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「ガンランスを作りましょう」

「なにそれ?」

 あたし達による襲撃の翌朝、セリスの家にて。

 その後の経過をはかる為、するべき事も特にはない。

 牛と竜の大量の肉は既に半分は干し肉にされて生と共に術収納されている。

「23シリーズの仕様書に有りましたよ?」

 え、うそ?慌てて仕様書をガンランスで検索。

「何であたしが知らない装備をセリスが…。

 って、ネタ武装の没プラン図面じゃん。試作すら没、実在しないよ?」

「なので作りましょう」

「没になったなりの理由があるのよ。

 なになに、実在しない武装は事前検証が難しく効率的ではない、って」

 決裁者の否決コメントだけど、23シリーズのどこに効率的があるのか…。

「なので作って検証しましょう」

「あんまりあっちの痕跡残したくないんだけど」

「あっちには実在しないのでしょう?

 こちらの資材で私達が作れば問題ありません」今日はやけに強気だね。

「弾丸はどーすんの?」

「同水準鋼材はあります、変に硬くてもライフリングの意味が無くなります。

 工房設備なら錬金キャスト研磨で必要精度を相当数生産できると思います」

「パウダーは?」

「前に竜の巣で採取生産してましたよね?

 雷管も錬金術機構で機能再現できます。

 現物再現もできますが痕跡的に術機構を採用したいですね?

 弾丸を工房に丸投げできます。

 ゆくゆくは火薬類も錬金と魔術で機能再現したいですね?

 実は自分で両種の12.7㎜NATO弾を少々再現試作もしています」

「え?」あの段階で生産していたもの解ったの?NATO弾を自作って。

「試射検証実験の実施とM82の使用の許可を御願いします」

「はい?」

「では早速森で」今のは許可ではなくって…。


 嗚呼セリス…。

 やっぱりガンナーなの?

 あたしか…?

 あたしのせいなの?

 ターゲットを魔術でこしらえ伏射で黙々と調整手順をこなす。

 今のセリスのパラメーターなら立射も余裕だし、ガンランスは立射が前提。

 だけど今は弾丸の検証の為の試射。

 だから伏射で、撃っては確認、撃っては確認。

 元がフラットなセリスが狙撃は似合うのかも知れないけれど。

 外見がテンプレ美少女エルフが対物を伏射。

 ノーマルでも1キロ先のコンクリをブチ抜くそうな。二次大戦時なら対戦車ライフル(タンクバスター)になれる12.7㎜の対物ライフルを伏射。

 ちゃんとした伏射姿勢というのは決してスマートではないと思う。

 あたしの主観だから偏見かもだけど。

「凄い違和感ね」

「お陰様で高水準での想定をクリアしました。注文と資材調達に行きましょう」

 噛み合わない。

 セリス…どこへ向かっているの?


「実はランスブレードとフレームは馴れているので粗方はできていますが、

 バレルや薬室とか給弾部等の機関部は流石に慎重になります。

 アドバイスがあれば適時お願いします」

 セリス、もう何を言ってるのか…?

 いや、分かるけど。しかも薬室とか給弾部って単語だけ日本語発音。

 そしてあたしには、ガンランスなるネタ武装の使用イメージがない。

 …23シリーズは周りから散々、ネタ装備ゆわれたけど。

「なにげにパーツ、もうあるしっ!いつの間に?

 スプリングとかパッキンとか樹脂パーツはハードル高いと思ってたのに」

「昨日、朝昼暇だったじゃないですか?

 日用品とか安くないと成立しないパーツの量産はハードル高いですよ?

 でも専用一点物ならマツリの拳銃と比べても高精度で可能ですよ?」

 先刻工房で色々諦めてこちらで生産した分から火薬・炸薬を提供した時、試算を聞いて金貨をばら撒くイメージだけど。

「費用対効果を考えなければ意外とできるんだね…」

「検証試作ですよ?費用対効果は検証が済んでから考える事しょう?

 本体を量産つもりもないので、あまり安くなる要素はありませんが」

 検証試作…YF。23シリーズ。嫌な言葉に聞こえるなあ。

「分かった。ここまで来たらとびっきりのを作ろう」

 色々吹っ切れた。キレる、と似た感覚なんだね。



「これ、受けるから」

「二十五級ヒュドラの討伐かい。

 そっちのデカイランスのねーちゃんと二人か?」

「これでもドラゴンライダーよ」

 某国首都ギルドにて。

「今朝来たっていう黒竜の?」

 それなりの街なら騎竜の預かり厩舎はある。

 十五級用はないけれど、三四騎分の料金を払えば預かってくれる。

 大抵驚かれてテイムを確認されるけれども。

「問題ないでしょ?」

「ああ、受付け処理する」

 ヒュドラの知性は低いけど上位竜種なので、それなりの実力を求められる。

 受けられないわけではないけど、面倒な忠告を受ける。

 なのでクロさんの威を借りる。

 あたしのレベルは低めに偽装しているから。

 セリスはちょっと騒ぎになるレベルだし。

 クロさんはあたしには無口でほとんど口をきいてくれないけれども、

 セリスが許可しているし、あたしの実力を知っているから従ってはくれる。

 セリスによると、そんなに不満もないらしい。

 なのであたしもドラゴンライダー。嘘ではないよね?

 一所での乱獲はまたどんな影響を及ぼすか分からないから、

 高レベル討伐依頼を巡っての検証修正の旅。

 なにか違う気がするけれども、こんな感じで日々を過ごしている。


「マツリ?」

「うん。隷属されてるね」

 三百m背後から鑑定したヒュドラのステータスに隷属と出た。

「上位竜種を隷属させている輩がいるのですか?」

「あんたが言う事?」

「私とクロさんはテイムです。信頼関係がありますよ?

 むしろマツリの方が物理隷属に近いのではないでしょうか?」

「セリスの許可あっての事でしょう?セリス保護がないと逃げちゃうよ」

「マツリから逃げきれるとは考えていないようですが?」

「あれ?あたしヤクザの親分な感じ?」

「それと隷属魔術とは違いますが、

 何故伐依対象になるような騒ぎを起こしているのでしょうか?」

「否定してよ。エサやってないんじゃない?」

 魔法生物に近いから基本は術力、魔力でいいらしい。あたしもあげてる。

 二人とも結構良質らしい。

 そりゃ、あの身体なりの食事は無理だよね、それなりに数いるし。

 魔術とか法術とか言ってるけど同じ物。

 日本の協会だけが変に拘ってるだけ。

 魔法は違うけど。

「エサをやってないから勝手に捕食して騒ぎを起こしているわけですか?」

「隷属先、知る方法ないかな?」

「放置して監視すればその内に利用の為に接触するとは思いますが?」

「うーん、伐依しちゃっても確認に来るかな?

 監視してる間に騒ぎを起こされると面倒よね」

「では検証の糧になってもらいましょう」

 セリスがガンランスを立射体勢で構える。対物なら必中距離ではある。

 太目の棍の先の左右に大剣の刃を二つに割った様なものが付いている。

 中に対物ライフルのバレルと機関部が格納されていて下に露出している。

 ストックにあたる部分はランスとしての持ち手で棍状。

 上部にスコープとして付いている棍状の物もランスの継手になる。

 タタタ、タタタ、魔術で静穏化された非常に軽い三点射二回。

 12.7㎜のしかもバースト射撃二回の反動までが軽いはずはないけれど。

 着実に左右三発の焼夷弾がヒュドラの翼を焼いた。

 ここのヒュドラ、三つ首で手はないけど翼はある。

 それが突然理不尽に使えなくなって慌ててる。

 すぐ再生するだろうけど。

「行って来ます」

 駆け出して三百mを数秒、背中の首の根本に飛び乗りランスとして突く。

 刺さらないけど、魔術付与された刃が生体フィールド削る。

 突いた姿勢のままフルオートで徹甲弾が九発。

 通る、刃が刺さる。

 刃で抉って九発マガジンとリンクしている収納魔術でリロード。

 徹甲弾が九発、更に抉ってリロード、九発。

 全ての首が落ちた。

 憐れなヒュドラは、ほぼ何もできず、何されたかも解らずに沈黙。

 飛び降りてメンテベッドを出して分解チェックを始める。

「血抜きが先でしょ」

 それしか言えない…。


「肉は腐るので勿体無いですよ?」

 確認に来て骨と皮だけになっていたらどう思うだろうか?

 血抜きとか言っておいて今更かしらね。

「お、隷属の楔とかいうの発見」

 腹に付いてた宝石っぽいのを鑑定したら出た。

「魔道具での術でしたか。

 解析したら隷属先を辿れるかもしれませんよ?」

「解析ってどーやんの?」

「私も出来るかもしれませんが、ベッドで出来るのでは?」

「そっか、解析機能の塊だもんね」

 ゴーレム用のはずだけど。

「なんか、あたしより使いこなしてる」

「そんな事はありませんよ?科学は深いです。

 『アポーツ』」

 セリスが宣言すると弾丸と薬莢がその手に回収された。

 血も付いてない状態で。メンテベッドの生産機能にリサイクル。

 セリス製弾薬も安定してしまったから諦めて生産供給を許した。

 ついでにあたしのもセリスレシピに全部変えた。

 この『アポーツ』、予め術的シルシを付けた物を、収納術みたいに取り出せる空間系の術なのだけれども。

 セリスが今のレベルになって練習して最近使えるようになった術の一つ。

 あたしも教えて貰ってる。こっちの魔術、超便利。

 スロウランスの時、これがあれば…。

「セリス、何者なの?」

「マツリにだけは言われたくありません」



「介入しますか?」

 隷属の楔の対となる魔道具持ち主。

 隣国の政治的幹部だった。

 領土が近い隣国への戦争の火種と戦力の一枚と考えていたらしい。

 ここ十年で二回やってるそうな。

 あたしも高校までは日本の義務教育を受けた身。

 戦争=悪、みたいな意識はあった。

 通信、放送が未熟だと教育が発達し辛いという。

 そのような環境下で民主制は危険だという。

 日本の環境が良いと仮定した場合ではあるけれど。

「セリスはどう思う?」

「私は他国の者なので他人事と言えば、他人事ですね。

 個人がやっている事は迷惑してる人が多いとは思いますよ?」

 女性に政治の話をしてはいけないという。

 女性としては女性蔑視かとも思うけど、日本で男女間の話題として不適切なのは、まあそうなのかな?

 つまり何が言いたいかというと教育が行き届いていない市民には、広い視野の志より自分目の前が大事。

 市民商人が権力を持った民主国家が戦争を続けないとやっていけない。

 経済危機に、政治に興味も理解もない市民に目前に危険がいると煽る。

 その一枚。

 他にいくつか見つけた。

「やめとこ?」

 例え、悪辣な拝金権力者だろうと、悪の独裁帝国だろうと。

「いいのですか?」

 戦争に善悪もなければ政治に正解はないと誰かが言った。同意だね。

「あたし達はハンターだから。革命家でも正義の味方でもなく」

 あたしも女性という事なのかな?確かに政治に興味はないかな。

「そうですね。

 力があるから使わないといけない、というのでもないでしょう?」

 あたしは、あたし達は戦略兵器。禁術。

 ジジイの言葉が思い浮かぶ。

 個人の意思で政治に関わる使用するとロクな事にならない。

 たまたま知ってしまっただけの、あたし達の感情で介入は違うでしょ。

 地球ではオカルト機関と政治機関は情報協力すれども確実な壁がある。

「あたし達が楽しく生きる為に使う力だからね」

 地球に居た時そんな事を考えたかな?


 そういえばジジイはどうなったかな?



「あたしの故郷だと諜報機関はだいたい知性を名乗るの」

「私の知る限りですと諜報機関はスパイや暗殺者を抱える、いわゆる悪者イメージですが?」

 王都の外れにて。

 夕闇に紛れて覆面十数人に囲まれた。

「それもやってると思うけど、エリートな感じかな?」

「知性を名乗るのですからプライドが高そうですね?」

「そうかも。こういうのとは違うかな?盗賊っぽいもんね」

 王都で監視に気付いてぶらぶらと釣ってみた。

 監視に気付いたとみるや次々代わる。

 盗賊の類とは動きが違う。

 街を出て森に入る前にコレ。武器も構えていない。

「おとなしく付いて来い」と言うのを無視しての先刻のセリスと談笑。

 人間に正面から立塞がれた事があまりない、あたしである。

 セリスは馴れているのか気にしない。

 ああ、元々逃げたり消えたりが得意だったっけ。

 ぞろぞろ囲んで付いて来るけど『悪者・盗賊』に反応する。

「我々は敵ではない、盗賊でもない。おとなしく付いて来い」

「軍人だって言ってますよ?」

 セリスの言葉に反応してしまう三流達。

 違うとも言えないのか武器も構えられず、ただ付いて来る。

 このままセリスの家に向かえば強力な結界的な術ある。

 付いて来れないかもしれない。

 けれど、わざわざこの辺に居ますと教えて、解析努力されるのもいただけないかな。

「クロさんにお願いしない?」

 本当呼んだりはしないけど、知っているのか動揺が奔る。

「待て」

「待って私達にどんな得が有るのでしょうか?

 そんな大人気のない事したくありませんが」

 クロさんよりセリスの方が大人気ない脅威なんだよ?

「去る高貴な御方の御声掛かりだ」

「リース公爵かあ」

 再度明らかな動揺が奔る。ザル過ぎる。

「待て」

「ですから、待って私達にどんな得が有るのでしょうか?」

「まあまあ、招待されてみようか。ディナーくらい出るでしょ?」

 公爵の意図を正面から偵察もアリかなと気紛れに思った。

「食事でつられるなんて、はしたないですよ?」

「公爵にそれ以上何が期待できると思う?」

「待って下さい」

 涙目だった。


「セリスとやら、グリグスの係累だな」

「帰ろっか」

「実りのない道行でしたね?」

 某邸宅広間の入口にて。

 あたし達は出口に向かって背を向けた。

「待て!」

 あんた達はそれしか言えんのかね。

 構わない。

「待てというに!まだ何も話とらん!」

「名乗りもなく、食事の用意もなく、

 いきなりハッタリで脅して来るようなクズと何を話せと?」

 振り向かない。

「ク…?」

 固まった感じで表情も分からないけど、構わず立ち去った。


 交渉術なんか知らないけど、先方さんは最悪の部類じゃないかな。

 ジジイをどうにかできる立場ならジジイを通すでしょ。

 セリスに不利も望まないでしょ。

 仮に石頭を発揮して先方さんに付いたとして、こうなる事は分かるよね。

 監視を撒いて戻る。勿論こっそりと。

 GGとBWのステルスで結界突破、屋根の上。

 置いて来た蜂型ゴーレム盗聴器で聞き耳を立てる。

 純電波を選択してるから術的盗聴対策は無効。追加も出しとこ。


「なんだあれは?」

 なんだって言われてもねえ?

「推定ダグウェルと、マツリと名乗っている様です」

 あ、それ通るんだ。

「知っておる!なぜああもワシの事を無視できる!」

 いや、余地ないでしょ?

「黒竜騎であると言う以外は…」

「そんな単純戦力で権力に勝てると思っているのか?」

 思ってるよ。

「王都の外に住んでいた様で、王国を離れるのに抵抗はないかと」

 こちらは分かってらっしゃる。

「じゃが熊種と竜種がダグウェルの仕業なら誰かが後ろに居るはず」

 おっと、そうなりますか。

「痕跡から熊種は黒竜の仕業ではないと思われます。

 竜種も目撃されてはいますが痕跡は黒竜のものとは…」

「脅威判定E以上を圧倒する存在がこのタイミング二つ現れただと?

 黒竜とは別に?不自然極まりない!」

 居るから。いいじゃないそれで。変なカン働かせんなよ。

「ではやはりグリグス様かと…」

「やつは貴族でも団長でもない!」

「…彼くらいしか我が方の諜報では見当たりません」

「…やつは違うはずだ。

 ワシが与えた肩書きがなければ、ただの石頭だったはず…誰だ?」

 いないよ、誰も。

 あ、あたしか。

 またあたしなの?



「魔王が現れた」

「帰ろっか」

「実りのない道行でしたね?」

 王都某レストラン個室にて。

「そう短気を起こすな。

 つかみで戯れの噂話と思え。

 座って注文しろ」

 音信不通だったジジイとの再会の最初の言葉がアレ。

 一応飲み物等は用意されている。

 遠慮なく注文。

「それでグリじいは今、領軍を辞めて勇者を目指しているのですか?」

「いや国軍に再就職した」

「そういうの有りなの?」

「基本的に無しだな。だから今は中尉だ」

「それでも中尉。

 んで、こんな所で呑気にごはん。

 あたしの事は放置くらいで落ち着いたから、できれば国外に出ろとか?」

「ありていに結果だけ言えばそうなる」

「では一方的に出て行けと言う以上、敵対したくないのなら支度金とか出るのでしょうね?」

「セリスに出ろとは言っとらん。大体おまえ、金持ちだろうが。

 名目がはっきりしない以上、大金は出せない。

 大規模軍事行動が続いたんでな、かなり渋くなってもいる。

 だが、依頼は出せる。

 魔王の調査だな」

「本気で言ってんの?魔王って何?」

「解らんから調査依頼だ」

「それは怪しいまつりさんへの相談の方じゃない」

「別にハンターのマツリに魔王の命の採取依頼でも構わんが?」

「調査を飛ばして、いきなり討伐でも良いのですか?」

「遠い国を魔王がのっとって侵攻を始めたってだけだ。

 今の所、王国になんの影響も出てはいない噂話程度。

 早い内に鎮火するならそれはそれで構わん」


「同類かもしれないと思っているのですか?」

 どうせ連れて行くのだからとクロさんの背中にて。

 時速四百㎞は出ているはずなんだけどほとんど風を感じない。

 クロさんの生体フィールドと一体化してる?

 セリスの騎竜スキルのおかげなのか普通に会話できる。

 あれ?あたしも持ってた。いつの間に?

 騎竜っても鞍も轡もないし、ただ上で座ってるだけなんだけど?

「それは思うわよ。可能性は低いと思うけれど」

「会いたいのですか?」

「あたしはヤツに勝ってここにいるのよ?」

 セリスは外見が異質であることが前提で育ってきた。

 ヒューマン以外もちょこちょこ見掛けるけどエルフは見てない。

 外見的同類に会いたいと思ったりはしないのかな?

「私はエルフにも人間にも同族意識が希薄なのですが『人』に帰属意識はあります。

 マツリはどうなのかと?」

「『人』に帰属意識はあるね。同族意識はヤツラにはないね。

 人間には希薄かな?傲慢に見下してる部分があると思う」

「傲慢ですか。強者ですものね」

「弱いモノが更に弱いモノを叩くのが醜く見えるの。

 だから人に混ざって生活して介入してる。傲慢でしょ」

「その理屈だと私もかもしれませんね?」

「…今更だけど、ジジイと会ってセリスに出ろとは言っないって言われたね。

 ジジイとの最初の義理は果たしてるよね?」

「本当に今更ですね。

 最初からグリじいはあまり関係ありません。

 普通、どんな義理でも竜の巣に放り込まれたら絶縁しますよ?

 あの時も今も肉を生み出す怪しい人ですね、マツリは。

 マズイと思えば消えちゃいますよ?」

 当たり前かもだけど魔法生物に近いクロさんは巡航中はばたかない。

 推力は魔法で固定翼…可変翼かな。

 翼の類は低速挙動に使う。航空力学的なのは半分位。

 穏やかな時間が流れる。


「ギルドの人かい?」

 とある村にて。

 正確な地図もなく、行った事もない遠い国。

 見かけた村に情報収集を兼ねて方向確認に寄ってみた。

「ギルドには加入してるけど、依頼をされて来たわけじゃないよ」

 ギルドと言ってもその実、あたしには単発仕事の斡旋所。

 あたしみたいにカードの為に加入してる人もいる。

 鍛冶屋が鍛冶屋として勤務している人も入る。

 ギルドの人と言われても違和感があるよね。

 ギルドの職員かと聞いているわけでもないでしょうし。

「そうかい。人違いか、済まない」

 最寄りの街のギルドに依頼している案件があるのだそうだ。

 人口の少ない村では便利屋扱いね。

 実際フリーが依頼を受ける便利屋ではあるのよね。

「調査は専門外ねえ。ハンターなもんで」

 ジジイには偉そうに語ったけれど。

 実はあたしはアサルトポジションで、事前調査などは専門の人材なり部署がある。

 調査専門の人材では危険な場合に護衛したりするから、それなりにはできるけど専門は専門。

 この地の常識が怪しいあたしには荷が重い。

 討伐目的ならセリスがフォローしてくれてるけれど。

「狩りをするなら森の奥の五級鹿種は買うぜ。

 村の者では荷が重い」

「ありがと。行ってみる」

 これが普通のハンターの生活というものよね。

 色々おかしなあたし達の平和な日。

 これでいいんじゃないの、とも思う。

 鹿二頭狩って村を後にした。



「おのれ、竜種ごときに…」

 魔王国、宮殿にて。

 威力偵察に一当たりと強襲。

 クロさんがやってみたいとの事なので任せてみた。

 最近頑張ってるし。

 脅威判定A以上、四級の不死身の悪魔種。

 死闘十分。

 無事にクロさんのお腹に収まった。

「お腹壊さない?あんなの食べて」

「平気みたいですよ?悪くないそうです」

 予定は崩れたけど仕方ない。

「周辺のも狩ろうか?」

 アンデッドや悪魔種ばかり、もう人がいない国。

 侵攻軍と防衛戦を無視して直接強襲したからどこまでやればいいか?

「まず近隣のギルドにでも連絡してみませんか?」

「そうよね、依頼は魔王の討伐だもんね。

 四天王的なのは侵攻軍いるみたいだし、まずジジイに報告するのが筋かな」

 ギルドの通信で報告したら好きにしろとの事。

 手柄を横取りして目立ちたいならそうしろと。

 クロさんが丸呑みしちゃったから討伐証明できず報酬請求できない。

 レポート書いて調査でもらうかな。

「もしかしてとは思ってたけど、クロさんも養殖されてる?

 強くなったよね?」

「エサが良いのだそうですよ?私やBWとマツリも組手してますよね?」

 ああ、そんな事言ってたし、やったけれどね…。

 A悪魔食ったせいか、単純に経験値か、落ち着いた所で脱皮変態した。

 パラメーターそのままにメインもスキルもレベル0?

 かなりシャ-プに面変わりしたね。メカみたい。

 ひょっとして23シリーズに対抗意識でもあるの?

 三十㎜弾丸ブレスって…?魔法的なんでしょうけど、消えちゃうし。

 なんか種族がクロになってるし。ユニーク種?眷属化した?

 それで召喚術が次段回入ったか、文鳥くらいまでの小型になる術を覚えた。クロさんが。

 あたし?

 あたしなの?

 またあたし?

 これはセリスもでしょ?

 いや、セリスはあたしか…。


「…ねえ、あたしを召喚獣契約しとかない?小型になる術とか覚えたい」

 瞬間召喚陣とかできるようになって、召喚!あたし登場!いいかも。

「できたらできたで怖いので、しませんよ?」






「次の検証相手を御願いします」

「チョイ左の先刻のが再生しちゃったね」

 戦場より二千mの茂みにて。

 ノーマルだと対物12.7㎜の有効射程とされる二千mを超える距離。

 セリスは強い個体を狙い、多重エンチャントされた徹甲弾を装填したガンランスの狙撃で着実に削る。

 トドメは兵隊さんに譲る。

 多分ココに五百m位を超える攻撃手段は存在しないんじゃないかな。

 禁術とかにあるのかね?

 本当に核系があれば長距離攻撃手段でないとおかしいもんね。

 この場は想定外っぽくて誰も気付いてない感じ。BW・GGだしね。

 手柄は要らないし目立ちたくないあたし達は、長距離で分からない様に支援する事にした。

 さすがに放置はどうかと思うから。

 離れた所ではクロさんがコッソリ無双。志願だよ?

 一時間程で防衛側が逆侵攻を始めたのを機に撤収。

 魔王ははずれだったし。



 先行偵察に出た小鳥クロさんがセリスに見張りの位置と数を伝える。

 タン、タン、タン、タン。静穏された軽い単発音四つ。

 対物ライフルはその名の通り基本は人に使う武器じゃないよ?

 たとえ生体フィールドのあるこっちの人であってもオーバーキル。

 四つの見張りがスプラッタになった。

 とある森の盗賊拠点周辺にて。

 後方をセリスに任せて突入。

 右手に棍、左手にM93R。

 木造屋内なんで棍はデフォのまま突きの連打で押し込む。

「そこまでだ!おとなしくしろ!これが見えねえか!」

 四人残った内の一人が三人まとめて縛られた人達に剣を突きつける。

「人質ねえ。あたしは自分の方が大事なんだけど。

 交渉の余地があるのかしら?」

 ゆっくり右手の棍を前に立てて床に付ける。振り被れないよね。

 左手のM93Rもゆっくり前に向けて突き出す。何だか解かんないよね。

 先行していた小鳥クロさんが奥から合図。

 縛られた人達もクロさんが見てました。なのでM93Rです。

 早いね、もうやんの。

「せっかちな相方がさあ…」

 タタタン、タタタン。

 マシンピストルのバースト射撃が人質に剣を突きつける男の肩と頭に9㎜の穴を三つずつ穿つ。

 同時に別の一人が突然スプラッタ。

 クロさん視界のターゲッティング術による対物の壁抜き射撃。

「もういいんじゃないってさ?」

 銃は一応存在してるのだからM93Rが極小の銃と想像できたかもしれない。

 でもいきなりスプラッタは訳が解かんないよね。

 禁術っぽいよねえ。

 更にもう一人スプラッタ。

 セリスやり過ぎ。

 残りをセリスレシピの9パラを額に打ち込み終了。

「済みませんね、人質さん達。ショッキングですよね?

 今解放しますから…」


「王子様とお姫様?」

 とある半壊した国のギルドにて。

「はい、そのようです。依頼の達成、ありがとうございます」

 魔王侵攻時に諜報は真っ先に見限って散々。

 ほとんど機能していない軍を動かしてみたけど捜索が雑。

 ギルドに依頼した事で手段を尽くした建前で、遺体か遺品が見つかればラッキー。

 そんな感じ。

 そもそもなんであたし達に捜し得たのでしょう?

 実は捜していません。

 営利誘拐は日にちがかかるのね。

 んで、当座を稼ごうとしたのかあたし達を狙った。

 まあ素人目には身なりの良い女子供だもんね。

 拠点を吐かせて潰しにいったら人質にされたんで、依頼が出てないか確認したら該当したというだけ。

 本人達は気絶してたから。

 あのスプラッタはねえ?

「マツリが嫌がりそうな予感がしますね?」 

 全力を持って脱出したわさ。


 盗賊狩りが儲かる等と誰が言ったのかね。

 儲からないよ?

 効率悪いよね?

 無暗に狩っても依頼が出てるとは限らないし。

「それはそうです。

 彼らは日々地道に獲物を探し仕事に精を出さないとすぐ干上がります。

 貯め込む余力はないのでは?」

「だよね。

 カードあるんだから現金なんかそんなに持ち歩かないよね?

 襲撃に成功してもそこまで儲からないよね?

 物盗ってもそうは売れないよね?」

「しかも彼らは基本的に少数相手に大人数頼みですから、少数の獲物の手持ち生活費を大人数で割って生活できるだけ稼がねばなりません」

「無理があるよ盗賊の存在が。

 すき好んでやってる人は少ないと思うけど何でこんなに多いの?」

「盗賊は『盗賊』という魔物に成るという話があります。

 都市伝説みたいなものですよ?

 肉体を比較検証した変わり者の魔術師がいたそうですが否定されていますよ?

 盗賊は人です」

 前にちらりとそんな扱いかなと思った事あったね。

「…だよね」

「ただ『成る』という成長だか墜ちるのか解らない現象は認知されています。

 クロさんがそうなのだと思います。

 クロさんは肉体も変わりましたけれども」

 言葉としては将棋の『歩』が『金』に『成る』ニュアンス。

「人が『成る』って魔物もいることはいるもんね。あたしもその口かな」

「よく知られているのはゾンビとか幽霊系ですね?

 私は、人は思うより簡単に薄く、『成る』のだと思っています」

「薄く、精神的に盗賊に成る感じ?」

「盗賊のメンタルを理解できないのですが、私はそう思っていますね。

 薬等で人格を壊したり操られても魔物に成るでしょう?」

「ボードゲームの駒みたいな明確な『成る』とは違うって話ね…」



「むう、海神って何」

「リヴァイアサンですね?神の一柱ですね」

 海上飛行中GGにて。

 でっかい気配を感知、その巨体を鑑定してみた。

「神とな。居るんだ神。クロさんの方が強そう」

「あいかわらず攻撃的戦闘思考ですね?

 比較的、俗っぽい神族ではありますね。

 海運の平穏を物理的に加護して信仰を集めて糧と力にします」

「信仰をねえ。毎朝の祈りに魔力を1ポイントとか?」

 TTRPGじゃあるまいし。

 ファンタジー側の住人ではあるけれど宗教には淡泊なあたしは日本人。

「…その理解でも間違いではないと思いますね。

 他の神も概ねそよのような感じだと思いますよ?

 大勢の信仰を力にしてますから強いはずですよ?」

 あれ?そうなんだ?意外と理にかなっているとは思うけれど。

「よし、クロさんGO!」

 良いかとセリスを見るクロさん。

「駄目ですよ?」「冗談だよ?」「勘弁してくれ」同時の理性的な念話。

「リヴァイアサン?」

「ああ、鞘のない刃の様な娘よ」

「…マツリよ、ヘタレ海神」

「セリス・ダグウェルです。初めまして。

 いきなり喧嘩を売るマツリはともかく、試練は受け付けていると聞き及んでますが?」

「そんな何かのイベントみたいな受け付けはしてない。

 稀に試練を望む者と我が分体が試合うだけだ…望むな、お前ら無理」

 途中でクロさんの、ならば試練を望もう、な視線に降参な様子。

「仮にも神の一柱が弱腰だねえ」

「ただの弱い者いじめだろうが。

 分体ならともかく我が自身は滅ぶと困るヒトも多いぞ?」

「大勢の信仰を背に受けた神とは思えない御言葉ですね?」

「その大勢が全力で敵対しても無理だろ…勘弁してくれ」

「クロさん、弱い者いじめは駄目だね」

「神を超えた覚えはないのですが?」

「武力で超えたところで何だというのだ…。

 それで何の用だ?」

「特に?」通りかかったというには広範囲探知での寄り道かも?

「用はありませんね?」

「ただのチンピラじゃねーか」

「まったくですね」

 セリスが他人事みたいに裏切った。

 お詫びに毎朝の祈りはしないけど魔力はあげた。

 だからというわけではないでしょうけど寛容な海神。

 神らしく縁を重んじ加護として、極少量の生血肉を一欠けらずつ三つ提供してくれたので頂いておいた。

 あんぱんヒーローみたい。違うか。

 悪いコトしたねえ。



「それでは私達は最後衛で抜けて来たのを担当ですね」

「ええ。御武運を」

 とある村にて。

 脅威判定H以上一級アリ種が大量発生の予兆。

 先んじて最寄りの街のギルドで緊急討伐隊が組まれて駐屯。

 農地被害は少し出てしまったものの今の所善戦しているとの事。

 あたし達は現地でギルドから派遣された女性職員さんと、臨時防衛討伐依頼として受注した。

 グレイゴースト、ブラックウィドウとして。

 守る戦いをあまりした事がない、あたしとしては最悪派手にやれるように。

 とりあえず村の玄関付近はまだ平静なので火薬とか目立つ手段は縛りプレイ。

 それでなくとも怪しい黒騎士二人なので。

 被害が出そうなら躊躇わないよ?

 あたし達が参加したところでここから前線に出て行く者数名。

 基本、被害が出ない様に余裕を持った戦力調整されている。

 動員された人材は稼げる者ばかり。討伐者は無謀をしない。

 その上で討伐数を稼ぎたければ前線に出る。

 領軍は明日になるとの事でそれまでの繋ぎ戦力。

「はいっ」

「はっ」

 時折漏れて来る一mアリをガンランスの刃と三m固定の棍が蹴散らす。

「ドジ踏んだ」腕に裂傷を負った槍士が自嘲しながら戻って来る。

 臨時ギルドのテントには治癒術師がローテーションで待機。

 自力後退が可能な者はそちらの担当。

「お疲れさん」

 もちろん前線にも治癒術師が配置されていて、魔力切れで交代する為に戻って来る者もいる。

「思っていたより洗練されてて悲壮感はないね」

「みなさん馴れてますからね」

「BWはこういうの参加した事があるのね」

「どこでもありますから」

 怪しい黒騎士二人が黙ってるのも不気味なので敢えて声に出して会話。

「交代よ、お疲れ」槍士二名と弓士が配される。

 最後衛はさすがに穴をあけられないから強制休息ローテーション。

 人気のない木に持たれ座り、休息のフリ。除装できないからね。

 除装しなくても睡眠はとれるけど。

 その気になれば百時間ぐらい戦闘行動を継続した事もあるよ?

「慣れてないあたしでも当たり前にこなせる役割を当てて、当たり前に被害を出さず当たり前に討伐するのね」

 魔物がいる殺伐とした環境で当たり前に討伐して平穏を取り戻す。

「なんか凄いねみんな」

「どこでもこれくらいでないと簡単に滅びてしまいます」

「うん。一応睡眠とろうか」

 休息も役割かな。

 あたしでもセリスでもクロさんでも一掃するのは難しくないと思う。

 でも、みんなが訓練されているべきなのね。日常的に。

 休息から復帰途中に村の住民らしい女性と擦れ違いに。

「お疲れ様です」

 怪しいあたし達にもそんな一言。

「はい。頑張ります」「頑張りますよ?」

 心から言えた。

 いつからあたしの心は荒んでいたのかしらね。



「勇者が現れた」

「帰ろっか」

「実りのない道行でしたね?」

 王都某レストラン個室にて。

「そう短気を起こすな。

 つかみで戯れの噂話と思え。

 座って注文しろ」

 レポート提出に赴いた最初の言葉がアレ。

 一応飲み物等は用意されている。

 遠慮なく注文。

 軽くデジャヴ。

「それでグリじいは、今度は国軍を辞めて魔王でも目指しているのですか?」

「まだ国軍におる。魔王も目指していない。

 マツリが無茶した時、既に勇者が最前線で戦っていたという話だ」

「勇者って何?あたし魔王に手出ししてないし」

「隣国で行われた勇者召喚儀式によって大地の女神にみいだされ加護を受けたという話だ」

「それであたしにどうしろと?そもそも大地の女神って何?」

「大陸樹の精霊が信仰を集めて神格を得た存在ですね。

 精霊は稀に現出する樹なら樹の霊みたいなものでしょうか?」

「またそれ?関わり合わないほうがお互いの為だと思うけど。

 あと大陸樹とな」世界樹みたいなモンかね?

「でかい木だ。それはいい。

 勇者が剣の落とし所を失ってやらかし始めたってよ」

「それはあたし?

 あたしのせいなの?

 違うよね?あたしハンター」

「グリじい、色々雑、あと感じ悪いですよ?」

「まあ、いきなり討伐してもマツリが困るだけ。ウチは知らん。

 今の所、王国になんの影響も出てはいない噂話程度。

 が、調査依頼は出せる」

「もう完全に怪しいまつりさんへの相談の方じゃない」

「無理強いができるとも思っていない」

「でも、できれば国外に出ろと?」



「言われなくても出て行きますよっと」

「ですね。あの見透かしたような態度。

 余計な才能を無駄に発揮して私達が敵対したらどうする気なのでしょうか?」

「あたしの味方は、セリスだけよ。だーいすき!」抱きしめてやろーか?

「少しウザさを感じますよ?」

 途上クロさんの背にて。

「気が進まない」

 色々と色々なのでやる気になれない。

「向かいはするのですね?自称、傲慢ハンターマツリは」

「ホント、やる気になれない」

「あれでやる気出す方がどうかしてますよ?」

「勇者がやらかしたからあたしに調べて来いって、あたし逆恨みの対象扱い?

 クロさんでしょ?それかテイマーのセリスでしょ?でもあたしなんだよねえ」

「少なくともグリじい的には?」

「やらかしたって何をどの位やらかしたのか…遭遇即敵対とかありそう。

 なんだって女神とやらはそんなのを勇者なんかにしたのか?

 今からでも取り消せっての。その辺直談判できないの?」

「神様ってどこにも居なくて、どこにでも居る普遍的存在なのでは?」

海神(リヴァイアサン)とかあそこに居たよ?」

「海神は比較的俗っぽい神族なのですね。

 物理的に加護を高めるため物質的に巨大で強固な存在なのだと思います。

 私も先日会っただけなので殆ど推測ですけれど。

 大陸樹の精霊たる大地の女神とは在り方も違うのでは?」

「大陸樹とやらの精霊なら、切り倒したらニョキっと出て来ないもんかねー。

 行ってみる?」とクロさんに視線を向ける。

 首だけこちらに向けて良いかとセリスを見るクロさん。

「駄目ですよ?」「冗談だよ?」「勘弁してください」同時の理性的な念話。

 それなりの気配が集中して人型になる。

 そのまま鮮明に目の前のクロさんの背に質素ではあるものの女神っぽい人影が現出した。

「大地の女神とやら?

 リヴァイアサンと変わんない在り方っぽいね。会話の介入タイミングとか。

 マツリよ、呼び捨てて。初めまして」

「セリス・ダグウェルです。初めまして。

 いきなり喧嘩を売るマツリはともかく、大地の女神様、何と御呼びしましょうか?」

「…恐ろしい人達ですね。(わたくし)を脅して私持ちの魔力で召喚するとか…」

「人聞きの悪い事いわないで。

 普遍的存在なら聞いてるかも程度のダメ元の冗談だよ?

 なのにキッチリマークされてたって事よね?

 あと魔力とかセコいよ?利子付けて返すから」

 握手を求めてみたらあっさり応えたし、利子付けて魔力返す。

(わたくし)は…セィリスと呼ばれる事が多いですが、セリスと被りますね。

 そう呼ばれる事が多いというだけで唯一の名という訳でもありません。

 なのでここはガイア(・・・)というのはどうですか?」

 初めてある種のいたずらに成功したような表情の女神。

 セリスは訳が解らないよねえ。

 地球の発音でガイアと自己紹介するコチラの大地の女神。同一のはずもない。

「あんた、何をした?」可能な限り声を抑えた。

「ヒッ!」存在を霧散させて逃亡をはかるガイア。

「ここで逃がすほどハンターは甘くないよ?」

 力棍を伸ばし回転させて霧散しかけた存在を残らず掬い取り吸収。

 手元でピンポン玉位に固めて

「クロさん、あーん」開くまで待たず隙間に、ぽいっと。

 反射的に飲み込んでしまうクロさん。

 セリスは声を挟む間もない。

「分体がどの程度重要か知らないけど。

 普遍的存在ならもっかいこっちからキチンと召喚してあげる。

 『デテコイ』」


「申し訳ありません。痛っ」

 わざとらしく土下座で薄く現れた女神にたんまり魔力を込めたデコピン。

 シッカリ実体化して影と二十歳位の姿を取り戻す。

「なんで逃げたの?」

「マツリ様を」

「呼び捨ててと言ったと思うよ?」

「…マツリを怒らせてしまいましたので怖くなりました」

「あたしが、怒った?」

 セリスを振り返ると、横に首を振る。

「逃げるまでは別に怒ってなかったと思いますよ?

 獲物を逃がさないハンターではありましたけれど。

 強制召喚は怖かったと思いますが」

「あ、うっかりクロさんにあげちゃったけど、お腹壊してない?」

「ええ、良質だそうです」

(わたくし)の完全分体を丸呑みして平然と良質とか…?」

「それで、もう一度、訊くわ。あんた、何をした?」

「い、いいえっ、マツリさ…マツリに直接は何も!

 何から話したら良いか…」


 要約すると魔王があの国をのっとった時。

 隣国で行われた勇者召喚儀式がこの女神を頼って行われた。

 地球とか他所でなく近隣から勇者が召喚され加護を与えた。

 順調に勇者としての力量を上げ単独で防衛軍の先頭に立てるまでになった。

 しかし突然侵攻軍が弱くなった。

 この辺りで女神も違和感があった。

 しかしステルスな23シリーズの長距離狙撃。

 あれだけ暴れたクロさんもかなり23シリーズを意識した、ステルスな方向に成って(・・・)しまっていた。

 気付けなかった。

 魔王も居なかった。

 ただ黒竜種と魔王らしき何かの戦闘痕跡は読み取れたのみ。

 死体もなし。

 負けた方が痕跡を残さない種か、余裕で勝者が持ち帰ったか?

 鱗と2種の体液の痕跡。体液は残るものなのか?

 B黒竜種といえど魔王とされる脅威判定A以上に勝つのは至難。

 そこまで激しい痕跡も複数で攻撃した痕跡も見当たらない。

 ミステリーな現場。

 そこに召喚儀式を行った隣国の王子と王女が絶望的な行方不明から帰還。

 政治的に揉めたみたいだけど、そこは女神の介入すべき事ではない。

 ハンターを称する二人に救助された。

 ただ手段が異常だという。

 登録名、灰色の幽霊とブラックウィドウ。

 ギルドのセキュリティも流石に女神には通じない。

 女神はYFを知らなくともブラックウィドウの意味を知っていた。


「雑学の範疇です。

 基本、向こうに漏れるばかりですが常時双方向通行の穴があるそうなので。

 向こうの人なのでしょうと当りを付けて絞り込んみました。

 そしてリヴァイアサンの話を聞き確信に至ったわけです」

「ああ、やっぱあるのね?管理は神格エンシェント?」

「はい。そこから来たのではないのですか?」

「うんまあ、それは後回しでいいや。

 勇者の加護、どうにかして」

「いいのですか?マツリが帰る手段の大事な話に聞こえましたよ?」

「いいよ、いいよ、後回しで。

 どうせすぐどうこうできる話じゃないはずだし、焦って帰りたいわけでもないし。

 そもそも今の所帰りたいと思った事あったっけ?」

「では、勇者の加護ですが、外せるモノは外しています。

 ただ良い肥料で育った樹木を枯らさず小さくできません」

「ソコは枯らすか、病気にでもなってもらおうよ」

 呪いとか神罰とかね。

(わたくし)も三柱神に数えられる立場で相応しい者を選んだと自負していました。

 彼は勝利と喜び悔しさを皆と分かち合える人物でした」

「剣の落とし所を失ってやらかし始めたとの事ですが?」

「達成感も優越感もなく妬み誹りを受けるのは辛い事です。

 自分を見失うのも人でしょう。

 人同士の問題に神が与えた物を取り上げる以上の罰は、(わたくし)は過分と考えます」

「あたしのせいっての?ヘタレ女神のくせに。何とか融通を効かそうよ。

 なんであたし達が何とかする流れになってるのよ」

「煽られてもこればかりは譲れません。

 例え滅びようとも」

 正座で辛そうな上目使いでも言葉だけは毅然。

「矜持だけは立派ね」

(わたくし)(わたくし)の考えに共感して慕う者達を裏切る所業はできません。

 それこそ存在に係わります。

 滅びるならまだしも、混沌な神になるなど最低と考えます」

「マツリ、ここまでですよ?」

「む、セリス、もしかして信徒?」

「いえ、全くの無宗教ですが尊敬できる側面があると思いますよ?

 女神様は魔王に抗する流れを作り、結果として果たしています。

 人が、私達が変えてしまった多少の歪んだ流れですよね?

 やはり人が受け止めるべき事ではないですか?」

「ごめん、悪かったわね。

 神なんて都合の良さそうな存在を感じ取れないとこで育ったから、加減が分かんなくて吹っかけ過ぎた」

「私も存在を感じ取った事はありませんよ?海神様に合うまでは」

「たびたび(わたくし)達に係わるのは良い事ではないと思いますよ。

 マツリ、穴の件は繋ぎを取る位はしておきます。

 勇者の件も簡単な情報を渡す位は良いでしょう」

「面倒なのは、さっさと帰れと?」

「…ところで、足が辛いのですが?」

「ああ、別に正座しなさいって言ってないし、別にいいよ」

「いえ、そういう事ではなく。

 …霊体化も出来ませんね」

「マツリ、女神様を呪ったり隷従術は駄目ですよ?」

「しないよ?できないよ?」

「…受肉してしまっています…」

「ん?」

「身体構成の為の魔力に99%以上マツリ魔力が使われた上に、

 余りにも過剰で生成されてしまった様です」

「ん?…パスが通ってる?眷属化?あ、強引に召喚したから…?」

「…はい…アレを召喚と呼べるなら、そのようです…無念です」

「仮にも神が簡単に眷属化されてんじゃないわよ!どーすんの!」

「いえ、あくまでも分体、端末の(わたくし)がですが…」

「眷属化はどうにか考えるから…」

「マツリ、待って。

 受肉という事は一個のホムンクルス的な生物ですよね?」

「…はい…」

「霊体化も出来ないという事は元にも戻れません?」

「…はい…」

「今一級ゴブリンに襲われたら確実に死にますね?レベル0?」

「…はい、おそらく…」

「え?パラメーター、オール1状態とか?」

「…はい多分…あ、いえ最大MP的なのは有り余っているようです」

「一応術は使えるのか…」

「無理ですよ?レベルと術関係のパラメーターが足りませんね」

「一応訊くけどレストランとかで給仕とか料理とかは?」

「…知識は辛うじて繋がっている本体から最低限供給されていますが…。

 自分のモノの気がしません…」

「マツリ、無理ですよ。生後二十分位の0歳ホムンクルスですよ?

 知識もパラメーターは1、眷属化を解いたら多分立てませんよ?

 うっかりこけても死んじゃいます」

「…はい…」

「基本的生活力がない…やっかいな…」

「いえ、ここから落ちるか、もう一度クロさんに食べて貰えば、ご迷惑は…。

 所詮分体ですから…」

「後味が悪すぎるの!」

「…先程は微塵の躊躇もなくノータイムで餌にされましたが…?」

「マツリは弱いものには弱いのですよ」

「あたし?

 あたしなの?

 またあたしか…」


 GG(グレイゴースト)2を又貸してパワーレヴェリング。

 さすがに最初はレベル0とかパラメーター、オール1とか怖い。

 なのでセリスのガンランス使わせて遠距離で弱目を一体ずつ。

 慣れて来たらランスの使い方をセリスが丁寧にフォロー。

 …ランスって騎乗が前提の武器だと思うんだ。今更だけど。

 ガンランサーなる怪しげなジョブを見る事となりました。

 あとはセリスの時みたいにスパルタ。周辺には気を使ったよ?

「非道い!酷い!ヒドい!死を超えた絶望を見ました!

 でも素体モデルの過去最高の聖女の全盛期をもう超えました」

 聖女にジョブチェンジというか戻る日は来るのかね。

 あたしが眷属化してるとレベルの割にパラメーターの伸びが良いそうな。

 しばらくは眷属のままでと頼まれた。

「カイヤ、そろそろちゃんと身体使って筋トレするよ」

 名前はガイアと名乗った時怖かったからカイヤにしたらしい。


「…私も眷属化しておきませんか?」

「やだよ」

 セリスはもう粗方カンストしてるでしょうが。

「そういわずに」と妙に食い下がる。

 あたしの召喚獣契約を断ったくせに。

 押し切られてやってみた。


「やはりですね。

 カイヤのジョブが最初は眷属だったのでそうではないかと思ったのです。

 クロさんの脱皮もそうだったので」

 セリスもジョブが眷属になりメインもスキルもレベル0になった。

 パラメーターそのままに。

 レベルが足りずスキルも術が使えなくなったけど、ソコは流石のセリス。

 ガンランスを素材から作り、戦術を自ら構築した地力がある。

 予備パーツからガンランスを新造。

 さくさくレベルアップして元のスキルと術も使えるようになった。

 二週目、強くてコンティニュー?公式の仕様?んな馬鹿な。

 あ、クロさん二回目の脱皮したよ。女神の分体食べたせい?海神もよね?

 姿はよりシャープでメカに近付いたね。種族がセカンド・クロになった。

 どんな術を覚えるかな?変形して人型になったりしないでね?

 これ以上BWに対抗心を燃やさないでね?

「けど粗方カンストしてるでしょうに、あんまり意味ないんじゃ?」

「基準を強い人に変えて見て下さい」

 雑魚を基準にしてたのを見掛けた中で最高に変えたら、あら不思議。

「減ったねえ、パラメーター」

「減ったのではなく、見えてなかっただけですよ?

 基準が低すぎて表示限界だっただけですよ?

 ちゃんと強くなってました」

「やっぱりあたしより使いこなしてる。

 レベルもリセットしたね」

「眷属経験とマツリとパスが通ったので魔力とか色々負荷がかかっているせいですね」

「ん?今しんどいの?」

「ええ、最初よりマシになりましたが、今はクロさんと修行の時です」

 セリスを通じてクロさんにも負荷がかかっているのね。脱皮も関係ある?

「体に悪くない?自分の体で検証みたいな事して」

「この体、乗りこなして見せます」

 熱血で男前なセリフをフラットに放ち淡々と狩猟・討伐・修行・筋トレ。

「時々セリスが何処に向かっているのか解らなくて不安になるよ」

 結果としていつも正解だったり最短だったりするけど。

 ガンランスも本人的に正解みたい。

 二人目のガンランサーなのか、やはりガンナーなのか。

 ちなみにあたしのパラメーターは、ほぼそのまま。

 むしろカンストしてなかったトコが、基準が高くなった分下がった。

 ちょっと、へこんだ。


 打撃屋のハンターが養殖屋とトレーナーばかりしてる気がする…。




「今のトコ、あれは駄目だね」

「そうですね」

「なぜですか?」

 元魔王国首都にて。

「あれはヒトの政治活動ですね?」

 フラットなセリスの視線の先。

 荷馬車と軍馬が目立って行き交う。

「戦争準備に見えます。実際、小規模な戦端も開かれています」

「だから政治活動の一端だよね?」

「そうではありますが…」

「私達は政治とヒト同士の軍事には加担も介入もしません」

「あたし達はそうしてきてるの」

「何故ですか?

 勇者が暴君として戦いを振り撒くのを是とするのですか?」

「カイヤ、カイヤになって少しヒトくさくなった?」

「多分、いいえ。ですが人の感情を理解しようと努めていました」

「カイヤ、多数が戦向けて奮い立っているのが分かりますか?」

「ええ。野蛮に見えます」

「そこよね。あたしがサクッと勇者を倒すとあの人達はどうなる?」

「戦いを止めるのではないでしょうか。旗頭がいないと続け難いでしょう」

「それでは食い詰めて多数が盗賊になるかもしれません。

 止めない可能性もありますね?広域に分裂するかもしれませんね?」

「神ならぬあたし達は予言も迂闊な予測もできないね?」

「それは神でも難しいでしょう。

 ですがあなた達なら広い選択肢と多数の手段があるでしょう?」

「野蛮な選択肢と手段に寄ってしまいますね?」

「あたしは禁術か戦略兵器と言われたね。否定しないよ?」

「私も似たようなものですね。この数日でご存知ですね?」

「ヒトの営みをあたし達の感情で崩すのは違うでしょ?」

「それは神視点です」

「違うと思いますよ?

 個ですから制御できない個の感情で振るわれる力が怖いのです」

「お前、怖いけどどうにもにも出来ないから来るなって言われたよ?国に。

 客観的にあたしでもそうするかもって思う」

「ではあなた達は何故高みを目指し、高みにいるのですか?」

「私達でも穏便を好みますよ?そのつもりで歩いたつもりですよ?」

「でも、全部は上手く行かないんだね。勇者の件がまさにそう」

「勇者という私達の知らなかった要因です。

 ですが確実に私達の手で勇者を擁する人達の運命が変わりました」

「それで起こった悪い事があたし達の責任とは思わない。

 …ようにしてる」

「では何故勇者の事を気にするのですか?」

「調査ですね。

 怖かったり恥ずかしかったりする結果からは逃げますよ?目を背けますよ?

 私達は神様ではなく当事者なので全部を『愚かな』と達観して見ていられません」

「あたし達が絡んで見もせず聞きもせず、怖かったり恥ずかしかったりする結果になったらそれこそ怖いし恥ずかしい」

「できるものなら穏便に済ませる為の調査ですよ?」

「でもまあ、残念な事にあたし達はアサルト寄りのハンターなんだよね。

 専門でも難しい案件なんで今回は期待しないでよ」

「あれだけやって、よく言いますね。

 少なくとも(わたくし)の本体だった神々は万能でも怖い物知らずでもありません。

 知ってますよね?

 できるものなら穏便に済ませたいという気持ちもあります。

 今の(わたくし)は皆の思いを受け止める事もできません。

 介入しても混沌神になる事もないでしょう。

 多分、達観して見てる事はできません。

 それだけ脅されると『怖いし恥ずかしい』が怖いです。

 今の(わたくし)より力あるあなた達の方がよほど神に向いてるでしょう」

「向いてない向いてない、やだよ」

「なぜあのような存在に成ったのか憶えていない位向いていないのですよ。

 今でも本来、神使に足り得る存在のはずなのに」

「それでも勇者を害する事は出来ない?

 共感して慕う信徒を裏切る事になる?」

「それしか拠って立つものがありません」

「もう本体からほとんど切り離(パ-ジ)されちゃってるじゃない。

 それだと生きてけないよ?眷属化の解放、優先しょうか?

 多少マシになるんじゃない?」

 カイヤ眷属化の場合、解放がちょっと難しい。

 ほとんどあたしの魔力で身体を生成されたあたし自身らしい。

 あたしの『カイヤ』という欠損部位をあたしの魔力で再生させた感じ?

「マツリの眷属である自覚がありません。そう(・・)しているのでしょう?

 魔法生物(ホムンクルス)だからでしょうか。セリス達と違い苦痛はありません。

 受肉した以上、生物である事を全うする通例です」

「なら拠って立つものを他にも作りましょう。

 教会でもそこまでですと、周りが迷惑ですよ?ヒトなのですから」


「ねえ」気付いてる?

「ええ」

「はい?」今一つよく解っていなさそうなカイヤ。

 現時点でそんな鈍いはずないと思うんだけど?

 セリスと二人でカイヤを引っ掴んで走る。


 あたし達を囲もうとする動きがあった。

 浅い段階なので普通に走っても撒けた。

「なんであたし達が目を付けられたんだろ?」

「私達は勇者に会ってもいませんし、知り合いもいません。

 魔王国以来何もしてませんし、あの時はヒトはいませんでした」

(わたくし)は知り合いというか勇者を見知っていますね。

 召喚して加護を与えましたから」

「それはそーよね」

「安心しました」

 こういうのは出所が解らない方が怖いよね。

「その姿で会ったの?」

「先日の様にふわっとした感じを演出しましたが、この姿ですね。

 最近はこの姿が多かったですが変えるかもしれません。

 (わたくし)の事がありますから」

「逆恨みされているとは思わなかったのですか?」

「逆恨み…ああ、そうですね今気付きました」

「ヒトは逆恨みでも襲撃する理由にするのよ」

「そうですね。神でも逆恨みされるので感情は理解していました。

 これが完全な肉体を持つということですか。

 でも(わたくし)を含めてあなた達ならあの位は問題ないのでは?」

「敵対ルートが確定しますよ?

 直接恨みのない人ですら怪我なくあしらえてもプライドで逆恨みしますよ?

 応援を呼ばれたら逆恨みが一山増えますよ?。

 私達は際限なくても問題ないと思いますが、私達のしたい事とは違います」

「何より目立ちたくないのよ。穏便に調査。

 それでなくても目立ちたくないの。

 目立つと色んな所から色んな意味で戦力と見做されちゃう。

 下手をすると禁術とか戦略兵器扱い」

「それは力ある者の勤めの放棄ともとれます」

「そんなルール誰が作ったの?一度力を持ったら一生不自由が確定するの?」

「それは居直っているだけではないの」

「マツリは傲慢だから弱いモノが更に弱いモノを叩くのが醜く見えるそうです。

 カイヤには、神にはそんな憶えはありませんか?」

「あたしの力は生まれついてのものでも、永く磨き極めたものでもないの。

 その都度酷い目に合ったけど短期間で事故の様なモノの連続で得たの。

 選ぶ余地なかった訳でもなく,求めた訳でもないけれど。

 選んで求めないと大切な物を失う。大事な物を失う。ただそれだけ。

 そこに気高い精神とか力持つ者の心得とか、一切入る余地はなかったわ」

「…。」

「戦争に善悪もなければ政治に正解はないと誰かが言ったそうです。

 私達も同意です

 私達はハンターです。革命家でも正義の味方でもなく。

 力があるから使わないといけない、というのでもないでしょう?

 私達が楽しく生きる為に使う力ですから。

 …そんな事を話し合う機会がありました。

 察して下さい。

 できればそっとしておいてください」


 その夜、カイヤが姿を消した。

 …あんたまだあたしの眷属でしょうが。



「勇者殿」

「これは大地の女神殿、お久し振りに御座います」

「今の(わたくし)はそれの残り香の様なものです。

 勇者殿が謙る様な存在ではありません」

「…?

 女神として私を誅しに現れたのではないと?」

「そうですね。

 勇者殿に思う所があり、話したい事はありますが」

「…魔王は居らず、女神の加護を失った私は失望されたのでしょう?」

「失望とは違うでしょう。勇者殿が人である事が罪とは考えません」

「人らしく堕ちた私に話したい事とは?」

(わたくし)を恨んでいるのでしょう?

 先刻の人達はあなたの手廻しですね」

「直接害するつもりはありませんでした。

 私も話したかったのです。

 貴女が無理でも側仕えの方とでも」

「彼女達は側仕えでも女神の意を受けた者でもありません。

 (わたくし)で宜しければ話しましょう。

 勇者殿の今の在り様にになった経緯は知っているつもりです」

「女神の意志ではないのですか?

 ピエロな私を皆が囲み、更なる戦いへと望みました。

 女神殿の意志に背いた私に戦いでの滅びを望まれたのではないですか?」

「望んではいませんでした。

 今の状況を苦く思っていましたが。

 残り香である(わたくし)も人と人の営みは人が御するべきと考えておりました」

「過去形なのですね」

「いえ。今以て人が御するべきと考えております。

 ですが残り香のである(わたくし)は一時、勇者殿を御するべきと力ある人を諭しました。

 力のみをもって権力を御するのは本意ではないと逆に諭されました。

 勇者殿を御するべきは残り香のである(わたくし)の人としての勤めなのでしょう」

「貴女は私を罰しにきたと?

 ふざけるな!

 理不尽でも神罰なら身に受ける覚悟はある!

 だが、人に諭される愚物におもちゃにされるのは我慢ならん!」

(わたくし)が言うのも業腹でしょうが、神とて人をいいようにする存在ではありません。

 理不尽と思うなら抗って見せなさい。

 我槍は神罰には遠けれど、人の想いと知りなさい」

 槍を立てたまま悠然と前に出る。

「女神ィイっ!」

 勇者の剣突きがカイヤに疾るが構えもしないカイヤの胸から弾かれる。

「どうしました?

 人と争う事しか出来なくなった貴方の剣では絞りカスの(わたくし)も斬れませんか?

 今初めて(わたくし)は失望を感じました」

 拘束の術がカイヤを包むが弾く。

「お前がぁっ!お前がぁっ!お前さえ余計な事しなければぁっ!」

 遮二無二剣術スキルを乱打。弾くが生体フィールドを削る。

「無様です。神も見立て違える事を実感します」

「勝手な事を!見立て違えたなら俺が悪いわけじゃない!

 お前が唆して俺を追い詰めたっ!

 報いを受けろ!」

(わたくし)は先程から何もしていません。

 報いとやらは(わたくし)まで届くのですか?」

 生体フィールドを削り切って胸が出血するが気にもしない。

「俺を勇者に仕立てたのはお前だ!死ね!」


「そこまでにしてくれる?カイヤはあたしの眷属なの」

 影より這い出るGGとBW。

「お前が女神か!」

「勘違いにも程がありますよ?これが女神とか。

 カイヤが死を以て勇者に後悔を植え付けようとしているのが解りませんか?

 穏やかな心を取り戻そうと賭けているのが解りませんか?」

「だとしても、ならばばこそ死ね!死んで俺に詫びろ!」

「あたしの眷属なの。目先が大事なあたしの、ね」

「結局、敵対ルートが確定しましたよ?」

「手間かけて生きてけるようにしたの。

 悪いけど、あたしには勇者より大事なの」

「お前達も俺を蔑にするなら死ね!」

「せめて苦しまない様に」

 見えない棍と12.7㎜が勇者の首を抜く。

「悪役のセリフですよ?」



「政治やヒト同士の軍事には介入しないのではなかったですか」

 再び夜の元魔王国首都にて。

「だから全部は上手く行かないんだって」

「介入したつもりはありませんよ?

 個として気に入らない成り(・・)かけを討伐したのです」

「成りかけですか。

 彼は引き返せなかったのでしょうか」

「わかんないね。気に入らないの方が重点だし」

「少なくともカイヤに死なれる方が後味が悪いのです。

 初対面の勇者からは目を背けますよ?」

「分体ではなく人でもない(わたくし)を優先する意味が解りません。

 この間まで無かったモノですよ」

「分体なら気にしないよ?何も無かったモノでもないでしょ?

 もうちょっと、ヒトをやってみない?」

「ヒト、ですか?」

「ヒト、ですよ?

 色々アレな私達がヒトを語るなと言われると黙りますが」

「本当に傲慢ですね…ですが魅力的な提案に思えます。

 マツリの眷属だという事でしょうか」

「そんなつもりはないけど、分かんないね。

 気になるならまず解放を優先してなんとかしようか」

「そういうモノなので傲慢なのかは分かりませんが、見下(みお)ろす存在だったのは確かです。

 安易にヒトを名乗るのは憚られます」

「歴史的慣例ですとベースがヒトの魔法生物ホムンクルスもヒトとされますよ?」

「細かい事はいいよ。楽しく生きる、をやってみよ?」

「ヒトとして生まれた事を喜び(ハッピーバース)ましょう、ですね?」

 それはこちらでも共通の概念。

 誕生日となるとあたし達は怪しいけれど、喜び合う位いいじゃない?

「楽しく生きる。生誕を喜ぶ。良いのでしょうか」

「0歳ホムンクルスが悩んでも答えなんかないと思うよ。

 もうちょい生きてから悩みなよ。

 もう全部あたしのせいでいいよ。

 実際あたしのせいなんだし」

 事故とはいえ、せっかくなのだから楽しく生きて欲しい。

 傲慢なあたしの我が儘なのかしらね。




「できる清算はしようと思います」

 勇者召喚儀式の街にて。

 カイヤはその時臨席した王族と術者達の後ろ盾を得に駆け回った。

 勇者亡き後の残党へ介入をする為に。

 中には儀式の場で女神を見知る者もいた。

 自分が女神の残滓でしかない事を念押しつつも現状が不本意であると説いた。

 勇者が成したこの軍に味方はいないと危機を示した。


「それだけでも、そこそこ大人しく解散したねえ」

 それを隠れて遠目に確認するあたし達。

「元は大地の女神がみいだした勇者の傘下ですもの。

 表立って反目はしないと思いますよ?」

「よねえ。敵意みっけ。マークしとこ」

「半壊した隣国に戻れない何かがある者もいると思いますよ?」

「真っ先に見限って散ったとかいう諜報とか?」

「直接勇者を扇動した者は個別に面談するそうですが…」

「どこまで元女神の威光が通じるかねえ?」

 それでも応じないなら個別にお話ししないと。

 GGとBWとクロさんが。


 嵐のような活動数日。

 意外とすんなり沈静化の兆しをみせた。

 もちろん全部が穏当ではなかったけれども。

 召喚国と反対側の隣国とも連携できたそうな。

「クロさんもそうだったけど目に見える威光は効くねえ」

「それだけにいくら元を強調しようと女神と同一視されますね?」

「それで穏便に済むなら女神の様な人でいいでしょ」

「それですとカイヤは女神の様な人を続ける事になりますよ?」


「何を言っているのですか?」

 そろそろ逃げるに決まってるでしょう?」

 やっぱり女神はしんどいらしい。




 黒い疾風が四つ。

 六つの五級黒狼を蹂躙する。

 とある谷にて。

「一応、あたしのラストリゾート(最後の手段)の姿なんだけど?」

 ヤツ、あたしの力の由来の魔物を前に変身してみた。

「要りますか?それ」

「自己満足でしょう。させておきましょう」

 知性がある同族の姿にも何も感じ入るものもない様子。

 散々な評価にすごすごGGに入る。

 脅威判定A以上が六つ。

 この判定にA以上はなく未確認(アンノウン)と特殊な手段が必要なSのみ。

 Sかも知れないけれど。

 あっさりクロさんの糧となりました。

「どう、クロさん。お腹大丈夫?」

「良質だそうですよ?」

 なんといってもあたしの力の由来の魔物。

「魂を直接じゃないにしろ、あたしを超えるかな?」

「脱皮はしそうですよ?」

「なぜそんな危険な検証を…」

 無理な気がしたから。


「なんでかね。あたしを超えてもおかしくないのに。

 眷属だからセリスと分け合ったにしても六つも食べたのに」

 一食では無理だから三日に分けて。

「そこまで理不尽な成長はしません」

「断言するね。あと、今さり気にあたしをディスったね?」

「神々が構築したシステムですから…痛い痛い痛い」

 術込めたデコピン連打。無害どころかステータス的に有益。

「ああ、そうなんだ。ある意味結構理不尽だと思うけど?

 今のデコピンも理不尽でしょ?」

「本当に理不尽ですね!マツリは!

 …今は魔物が遍在する危険な時代です。

 人の祈りを糧とする神々は人を慈しみます。

 経験を糧にして基準を明確にするシステムを構築しました。

 それだけです」

「セリスもクロさんもカイヤだって養殖できたよ」

「あんな目に合って弱くて死ぬ方が理不尽ですよ?」

「そうかもだけど、じゃあ、あたしは何なの?」

「知りませんよ」

「あちらの事は分かりませんね。

 ですがマツリは一般人?の時に短期間に酷い目に合ってますね?

 しかも何度も連続で。特異な経験と言えると思います。

 なので特異な成長したのでは?」

「そうなるのかなー。

 まあファンタジーなオカルト側の住人って事でみんな気にしてなかったけれど」

 魔力の総量的なものがあるなら極少数だから偏ったのかな?

 今更考えても仕方のない事だけれども。

 答えがでてもあまり意味もないし。

 養殖の検証の参考くらい?

「余計な事を考えないで下さい!」




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