すね」

「…まったくここの神ときたら…」

「…なにか含む所でもあるのかい?」

「些細な事よ。マークしてたなら要件は分かるでしょ?」

「身も蓋もない事を言うね。せめて、それらしく勧誘しようと思ってたのに」

「嘘吐け!お断り!

 さあ、始めましょうか」格闘戦フォームに変形、棍を五m程度に伸ばす。

「私は勝てない勝負はしない。

 君には負けるとは思わないが勝てる気もしない」

「あたしは勝つ気満々だけれど?」

「それでは私に勝負するメリットがないと言っているのだよ。

 だからね、人質を取らせて貰う」

 かなり先の背後に目の前の奴ほどではないけれど三体の五級魔神が現出。

 その向こうには雪原にシミのような黒い集団。

「ああ、分体?人質って…セリス達の事言ってるの?馬鹿じゃないの?

 セリスー、あんた達人質だってさー」

 まだ遠いセリスに通信で伝える。

「途中から通信で聞いてましたけど、何でマツリは神と名が付くモノにはいきなり喧嘩を売るのですか?

 セリス・ダグウェルです。お名前はありますか?」

 わざわざGGの外部スピーカー越しにセリスらしい言葉。

「あちらの礼儀正しい御嬢さんは君と同類には見えないな。

 しかし私も礼儀正しい方ではないし、短い人質付き合いに名など不要」

(わたくし)も名乗り合う必要はない相手と考えます。無論、ハンターとして獲物に対してですが」

「カイヤも言うねえ。

 そんなわけであたしは心置きなくあんたの相手してあげる」

「その強気がいつまで続くかな?」

「あんたが滅びるまで、よ!」

 あたしは最初の一撃を突き込んだ。


 距離、三百m、3体の分体魔神の炎と雷が群れの中心を裂く。

 ダメージを受けたPMが2機。

「さすがに分体魔神、魔力収束から発現が早いです。

 戦闘不能ではないですがPMはここより下げて射程ギリギリからの包囲射撃に布陣します」

「ミニモデルも催涙スプレーが効くとは思えませんよ?

 息してるか怪しいですよ?」

 分断して連携を崩したつもりなのだろうがソコは崩れない。

 二十機のPMが射撃を始めるが再生力が上回るのか効いている様子もない。

「近接で3対1で一体一体と行きたいですが、そこまで甘くないと考えます。

 最低限、音を曲げる魔術と同時突撃で」

「では3・2・1ごー」

 一応対術煙幕グレネードの援護を受けながら突撃。

 やはり突撃となると早いのは圧倒的にアサルトバスター(クロさん)

 二十m間隔の正三角形の中央カイヤ担当の分体の脇を瞬間移動かのように擦り抜けざまに翼刃(ブレードウイング)で一撃入れて、本命の右側の分体の右太股にガンランスを突き立て即座に薬室込み十一発の徹甲弾をフルオート、右足を千切る。

 BWも倒れる前に到着、傷口にガンランスを突き立て徹甲弾をフルオート、リロード、フルオート、リロード、フルオート、リロード…。

 左手で連刃鎖を操り縛る。

 アサルトバスター(クロさん)は今度はカイヤ担当に瞬間突撃…が、空をきる。

 半霧散化で逃れられた。

 しかしカイヤの落ち着いた声。

「任せてください。

 我槍は神罰には遠けれど、人の想いと知りなさい!」

 マツリが女神の分体を絡め取った様にガンランスで残らず掬い取り吸収。

 十五級(フルサイズ)クロさん出現。自ら丸めて口に放り込む。

「残りは一度試しに(わたくし)も頂いてみましょうか?」

 未だ対術煙幕が薄く残る中、カイヤが残り、クロさん担当だった分体に視線を向ける。

 残り分体は担当だったアサルトバスター(クロさん)を見失い、カイヤの動きでしか把握できてない。

 何故か半霧散化で逃れようとした自分と同存在を(カイヤ)が絡め取り突然現れた竜種が食った。

 本来、分体と言えど十五級などデカいだけの片手で捻る雑魚のはず。

 視界の端ではほとんどミンチになっても魔力鎖から逃れられず、遅くなった再生では間に合わず捕われている同存在。

 こちらは本当にわけが分からない。


「向こうはカタが付きそうなんだけれど?」

 その間、あたしはひたすら軽く術付与した力棍で秒間3発の突きのラッシュ。

 ピンチになれば分体を回収するかと思って。

 時間かけるなら属性解放は痛いからまだいいや、と思って。

 それどころか自ら霧散化で逃れようとするから、もう3割位吸収したし。

 生体フィールドは削り切って鎧は自分の一部なのか身体ごと潰れては再生を繰り返す。

「なんなのだ?おまえ達は…」

「その質問が出たらあんたは用済み。

 ンな事あたしが知りたいってば」

 聖炎属性解放。

 魔族によく効く。

 あたしにも効くのが痛いけれど。

 二分ほど続けて討滅完了。

 二分って言っても三百発以上、突いたよ?



「大戦が魔神に誘導されていたと?」

 セリスの家にて。

「どこまで有効に誘導出来てたかは分かんないけれどね。

 出来てたとして、いなくなれば終わるものでもないでしょうし」

「居辛い時世が続きますね」

「そう、それ。しばらくほとぼりを冷ますのに観光旅行でもしない?

 それもあって手が届く範囲でできるだけ面倒な芽を潰しておいたってのもあるのよ」

「観光ですか?どこへ?」

「あたしの故郷」

「…行けるのですか?マツリはともかく私達も?」

「…問題ないそうです…。

 向こうのゲートキーパーとも話が付いていたそうです…」

「本当ですね?本当なのですね?行きますよ?もちろん行きますよね?」

 ほとんど初めてと言う位テンションが上がるセリス。

 カイヤは複雑そうではあるけれど、反対もしない。

「カイヤ、あたし達が何かして誰にどんな幸不幸があったかなんて分からないよ?

 あたし達いないと、とか何かを成さないと、とかは思い上がりに繋がるよ?

 あたし達いないと滅ぶ位なら、そんな面倒な世はいっそ滅べばいいと思うわ」

「マツリ、同意しますが、そこまでの暴論はカイヤには無理ですよ?

 手が届く範囲で働いて、たまに休む。

 ほら、普通の事ですよ?

 ヒトは楽しく生きる為に働くのですよ?」

「ヒト。なのでしたね、(わたくし)達は」




「あらかじめ言っておくけれども、返事はしなくてもいいから。

 ジジイ、諜報の類でしょう?」

 日が変わる時間の王都の公園ベンチにて。

「義理であたしが知った事と推測を報告しておくわ。

 例の臆病な小物公爵、魔神の下で悪魔種になってたから共々討伐したわ。

 で、推測。

 やつは、誰もいないセリス背後に脅えるくらい臆病。

 クーデター準備と疑える証拠とやらも臆病な小物だから。

 大貴族なら程度の差はあっても非公開戦力は持っているものね。

 あの後大貴族の領軍の編成にかなり変動があったし。もちろん裏で」

 …ジジイは腕を組んで視線で先を促す。

「王国としては国全体の非公開戦力の総量が看過できないレベルと判断。

 非公開戦力が最大の規模で人格の面で問題のある公爵個人(・・)を生贄にして全体を脅したのね。

 自重して規模を引き締めないと次はお前だ…てな風に。

 幸い権力に距離を取りたがる空気を読まない不確定要素(あたし達)がやらかしてくれたしね?

 後は大戦関係?

 上位悪魔種が複数で大戦参加国周辺の経済・流通ルートで活動していたわ。

 元公爵悪魔種も何故か(・・・)ここで見つけた。

 一応、組織ごと潰したつもり。

 んで、推測。

 戦域の拡大なり人類の弱体なりを狙って大戦のコントロールを目論んでたみたいね。

 魔神の主導で。

 潰したけど、どうなるか予想できないし、ひょっとしたらヒトの思惑で戦域が広がるかもね。

 まあこんなトコかな。

 そんなこんなで色々目立っちゃってね」

「…黒騎士団、黒の旅団だったか?マツリを知っていれば想像はつく」

「黒の旅団だからね?

 黒騎士団はやめてよ?何処かに本当にあったりしたらお互いの為にならないでしょ?

 その為に名乗ったんだから。

 というか、積極的でなくていいから話題が出た時くらいは鎮火に協力してよ。

 話を戻すと、しばらくギルド通信も頼れないトコに疎開するから。

 あたし達が大戦の影響下にいるのは、ジジイも良くないと思うでしょ?」

「そうだな。王国でも黒の旅団をなんとかして雇う話が頻繁に出る」

「傭兵団じゃないから!討伐団!ソコの鎮火にも協力してよ」

「分かった。今の情報だけでも見返りとしては安過ぎるし納得できる。

 俺個人のオプションの一つとして協力を約束する」

「ありがと。じゃあ、またね」

 あたしは席を立つ。

「マツリ?」

「なにかな?」

 呼ばれて振り返ると立って深く頭を下げているジジイ。

「済まない。感謝する」

 あたしはすぐ前を向き、歩き出しながら返事。

「気にしなくていいよ。あたしはこれでも好きにやってるのよ?」



「姉さん?またなんか変な注文?」

 王都の某工房にて。

 セリスを姉さんと呼ぶ、二十歳前に見える黒髪の人間女性はもちろん実の妹ではない。

 前に預かったという小娘だった女性。

「それもありますよ?仕様書は置いておきます。

 でも、またしばらく旅に出る事を伝えに来たので、そんなに急ぎませんよ?」

「…そっちの人、ぶりっどとかの注文の時にいた人だよね?

 訊かないようにしてたけど、黒の旅団の関係者?」

 あたしを見て他にはカイヤしかいない室内でも気を使って声をひそめてくれる。

「知っているなら分かってしまいますよね。でも秘密ですよ?

 どこかから漏れて拷問とかされそうなら別なので素直に喋って下さい。

 単にこれ以上目立ちたくないだけなので。

 私達は黒の旅団そのものです」

「姉さん、強いもんね」

「今はちょっと他人様には言えない位強くなりましたよ?」

「結構前から禁術師だったじゃない?元から他人様には言えないよ?」

「今ならそこの壁のランス一本でA悪魔種一匹くらいなら2分でミンチして見せますよ?」

「…っ。姉さんが言うなら黒の旅団のちょっと意味の分からない実績も信じられる。

 悪い噂も否定できる」

「噂は聞かせて下さい。良いのも悪いのも」

「じゃあ良いのから。ゴーレム四十体撃破してクーデターを潰した。

 AB混じりのE以上十体以上を一時間かけずに殲滅して街一つ救った。

 この辺はギルドの記録らしいから信じるしかない分。

 悪魔種に支配された国を解放した。

 最近だとアークデーモン+AB混じりのC以上を十体以上討伐…あれ?」

 意外と細かくチェックされてる事にげんなりするあたし達。

「悪い方を聞かせて下さい」

「潰したクーデターは民衆の味方だった。

 悪魔種に支配された国の件は味方を放置して首領格しか討伐してない。

 いつも逃げるように去る。場合によっては報酬も受け取らずに。

 素顔を見せない不審者。

 不思議で変な高性能装備に頼るずるいやつら。

 良い国・悪い国、防衛・護衛・攻撃、問わず全傭兵依頼を断る、人を斬れない腰抜け。

 …細かいのを言い出したらキリがないし、まとめとこんな感じかな」

「大体合ってますよ?凄いですね」

「ヒトの噂も馬鹿にできないねえ」

「…言い訳できる部分はしたら良いと考えます。

 セリスの妹分なのでしょう?心配します」

「姉さん、言い訳できるのは部分(・・)なの?

 というか是非、言い訳して下さいっ!」

「わかりましたよ。…クーデターの件は犯罪調査依頼の結果なので私達は関知できないのです。

 首領格を討伐した後、こっそり手伝ったよ?味方の手柄を奪わない心配りですよ?

 逃げ去るのも素顔を見せないのも、不思議な高性能装備が禁術級なので目立てないのです。

 例えば…クロさん?」

 セリスの肩で小鳥のフリしてたクロさんがBアサルトとCバスター出して分体と分乗。

 浮いて分離変形合体を実演。

「アサルトバスターですよ?」

 突然のあまりにと言えばあまりな光景に固まる彼女に声をかけるセリス。

 分かる、解るよ、君の気持が。痛い程。あたしですら固まったもん。

「す、凄いです。魔力も魔術痕跡も一切見つけられません。音も異常に静かです。

 複雑な機構が干渉なしで生物みたいに滑らかです。

 四つ共浮いてましたし…もしかして生体フィールド弄ってます?」

 …君もそっち側ですか…。そーですか、そーだよね、錬金工房だもんね、ここ。

 というかさり気にコレも禁術級かあ。

 最新作だけど素材は全部こっち産、ソフトもこれに関しては原型が残ってないよ?

 クロさん用だから。

 禁術級なのは装備ではなくあんた達でしょうが。あ、元々そうだっけ。

「解かりますよね?これは公開できません。完成品ではなく技術がです。

 なので目立てないのです」

「理解しました。

 でも姉さんは盗賊の討伐は躊躇わないのに、人を斬れない腰抜けなわけがないですよね?」

「それについては…」

 セリスはあたし達の表情に視線を巡らせる。

「あたし達はね、禁術で戦略兵器。その気になれば、かなりの無茶ができるの。

 だから最低限あたし達を縛り、免罪符にもする呪文を唱えるの」

 カイヤが息をつき、唱え始める。

「戦争に善悪もなければ政治に正解はないと誰かが言ったそうです。

 (わたくし)達も同意です」

「あたし達はハンターなの。革命家でも正義の味方でもなく」

「力があるから使わないといけない、というのでもないでしょう?

 私達が楽しく生きる為に使う力ですから」

 …。

「…それが姉さん達の縛りと免罪符…。

 うん、シンプルでいいかもしれない」

「あたしの経験則だから分かりにくいかもだけれど。

 自分の為に使って後悔するのは自業自得。

 でも義憤で使って正解がなかった場合の後悔はやりきれないわ。

 キチンとした正解がない事の方が多いと思うのよ」

「また増えましたよ?」

「増やさないわよ。ただ生産職メインだと理解し辛いかと思って、前に想った事を足しただけよ」

「いえ、伝わりましたよ?生き方を言葉にして口にするのは良い事かもしれませんね。

 もしかして長命種の方ですか?」

「多分そうだけど、まだセリスと同じ位よ?

 言葉にするのは、ただの故郷の倣いよ。普通は一文にするけれど」

「生き方を言葉にですか。考えてみます。

おかげで姉さん達を信じられます」

「でもしばらくは戦争に係らないのが難しいので、連絡ができない所でほとぼりを冷まします。

 行ってきます」

「行ってらっしゃい。マツリさんとカイヤさんも行ってらっしゃい」

「ありがと。行ってきます」

「行ってまいります」

 なんだか懐かしいと思える普通の遣り取りが心地よく。

 ここに居ればいいじゃない。

 …などと思ってしまった。

 帰ったらこんな安らぎはないように思えるの…。






ひとまず完結です。

続けるなら未だ(仮)なタイトル変えないと…。

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