Breed [Hollow] Blooms 9
「いいですか? 1つ、チームを尊重すること。2つ、任務の遂行と生還を同時に考えること。3つ、上官の指示には従うこと。これらは傭兵として生きるのにとても大事なことです、必ず理解してください。明日も同じように模擬戦を行いますので13時には集まってくださいね」
D.R.E.S.S.を解除しているジョナサンは休めの姿勢で立たせている3人にそう言いながら、どこか不愉快げな足取りで施設から出て行く。
そしてジョナサンがいなくなるなり、チェレンコフは望んだ結果が得られなかったことに不満げに舌打ちをしていたレイの胸倉を掴む。
「クソチビ、テメエどういうつもりだ?」
チェレンコフはレイの暗い碧眼を覗き込みながら、這うような低い声でそう問い掛ける。
ネイムレスが出遅れたのは新兵特有の緊張からだと考えていたチェレンコフは、自身もそう言った経験は過去からレイを責めるつもりはなかったがあのやり方は違った。
最初からゴリニチを盾にするつもりだったあの戦い方は、新兵でも何でもないただの外道のやり方だとチェレンコフは怒っていたのだ。
しかしレイは悪びれる様子もなく、チェレンコフの手首の腱を強く握ってその手を離させて口を開いた。
「指揮官殿がくたばったんだ、その死を無駄には出来ねえだろ?」
「テメエが出遅れたせいで作戦が台無しになったんだろうがよ!」
「あのまま2人で突っ込んでたら2人同時に撃墜判定を受けただけだ。最初からアンタの作戦には穴があったって認めろよ、"先輩"?」
そのシニカルな笑みを浮かべて告げられた言葉に、チェレンコフは堪忍袋胃の緒が切れたのを確かに理解する。
殴りだこが出来ているチェレンコフの拳は自然と握られ、レイはそんなチェレンコフを挑発するように中指を立てる。
そして殴り合いが始まるかと思われたその時、ろくな訓練も受けていないまま模擬繊維参加させられ、疲れきっていたアネットが2人の間に割って入る。
「2人ともやめて。もう疲れたから帰りましょう、明日もあるんだから」
「アンタも俺の邪魔してんじゃねえよ。フレンドリーファイアが続くようならアンタも盾にするぜ?」
睨み付けるような視線をアネットへ向けながら、レイは苛立った様子も隠さずに言う。
あの時のフレンドリーファイアさえなければ一矢は報えたはずだった。
今日までやったことのなかったあのやり方は間違いなくジョナサンの度肝を抜いたが、1度失敗した以上あのやり方はもう2度とジョナサンには通用しないだろう。
これからの模擬戦が不利になってしまった事実と任務に出撃できない事実に歯噛みしながら、レイは苛立ちに体を震わせているチェレンコフと呆然としているアネットを置いて施設を後にする。
ネイムレスの装甲にこびり付いたペイントは既に洗浄済みで、社屋に残っている理由がないレイの足は自然と帰路を辿っていた。
――どうすりゃいい?
ジャミングなどの情報攻撃機器が搭載されているクラックと違い、自由に武装を換装できるコンテナを搭載しているルードではその情報攻撃に応戦する事は出来ない。
答えが出ない問答を繰り返しながらレイはただ歩みを進めていく。
その先にある絶望に気付かないまま。




