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魔法と黒のアンダーランド  作者: 宿宮麻美
4/4

OPENING#4

パルティカに所属している魔法使いはヴァイスと呼ばれる。

基本的に人間との共存を図る、現世界でいう政党だ。

魔法使いは世界で決められた魔法基準によって7〜1の階級に分かれる。

パルティカでは7、6クラスの魔法使いに教育を課し、未来の戦力の育成に努めている。

5〜1クラスの魔法使いは実戦、及び任務が課される。


そのヴァイスと敵対関係にあるのがシュヴァルツ

初めは国の中で産まれた小さな反乱因子だったが、次第に勢力が拡大していき、今ではヴァイスと並び立つほどに成長した。

1000人以上で構成されるヴァイスに対し、シュヴァルツはたったの50人しかいない。

それほどに一人一人の力が強大なのだ。

ほとんどのシュヴァルツはその見た目や性格や能力などを授業で習う。

ベル・レイン。

全ての教育課程を修了したレイは勿論知っていた。

3級魔法使い。

見た目は眼鏡、全身真っ白のスーツに、髪の毛はジェルで整えられ、清潔感に溢れているが、その分、嫌味な目つきが際立つ。

団体行動を嫌い、目撃例は常に一人で居る時だ。

そして厄介なのは『破壊』の魔法である。

魔法使いが持つ能力細胞アビリティセルの破壊。

この極めて理不尽な能力によって多くのヴァイスが苦戦を強いられ、そして負けていた。

その強敵を前に未だ5級魔法使いのレイとただの人間二人が相対している。


(まずい、これはまずいよ。)


「さあ、姫様。あなたのいるべきはここじゃありませんよ。」


レイの額から冷や汗が垂れる。


「クロ、僕が気を引くからそのうちにパルティカ内に逃げるんだ。姫は開閉の呪文を聴かれないようにしてください。」


レイが小さい声で作戦を図る。

そして理解の確認のために振り返る、が、そこにクロの姿がなかった。


「お前、魔法使いか?リサを連れて行こうっていうんなら俺がぶっ飛ばすぞ!」


(華の秘密を解き明かさない限り、リサがいなくなってはいかん!!)


「な・・・ッ!!」


ベルのもとにズカズカと歩み寄ってゆくクロの姿を見てレイの顔が恐怖で引きつる。


「あいつ、何恥ずかしいこと言ってんのよ...。」


「全部僕の所為です...。すみません...。」


顔を赤くするリサと呆れ顔で頭を抱えるレイ。


「はははは!私をぶっ飛ばすって言ったんですか?笑わせないでくださいよ。私の能力は知っているはずでしょう?」


ベルの目が怪しく光ったところで危険を察知したレイが咄嗟に前へ駆け出す。


「クロ!伏せろ!!」


「うおっ!!」


レイが叫んだ途端、レイの足元から巨大な樹木の根が飛び出し、しゃがんだクロの頭上を勢いよく抜けてベルの方へ向かった。

当たったら怪我では済まないくらい凄まじい威力だ。


「無駄だって言ってるでしょう?」


ベルが自らの右手を勢いよく向かってくる根へかざす。

ベルの手のひらが根へ触れたその瞬間に根は先程までの威力を失くし、力なく萎れて地面に落ちた。


「あなたは植物を自在に操る能力らしいですね。だが所詮仕組みは植物に自らの能力細胞アビリティセルを吸わせ動力としているだけ。それを破壊すればいいだけなんですよ。」


分かってはいたが、実際に相対した能力の差に悔しさを隠せない。


「では、私の公開していない能力を今日は特別に晒しましょう。姫様を目の前に勿体ぶる理由もないですからねえ。」


ベルが先程と逆の左手をかざす。

するとレイは見えない大きな力に吸い寄せられていく。


「な、なんだよ!これ!?」


能力細胞アビリティセルの支配ですよ。能力細胞アビリティセルを所持しているものは全て私の自由です。」


「何でもアリかよ!3級!」


レイはあっという間にベルに吸い寄せられ、左手で胸元を捕まえられた。


「レイ!!」

リサが状況の深刻さに叫ぶ。


「魔法には絶対に越えられない差があるんですよ。どれだけ努力しても、どれだけ上手く戦っても、どれだけ最高に運が良くても、能力で全部決まるんですよ。来世まで覚えておくといい。たった二人の仲間をも守れない惨めな思いは少しは和らぐと思いますから。」


掴まれている胸元だけで支えられた体が浮くことで首が締まり、上手く体に力が入らない。

攻撃した途端無力と化す魔法の反撃も意味を成さない。

ベルが右手でレイの顔をガッチリと覆うように掴む。

そして一瞬光が走った。


「うあああああああああああ!!」


これがベル・レインの魔法、能力細胞アビリティセルの破壊。

細胞一つ一つに埋め込まれた組織を破壊される時の痛みは火で焼かれるのと同等である。

ベルの右手に掴まれたレイの顔から煙が立ち込める。

血も滲んでいるようだ。


「だからてめえは引っ込んでろってつーの!!」


(クロッ!!)


レイの目にこちらへ走ってくるクロが映る。


「あなたも同じ運命に遭いたいのですか?さすがヴァイスの連中は頭が足りない者ばかr....グハァッ!!」


クロの振り上げた拳がベルの頬を貫き、掴んでいたレイを離して3m程突き飛ばした。

レイは力なく地面に倒れ込む。


「レイ...。」


「クロ...。」


仰向けになったレイがぼやけた視界の中クロを見つめる。


「てめえ危ねえんだよ!さっきの根っこ!俺に当たったらどうするつもりだ馬鹿野郎!そんなことしてまで結局負けるってどういうことだよ!」


「へ?」


予想外の逆ギレに動揺を隠せない。


「とりあえずてめえは今は寝てろ!俺が片付ける。」


スウェットの袖を捲ってベルの方へ向き直ったクロの目を見て、レイはどこからか謎の安堵が生まれた。

ただの人間になぜここまで期待ができるのか自分でも分からなかった。

その不確かな感情の中でレイは静かに無意識へと落ちた。


「ありえない...ッ!!魔法使いは私に触りさえできないはず!いや、あなたからは能力細胞アビリティセルを感知できなかったから人間なんでしょうが、しかしッ、私にこれほどまでのダメージを与える人間がいるわけがないッ!!」


「残念、ここにいるわ。」


倒れたベルの目の前に足が踏み出された。


「ひっ....!」


「お前さぁ、殴られたこと、なかっただろ?」


「あ...るわけ...ないだろ...。私の能力...は...。」


初めて攻撃を受けたベルは恐怖で身を震わせていた。


「そうだよなあ。寄ってたかって弱い者をいたぶる奴らに言動が似てたんだわ、お前。いいか、最初から決まってることなんて一つもない、俺は努力で全部変えられた。上級生だって黙らせることができた。」


「何...を言って...、魔法の序列は絶対的だ...。」


「"永遠に高い壁なんて存在しない"。まあ、とりあえず歯、食いしばれ。」


クロが拳を振り上げる。


「ま、待てェ!!!」


「正拳突きィ!!」


ベルが前に出した右手を避けてクロの拳が顔面に直撃する。

大きな土煙を上げて地面が陥没した。

眼鏡がバラバラに割れたベルは陥没した地面に挟まり気を失う。

とてつもない威力だ。


「ふう、完了!」


クロがパンパン、と手を鳴らし土の汚れを払う。


「あ、あんたやるじゃない!!」


リサが駆け寄ってくる。


「ま、まあな。一応全国一位だからな。」


この懐かしいやりとりに少し照れる。


「あれ?レイは?」


辺りを見渡すと先程まで倒れていたレイがいなくなっていた。


「パルティカに戻しておいたわ。ドクターに見てもらえばあんな怪我一発だからね。」


ほー、と感心しつつ、クロは別の少年らしき人物が立っていることに気付いた。


「おい、クロ。何しとるんじゃ...。」


「げ、団長。」


着ぐるみのカメレオンと合計4つの目がこちらを睨み、リサが怯む。


「散歩だよ、散歩。こいつ外出たことないんだってさ。」


「ボケナスこらぁ!姫の口車に乗せられるな!そうやって何度迷惑をかけられたことか!・・・って待て。」


カメレオンの少年、ではなく少年の姿をした爺さんはクロの足元に埋まっている人物に気付く。


(ベル・レインか...。まさかクロが...?)


「待て団長!口車っつったってこいつは本当に今まで外に出たことがないんだぞ!可哀想だろーが!」


「クロ...。」


「ダメなもんはダメじゃ。郷に入っては郷に従え。そしてお前には処罰を課す。一ヶ月監禁、飯抜きじゃ。」


「なっ!」


ほとんど死刑とも言えるその内容にさすがに怖じ気づく。


「・・・と思ったのじゃが。」


団長がニッと怪しく笑う。


「これから与える任務を無事遂行させれば、許してやろう。」



















ベルとの戦闘でクロはまた新たに気付いたことがあった。

この世界では元いた世界よりも力が増大している。

身体能力が桁違いに飛躍しているのだ。

この力があれば魔法使いの世界でも乗り切れるかもしれない。

そうして何としてでも華に関する可能性を追求するのだ。


「何ボーーーーーーっとしてんのよ!」


その可能性・・・がチョップでクロの思考を遮った。

そうだ、ここはリサの狭い部屋だ。


「何でもねえよ。んで、どうだった?初めての外は。」


「いいわけないでしょ。シュヴァルツに会って。もうしばらく外なんて行かなくていいかも。」


「お前なあ、人が折角苦労して...


「ねえ、クロ?」


「何だ?」


「私、あんたのこと好きになったかもしんない。」


「・・・はい?」


どうやらこの世界はまだまだ簡単に乗り切れそうにないようだ。














ーーーパルティカ・ハイデン区本部、天上100F『マリアの祭壇』にてーーー



「ワードヴァン、これは異例だ。人間が3級魔法使いを倒すなど。」


「ああ、ワシも正直驚いておるんじゃが。偶然に偶然が重なったケースということもあり得る。」


「もしそうでなかったら、貴様の孫をも超す逸材かもしれんな。ガファファファファっ。」


「それは万に一つもないじゃろ。それより。」


会話をしていた二人は目隠し、手錠、足枷、と万全の拘束をされたベルに目を向ける。


シュヴァルツはどこまで進んでいる?」


ベルはニヤリと笑って脳細胞を焼き切った。

『OPENING』終了です。

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