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魔法と黒のアンダーランド  作者: 宿宮麻美
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OPENING#2

見渡す限りの広大な草原でレイが俺の腕を引っ張りながら急ぎ足でどこかへ向かっている。

暫く進んで分かったがこの世界には見たこともない虫や植物がたくさん存在している。

模様が顔になっている蝶や、掌ほどの大きさもある蟻、風車のようにカラカラと回る向日葵に、獲物の匂いを探るように絶え間無く動き続ける食虫植物などなど。

種類は数え切れないほどで見ていて飽きない。

「おい、もう手ぇ離していいぞ。」

「あ、ごめん。つい。」

レイが掴んでいた腕を離す。

「これからどこ行く気だよ?」

今のところ森が所々に見えるだけで、辺りは相変わらずの草原である。

「いや〜、どこにも行かないよ。」

レイがにやけながら右手を前方に伸ばす。

「もう着いたからね。」

そう言い終わると何やら呟き始めた。

日本語ではないようで全く聞き取れない。

そして言葉を言い終えると手をかざした場所の下に人一人分の穴が出現した。

「じゃあここに落ちてもらうよ。」

レイが空いた穴に指を差して言う。

「ちょ、ちょっと待ってくれるか。」

「何?さっさと行こうよ。」

「この世界の言語って日本語なのか?」

「いや、多分違う。君がどこの地方出身か分からないけど翻訳魔法は常に解放してるからね。何語を喋ろうが僕の言語を君は聞き取れるし、君の言語も僕は聞き取れるってわけ。」

つまり、発した言葉が正確な同時通訳によって同じ声色、ニュアンス、タイミングで相手に聴こえるということらしい。

(めちゃくちゃだな魔法使い...。)

「さあ、分かったら行くよ。クロ。」

そう、俺は引っ張られてる最中に名前を聞かれ、華が呼んでいたようにクロと名乗った。

やれやれと穴に近付いて中を見るが、底が全く見えない。

数cm先は既に真っ暗闇だ。

「いや無理だ。」

レイは、そうハッキリと言い切った俺を後ろから突き飛ばして無理矢理穴に突き落とした。

「いいから入れぇ!」

「うおおおおおおおおおおお!!!」









数秒程穴を滑り落ちるととんでもない勢いで鉄の床に着地した。

不思議と痛みはない。

「よし、着いたね。」

少し遅れてレイも落ちてきた。

しばらくして落ち着いて周りを見渡す。

そして視界が安定してきた俺は目を疑った。

「ふふ、びっくりでしょ?」

見渡す限りの巨大な空間。

どうやら円筒状の形をしているらしい。

全体的に薄暗いが天井から吊り下がっている無数のランタンによって空間全体が照らされていた。

壁側には廊下が何層にも並んで走っている。

(これは教科書で見たことあるぞ...。)

俺が連れて来られた場所は中国の客家ハッカという民族が住んでいる共同住宅、今は世界遺産にもなっている福建土楼ふっけんどろうそのものだった。

正しくはそれの何倍もの大きさがあり、天井が塞がっている。

その天井の丁度真ん中にぶら下がっている鉄格子で出来たエレベーターのようなものの中に俺とレイはいた。

高さ50mはあるだろうか。

最下層までくり抜かれた吹き抜けは簡単に足をすくませた。

ここから見ると壁側の廊下に何人か人が歩いている姿が見える。

「あれも魔法使いか?」

「そうだよ、ここにいるのはみんな魔法使い。」

レイはそう応えながら手元にあったリモコンでエレベーターをゆっくりと降ろしている。

しばらく降りると半分くらいの高さで止まった。

エレベーターの鉄扉を開けるとそこには壁側の廊下に続く橋のようなものが架けてあった。

「ここが10階ね。覚えておいて。」

レイが先頭で橋を渡った。

「ここがどこだか説明してくれないか?」

先ほどから疑問に思っていたことを問う。

「軍団パルティカのエイントシア支部だよ。」

「待て、さっきからそのパルティカとかエイントシアとか分からねえんだが。」

「ええ!?君どんだけ田舎者なんだよ。」

レイも流石に俺の無知さを漂わせる言動の数々に飽き飽きしているようだった。

「この国、アルファナの最西端に位置する区がこのエイントシア区。比較的平和な地域。軍団パルティカっていうのはヴァイスの魔法使い達が集まる戦闘軍団ね。でヴァイスと敵対するのが...ブフッ!」

レイが目をつむりながら得意気に説明しているとしっかりしたガタイの大男にぶつかった。

異常にでかい。

後ろには身の丈程の巨大な木槌を背負っていた。

「レイぃ。気をつけろぉ。」

喋るのがノロい。

「げ、ゴモクさんっ!すみませんっ。」

「まあ、いいやぁ。そっちの君はぁ。誰ぇ?見ない顔ぉ。」

目だけを俺の方へ動かす。

「あ、あぁ。ここへ来るのは初めてなんだ。クロって呼んでくれ。」

「レイさぁ...。」

ゴモクと呼ばれる大男は俺を無視するようにレイに目を戻す。

「こいつぅ。魔法使いじゃないじゃん。」

巨大な手が俺を指差す。

「え、ええ!?そんなバカな。だって僕見ました。スガワラ三体を一気にやっつけたんですよ??」

「それはぁ...確かにすごい...。けどぉ、こいつから能力細胞アビリティセルの気配しない。」

「え、本当ですか。僕探知魔法使えないんで...。」

どうやら魔法使いは特別な細胞を持っているらしい。

「それで、お前はぁ。ただの人間をパルティカに連れてきたわけだけどぉ。」

ゴモクの表情が険しくなり、レイが凍りつく。

「ごごごごめんなさい...!軽率でしたっ!」

「まあ、いいやぁ。上の方には黙っててやるよぉ。今...ユノさん、呼んでくるから一歩も動かず待ってろぉ。」

ゴモクはそう言い残してのそりのそりと去って行った。

「お前何で魔法使いじゃないって言わないんだよ!」

ゴモクが去ったのを確認してからレイが怒鳴る。

「魔法使いだなんて一回も言ってねえだろ!」

「ぐっ...。」

レイが悔しそうに口ごもる。

「まあとりあえず全部なかったことにしてもらうよ。」

「なかったこと...?どういう意味...」

「ゴモクさんがユノさんを連れてくるから...


「おや、誰じゃ?お前。」


突然レイの言葉を遮ってどこからか声が聴こえた。

「今の...誰が...?」

「わしじゃ。」

そう聴こえると同時に声の正体が現れた。

何もなかった空間が突如色を帯びて形を成し、カメレオンのような着ぐるみを全身に纏った少年が現れた。

レイに似た見た目だが黒髪天パの黄色い目という点で違うだろうか。

「だ、団長!?どうしてこんなところに。」

どうやらパルティカの団長らしい。

(こんな子供に団長やらせてんのか...。)

「ああ、ちょっとこの世のものではない気配を感じたからのう。...お前、何者じゃ?」

団長がこちらを睨む。

「ただの人間だ。元いた世界の占いババアに嵌められてこっちに来た。」

「ふーむ...。転移の魔法使い...か...。」

団長が何やらぶつぶつ呟いている。

「名前は?」

「クロって呼んでくれ。」

タメ口で応えているからだろうか、先程からレイが青ざめた顔でこちらを見ている。

「じゃあクロ。わしについてこい。」

そう言い残して団長は背を向け廊下を歩いていく。

「おい、クロ。」

レイが耳元で囁く。

「何でか知らないけど団長に好かれたみたいで良かったな。一つ言っておくと団長はああ見えて80歳だから間違っても子供・・って言うなよ。気にしてるらしいから。」

「・・・それも魔法か...?」

「いや...童顔なだけ。」

童顔にも程がある。

何にしても団長とやらは色々知っているみたいだったので廊下を歩くカメレオンについていくことにした。









「レイがどれほど口を滑らせたか分からんが、お前はここエイントシア支部で拘束させてもらう。異世界からの来訪者となると色々と面倒になるのでな。」

暫く歩き、階段をいくつか降りた先の団長室に俺は連れて来られた。

レイは入室寸前に弾き飛ばされた。

室内は様々な動物のぬいぐるみで溢れかえっていて、なんともファンタジックな椅子に団長は腰掛けている。

「ユノには私から話をつけておく。あと、3級魔法使いともなるとお前が魔法使いでないことくらい誰でも気付くから、なぜここにいるかを問われたらわしの名前を使ってよい。」

子供の容姿でこの口調だと何とも調子が狂う。

「異世界から来たんじゃから住むところも無かろう。ここに住んで良いぞ。ただし特別な仕事をお前に課す。」

「何だよ...。」

嫌な予感が漂いまくっている。

「姫の子守じゃ。」

「へ?」

あまりに意外な仕事に自分でも驚くくらい気が抜けた声を出す。

「いや〜、城に住まわせとけばいいものの過保護のアルファナ王がパルティカにいた方が安全じゃと言うのでのう。本部は遠いし危険じゃから平和なここエイントシア支部に住まわせたんじゃが、近頃姫が暇暇うるさいんじゃ。そこでこの仕事じゃ。」

「ああ、それだけでここにいれるんだったら別に構わない。」

何も知らないこの世界で無闇に動き回るよりも、暫くここで知識を蓄え、これからの計画を練るのが正解だろう。

そのためなら姫の子守だろうが何だろうが快く引き受けよう。

「お、おお!そうか。じゃあ今から呼ぶからの。」

そう言って団長は手元にあった可愛いキーホルダー付きの受話器を取る。

「あー、もしもし姫?遊び相手を雇ったからちと来てみい?」

(軽っ....。)

団長が受話器を置く。

するとすぐに団長室の片隅にあった小さなドアがゆっくりと開いた。

(部屋そこなのかよ...。)

中から何とも高級そうなドレスを纏った脚が出てきた。

そして次に全身が出て来て、顔を確認した時、俺は思わず目を疑った。


「・・・華?」


眉の辺りで整えられた綺麗な茶色の髪に澄んだ瞳、確かに華だ。

一ヶ月前に死んだはずの。

小学校からずっと一緒だったのだ、見間違えるわけもない。

そんな華がドレス姿、頭には真珠の冠のようなものも着けている、なぜこんなところにいるんだろうか。

だが積み重なる疑問よりもまず喜びが湧いて出てきた。

「華...!こんなところにい...


「うっわ。めっちゃ目つき悪いじゃない!こんなやつで大丈夫なわけ?団長さんしっかり人選んでる?」


(・・・はい?)

俺の感動の再会の言葉を「華のような人」は強い口調で遮った。

「そんなわけで頼むぞ、クロ。」

団長が苦笑気味で片手でスマン!と伝えている。

わけが分からず立ち尽くす俺を「華のような人」は腕組みで睨み続けていた。

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