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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Talk To [Alias] Messiah
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Drunk It [Poison] Blood 19

「この、裏切り者!」

「お互い様だろ? H.E.A.T.と手を組んで俺を潰しに来たか。俺なんかの傍に居てくれたのはそう言う理由だったんだな。やっと納得できたよ」


 思わず怒鳴りつけてしまった晶の言葉に、右手をヒラヒラとさせながら皮肉を返したその男は怜・此花だった。

 その左手には小さな拳銃が握られており、シニカルな光を称える瞳はいつもとは違う色を灯していた。


 ――裏切られた


 叱ってあげよう、褒めてあげよう、慰めてあげよう。


 勝手だと分かっていた、思い上がりだと分かっていたその想いさえ裏切られてしまった。

 そして訪れた怒りと失望と悲しみから、俯いた晶の瞳から一筋の涙がこぼれる。

 しかしそんな晶の思いを更に踏みにじるように、此花はブルームスへと銃口を向ける。


「喜べよ、アンタらの作戦勝ちだ。まあ、捕まってやる気はねえけどな」


 此花は既に目的は済んだと分かるその言葉を紡ぐも、唯一の出口はこうしている間も晶とブルームスが塞いでおり、状況は膠着へと向かっていく。

 此花は状況を見るために動かない、荒事になれていない晶は動く事すら出来ない。

 しかし確固たる意思と手段を問わない精神を持っていたブルームスは、誰よりも先に動き出した。


「だろうな、逃がしてやる気もねえけどな」


 そう言いながらブルームスは晶の首に丸太のような腕を回して、締め上げるようにして拘束する。


「……何してやがる?」

「見りゃ分かるだろ? 投降しろ、じゃねえとこの女を殺す」


 丸太のようなブルームスの腕と鍛えた事のない晶の細い首。

 晶の命に危機が迫っているのは火を見るより明らかであり、勝利を確信しているブルームスはその人形のように整った顔に下卑た笑みを浮かべていた。


「まさかだろ。自分の事を探っていた女のために武器を捨てるとでも思ったか、ブルームス?」

「その気色悪い名前で呼ぶんじゃねえよ、クソチビが!」


 その瞬間、取り繕っていた何もかもを捨て去るように、ブルームスが憤怒の表情を浮かべて叫んだ。

 しかし苦しみからもがき続ける晶以外の2人は、お互いに銃口を向けたまま動こうとしない。銃で殺しあう前の口での戦いはまだ終えていない。


「待ちかねたぜ? お前達の目的を把握するためにお前の動きを待たなきゃならなかった、お前の依頼人を知るために殺しはNGだった、その上こんな気色悪い名前を名乗らされてた。心から最悪な日々だったぜ」

「……アンタ、誰だ?」


 滔々と語りだしたブルームスに、此花は初めて表情をゆがめて問い掛ける。

 自身を知っているような口調、あまりにも幼稚な嫌がらせ、気持ちが悪いほどに正体不明のその大男。


 赤の他人というにはあまりにも深い妄執、仇敵というには見知らぬ顔の男。


「分からねえよなぁ? お前が俺の顔を台無しにしやがったからな!」


 そう言いながらブルームスは此花の問い掛けに答えるように、ミリタリージャケットの左袖を乱暴に引いた。

 その腕にあったのは白、青、赤のトリコロールカラーのバングルだった。


「……やっぱりあの時、殺しておくべきだったな」

「でももう手遅れだぜ、クソチビ! お前を半殺しにして社長スミスの所へ連れて行く! 予告通り死んだ方がマシだってくらいの後悔をさせてやるよ!」


 バングルを見るなり警戒を1段階深める此花、自身の勝利が揺らぐ事はないと晶を立てにするように締め上げ続けるブルームス。

 その理解の出来ないやり取りと、太い腕で締められる首の息苦しさ、背中に押し付けられる星が彫られたバックルの痛みの苦痛に、晶は引き剥がそうと必死に掴んでいたブルームスの腕をついに放してしまう。


 その痛みと苦しみが、踏み込まされてしまったこの世界では晶の命など塵芥のような物だと晶に理解させるのだ。


「アキラ、最悪な光景を見たくなけりゃ目を閉じてろ」

「心配すんなよ、中身はぶちまけないように上手くやってやるよ」

「そうじゃねえよクソッタレが。いいかアキラ、もう1度だけ言う――最悪な光景を見たくなけりゃ目を閉じてろ」


 酸欠から朦朧とし始めた晶の頭に印象的に響く此花の声。

 結論の出ない混ざり合った奇妙な感情を押し込める、此花の言葉から生まれた不思議な安心感。

 それに従うように晶はゆっくりと目を閉じた。


「お前にとって最悪でも、俺にとっては最高なんだよ! クソチビが!」

「最後にアンタにも忠告してやるよ――いつ俺が1人でここに来たって言った?」


 そう言いながら此花が指を鳴らした瞬間、ブルームスは敵襲に備えて締め上げている晶を振り回すように扉へと銃口を向けて向き直る。


 しかし、そこには誰も居ない。


「そう、言ってないよな。仲間を連れて来たとも言ってねえけどな!」


 そう叫んだ此花は一気にブルームスに駆け寄り、両手で握った拳銃のグリップをブルームスの後頭部へと叩きつけた。

 反射的に自身へと銃口を向けるブルームスの顔を、此花は銃を握った左手で裏拳のように殴り返す。

 銃口を向け合っていた数分前からは想像出来なかった突然の殴打に、晶を締め上げていたブルームスの腕は緩み、此花はブルームスの脇腹を蹴り飛ばして酸欠から顔色が悪くなっている晶を乱暴に抱き寄せる。

 そして晶が自身の言っていた通りに目を閉じていたのを確認して、左腰を軽く殴って金属を落として無数の銃声を聞きながら此花は走り出した。


 頭を殴られたことにより揺れる視界の中で背中を見せて走っていく此花に、ブルームスは頭を抱えながら銃口を向ける。

 平衡感覚を犯されていようと確実に当てられる距離、そう確信したブルームスが引き金を引こうとしたその瞬間、シニカルな声が愉快そうに告げた。


「プレゼントだ。クリスマスにはまだ早えけど、イルミネーションの準備にはいい時期だろ?」


 そして乱暴な光が炸裂する。シアングリーンの全てを焼き尽くすような光が。

 此花はその光から逃れるようにプラント群の1つに身を隠し、光と収まるのと遠くに聞こえる言葉にならない怨嗟を確認しながら、抱かかえていた晶に囁きかける。


「もう目を開けていい」


 晶はその言葉に恐る恐る目を開く。

 最初にその視界に飛び込んできたのは、自身を抱かかえているその男の暗い青の瞳。


「あなたは誰なの?」


 知っている男でありながら知らないその色に、晶は思わず問い掛けてしまった。

 そして男はシニカルで不適な笑みを浮かべて晶に告げた。


「初めまして、アキラ・コウガミ。俺が本物のレイ・ブルームスだ」

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