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後ろが結構ごっそり抜けてました。
「ガンソードというのも面白そうですね」
「いいですね作って検証してみましょう」
言い出したら止まらない。
「検証試作です、色々試しましょう。
連接剣というのも面白そうですね?組み合わせてみましょう」
それ、あたしでも知ってる。
使えないよ?
完全にネタ武装だよ?
「仕様書では個別ですが不整合はないように考えます。
7.62mmNATO弾をアサルトライフル風に使える方向で。
マツリがやりすぎだのオーバーキルだのスプラッタだのと煩いですし」
ついに仕様書を大幅に超えた物を作り始めた。
FN SCAR-Hベースに7.62mmの三十発弾倉。
銃身下に装着されるグレネードランチャーの代わりに一mを超える大型の刃が銃身を半ば覆うように装着。
刀身は最長で三十m位術的ワイヤーで数珠繋ぎに伸びる、連刃鎖になる。
…三十㎜クラスのセリスレシピの錬金魔術火薬で射出して。
刀身から伸びるメインフレーム繋がる銃床は楕円の柄。
ハンドガードも握れるからBWが片手で握れる程度に短め。
アサルト連接剣なる物の誕生。
三十㎜カートリッジ使って銃床なしとか…。
大丈夫だろうけどね。
「薬、ですか」
「定期的に年少用のギルド依頼に薬草採取がありまよ?」
王国の隣国のギルドにて。
「麻酔はあるよね?」
「モルヒネですね」
如何に治癒魔術が発達しようが治癒魔術は割と希少。
なので外科内科的医療はそれなり。
特に戦闘職は大体携行してるはず。
「麻薬あるよね、ヘロインも」
「錬金の範疇ですが聞いた事はありますね?
成るような話も耳にしました」
「故郷の国だと、栽培生産供給に厳しい規制がかかってたんだけど?」
「規制はもちろんありますよ?」
「昔の故郷だと、貴族が領地経営で栽培生産したそうよ。
主に仮想敵国の民衆へ販売の為に。国も黙認。
国内にも出回ったという噂もあるね」
「エグイですね」
「この依頼の件が怪しいと?」
「麻薬については潔癖な国で教育を受けたのよ。
芥子、モルヒネくらいは医療用に必要な位は後から知ったけど。
ヘロインは無理よね?」
「ということは錬金関係ですね?」
「芥子農園を焼き払うのも医療に影響がでそうですしね」
「みつからないね」
いくつかの工房を巡ってみたみたけど不発。
「看板を出している訳もないですから浅い調査では無理でしょう」
「そうでもないですよ。
普通の売れる物を百個を錬金生産で採算が合う物が作れたとします。
仮に人口三十万と言われる王都で五万の需要があっても供給できません。
術師数に上限があり途中の需要が割れは怖いですからね。
どうしても途中鈍ります。出来ても何年もかかります。
かと言ってそれを専門にすると、需要を満たした時詰みますね?
なので工房は基本、一点物受注生産の片手間に量産となります」
「量産するなら多数の工房片手間になるのかー。
関係者が増えると目立たない訳ないのね。
儲かるはずだけど 」
「いえ。単純に錬金工房はそんな博打を打たなくても高収入なのですね」
「王都と比べて錬金術師が少ない事が関係しそうですね」
失踪した術師も多くはなさそう。
「他国から拉致とか隷属魔術かなあ」
「禁術の一歩手前ですよ?」
「国ぐるみの戦略だとやだなー。
貴族の独断であってくれたら、まだ気楽なんだけど」
「手詰まりですか」
「こういう場合、お金の流れを追うのが基本だけどねえ。
あたし達の専門外なのよねー」
「ギルドカードでしたら私がお役に立てると思います。
GG2とセリスのモジュールがありますし」
「そっか、そういう知識も身に付いて来たんだっけ」
ちなみにGG2はセンサー類を増設した情報戦特化寄りの仕様。
アンテナ・センサー類を兼ねた翼類とシルエットが更に大型化。
屋内行動の前提はどこへ?
魔物相手が前提のはずなのに情報戦特化とか。
制式ならともかく試作三機のみの実証機に戦術データリンクとか。
これだから23シリーズは…。
でも、またもセリスがやってくれた。こんどはカイヤも。
情報戦特化のGG2といえどもこちらの通信とは異質過ぎる。
そこを外付けでこちら仕様にチューニングしてくれた。
GG2の特化基礎能力があればこそとは言ってたけれど。
「でもこの場合官給カードだと思いますよ?」
官給カードは国内でレートは変動しにくい。
国債でも支給できる。額面は額面通りなので国内では優位。
しかし国が滅ぶと無価値になる、国を裏切り難い仕様。
「どのみち足が付き易いカードは使わないような気がする」
「いえ、現金も額面価値の半分以下の重い金属の塊ですよ?
カードの存在が物理的に流通する現金の量を制限してます。
大口の取引は難しいと思いますよ?」
「となると官給カードを資金洗浄してギルドカードにしてるかね?
ならカイヤ御願い。足が付かない程度にね」
お金の流れ的には最も王国から近い、某伯爵が怪しいみたい。
「なんかさあ、見えた気がするのよね。ただのカンなんだけれど」
「どういう事ですか?」
「最も近い王国の領主がリース公爵ですね?」
隠し畑と施設の出入り口らしい穴を公爵領寄りに発見。
普通に空からは見えない工夫と術が施されてた。
意外と役に立ったね、GG2のアクティブセンサー。
「隠し田畑って農民がきつい税の対策として苦労して作るものでしょ?」
「そうですね。あれは違うと思いますよ?」
「アクティブセンサーだから気付かれたかもだし、急ごうか」
「放射探知の概念は知られてないので対策されていないと思いますよ?」
「ふむ、魔力放射など無駄に思えますがこういう利点があるのですね」
大型の種族やゴーレムも居るから基本大き目に作られているこちらの施設。
GGとBWで強襲。GG2とクロさんは表で警戒威圧。
一通りBWが連接剣と7.62mmの実戦検証で制圧。
あたしはトンっと棍で軽く床を打つ。
「死ねない事がツライ事もあると思うよ?あたし回復術できるよ?」
なぶろうか?
そう聞こえてくれたのか、武器を捨てて二人は指示に従う。
最後まで抵抗した責任者らしき二人の尋問を始めた。
「丸っきり悪役のやり口ですよ?」
いいじゃない、話が早くて。
正義のつもりもないしさ。
セリスのスプラッタ攻撃の方がどうかと思うよ?
今はアサルト連接剣の検証をしてるけれど。
やっぱり連接剣は苦労してたけどサマになってきたね。
改良時にプログラム制御を組んで挙動をパターン化したとか。器用な。
あたしも練習してみるかね。
証言と証拠を仕入れて伯爵に任意同行、リース公爵邸へ。
黒騎士三人で。
小鳥クロさんは外の監視、
「知らん」
にべもない。
「じゃあ、このまま王宮へ向かいましょうか?」
さっさと伯爵を引き摺って背を向ける。
クロさんが玄関外に戦力が集結するのを伝えてくれる。
『ヤってしまおうか?』
『駄目ですよ?』
ちょっと他人には聞かせられないやり取り。
邸内の気配も一気に破裂。
十五の矢と七の魔術、アサルト連接剣と棍、ガンランスで払う。
別に直撃してもあたし達はどうにもなりはしないけど伯爵がいるからね。
玄関からは剣士槍士らしき八名が殺到。
面倒臭い。威圧しようか?
いやあれはマツリのモノとして置くかな。証人も巻き込むし。
アサルト連接剣とかガンランスをこんな事であんなのと多人数に見せたくないし。
『セリス煙幕魔術。クロさん入っておいで』
『はい』『応』
数度の脱皮によりずいぶん面影の変わったクロさんが屋根を破り、
十五級に戻りながら一階まで床を踏み壊して降りてきた。
「十五級竜種を召喚だと…!」
全員が逃げ出す中
「リース公爵、あんたは逃がさない『セリス、拘束』」
魔術でセリスが公爵を拘束。
だってこういう細やかな魔術はセリスの方が上手いんだもん。
公爵邸の端末から国軍経由でジジイを呼び出した。
「さてどうしたもんか…」
「どうしたも何もまたあたしが暴れたでいいじゃない?」
実は公爵がやる分には麻薬製造販売は罪ではないときいてる。
公に申請すればね。
真っ黒でしょうが確証もないから皆には退散してもらった。
「多数が変わった竜種と、三つの黒騎士、灰色の幽霊だったか?を目撃している」
「あたしの幻術とパペットゴーレムよ。
王様にはあたしが不審人物って話してるんでしょ?」
「ほう、そんなに器用だったとは驚きだ。
嘘吐くならもう少しそれらしくやれ。
俺が嘘吐き呼ばわりされる」
「ほんっと石頭」
「お前が杜撰過ぎるのだ。
どうせアレも一枚噛んでいるのだろうが」
「さあ何の事かしら、誰の事かしら」
「お前がシラを切り通すならどうにもできん。
そのままでいいから陛下に直接シラを切り通せ」
「や」
「…だろうと思ったさ。
俺は一介の平民王軍中尉だぞ?
権限もなければ管轄も違う。
公爵は王族を輩する地位だぞ?
実際、リース公、デギルス・ザービスト公爵は先王の義弟だ。
俺にはどうこうできない。見たまま報告するだけだ。
普通に官憲に通報しろよ」
「握り潰されたら腹立つもん。
その点、ジジイならそれはないでしょ?石頭」
「このやろ」
「じゃあね。
居て欲しくないあたしは国外退去するから、あとよろしくー」
Don!
とバーニアを吹かして天井の穴を抜けて撤収。
わるいね。
でも、たまにはあたし達の役に立ってくれてもいいじゃない?
後日、検証討伐の旅路にて。
「あの後どうなったのでしょう?」
「おそらく真っ黒でも大した事にはならないと思いますよ?」
「だろうねー。大き目の罰金とかくらいかな?
徴税する側だから追徴課税もないだろうし」
「罪は罪でしょう?でなければ隠し畑の意味がないのでは?」
「国内に販売ルートがあったら罰金だし体裁も悪いからねえ」
「少なくともあの王国では公爵という地位は、
クーデターでも起こさない限り揺るぎませんよ?
クーデターを起こすメリットも思い付きませんね」
「王権を欲するのはありがちと思えますが?」
「王様なんて不自由でプライバシーのない辛い仕事でしょ?」
「お伽噺ならともかく現実的にはそちらの方がありがちですよ?
現実的には公爵が一番好き勝手言えて出来る地位ですね」
「問題は白だった場合ね。
あたしが指名手配される可能性があるのよねえ。
公爵ンち壊したし。
ギルドの端末をインターセプトして確認してみてよ」
「はい。
…?
…公爵本人は罷免されて遠隔地に隔離されるようですね」
「は?なんで?」
「クーデター準備と疑える証拠がいくつか出た様です」
「馬鹿なのですか?」
あたしはこちらの常識は分からないし。
貴族様はあたし達と価値観が大幅に違うのね。
「戦術データ・リンクと早期警戒管制機、面白い概念ですね」
「ええ、私も気になってました。作って検証しましょう」
AWACS?もうなにがなにやら…?
あたし本場の現地人なのだけれど…?
戦術データ・リンクは分かるよ?
「23シリーズ試作三機の実証機で既にデータ・リンクしてるよ?」
「はい。
ですから、より広域で重要区域での早期警戒システムの構築ですよ?」
いつだったか、あたしは文明人などと傲り言い放ちました。
深く反省します。訂正して謝罪します。あたしは野蛮人側です。
「今回は新造しますよ?優秀な素材がいっぱいありますよ?」
先日の使い捨て蜂型盗聴ゴーレムの製作技術は元々存在してる。
販売もしてる。二日位の使い捨てで王国兵二月の給金が飛ぶけど。
それで独特な通信技術故に目視範囲か、互いの居場所が固定される。
更には民家にも設置されるような簡単な結界で遮断される。
セリスは電波変換術式を構築して買った物に組み込んで使ったわけ。
「ゴーレム方式は捨てた方がいいでしょう。魔力的に目立ちます。
小さくとも結界に触れてしまえば感知されるかもしれません。
私のような魔法生物はどうでしょう。
魔力も遠隔補充できますし、ある程度自立判断できるかもしれません。
使い魔的なのが理想ですね」
ここでは野良化した半ばモンスターのようなゴーレムでも魔法生物とは呼ばない。
なんかカイヤがノリノリなのはセリスと同類なの?
「使い魔はノイズの問題で複数同時使用のハードルが高いですね。
簡易的魔法生物を孫機にして子機の使い魔というのは?」
「いけるかもしれません。
使役側に高度な知性がなければ余計なノイズも拾わないでしょう。
子機は小々大きくなりますが高位素材で術式を詰めて、
疑似憑依CSで直接操作すれば…」
付いて行けない会話でどんどん煮詰って行く。
何この敗北感。もう疑問符か感嘆符しか出てこないよ。
「おかげさまで広域警戒調査管制システムの概要は固まりました。
AWACS風に単語を翻訳してみたらワイド・エリア・ワーニング・アンド・サーチ・コントロール・システムとなりましたのでWAWASCS、WWSCSと言う感じですか?
あとは試作検証です」
英語の文脈としてはおかしい気もするけれどAWACSとやら風にもじった略称ならそんなもんかな?
そんなみみっちいツッコミは自分が惨めになるし、発音的に他人にはさっぱりだろうから言わない。
「分かりました。
元の知識と今の種族特性か、魔法生物は得意なようです。
頑張りましょう」
彼女達に比べたらあたし、平凡よねえ。
「脅威判定E五、G十八、群れで一定方向に移動中です」
アサルト連接剣と広域警戒調査管制系の検証討伐の旅路にて。
「そこそこ、この検証を続けて来たけど珍しいね」
「私はWWSCSリンクは精度も最初から高かったのでクロさん用の改造とか調整以外、あまり大きくは改造ってませんよ?
群れなら近くに村か町があるのでしょうか?」
ちなみにクロさんも女神と子孫機のマネをしたのか、鳥や小動物型の分体を複数生成使役する術を身に付けて、WWSCSのデータリンクに参加するまでになりました。
もうね、技術はあたし、クロさんにも負けてるから。
脳筋めが…と言わんばかりのクロさんの視線が腹立たしい。
「進行方向に人らしい二百位の反応があります。村か町ですね。
このままなら三時間程度で到着します」
「どうしようか?」
「先に村に寄ってみませんか?」
「討伐しないのですか?」
「うーん、あたしはちょっと前に、頻繁にある事なら備えているだろうし、みんなが有事に訓練されているべきと思わされたのよ。
誰も無理をしないし」
「私達はよくある事に偶然過度に介入して、みなさんの緊張感を落としたくないのです。
常に私達が居るわけではないのですから」
「貴女達は本当に神視点に見えます。
これは非難しているのではありませんよ」
「脅威判定G以上が二十以上更に強いのが混じって、三時間もしないうちに襲撃してきます」
「ギルドは?軍は?」
「一番近い所で二時間はかかる!今から召集してたら間に合わねえ!
軍はもっとかかる!」
「とにかく早く緊急応援依頼を出して下さい」
「皆さんは備えて下さい。
この辺りでは珍しい事なのですか?」
「二十以上の規模は三年か四年振りだよ!」
「あたし達が数を減らして時間を稼ぎます!早く!」
「あんた達討伐者なのか?
時間を稼ぐって、大丈夫なのか?」
「私達はこれでも超強いのですよ?」
「やっぱ無理かー。
Eって一匹でも軍隊が五百で二日がかり。
それも一割以上の損耗を覚悟って言ってたもんねえ」
「…だから自分で始末するからEの存在を告げなかったのですね」
「私達は覚悟を持って欲しいだけであって、心を折りたくありませんよ?」
「…そうですか」
「じゃあ特訓よ。小鳥クロさんなら参加してもいーよ。
全部の時間稼ぎが最低条件。
Eメインで全部倒しちゃ駄目よ」
ちなみに小鳥クロさんはシャープな身体と翼を刃に超高速で通り抜ける、体当たりする、5.56㎜だって吐く。
「それは殲滅するより遥かに難しいですね」
「だから特訓なのですよ?」
「抜けられそうなら迷わずガンランスも23シリーズも使って。場合によってはチェーンガンも可。
あたし達の特訓が目的じゃないから」
アサルト連接剣を手にあたし達は散開する。
百名近い応援が来た所で半死半生のE一匹と八匹のGを通した。
でもEは荷が重いらしく死傷者が出そうになった所で隠れたセリスとカイヤが遠距離狙撃で瀕死まで追いやった。
「あくまでもとどめを刺さないのですね」
「用意できる戦力でとどめを刺させないと希望が持てないでしょ?」
「死傷者が出そうになったのですから、これからはもっと危機感も持ってくれると思いますよ?」
「貴女達は本当に神視点ですね」
まだ戦える者がこちらに駆けて来る。
「そっちは大丈夫か?よく時間を稼いでくれた」
「済みません、結構通してしまいましたね。
そちらは大丈夫でしたか?」
「ああ、残りはどっちだ?」
「こっちも終わったよ。お疲れ様」
「そうか、お疲れ様」
「あたし達正式な依頼受けてないけど分け前貰えるよね」
「ああ、さすがに出さないって事はないだろ。
村に戻ろうぜ」
あたし達の無事を確認した人達が戻って行く。
「貴女達にとって大した報酬でもないでしょうに」
「貰って安心、渡して安心するのがヒトというものですよ?」
「貴女達は本当に神視点ですね」
そう繰り返すカイヤ。
「違うと思うよ。
あたし達だって無償でいいように使われたら腹が立つもん。
だから善意だけでなく貰うものは貰うの」
不思議そうなカイヤとフラットに頷くセリス。
あたしそう思うだけの主観だしね。
「無償でいいように使われている私は、
マツリに腹を立てるべきでしょうか?」
「カード作ったでしょ!ちゃんと分け前入れてるよ?」
使いもしないくせに。
…って。
あれ?…生活費とかあたしが出してる…。
「えっと、さすがに意味わかんない」
セリスの家の工房にて。
「クロさん考案なんですよ?」
背中にでかい何かを背負って、長い盾とアサルト連接剣を持って立つ二mの黒い全身鎧。
いかにも変形します、な形状。
…『6番目のジー』?頭とか色々と簡略化されているけれど。。
「これ、どこで?」
「クロさんがデータを拾ったので、カイヤと私で手伝って作りましたよ?」
「クロさん、生身でデジタルデータを読めるの?」
「読めますよ?WWSCSのデータリンクに参加してますよ?
眷属パスからリンクしてあげたら直接WWSCSのデータリンクできる術式を自分用に組んで、更にBWの疑似憑依CSの術式を模倣加工したそうです」
「というか流石にコレの仕様書はないでしょ⁈」
「模型のデータがあったので、そこから図面を起したそうですよ?」
読めるどころか図面起したって事は書けるの?
「ああ、模型ね。うん、さすがにコレはないよね。
なんでプラモなんかのデータが入ってんだか」
「変形機構の参考資料のようでしたよ?」
「…あの馬鹿ども、あわよくば大気圏に突入させるつもりだったの?
けど驚いたわ。よくできてるから、てっきりもう駄目かと…」
「はい。23シリーズの浮遊術器とかバーニア とか魔力ジェット等を再現して、電子制御部等は錬金魔術で仮想複製して機能再現できましたから組込みました。
飛行形態に変形して飛びますよ?」
「…え…」もう駄目かと…?
「さすがに元が模型なので23シリーズのようなマトモな駆動機構はついていません。
なので、小鳥クロさんが搭乗して分体を形成した上で、疑似憑依操作しないとマトモに動けませんよ?
今の所、良いゴーレム素材にはなると思いますが?」
…遅…かった…?もう駄目…な理由はないけれど…。
「…動く…の?
…てか、さり気に23シリーズの再現って?」
とうとうそこまで…
「正規の術式仕様書と図面と見本の予備パーツまでありますからね?
化学素材的に解らない物を機能再現まではまだ無理でも一部はなんとか。
大部分の駆動はクロさん頼みなので改良の余地はありますよ?」
今まで破損した事ないし、メンテナンスベッド任せだから忘れてたけど、あるはずだよね。予備パーツ。
それをそのまま使わないのはセリスの良心なのかあたしへの配慮なのか。
できるよねー、セリスなら。
アサルト連接剣の挙動、プログラムしたとか言ってたもんねえ。
うかつだった。
これはあたしが悪いの?
いや、悪い理由はないよね?
「…えと、つまり小鳥クロさん専用23シリーズ?」
腹のハッチが開いてコックピットに潜り込む、涼しげな視線が憎たらしい小鳥クロさん。
不自然なまでに静かに軽快に動き出し素手の素振りを始める。
うん、法術ステルススキンも再現したのね。
「はい。そこを目指しました。
でもその…ソフトは一から自力は時間的に無理があるので、メンテベッドから最適化したOSの供与を受けました。
勝手な事してごめんなさい」
…おのれメンテベッド。あんたまで加担してたの⁉
いや、権限を適当にあたしの次にして、機能限定しなかったのはあたしか…。
…あたしより上手く使うんだもん、もったいなくて。
「マツリに相談しなかったのは、解らないって拗ねて渋りそうなので私が止めました。
せっかく素晴らしい素材があれだけ揃っているのですからと、オリジナルを上まわれるようにセリスが苦心していましたので」
「それはもういいけれど。
ん?カイヤ、今あたしの心が狭いって言った?」
「痛い痛い痛い…」
八つ当たりのデコピン連打でもしないとやってられない。
けれどクロさん、前から23シリーズに対抗意識みたいなものを感じていたけれど。
こう来たか。セリスの影響?
「ドラゴンが変形飛行してゴーレムで飛ぶ事に何の意味が?」
「複数の子孫分体を運用するなら、小鳥サイズで機体アシストがある方が効率が良いみたいですよ?魔力的にも制御的にも。
あと人型での戦闘に興味があるそうです」
確かに全身鎧を装備したヒトに一番近いかも。
背中のアレも未知の武装に見えるかも。
「いいけれど、素手の殴り合いは避けてよ?術防御はしてるでしょうけど、手は人型ゴーレムの中で一番繊細なとこだからね?」
ちょっと先輩面してやった。
ちいさいなあ、あたし。
小鳥クロさんのゴーレムはセリスの眷属なんだしBW2という事になりました。
「特に何もなければこれをしませんか?」
とある街のギルドにて。
女神は人と人の悪意も人の営みとして鈍い。
そもそも明確な悪とはなんぞや?という話にもなるよね。
その辺り、多少敏感になったカイヤはクライムハントに興味を示す。
「また薬かあ」
大体の国には国軍領軍内に対人治安部署がある。
しかし基本魔物に対する軍組織の中で、民衆に武が向く嫌われ職。
魔物に対しても一次即応をギルドに依頼するように、犯罪情報収集もギルドに依頼する。
「現在の集積情報では小規模のようですが禁術系ですね」
もちろんギルド加入者すべて情報開示されるわけでもない。
それなりの功績と情報に対する一定期間の担保金が要る。
担保金はともかく、目立ちたくないあたしは情報閲覧は無理。
なのでGG2のインターセプトによる情報閲覧とリンク共有。
「GG2の覗き見は情報窃盗の意識はないの?」
システム|権限を越えた覗き見はクラッキングだよね?
「ありませんね。改竄したわけでもないですし」
元遍在女神は簡単に知る事に慣れ過ぎて覗き見に抵抗がないの?
「人が作った道具ですよ?
より高度の道具で抗するのは普通ですよ?」
…端末ネットだけ極端に高度で鉄壁過ぎてルールがないのね…。
当てにゃ通らん通信技術は秘匿性に優れるもんね。
過信もするかしらね。
「あたしじゃ高度過ぎて理屈も分かんない。
セリス達が怖過ぎる」
「失礼ですよ?
どこかを通信魔術は通るのです。
広域に魔術を拾うアクティヴ網術も復号演算もGG2の技術ですよ?
私はこちらの仕様に合わせた概念変換術器を後付けしただけです」
GG2の仕様をそこまで理解できるセリスはやっぱり怖過ぎるよね。
「それで、やはりお金の流れから手を付けますか?」
「向いてないのよ。このての調査。
…薬で禁術系の試作検証段階なら臭いか音かには気を使うかな?」
基本あまり動かない鳩から猫や狼くらいの子機擬似眷属魔法生物』。
子機が食ったモノから簡易生産、使役する蜂から小型のネズミや蝙蝠までの魔術的擬似生物の孫機『|魔術的擬似生物の使い魔』。
GG2の情報戦ユニットともあたし達に配られた籠手に術収納を少し常時展開して内のメンテベッドとリンク。
「これズルくない?術収納を道具で常時展開とか」
今までも術収納内のメンテベッドとリンクはしてたけど速度は一万分の一.。
「ずるくはないですよ。結局、干渉権限は術収納庫の持ち主にしかありませんから」
この辺り、カイヤも噛んでるのね、
「クロさんまで…ドラゴンが収納魔術持ってるのはズルくない?
まだカイヤは経験が足りなかっただけで知識はあったから納得できるけれど」
「クロさんはクロさんですよ?もうドラゴンとは言えませんよ?」
「ええ。もうどれだけ長生きしてもエンシェントドラゴンには成らないでしょう」
「マジですか。悪い事したかな…ん?成らない?」
「極低確率でなれたとしても、成らないですよね?…だそうですよ?」
ちなみに小鳥クロさんは籠手でなく背と腹を覆う板鎧。ロングテールの垂直翼刃付き。
もう地がメカメカしいからあたしの目には違和感はないのがねえ?
ともかく、これらを合わせて百以上からなるWWSCSによる潜入捜査は効果絶大。
ハッキングでお金の流れを追い、このテの捜査を想定しているわけもなくざくざくと痕跡。
暗い下水用地下設備区域へと暗視モードで黒騎士四体で侵入。
十五級はもちろん、高速高機動の小鳥より使い所でしょうとBW2。
「感知結界です。四重にかなり念入りに施されてますね」
ステルススキンで無視して進む。
「なんか違和感があるのよね。資金規模も想定よりかなり大きかったよね?」
「そうですね。工房二つ三つのレベルではありませんね。
偽装工房の地下室まで用意してましたよ?」
「サテライト達の調査では十三カ所の耐水扉を侵入できません」
「まあ下水用地下設備だもんね。ムシでも入れない所はあるだろうけれども。
…音」
魔術的擬似生物の使い魔を音源へ。
「蜂サテライトの侵入を試みます…人が出て来ましたね。。
接触しますか?」
「まだですよ。敵性判定出来てないですよ?」
侵入したサテライトの音声に集中。
明るい地下部屋では蜂でも見える位置に居ると不自然だから映像は期待しない。
『ナパーム魔術の触媒の量産錬金はどの程度だ?』
『半分は超えました』
『そうか、やっとか』
BWの方を見る。
「禁術ですよ?」
え?ヤッバ、あたし使える。触媒って何って感じの手ぶらで。
「私も使えますね。触媒なしで魔力のゴリ押しになりますが」
「私達はそれで大規模にできますよね?
触媒があると平均的な魔術師でも可能になるので禁術です」
「ナパーム自体が禁術じゃないのね、ちょっと安心した」
「いえ、普通に禁術ですよ?単独使用可能ですよね?口外しない方がいいですよ?」
「…そういやジジイが前に、失恋でもして自殺の道連れに自爆的な使い方されたら笑えん。
気が触れても可能ならそれだけでも怖い、と」
「なるほど、それはそうですね」
「ただ私達は失恋どころか恋愛する事すら想像ができませんね」
「え?あたしも?
…そっか。まあそこはいいでしょ。
いきなり当り引いたみたいだし、不意打ちの強攻で行こうか」
不意打ち、強攻でも警報、非常照明が全点灯。
ん、やっぱり想定より大掛かり?
「ゴーレムです、アイアンが二十二、増えそうです」
「アイアンゴーレムですか。7.62㎜では厳しいかもしれませんよ?」
セリスはガンランスやチェーンガンを使いたがる。ガンナーに戻ったし。
「術付与なしの通常弾でも薄い鉄板くらい一発で抜けるから。
取り敢えず威力偵察がてら一当たりしてみようね。
狭いから長距離は無理だし、先にこちらの高威力武装を見せたくない」
「それは戦力の逐次投入という古来より戒められる愚策ですよ?」
「この場合、四体という数で逐次投入も何も…と思うのですが?
それにアサルト連接剣も十分高威力武装でしょう。
来ますよ、第一波、七体」
「逐次投入の愚策はあちらでしてくれるみたいね」
トリガーを絞り一秒経たずに放す。
7発で1体仕留めた。
「アイアンというには脆いよこいつら」
隣でセリスが連接剣を火薬伸長で飛ばして一撃。
まあ術付与弾だしね。
「では刃は如何でしょうか?」
見掛けによらずカイヤもセリスも接近戦を苦にしない。
四mくらいの連刃鎖で薙ぎ払い、削る。魔力糸にだって相当殺傷力はあるけれど…。
「金属相手に連刃鎖は効率悪いね」
「ええ、ここは素直に剣で御相手しましょう」
一気に間を詰め、一・二撃で鉄屑にしていく。
素直…かな。横のセリスは素直に弾をバラ撒いてるけど?
クロさんも修行とばかりに剣で接近戦。
「BW2はともかく二人は後衛の魔術師だったと思ったのだけれど?」
二人共ナパーム使えるって言ってたけど、二人が高威力魔術使ってるの見た事ない。
「今更どの口がそんな戯言を言うのですか?」
「魔術知識があっただけの0歳ホムンクルスに、だったも何もないでしょう?」
「…あたしの所為と?」
「責任とは言いませんよ?ただ、それ以外の要因が見当たらないだけですよ?」
「あたしか…」推定と元の女二人が物理質量戦主体とか…ないよねー。
クロさんはセリスの隙を埋めるべき立場なのに、埋めるべき隙が見当たらないの?
なんか割と自由ににやってる感じだし。
お、増援。ストーンが二十一…なんかおかしい…?
街と呼べる結構な規模の都市下水用地下設備にゴーレムがこんなに?
…テロリスト?いや…やっちゃったかな…?
途中で逃げるのも負けたみたいで悔しいから殲滅してヒトは捕縛。
尋問して事情を聴きたくないからギルドに引き渡して丸投げ。
最低限の報酬もらったら、もちろん逃げました。
あの街の領主のクーデター計画でした
しばらくはこの国に寄り付けないなー。
本格的に冬が到来。
地軸の傾きはあるのね。
地面は球形で地動説も観測魔術で確定しているけれど、惑星恒星の語彙はないのね。
月みたいな大型衛星がないので、他天体をイメージしにくいみたい。
地磁気も弱いのか他の要素なのか、方位磁石が今一つ安定しないのよね。
雪原とか雪山は大まかに迷いはしないけれども目の前が面倒。
「人工衛星でも打ち上げてGPSでも使えるようにするかな…」
冗談のつもりだったのだけれど。
「でしたらBW2を増産して飛行形態で打ち上げたら代用できますよ?
人型もクロさんの稼働実績を反映させてマシになってるのです。
もう単体でも普通のゴーレムよりは動きますよ?」
セリスが具体案を提示してきる。
確かに飛行形態なら無人偵察機みたいに使えたね。
GGの疑似憑依CSから疑似憑依もできる。GGはただの人形になるけど。
「でも増産って、そんな簡単に…かなり苦労したでしょ?
「ええ、それはもう。プレスや鍛造のキャスト型から造りましたから」
「型からってプラモじゃあるまいし…」
「いえ、元は模型ですよ?
機構が複雑ですし、どこに想定外の負荷がかかるか分からないのですよ。
なので、複数の予備パーツを用意して置く為に量産ラインから構築しましたよ?」
「…セリスらしい思考だけど量産ラインって…」
「空きコンテナに錬金工房設備を揃えました。
メンテベッドとのリンクの許可をもらえたら、日産十機くらいは可能ですよ?」
別に制限してないけれど、こういう時セリスは許可を求める。
「ああ、もう…とりあえず十機は許可…。
…無重力・真空対策は要るかな?」
「生物を積むわけでもないので必要を感じないですよ?
許可はありがとうございます。追加推進器は量産しますね」
本来、浮遊法術器で浮くBW2に脱出速度は要らないはずよね?
普通に魔力ジェット推進と超圧法術器で衛星軌道まで上がれるはずよね?
「保険です。あちらの環境と摂理が通じるとは限りませんよ?」
ごもっとも。
しかし何事もなく十機が無事に衛星軌道にのって人口衛星として試験稼働を開始。
特殊環境検証用にとの事なので三十機の増産。内に十機を衛星軌道に。
残りはWWSCSあればこその多数運用で普通のゴーレムとして検証稼働を始めた。
多数で多種多様な環境で検証試験できるからこそ、量産機は問題点を洗い出し改修改造して特注機の性能を上まわるのよ?使用者個性に合わせたカスタマイズはその後。
…検証試験で大気圏に突入させる日が来るかもしれない…。
「黒騎士団?」
そろそろ余裕のなくなってきた素材を補填する討伐の旅路にて。
「そう呼ばれている様ですね、私達」
PMと呼ぶ事にした飛行形態のプロダクションモデルの機上で移動中。
この方が最高速度は23シリーズに劣るけれど、低高度低速安定は圧倒的に勝っちゃう。
セリスのやる事だからと理不尽な想いを飲み込み、PM達も同様にさせてる。
そういう浮遊魔導装備に見せる為に。
それでも街道を真っ黒な騎士の群れが浮遊移動する姿は目立つけれど。
「なんで真っ黒な群れになっちゃったかなー」
主にステルススキンの問題だけれど
「色の問題もありますが、噂レベルでもそれなりの実績がありますし、功績と認められている様です」
「黒騎士団は恥ずかしいねえ。官営でそういう騎士団もありそうよね?
なんか名乗る?他人に二つ名とか付けられるロクな事になんないよ?」
セリスに視線を向ける。
「そうですよね?シンプルでマシなのを名乗った方がいいです」
「二人とも何か嫌な思い出でもあるのですか?」
「セリスは微妙だし、あたしのは故郷の慣用句絡みで説明しづらいのよね。
もう黒からは背けないでしょうけれど、何かない?」
「…ですよね?黒…黒…黒…地名を混ぜるとそこが拠点みたいでお互い迷惑をかけ合いそうですし…。旅暮らしですからそこは強調したいですね?」
「黒い旅行者、黒の旅団…でどうですか?」
「いいね」「無難で良いです」
「ではパーティ名は黒の旅団で登録しておきます
…おや、少し離れていますがイレギュラーな大型魔物の大量発生ですね。
街への侵攻に備えて斥候調査や警備等の依頼が出ています」
「噂レベルでも目立っちゃってるし黒の旅団で名を売ってしまおうか。
生身のあたし達は相対的に陰に隠れるでしょ」
「GGにBW…噂の黒騎士団かい?」
最寄のギルドにて。
「ソレは何処かの騎士団で本当にありそうで迷惑かけそうなんでやめて」
「ああ、それでパーティ名が黒の旅団かい?」
「そういう事。騒ぎの魔物の討伐を受けたいんだけど?」
「二十級脅威判定E以上が最低五体、総数もF以上だけで最低二十確認されてる。
そんな危険な依頼、民間人に出せるか!」
「あたし達は平気。軍は?」
「領軍は全軍集結しても手に余るらしい。
今、門前で足留め編成を構成してから進軍だと。
国軍は早くて明日の早朝になるだろ」
「間に合いそう?」
「…一部は領軍を抜けだろう。ギルドはこっちを対処する」
「あたし達は予定外戦力よね?
威力偵察に一当たりしてくるから、そこからは感触次第でどう?」
「…黒騎士団は傭兵団だったのか?」
「黒の旅団ね。…狩猟団?討伐団かな?そこは間違えないで。
盗賊団ならともかく軍隊は討伐しないよ」
「…分かっているだろうが無理はするなよ」
「ええ、ありがと」
無理はしないけれど、想像は裏切ってあげる。
十二機の浮遊魔道装備に乗った黒鎧が編成中の領軍を飛び越えて去った。
それからの斥候・偵察からの伝令は要領を得ない。
まともな伝令より先に黒鎧達が帰って来て、また飛び越えて去った。
「ん?まだいたか。忘れ物か?」
再度、最寄のギルドにて。
「いえ、粗方終わったわ。
自己申告だけじゃアレだし、信頼できる客観報告が来たら振込よろしく。
騒がれる前に離れるから。じゃあね」
反応できるはずないよね。
勝手にこちらの分の処理をしてギルドを去る。
「数も質もいい狩りだったよね?」
「おかげで一気に余裕ができましたよ?」
「脅威判定A以上とB以上も幾つか居たのに不謹慎ではないですか」
クロさんもアサルト連接剣の連刃鎖まで使い始めたBW2としての修行は順調みたいだし。
ハンターってそういうものでしょ?
でもまた暫くは寄り付けない街が一つ。
「戦争が始まりました」
某山奥、山小屋にて。
あの国は数年毎に仕掛けるとか聞いたね。経済活動として。
けれども今回は逆侵攻を目論んで別方面で接する国と同調したとの事。
「仕掛けた国も数年毎の恒例ですが、保険を用意していたみたいですよ?
敵対した二ヵ国の間の国と連合条約を結んでたみたいですね。
過去に行使した正式な記録にはないみたいですが」
「恒常的に魔物の脅威があるのにねえ。
隣接国っても都市同士が近いわけでもないのにね」
「人同士の戦争は起こり難いはずなのですよね?でも今回は広がりました」
それが波及し疑心暗鬼を呼び、間に挟まれどちらかに付かざる得ない。
「まあ、または負けられたら大損、勝たれたら大損とかの理由の国もあるみたいね」
そんなこんなで参戦国が増加。
五ヵ国同盟、四ヵ国連合の大戦争。
「線があってこちらが連合、向こうが同盟という訳でもないですよね?」
「むしろ歪んだチェック模様の勢力図ですね。
これでは位置的に巻き込まれるのも分かる気がしますね。
この規模の戦争は四十五年振です。世代的に初戦争の国もあると考えます」
「主力・指揮共に大規模戦はほとんど初体験かあ。
あたしはむこうで参戦はしなくても戦地は何度か踏み入れた事あるけれど、無駄な混乱が目に見えるみたいに想像できるね」
「魔術、特に通信技術はこれでも高速・高密度・高秘匿性に発展したのですよ?」
「では現代戦は小規模でも軍事運用実績があまりないと考えられますね」
いわゆるドロ沼の大戦。
それを冷静に把握するあたし達がいた。
「この十日程でドロドロになったね」
「介入しないのですね」カイヤの口調は疑問ではなく確認。
「しないですよ?今の所。
ただ、当事国で魔物被害が急増していますよね?」
「そうなのよね。でもソコだけ介入は無理」
「難しいでしょうが、無理と断言してしまうのですか?
いつもの様に隠れて魔物だけ討伐できない事もないと考えますが」
「うん、断言。討伐した魔物を脅威にしてた勢力が有利になるよね?」
「ぶっちゃけ、それで戦局を支配できちゃいますよね?」
「…貴女達は本当に神視点ですね」
「だから違うってば。見方を変えてみて」
「見方…を?」
「魔物を利用して戦争を支配するのですよ?」
「…途端に人聞きが悪くなりましたね。
女神の搾りカス的に無理になりました」
「それが神ならぬ者の視点よ。神でなくても感じ悪いの」
カイヤは視線を伏せる
「私達は禁術。場当たりな感情で政治的影響を与えたくありません」
珍しい、セリスの少し芝居がかったセリフ。
「あたし達は戦略兵器。政治的影響を与えても責任は持てない…持たない」
力ある者の勤めの放棄?居直り?その通りよ。
「仮に誰か私達以外が私達の力を使ったとして、どんな責任を持つのでしょうか?」
「幸不幸なんて他人や過去との比較で決まるでしょう?」
「私は牛肉を貰えると凄く嬉しいです。
カイヤはどうですか?
エルフは一般的に嬉しくないそうですよ?」
「責任者が責任として命を絶ったとしてどの位の人が喜ぶかな?」
「一生を滅私労働したとして、私達の戦略禁術で出した被害と釣り合いますか?」
「故郷の物語の主人公は『やらないで後悔するより、やってする後悔の方がマシ』的な台詞をカッコよく言うけれど、明確な対応手段がないのにやるのは、それこそ無責任よね?」
「どう責任を取ろうと、大多数の人達には自己満足に見えるのではないですか?」
「みんなが納得できる責任の取り方なんて、きっと存在しないと思うわ」
別にカイヤを責めているつもりはないし、カイヤもそうは受け取ってないと思う。
ただ個である以上、意志は語り合い、知り合いたいと思う。
譲れない事が重なるなら、ぶつかって別れてみるのも悪い事でもないよね。
カイヤはふう、と息を吐き眼を閉じ唱える。
「…戦争に善悪もなければ政治に正解はないと誰かが言った。
貴女達も同意だと。
貴女達はハンターで、革命家でも正義の味方でもない。
力があるから使わないといけない、という事でもないでしょう。
貴女達が楽しく生きる為に使う力なのだから。
…私も同意します。
たとえ全ては上手く行かなかったとしても」
それはあたし達を縛り、免罪符にもする最低限の呪文。
あたし達は戦略兵器。禁術。
自分の為に使って後悔するのは自業自得。
でも義憤で使って正解がなかった場合の後悔はやりきれない。
キチンとした正解がない事の方が多いと思うから。