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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Judgement To [All] Another
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Remember [Flame] 4

「まったく、どうしてこんな所に居なければならないのかしら」

「カルメ、そういう事を言うんじゃない」

「だって、ミスター・カスパロフの私兵、レッド47の首領、私達持ってきた最新鋭の戦車。それだけの戦力があって誰に怯える必要があるのよ?」


 穏やかにたしなめてくるマルセル・ピムズラーに、カルメ・ピムズラーは不機嫌だとばかりにブリュネットのカーリーヘアの毛先をいじりながら答える。


 イヴァンジェリン・リュミエールが現代兵器に残した影響は大きかった。

 D.R.E.S.S.、複雑系アクチュエーター、超小型電力増幅回路、粒子兵器。

 そして優秀な個によって、有象無象がのさばる戦場を塗り潰すという思想。

 今回ピムズラー夫妻が仕入れ、アゼルバイジャンまで運んだ戦車にはその思想が適用されたものだった。


 イヴァンジェリン・リュミエールの自衛手段、ピグマリオン。

 その無人D.R.E.S.S.を、イヴァンジェリンは体内に埋め込んだ非武装D.R.E.S.S.アブネゲーションによって操作し、戦場を思いのままに塗り潰していた。

 世界を拒絶した天才の思考など誰もが理解は出来なかったが、まるでチェスのように駒を進めるだけの戦争は軍需企業を強く刺激したのだ。


 しかしその言葉通り、誰もがイヴァンジェリンの考えを完璧に理解する事は出来ず、誰もが回収されたピグマリオンの残骸に新たな技術を求めて殺到した。

 特殊信号暗号化変換機、隠されているかもしれない粒子兵器、他のD.R.E.S.S.とは一線を画していたリベリオンへのヒントを求めて。


 もしかしたら、D.R.E.S.S.が復活できるかもしれない。


 何度D.R.E.S.S.を新造しようと、世界中に散らばったアブネゲーションシステムが許されなかった彼には、ピグマリオンの残骸こそが唯一の希望だったのだ。


 だが、その残骸にクラックとの大きな差異はなかった。

 見つけたものは2つだけ。1つはイヴァンジェリン・リュミエールは、リアルタイムで全てのピグマリオンを操作していたと言う事。もう1つは炸裂(バースト)という流用出来そうにもない特殊コマンド。

 思い返してみれば、撃破したディファメイションの残骸を回収したイヴァンジェリンが、愛しの傭兵を追い詰めるような物を残していくわけがないと誰もが理解した。


 ヒントを得る事が出来なかった軍需企業達はソフトの開発から始め、4年の時を経てようやくリモートコントロールを可能にした戦車の雛形を作り上げたのだ。


「私もミセス・ピムズラーのお考えはもっともだと思いますが」


 ケイシーはそう言葉を切り、意味深な視線をカスパロフへと向ける。

 侵入者に殺された者達はカスパロフの部下であり、ケイシーがカスパロフに抱く感情など1つしかなかった。


「何が言いたいのかね、ミス・ライモン?」

「私の部下達、元アメリカ国防軍の精鋭達が居ればこのような結果にはなりませんでした。そう申し上げたいのです」


 そう言ってケイシーは、レッド47との同盟を渋っていたカスパロフを鼻で笑う。

 過去に裏切りによって死に掛けているカスパロフは、内部からの裏切りを恐れていた。


 だからこそカスパロフは最新鋭の兵器を常に買い求め、ピムズラー夫妻とケイシーはアゼルバイジャンまで訪れたのだから。


「……ならばこの現状を打破してくれたまえ。結果によっては同盟を承認し、一部の武器を無償で与えても構わない」

「その言葉をお忘れになりませんよう。では、市街地で待機させている部下達を――」


 第三者が居る場で取ったカスパロフの言質に、ケイシーはポケットの携帯電話へと手を伸ばす。


 しかしその言葉も、行動も、何もかもが途切れさせられてしまった。

 誰かに遮られた訳でもなければ、誰かが異を唱えた訳でもない。


 ただ、カスパロフとケイシーの体は、壁ごと合金の塊によって叩き潰されたのだ。


 突然の轟音、繰り出された暴力、呆気ないほどの死。

 その化け物は、確かにそこに存在していた。


「……けないでよ」


 カルメは咄嗟に庇うように、自分を抱き締めたマルセルの腰に腕を回しながら呟く。


 建物に空けられた大穴、そこから覗く戦車の残骸とシアングリーンのマシンアイ。

 噂には聞いていた。戦車ブローカーという家柄からシアングリーンの目の意味も、その目的も理解していた。


「ふざけないでよ」


 かつていいように利用し、期待を裏切られた傭兵。

 パーフェクト・ソルジャーの息子を独占していた優越感も、死んでもおかしくなかったあの恐怖も、自分を救い出した暴力の炎もカルメは覚えていた。

 そして再度振り上げられた五画柱のような合金の塊が何を意味しているのか、カルメは考えるまでもなく理解していた。


「ふざけんじゃないわよ、レイ・ブルームスゥッ!」


 見当違いな怒りも、誰よりも高みへ辿り着いた男への嫉妬。何もかもを内包したヒステリックな喚き声は、振り下ろされた質量によって躊躇いもなく掻き消された。

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