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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Goodbye To [Nameless] Avenger
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Start The [Ghastly] Farewell 7

 焼け付くような日差しに照らされたテキサスの荒野。

 遠くに目的の峡谷を望む岩陰に真っ黒な1台のワゴン。

 その車の並びには等間隔に並べられた、6門の迫撃砲のような見た目のUAV射出装置が設置されていた。


「設置終了、そっちはどうだ?」

「社長の日焼け止め、サングラス、日傘は準備済みよ」


 そう言って自身もサングラスを掛けた晶は、レイに銀の装飾が所々に施されている日傘を押し付けて、小脇に手持ちのタブレットを抱えて車から降りる。

 荷物を全てアテネに送ってしまったフィオナにサングラスを貸してしまったレイ以外の全員が、サングラスを掛けて車からぞろぞろと降りてくる。

 レイは慌てて日傘を開いてイヴァンジェリンへと駆け寄り、日光を遮るようにその庇護下にイヴァンジェリンを入れる。


「なあ、本当に外に出なきゃならねえのか? 車両のジャミングを解かなくても、何かいい方法絶が対あるだろ。それこそクラックを展開して、ジャミングでもしとけばどうにでもなるはずだ」


 慣れない日傘に顔を顰めながら、レイはため息混じりに言葉を吐き出す。

 先天性白皮症(アルビノ)であるイヴァンジェリンを日光に晒されてしまうのを、レイは良いとは思えずにいたのだ。

 先天性白皮症(アルビノ)は皮膚で紫外線を遮断する事が出来ず、紫外線に対する耐性があまりにも低い、とレイはインターネットで知った情報に懸念を抱いているのだ。

 しかし車両にはD.R.E.S.S.による捕捉を避けるためのオブセッション級のジャミングを随時放っており、イヴァンジェリンは外でUAVの操作を行わざるを得ない。


「大丈夫だよ、後でしっかり洗い流さなければならないけど市販されてないような強力な日焼け止めを使っているからね。それに車両のジャミングを弱めたりして車両を破壊されてしまえば、それこそオシマイだ。心配してくれてありがとう、レイ」

「……どうなったって知らねえからな」


 その自身の言葉に小さく舌打ちをしてそっぽを向くレイに微笑をこぼしながら、イヴァンジェリンは晶へと視線をやる。

 晶がそれに頷いてみせたのを確認したイヴァンジェリンは、大きな咳払いを1つして全員の視線を自身へと向かせる。


「さて、再度作戦を確認する――私達はここからUAVを射出し、10km先の依頼されたポイントの峡谷の調査を行う。UAVの映像は逐次アキラの持っているタブレットに送信、そして車内に搭載している記録装置によって保存される。UAVの操作は私がアブネゲーションで行うために私は無防備な状態になってしまうため、レイには私の護衛をしてもらう。そして対象を捕捉後、場合によってはネイムレスで出撃、これを排除する。何か質問は?」


 右手に日傘を差し、日焼けを避けるために手袋をしている左手を上げるエリザベータ。

 イヴァンジェリンはソレを予想していたとばかりに、サングラス越しの視線をやって発言を許可する。


「その対象がD.R.E.S.S.である確率はどれほどですの?」

「限りなく高い、下手をすればクラックを大隊規模で抱えているかもしれない。そう言わざるを得ないほどの高濃度のジャミングが辺り構わず展開されている。排除に乗り出した場合は下手な同情などせずに、即時撃破を心がけて欲しい」

「了解、さっさと始めててくれ」


 傍らでそう言いながら同じ高さの視線を向けてくるイヴァンジェリンに、レイはそうぶっきらぼうに返した。

 こういった形での諜報戦は即時撤退が基本であり、見つかってしまえば面倒なことになるとレイはジョナサンから教えられてきていた。

 そしてそれを理解し、異論などあるはずがないイヴァンジェリンは、首筋の十字架の刺青に触れてアブネゲーションを起動させる。

 その様子をフィオナはただ不安そうに、レイとイヴァンジェリンに交互に視線を向けていた。

 しかしそんなフィオナの懸念を無視したイヴァンジェリンの視界は一瞬で赤に染まり、イヴァンジェリンはUAV1から6を起動、射出のスタンバイをさせる。


「作戦開始、スマートに終わらせようじゃないか」


 そう言ってイヴァンジェリンが指を鳴らすと、軽い音を立てて50cmほどの円錐状のUAVが射出される。

 射出されたUAVは巻きつくように格納していた翼を展開し、放射状に飛び立っていく。

 そのUAVは市販の物に手を加え、小規模なステルス装置を搭載した代物だった。

 イヴァンジェリンは手ずから作り上げてしまう事によって、撃墜などをされた際に拿捕されたUAVからこちらの素性がバレるのを恐れたのだ。


 自ら作り出したD.R.E.S.S.がこういった平和目的のために使用されるはずがない物の価値を下げ、そして市販させるようになった現実。


 その皮肉な結果にイヴァンジェリンが自嘲するような笑みを浮かべていると、調査ポイントに辿り着いたUAVのカメラの6つのうちの2つが何かを捉えた。


「アキラ、何かが見えた。次はもっと接近するから2人に映像を」

「了解しました。レイ君、エリザベータさん」


 何かを捉えた2機のUAVに接近するように残りの4機が集まっていき、やがて大きな輪を描くように編隊を組んでそのポイントをレンズに納めていく。

 そしてイヴァンジェリンのアブネゲーションによる赤い視界と晶がレイたちに見せるように抱えているタブレットに映ったのは、ルードとクラックの大規模D.R.E.S.S.部隊だった。


 ――同業者か


 大隊規模のクラックを危惧していたのは事実だが、こんな何もないテキサスの荒野に大隊を展開している理由はない。

 その事からイヴァンジェリンはその部隊を自身たちと同じ目的でここに訪れている部隊なのだと結論付ける。

 イヴァンジェリンは円形の編隊を解いて、速度を落としたUAVにその部隊の尾行をさせる。


 上手くいけば彼らがイヴァンジェリンを導いてくれるが、下手をすれば彼らに”仕事を台無しにされて”しまう。


 そんな皮算用のような懸念に口角を歪めながら、イヴァンジェリンは6つの目を操作して辺りを探り続ける。

 D.R.E.S.S.部隊が調査ポイントである峡谷をゆっくりと進んで行き、やがて峡谷の半ばまで進んだその時、イヴァンジェリンは見覚えのある青白い光にアブネゲーションの緊急保護機能を起動させる。


 緊急保護機能が起動したその瞬間、3機のUAVとほぼ全てのD.R.E.S.S.部隊が青白い粒子の光に包み込まれた。

 そして遠くで轟く爆破音に怯えながらも、イヴァンジェリンは残った3つのUAVのカメラでそれを引き起こした脅威を捉えた。


 流線型の黒をベースにした黒と赤のツートンの装甲、赤い単眼のマシンアイ、そして両手に装備した2丁の粒子ライフルと垂直に背負っている1丁の粒子キャノンを擁したD.R.E.S.S.。


 ほとんどの人間達は知らないが、レイとイヴァンジェリンは知っているそのD.R.E.S.S.。

 急いでイヴァンジェリンは皆が観ているタブレットへの情報を切断しようとするが、アブネゲーションは緊急保護機能で遮断されてしまい、自動運行モードに切り替えられたUAVはそれをレンズに捉え続けている。


 そしてイヴァンジェリンのピジョンブラッドの瞳には、普段の飄々とした雰囲気を消したレイが映っていた。

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