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恋愛する気のない私に学校一のイケメンが告白してきた件について

恋愛する気のない私に学校一のイケメンが告白してきた件について (前編)

短編第5弾

ちょっと長文書くの時間かかるので前編後編に別けます。

「花崎知佳さん、好きです。俺と結婚を前提にお付き合いをしてください」



高校2年の春、お気に入りのパフェを学食で食べている私に、学校一イケメンだと言われる男に告白されました。


「・・・・えっと、お断りします」


それをすぱっと断った私は再びパフェを食べ始めた。その光景を見ていただろう人達は暫く放心した後、一斉に驚きの声を上げた。中でも女の子の声は凄まじく、きっとその女の子達は彼のことが好きだったのだと思われる。うん、そりゃ自分が好きな人が目の前で他の人に告白したら泣きたくなるよね。視界の隅で泣き崩れる女の子達に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。私は悪くないんだけどね・・・それにしても彼はいつまで私の前にいるつもりだろうか。一応振られた彼が私の前の席に座ってにこにこ笑っているその神経が信じられない。もし私がその立場なら確実に走り去って号泣してるよ。


「知佳さんならそう言うかもと思ってたけどやっぱりだった。でも一応理由を聞いてもいい?」


知佳さんて・・・何故にそんなに親しそうに呼ぶ?私達ってほぼ初対面ですよね?廊下で擦れ違ったり遠目で見たりとかなら何度もあったけど、今日この時まで喋ったこともなかったですよね?


「私は貴方を好きではないですし、そもそも恋愛に興味がありません」


高校生だからか周りの友人なども恋人がいたりする。みんな幸せそうにその恋人の話をしたりするけど、私はそれを羨ましいとか自分も恋人が欲しいとか思ったことがない。恋愛自体に興味を持てないのだ。それはもしかしたら両親が離婚したことが関係してるかもしれないし、付き合ったとしてもいずれは別れが来るのだから無駄な時間を使いたくないからかもしれない。そしてなにより、自分が誰かと付き合って幸せそうに笑う姿を想像できないのだ。


「なら友達から始めてみない?仲良くなっていく過程で俺を知ってもらって・・・それでも駄目なら諦めるよ。まだ俺をよく知らない知佳さんに振られても諦めきれない」

「貴方を知って、それでも好きにならなかったら?その時間は無駄じゃないですか」


そんな時間があるなら新しい恋でもすればいい。学校一のイケメンならば少し微笑めば簡単に相手を好きにさせられるだろう。


「それを決めるのは俺であって知佳さんじゃないでしょ?知佳さんの日常に少しだけ俺が入り込むんだから、知佳さんにはデメリットないよね?」


私の平穏に貴方が加わったら確実に平穏ではなくなるんですが・・・それをデメリットと言うんじゃないでしょうか。そして既に名前呼びが定着してしまっている。最初に訂正しなかった私が悪いんだけど。


「絶対迷惑にならないようにするから、ね?」


イケメンのキラースマイルに周りの女の子は黄色い悲鳴をあげる。イケメンが近くにいるだけで注目を浴びてしまう。これってもう迷惑かけられてるじゃない。断ってしまいたい・・・だけどここで下手に拒否したら女の子達から冷たい視線を送られてしまいそう。目の前にはイケメン、周りには彼の信者が取り囲む中、私は頷くしか道がなかった。





***************


「良かった。じゃあこれから宜しくね知佳さん」


目の前で心底面倒そうにスプーンを動かす花崎知佳さんに、俺は気づかれないように深い笑みを浮かべた。




花崎知佳・・・彼女はこの学校で知らない人はいないくらい有名な人だ。彼女は綺麗な黒髪がよく似合う和風美人で、成績も常に上位で友人も多い。誰にも平等な彼女に男は見惚れ、女は憧れを抱く。そんなに表情を崩すことのない彼女が唯一、甘いものを食べるときだけは口を綻ばせトロンと瞳を潤ませる。そんなギャップにやられてしまったのは俺だけではないだろう。でも俺が彼女を本当の意味で好きになったのは、彼女が友人の恋人の話をどこか冷めたような・・自分とは関係ないものだと境界を作ってしまっている表情を見てしまった時からだと思う。誰もが憧れ、その隣に立ちたいと言われる彼女自身は、そんなものを必要としないと見えないヴェールを纏う。そんな彼女の透き通った硝子のような瞳に、自分を写したい・・・写し続けるのは俺だけでありたい・・・それを恋だと気付くのに時間はかからなかった。



そして意を決して彼女に告白した。場所は勿論、人目につきやすい学食を選んで。普通の女の子なら誰もいない場所を選ぶけど彼女には正攻法は通用しない。そんなことをすれば断られたあげくすぐに去られてしまうだろう。それではだめだ。俺をその場だけの男にさせないように周りの観衆を味方につけ、彼女に逃げ道を与えないようにしなければ。自慢じゃないけど俺は容姿が良く、学校一のイケメンと称されている。そんな俺が公衆の面前で告白をしたんだ。誰に言い寄られても動かなかった俺が告白をしたということは、それは本気であると安易に想像できる。俺に好意を寄せていた女の子は諦め、彼女に惚れていた男はライバルが俺であると知って消沈し諦める。さらに2人の仲を応援する連中が現れれば言うことはないのだけど、まあそこは俺が頑張れば周りもそういう雰囲気に流されてくれるだろう。



案の定と言ってしまえば哀しいがやはり断られてしまった。でもそれは想定内だから構わない。ちょっとばかり周りの女の子が煩いけど、俺は彼女に断った理由を問うた。聞かなくても理由は分かっていたけど、それは次の一手に繋げるための大切なステップだ。そして答えた彼女の理由はやはりそうだった。恋愛に興味がない・・・その言葉にあの日の冷めた瞳の彼女を思い出す。興味がないならもってもらえばいいだけだ。俺はまず彼女に友達から始めようと言った。俺を知らないまま振られるのは納得できないと最もらしいことを言えば視線をさ迷わせながらどうしようと考えているようだった。また1つ見た彼女の別の表情に思わず笑みが溢れる。彼女に迷惑はかけないと言いながらがっつりかけるつもりの俺に、彼女は観念するように頷いた。






***************





「知佳さん、今日は一緒に食べれるよね?」

「えっと・・・今日も友人と一緒に食べようかなって」


あの大観衆の前での告白以来、彼・・・一之瀬拓海は毎日私に会いにやって来た。それは朝の挨拶だったり下校時に一緒に帰ろうと誘うものだったり教科書の借用だったり今のように昼食を誘いに来たりと・・・本当に少しだけ私の日常に入り込み、私が拒否すれば素直に退いた。そんな彼の従順とも見られる行動に、最初は嫉妬混じりに見られていた視線も、今現在は彼に同情的なものに変わってしまっている。ちなみに私の友人達は最初から面白そうだと言って囃し立て・・・


「私達はいつでも食べれるんだから一之瀬君と一緒に食べてきなよ」


と飄々と私を彼に引き渡すのだ。



「知佳さんは甘いもの本当に好きだよね。今日はプリンで昨日はミルフィーユだっけ」


周りの視線を感じつつの昼食は実に食べた気がしない。そして何故昨日食べたものまで知っているんだ?なんだか言い難い寒気に身を震わせると一之瀬君はクスリと笑った。


「幸せそうな知佳さんを見てると俺も嬉しい。そうだ、今度ケーキバイキングに行かない?新しく出来た店があってさ、今はチョコレートフェアやってるらしいよ」

「バイキング・・・」


しかもフェアだと?行くしかないじゃないか!!私はバイキングのことしか頭にないためあまり考えずに頷いてしまった。彼と別れた後で事の重大さに気づいてしまい一人項垂れてしまう姿を、一体何人の人が見たかは私は知らない。




***********




「やっぱり甘いものを話題に出せば食いつくねぇ」


バイキングの話をした後の彼女の瞳はキラキラ輝いていて、本当に可愛かった。その思考全てが甘いものなのは否めないがそれでもデートに漕ぎ着けられたのは俺にとってラッキーだったと言える。少しずつだけど彼女との時間が増えて、彼女の中に俺という存在が刻まれつつあることに愉悦を覚えた。最初に見えた警戒心も今ではほとんどなくなっていることから、少なくとも無感情ではないと思いたい。このデートを通してもう少し進展するといいなと思いながら、こっそりと交換した彼女の教科書をすっと撫でた。



デート当日、待ち合わせ場所に早く着いた俺は時計を気にしつつ辺りを見渡した。休日のためか人通りは多く簡単に彼女の姿を見つけられそうにない。こんなとき電話番号でも知っていればすぐに連絡して迎えに行けるのに残念ながら彼女の鉄壁は分厚く、未だに連絡先を知らないでいる。待つしかないと諦め周りに眼を配っているとやはりというか、逆ナンされた。彼女を知る前ならば軽い気持ちで遊ぶくらいしたかもしれないけど、今の俺は彼女だけしか見えない。こんな雑踏では見つけられないかもと思ったけどすぐに分かった。遠目でも彼女はキラキラ輝いて見えた。俺は周り群がる女の子達から抜け出して真っ直ぐに彼女のもとへ向かって歩き出した。



「良かった。来てくれないかもって思ったんだ」

「一応約束しちゃったから・・・」


素直じゃない彼女も可愛い。彼女は優しいから、俺のことを考えるとすっぽかすなんて出来なかったんだろう。それでもやはり嬉しかった。


「じゃあお店に行こうか」


こくんと頷いて俺に着いて歩く彼女。初めて見る彼女の私服は新鮮で実に女の子らしいものだった。黒髪にふわふわとした服は実にアンバランスでそこが良いと言える。彼女から見た俺はどうだろうか・・・格好良く写っているだろうか。そんなことを気にしつつ歩いていると、目的地である店へ到着した。


「ここ?」

「そうそう。外観かなり可愛らしいから男だけで入るって勇気いりそうだよね」


メルヘンな外観から、客の多くは女性やカップルが多い。それを笑いを含めながら言えば彼女も少しだけ苦笑していた。店内に案内され外からも見やすいテラス席へと案内される。商売上手な店だなと感心しながら彼女が座る椅子を引いた。


「ケーキから随分遠いね・・・」

「ああ・・・まあ仕方ないんじゃない?お店もお客さんを沢山呼びたいんだよ」

「どういう意味?」


彼女はこのテラス席に案内された意味を分かっていないんだな。自分の容姿には無頓着だなとは思っていたけど、本当に分かっていなかったなんて。


「こういうテラス席があるお店ってさ、結構容姿のいいお客さんをそこに座らせるんだ。目的は至って単純明快で、集客力を上げるため。ほら、人って格好良い人や美人だったり可愛い人を近くで見たいって思うでしょ?」

「成る程・・・一之瀬君はイケメンだもんね」


俺の言葉に納得した様子でいるけど、俺だけじゃなくて彼女にも向けられていることには分かっていない。まあ気づく必要はないんだけどね。





****************




「美味しい・・・」

「良かった気に入ったみたいで」


ほんのり苦味のあるチョコレートケーキが舌で溶けるようになくなっていき思わず溜め息が洩れる。さすがにチョコレートフェアと名がつくだけあって、普通のケーキもある中チョコレート系のものが目立った。プリンやアイスクリーム、エクレアなどなど輝くばかりのスイーツ達に、私の視線は釘付けになった。


「妬けるな」

「え?」


あまりにも見事な光景に見惚れていると、頭上で少しだけ拗ねたような声がした。その声の持ち主は勿論一緒に店を訪れた彼である。


「俺と話してるときよりもケーキ見てる方が楽しそうなんだもん」


だもんて・・・ああ、イケメンだから許されるだもん発言か。しかし仕方ないと思う。だって彼よりもスイーツのほうが何倍も好きだもの。


「でも楽しそうな知佳さんの顔を見れたから良かったかな」


自慢のキラースマイルを惜し気もなく出してくる彼に私じゃなくて周りの女の子が充てられてしまっている。そうだよね、イケメンの笑顔は凶器だよね。私はその笑みをうまく回避しつつモンブランを食べる。この舌に残るざらりとした感覚と鼻を通る栗の匂いが堪らない。


「一之瀬君は食べないの?」


彼が皿に載せているのはサラダやサンドイッチ、パスタなどの軽食ばかりで甘いものは1つもない。


「見てるだけでじゅうぶんだし、こういったもののほうが腹には貯まるかな」

「ならなんでここに誘ったの?お店だけ教えてくれたら友人と来たけど」


そう言うと彼はにこりと笑って頬杖をついた。


「それじゃあ意味ないよ。一緒に出掛けて2人で色々話したり見たりしたかったんだから」

「・・・よく分からないよ」

「今はそれでいいよ。すぐに分かる日が来るから」


その確信めいた言い方に、私は否定すべきなのかもしれないけど、でも何故か・・・その言葉は出てこなかった。




時間いっぱいまで堪能した私達はお店を出て街を歩き出した。行き交う人の視線は、やはり彼を見ていた。これだけのイケメンだからやはり眼で追ってしまうのだろうけれど、彼はそんな視線を気にすることなく私に話しかけてきた。



「次はどこに行こうか・・・知佳さん行きたいとこない?」

「えっと・・・ペットショップに行きたい」


了解、と言って彼は私の手を掴んだ。これではまるで手を繋いでいるみたいだ。


「あの・・・」

「嫌?でも人多いからはぐれちゃいそうだし、そうなったら連絡先を知らない俺としては探しようがないんだよね。だから我慢してね?」


さらに力を強めた彼に、何故だろう・・・振りほどこうとは思わなかった。そういえば連絡先教えてなかったんだった。だからはぐれたらまずいんだと考え、それでこの手を離せないんだと自分に言い聞かせた。






************



初めて彼女の手を握った。まあほとんど無理矢理に近かったけど、それでも振りほどく仕草をしないということは、彼女は俺に触れられることは嫌ではないんということだろう。少しだけ進歩した関係に思わずにやけてしまった。


「この辺だとペットショップって・・・」

「駅前のビルの中にあるの」

「そうなんだ。よく行くの?」


少しでも新しい彼女を知りたくて次々に質問した。それに彼女は嫌がることなく答えてくれる。


「へぇ・・・インコ好きなんだ。そういえばテレビで見たんだけどさ、インコって種類によって匂いが違うんでしょ?」


まさか偶然見た情報番組のインコ特集がここで役立つとは思わなかった。彼女は甘いものを目にしたときと同じように瞳を煌めかせ熱く語った。


「そうなの!!花の匂いとかお茶の匂いとか色々あるの!!」


思った以上に彼女はインコ好きなようだ。さっきからインコがいかに可愛いか力説している。


「じゃあ知佳さんも飼ってるんだ?」


軽い気持ちで聞いたんだけど、彼女の表情は一瞬で曇ってしまった。


「飼ってた・・・去年病気で死んじゃって・・・それ以来新しく迎えることができないんだ・・・」

「ごめん・・・」


確かに去年の冬、ひと月程彼女は元気がなく眼が少し腫れていたようだった。きっとそれは飼っていたインコの死が関係していたのだろう。だけどそれは・・・・


「幸せだねそのインコ」

「え?」


思い出してしまったのか彼女の瞳は少しだけ潤んでいる。


「だってそのインコを好きだったから次を考えられないんでしょ?そこまで大事に思ってくれていたんだって、俺なら凄く嬉しい」


本心からそう言えば、彼女は少しだけ俯いたあと俺を見て笑った。それは初めて俺に向けてくれた笑顔で、一瞬夢を見ているのかと思った。それだけ衝撃的で幻想的な笑顔だったんだ。





**************




あの子が死んでしまったとき、私はなにもしてあげられなかった。ただ苦しむあの子を胸に抱き涙するしか・・・だから目の前で命が消えてしまった時悲しみのあまり心がなくなってしまうんじゃないかと思った。それだけあの子は大切で愛しい私の家族だった。今思えば、私の愛情はすべてあの子に向けられていたから、誰も好きにはなれなかったし今もそうなのかもしれない。あの子を守れなかった私が幸せになんてなってはいけないという自責の念が、心を空っぽにしてしまったのかもしれない。そんな私に彼は言ってくれた。あの子は幸せだったと・・・その言葉が、暗示をかけた私の心を溶かしていく。だからだろうか・・・少しだけ、心から笑うことができた。ねえ・・・私、前を向いて歩いていいのかな・・・また大切なものを見つけられるかな・・・それが彼なのか別のなにかなのかはまだ分からないけど、少しだけ真剣に考えてみようと思う。悔しいから、彼には絶対に言わないけれど。









前編end

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