Return The [Party] Clasher 3
無数のLEDだけが照らすサーバールーム内で小玲は深いため息をついていた。
小玲の頭を悩ませている事は2つ。
1つは簡単に進入できた時に限って、面倒ごとが待ち構えているという師の言葉。
もう1つは今こうして奪っているデータを開示しない"エイリアス"の自分への処遇。
レイの口添えがあって任務に従事している自分を、イヴァンジェリンが殺さないという事は知っている。
イヴァンジェリンが自分を生かしている理由が、世界中の新兵器の破壊工作させるためという事も知っている。
それでも、イヴァンジェリンが事故、あるいは小玲のミスに見せかけて自分を殺すつもりなのではと小玲は疑いを持ってしまっていた。
小玲が民間軍事企業ドラゴンズ・ドリームで受けてきた教育は戦場においてのものであり、対象の施設の潜入や工作の心得はない。たった1人で戦況を変えられるレイとは違うのだ。
しかしレイと名乗っている小玲は嫉妬狂いの化け物であり、イヴァンジェリンの傀儡に過ぎない。
逆らえば今手にしている何もかもを失い、レイに知られない形で殺されるかもしれない。
晶・鴻上の手料理を食べながら、晶・鴻上を殺すべきか悩んでいた小玲だからこそ、命の軽さも誰かを殺す事の容易さも理解していた。
やがてサーバーに接続していたデバイスがLEDの点灯をやめ、小玲は手早くデバイスを回収してボディバッグに入れる。
残された任務は機動兵器の破壊だけだが、用意された物資の中にプラスチック爆弾はなかった。
つまりは派手に壊して身の程を思い知らせろ、という事。
裏を返せば、それくらいの事は出来て当然だ、という事。
期待を掛けられていると解釈すべきか、背負ってしまった義務の重さを嘆くべきか。
馬鹿馬鹿しい、と嘆息した小玲はフィールドジャケットの懐からワルサーPPKを取り出す。
民間軍事企業H.E.A.T.に所属していた頃のレイの任務はより過酷で、一切の援護がなかったどころか味方と依頼人に裏切られた事もあったそうだ。
そんなレイからいくつもの教えと使い込んだ銃を授けられ、イヴァンジェリンの支援を受けてここまで無傷で侵入した小玲に失敗は許されず、その期待を裏切る事もあってはならないのだ。
レイが口添えをしてくれなければ意思のない傀儡まで落とされていた、レイの恩情がなければ2度と会う事すら出来なくなってしまうのだから。
左手首のバングルに触れて生体センサーを起動した小玲は、力ずくで鍵を壊した扉をゆっくりと開く。
センサーの感知した反応は遠く、突破するなら今の内だと判断した小玲は、足早に工場区へと足を進める。
施設はハンガーを中心に囲うように作られており、作っている機動兵器とは裏腹にそう大きくはないものだった。
すぐに目的地に着けるという点では幸運とも取れるが、360度全方向から攻撃を受けるという点ではこの上なく不幸。小玲は速やかに対象を撃破して、脱出しなければならない。前回の任務でレイが助けてくれた事はこの上ない施しだが、小玲にはレイから1歩遠ざかってしまった失敗でもあるのだから。
やがて廊下の中央側の突き当りまで辿り着いた小玲は、分厚いガラスの向こうを覗き込む。
高く聳え立つ合金の檻の中にそれは囚われていた。
戦車を4台並べたような巨大なキャタピラの脚部。
両手に2砲ずつ並べられた無理矢理付けられたのだろう戦車砲。
D.R.E.S.S.であればソフトと纏い手を孕んでいた胴体部にはシールドガラスで囲まれた操縦席、その上には円形のマシンアイが複数並べられた頭部が収められている。
バングルから兵器へと変換されるD.R.E.S.S.とは大きく違う、無様でありながら重厚な合金製の武器。
その不恰好な合金の塊こそ、人類が見よう見まねで作り上げた新しい暴力の形だった。
小玲はバングルの生体センサーで辺りを探りながら、近場のガラス戸を開けてハンガーへと侵入する。
機動兵器を破壊対象であるパーティ・クラッシャーと断定した小玲は、身を屈めながらパーティ・クラッシャーの正面へと回り込む。
派手に登場し、理不尽に破壊し、颯爽と逃げていく。
それが嫉妬狂いの化け物に課せられたルールだった。




