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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Talk To [Alias] Messiah
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[Forbidden] Fruit Is Sweetest 8

 耳鳴りがするほどに静かで暗い荒野。

 バイクを停めたレイは見つかりづらくなるように、侵入の邪魔になる荷物ごとバイクをそのほとんど凹凸のない地面に倒す。

 グレームレイク基地、エリア51が実験基地とはいってもあくまで国防軍の基地だ。

 そこで展開されているであろう戦力は、ジョナサン率いるH.E.A.T.の戦力と国防軍の戦力が予想される。

 このままバイクに乗って真正面から向かっていけば、レイは何も出来ないまま殺されてしまうだろう。

 だからこそレイはここから先の道を、自身の足で潜入しなければならないのだ。

 ボディホルスターからワルサーPPKを取り出し、砂埃で薄汚れた白いインナーを隠すようにフィールドジャケットのフロントジッパーを閉める。

 吸い込むのは渇いた荒野の空気。

 レイは体をほぐすように肩を回しながら、500mほど先の目的地を睨みつける。


 ――作戦開始、と


 違和感がない程度に、そしてなるべく身を低くしながらレイは鉄柵フェンスに囲まれた死地へと走り出した。


 ――しかしどうしてこう面倒ごとばかり続くかね


 護衛対象の尾行、通気ダクトを這いずり回った救出、満員電車に揺られながら続けた潜入。

 この3ヶ月こなしてきた任務と潜入期間の間に少し鈍ったように感じる体に、レイはそう胸中で毒づく。

 休日や終業後に軽く体を動かしていたとはいえ、任務以外の時間が自由だったロサンゼルスに住んでいた頃とは比べ物になるはずがない。

 そして彼我の距離が100mほどになった頃、レイは警戒レベルを一段階上げる。


 生身でD.R.E.S.S.級の兵器に先制攻撃をされてしまえば、人の身などひとたまりもない。

 それはその手で殺したアネットによってレイは理解させてられていた。

 何よりロズウェル事件との関連性を疑われていたエリア51には侵入者が絶えず現れ、警備は厳戒態勢に近いものであると容易に想像出来るのだからレイは警戒しなければならない。


 ――全部片付けたら酒とタバコを始めてやる


 鬱陶しい後見が居なくなることで生まれる自由にそう誓いながら、レイは勢いを殺さぬまま一気に鉄柵フェンスに飛びついてそのままよじ登る。

 錆びつきつつある有刺鉄線を飛び越えて地面に着地したレイは、近くの建物の陰に隠れながら腰のベルトに付けたフラッシュグレネードに手を掛ける。この物音に気付いた哨戒中の兵士達が動きを見せたら、それで撹乱して先に進もうとレイは考えたのだ。

 しかしどれだけ待とうとレイの耳には足音1つ届かなかった。

 不審に思ったレイはバングルの表面に現れたキーで付近に居るD.R.E.S.S.の反応を探ろうとするも、バングルの表面に現れたのはクラックの情報攻撃を受けている時と同じノイズだった。

 小さく舌打ちをしたレイは、恐る恐る建物の陰から顔を出して回りを確認する。


 ――どうしても誰も居ない?


 レイの目に見えたのは一際巨大な中央施設、戦闘機などを格納しているのであろう複数の格納庫、ただただ広い滑走路と複数台のジープだけだった。

 プロジェクト・ワールドオーダーには国防軍、そしてH.E.A.T.にも関係しているパトロンが発起人であるとレイは読んでいる。


 そしてその2つの戦力が扱えるのであれば、哨戒にD.R.E.S.S.を装備した人間を当てられるはずだ。

 しかしレイの目にはD.R.E.S.S.や軍服に身を包んだ人間は1人も見えないのだ。

 レイは訝しげに眉間に皺を寄せて考えうる可能性を思考する。

 待ち伏せ、奇襲、侵入ポイントごとの爆破。

 だがそれらは隠れるところの少なさと、相手がレイが持っているBLOODのデータを欲しがっているという事実から奇襲と爆破はないだろうとレイは結論を出す。


 ――セオリー通りなら施設最奥部か


 鴻上製薬でもレイを正解に導いたその考えに従って、レイは建物の陰を通りながら中央施設へと向かっていく。

 カメラでも持って来ればオカルト誌に写真を売れただろうか。

 胸中で冗談めかしながらレイは辺りの音に耳を澄ますが、相変わらず自身の足音と荒野の砂をさらう風の音以外はしない。

 まるで自分以外がこの世界から消えてしまったような錯覚に思わず苦笑しながら。レイはようやく辿り着いた中央施設の裏手の扉に銃を握っていない左手を掛ける。

 そしてスライド式の扉が音を立てないようにゆっくり力を入れると、スライド式のレールに沿って扉が開いた。


 壁を背にしてレイは扉の向こうを覗き込むと、そこにあったのは点在する照明に照らされた無機質な廊下だけであり、レイは気付かされたその理由に深いため息をついた。


 ――誘われてるってことかよ


 配備されていない哨戒、反応しなかった鉄柵フェンスの警備システム、そして侵入者を拒む様子もないセキュリティ。

 たとえそうだとしてもいつ急襲を掛けられるか分からない以上、レイは警戒を緩めるわけには行かず銃を構えながら中央施設へと侵入した。

 遠くに聞こえる機械の稼動音とコンバットブーツが硬質な床を打つ音だけが響く廊下を、銃を構えながらレイはゆっくり進んでいく。


 ――中央施設は外から見た限り8階建て、吹き抜けになっているような様子がねえって事は地下か


 どこまでもセオリー通りなジョナサン達のやり方に顔を歪めながら、レイがフロアマップを探して辺りを見渡したその時、中央施設内の明かりの全てが落とされた。


 咄嗟にレイは壁に背中をつけ、銃を構えながら辺りを警戒する。

 これだけ狭い場所であればD.R.E.S.S.を展開される恐れはないが、チェレンコフのような護衛対象を巻き込みながらハウザーを放つ人間が居ないとは限らない。

 しかしまたしてもレイの予想は裏切られ、その空間に放たれたのは弾丸ではなく限定的に灯された明かりだった。


 その明かりは1方向に向かって光を並べ、それが自身を誘っているようにレイには思えた。


「……無駄な技術ばかり使いやがって」


 声に出してそう毒づいたレイは銃を構えながら、光を追うように歩き始める。

 照明の光はレイを追い立てるように通り過ぎたその瞬間に消え、その待ちきれないとばかりのその様子にレイは深いため息をついてしまう。

 そうしている間にも導かれるままに、レイはエレベーターホールへと辿り着いた。


 レイは気休め程度に再度周辺のD.R.E.S.S.の反応を探ろうと左手首のバングルへ目をやるも、バングルの表面にはすっかり見慣れてしまったノイズを走らせていた。

 その様子にレイは諦めたようにエレベーターのボタンを押すと、それすらも待ちかねたようにその口を開いた。

 エレベーターごと攻撃をされる事はないだろうが、それでも敵地で閉所に閉じ込められる不快感に何度目かの舌打ちをしながらレイはエレベーターに乗り込んだ。


「……演出にもセンスがねえんだな」


 ほとんどのボタンが赤いインクで塗り潰されたパネルを見て、レイは唯一無事な最下層へのボタンを押す。

 そしてエレベーターホールの照明が落ち、エレベータの扉がゆっくりと閉まっていく。

 動き出したエレベーターの中でレイはフィールドジャケットのフロントジッパーを開けて、ボディホルスターに銃をしまう。

 エレベーターから降りてジョナサンと向かい合ったその時から始まる戦闘は、拳銃のようなチャチな物で決着がつくようなものではないとレイは理解していたのだ。


 ――インヴィジブル・エース、軽く装甲を足した中量型クラック。武装はアサルトライフルとマシンガンだったよな……


 次々と変わっていくデジタル表示の数字を眺めながら、レイはジョナサンのクラック改修機のスペックを諳んじる。


 ライトブルーの海上迷彩の装甲に、白い鷲のエンブレムが描かれたD.R.E.S.S.。

 インヴィジブル・エースはジョナサンがアメリカ国防軍D.R.E.S.S.部隊フルメタル・アサルトに所属していた頃の機体を模した物であり、H.E.A.T.の設立時にパトロンによって贈与されたD.R.E.S.S.だ。

 近接格闘型軽量機ワイルド・カードと、火力型重量機ブラッディ・ハニーという派手な戦闘を繰り広げる2機のD.R.E.S.S.。

 その2機のD.R.E.S.S.を支援しながら、確実に勝利を手にするという戦場掌握型中量型D.R.E.S.S.インヴィジブル・エース。


 ジャスティン・ファイアウォーカーのデウス・エクス・マキナと同じく、レイが模擬戦で1度も勝利する事が出来なかったD.R.E.S.S.。


 ――負ければ死ぬ、逃げてもいずれ死ぬ。なんにせよ、器じゃねえってことだな


 兄、恋人(ナイト)、ヒーロー、救世主。


 その全てにとって役者不足である自身に、レイは自嘲するような笑みを浮かべる。


 両親やその関係者達に大事に想われているフィオナに嫉妬した。

 自身ではなく父を見ているのだと誤解してエリザベータを遠ざけた。

 理解されたいと叶わぬ願いを抱いて晶を求めてしまった。

 イヴァンジェリンという女を言い訳に使わなければ戦う事も出来ない。


 自身が本当は何を望んでいるのかすら分からない、自身はそんな小さな人間でしかないのだ。


 ――嫉妬狂い(グリーン)(アイド)化け物(モンスター)、本当に良く出来た名前だよ


 自身にピッタリだ、とレイは口角を歪めながらフィールドジャケットのフロントジッパーを閉める。

 そして最下層に辿り着いたエレベーターは動きを止めて、ゆっくりとシルバーの扉を開く。

 扉の向こうに広がるその空間は重厚な合金製の扉があるだけのフロアだった。



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