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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Goodbye To [Nameless] Avenger
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Deadly [Lucid] Reason 2

「遅いっすよ2人とも。ベックの旦那達はもう1台の方に乗って待機してるんで、さっさと乗ってください」

「文句ならアンタらの隊長さんに言えよ」


 やがて辿り着いたジープの後部座席の扉を開けて乗りながら、レイは文句を言ってきた茶髪の男、トレヴァーにそう毒づく。

 しかしジープの運転席へと乗り込んだトレヴァーは、その言葉にどこか納得したような表情を浮かべていた。


「ああ、ならしょうがないわ。隊長はちっちゃいんだからリーが気を遣ってやれよ」

「リーじゃねえし、気安く人の名前呼ぼうとしてんじゃねえよ」

「いいじゃんかよー。俺より年下の新入りと組むの初めてで先輩面してえんだよー」


 一行に名前を覚えようとしないトレヴァーにレイは苛立たしげに毒づく。

 しかしトレヴァーはそんなレイの様子にも意に介さないように、手を差し出していたアイリーンの手を運転席側から引いて助手席へと乗せる。

 最悪の状況を想定して用意されたジープの車体は高く、小さいアイリーンは乗るのにいつも苦労していた。

 そしてオリヴァーはポケットから携帯電話を取り出し、副長からのGOサインを確認して車を出発させた。


「トレヴァー、レイが可愛くない」

「ああ、それはいけない。いけませんぜ隊長、完全にリーに舐められてます」

「そんな……」


 助手席でショックだといわんばかりにアイリーンは背中を丸め始め、トレヴァーは神妙な面持ちを浮かべる。

 後部座席に座っているレイに2人の表情は見えないが、トレヴァーがアイリーンを通して自身で遊んでいることだけは理解できた。


「このままだとやばいっすよ。どのくらいやばいかって言うと、リーの反抗期が延長、それでベックの旦那が少年の道を正してやれなった事に責任を感じて酒びたり、タイストの旦那とミレーヌの姐さんがお互いの教育方針で揉め始めるってくら――」

「勝手なことほざいてんじゃねえよ」


 砂埃で汚れたエンジニアブーツでレイは後ろから、トレヴァーの座る運転席のシートを強く蹴る。

 公道を走り始めたジープはそれによって進路を揺らされるが、トレヴァーは慌てて進路を戻して護衛対象を乗せた車両の先導を続ける。


「やめろって! マジでやめろってリー! 運転中だから!」

「だからリーじゃねえって言ってんだろうが、クソヤロウ」


 レイは何度も繰り返した文句を言いながら、ジープの安っぽいシートに体を乱暴に預ける。

 護衛対象が自身の所有するロールスロイスに傭兵が同乗するのを拒んだため、ダガーハート小隊は2台のジープで前後に挟むようにして護衛をしていた。レイたちが乗っているジープは2台を先導する役割を担っている。


「トレヴァー、どうれすばいい?」

「まだ言ってやがんのかよ、このバカ――」

「付かず離れず、優しく厳しく、恋人であり母であるように接し続けるのです。そうすればリーは隊長の愛情深さに気付いてきっと更生してくれます」


 レイの言葉を遮ったトレヴァーは、アイリーン自身の尺度で内容が大きく変わる答えを告げる。

 ダガーハート小隊に新兵をいびる習慣はないものの、やたらとレイの面倒を見たがるアイリーンを補佐することでトレヴァーはレイで遊んでいた。


「やる、ワタシがレイを更生させる」

「……トレヴァー、アンタ面倒なこと押し付けやがったな」

「ハッ、精々精進しやがれリー! 俺は隊長のおかげで人生やり直せたぜ、その代わり3ヶ月は肉食えなくなったけどな!」


 やる気を出してしまったアイリーンに顔を歪めていたレイは、トレヴァーの言葉に表情を凍らせてしまう。

 今でも鬱陶しいほどのアイリーンがやる気を出すことにどんな意味があるのか、トレヴァーはどんな"教育"を受けて更生したのか理解出来ないままそんな事を告げられてしまえば無理はないだろう。

 この護衛の任務についたのは失敗だったのではないか、そんなことをレイが考え始めた頃トレヴァーは1つ大きな咳払いをして雰囲気を飄々としたものから変えていく。


「それと付近で違法改修(イリーガル)ナーヴスらしい反応をキャッチしました。かなり不確かな物ですが、どっかの武装テロ組織が付近に潜伏、対象を狙っているのかもしれません」


 口調から軽い様子が消えうせたトレヴァーの言葉に、アイリーンは無言で首を横に振る。

 トレヴァーの考えは間違っていないが、その一歩先に踏み込んだ先に真実があるとアイリーンの勘が告げているのだ。


「多分その武装テロ組織は雇われてるだけ、対象の敵対者は民間軍事企業に依頼して足が付くのを恐れてる」

「ってことは、敵対者は顔見知り。しかも報復とかを恐れてる割に、民間軍事企業に金を出して秘密裏に処理出来ない程度の財力しか持っていないってことですかい?」

「そう、その上武力行使をいとわないタイプの」

「でもまあ、人目につくところでD.R.E.S.S.を展開しちまうような素人が相手なら早くロスに帰れそうですね」

「そうとは限らない、牽制かも」

「何か欲しい情報は?」

「カスパロフ氏の金の動きが知りたい」

「了解、やっときますんでリーの面倒は任せましたよ」

「子ども扱いしてんじゃねえよ、あとリーじゃねえよ」


 空気を緩和させたトレヴァーの言葉に、レイは不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。

 レイはトレヴァーの年齢を知っているわけではない。しかし遊んでいる雰囲気をかもし出している浅黒い肌の顔は、自身と年齢が違うようには思えなかった。


「酒もタバコもやれない歳でよく言うぜ――そうだ、ロスに帰ったら行きつけのクラブに連れて行ってやるよ。酒は最高、音楽も最高、その上酒を持って来てくれる姉さんらはマジでエロ――」

「トレヴァー」

「嘘です。リー、最高に美味いエスプレッソを出す喫茶店に連れてってやるよ、ベックの旦那のお墨付きだ。期待してろよ」


 アイリーンの言葉で態度を豹変させたトレヴァーは後ろにいるレイへ見せ付けるように親指を立てて見せ、それを見ていたレイは右手で顔を覆いながら深いため息をついていた。


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