Return The [Party] Clasher 2
「ルードとナーヴスの残骸? D.R.E.S.S.は全て機能停止したはずなのに」
「君の青いD.R.E.S.S.を除いてね。確かにD.R.E.S.S.は全て機能停止をして兵器としての価値を失ったが、その技術は未だ価値を失っていない。僅かな電力で巨大な鉄の鎧を動かすエネルギー転換率、その巨体に精密動作をさせているコントロール系統とアクチュエーター技術。君の主がもたらした技術はどう見積もっても、人類にとってのオーバーテクノロジーだ」
どこか呆れたような口調でそう言いながら、ノウマンは空いていたグラスにスコッチを注ぐ。
戦車であれば戦車長、操縦手、砲撃手、装填手が必要なところを、D.R.E.S.S.はたった纏い手1人と当時13歳の少女が作り出したソフトだけでより高精度な動きをしていた。
それらを司る何もかもが人類の進化から外れたものであり、一足も二足も飛ばせた技術なのだ。
未だガソリンで走る車を覚えているノウマンにとって、イヴァンジェリンは新しい技術をいくつも生み出した稀代の天才であり、同時に国家という枠組みを破壊した最悪のルールブレイカーだった。
「さて、ここで1つ問題といこう。運び込まれたおよそ10機程度のD.R.E.S.S.の残骸、1度も外には出されていない新型機動兵器。そこから導き出される答えは?」
「……その機動兵器が巨大過ぎて運用に苦労している、でしょうか」
「その程度の答えなら即座に出しておくれ。"君ではないレイ"なら、即座に相応しい答えを出したんじゃないかな」
「で、し、た、ら、あなたの答えを聞かせていただきましょうか。大層ご立派な推理力をお持ちみたいですし」
見下している訳ではないが確実に見くびっているノウマンに、小玲は口角をヒクヒクと痙攣させながら問い返す。
気の短さと根に持つ性分、それはあの師あってのこの弟子と言えた。
恐い恐いとノウマンは降参するように両手を上げ、おどけた表情のままシャオレイの質問に答える事にした。
「その機動兵器は10機から剥ぎ取ってきたパーツでは足りないほどに巨大で、そのために物資と人手不足で未だ完成していない。そして"とある存在"を恐れて表に出す事に躊躇している、と言ったところかな」
「……嫉妬狂いの化け物に?」
「正解。サンドキャニオンの兵器工場を破壊され、生き残りは場違いな反戦論者ただ1人。未だ最強の兵器であるソレは恐くて恐くてたまらないだろうさ。それにD.R.E.S.S.が機能停止し、データは全て失われたた。だからこそ失敗を繰り返して、パーツが次々と必要になっているとも考えられる」
小玲は気に入らないながらも、ノウマンの仮説に頷かざるを得なかった。
場違いな反戦論者ただ1人が生き残ったあの襲撃で動いたD.R.E.S.S.はアナイアレイションだけではなく、ヴェンジェンシア・アグレッシャーで急行した"未確認のD.R.E.S.S."もだ。
量産機でオブセッションというワンオフ機を撃破し、更にはリベリオンという最強のD.R.E.S.S.を所持しているレイが恐くない人間など、国家という枠組みを失ったこの世界では残り少ない潔白な人間だけだった。
その挙句にアナイアレイションという新兵器を破壊して回っている粗暴な厄介者が居るとなれば、切り札の破壊を恐れた相手が機動兵器を秘匿してもおかしくはない。
「では、あの場所で作られてた兵器はその新型機動兵器のための兵装だと?」
「粒子兵器なんかを戦車に取り付けられるとでも思うのかい? それは枯れた樹木をクリスマスイルミネーションで飾るようなものだよ――ところで、君はパーティ・クラッシャーという兵器を知っているかい?」
「クラスターミサイルの種類かなんかですか?」
顎に手をやりながら考えた小玲の答えを、ノウマンは首を横に振って否定する。
「過去に分裂したプロジェクト・ワールドオーダー陣営の片割れが所持し、レイ・ブルームスが破壊したワンオフのD.R.E.S.S.だ。公安が持っていた情報によると、リベリオンや君の青いD.R.E.S.S.よりも超大型のD.R.E.S.S.だったらしい」
「そのD.R.E.S.S.が隠されているって事ですか?」
「少しは自分で考えたまえ。パーティ・クラッシャーはあくまでD.R.E.S.S.で、現状動くD.R.E.S.S.は君の青いD.R.E.S.S.以外発見され――」
「アナイアレイションです」
「新しい情報をどうも。現状動くD.R.E.S.S.はアナイアレイション以外発見されていない。これだけ世界中の新兵器を破壊して来たイヴァンジェリン・リュミエールが、自分の手駒以外のD.R.E.S.S.を見逃すとも考えられない」
売る事は出来ない新たな情報に思わず苦笑を浮かべながら、ノウマンはグラスを満たしていたスコッチを煽る。
世界は変わり、粛清者が変わっても、その味だけは変わらずにノウマンと寄り添い続けていた。
スモーキーフレーバーを孕んだ吐息をつき、ノウマンはグラスを置いて新聞紙を手に取る。
息子は今でも報道を続け、嫉妬狂いの化け物に関する記事を書き続けている。
もっとも内容はその破壊活動を賛美するようなものであり、こうして情報をせびられているノウマンにとっては複雑なものだったが。
「答えは君が出せ。ついでにイヴァンジェリン・リュミエールに情報屋は今日で廃業だと伝えておいて――」
間を繋いでくれるはずの仲介者は消え、遮られるように返された答えは扉を乱暴に閉める音。
新聞紙を改めて折り畳んだノウマンはかつてと同じように、分無作法極まりない客人にため息をついた。
「……自分勝手さは師そっくりじゃないか、"小玲・薛"」




