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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Judgement To [All] Another
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World Needs [Next] Hero 6

 いくつもの命が吹き飛ばされた戦場で、両手を手錠で拘束されたままのウーゴがフラフラと立ち上がる。

 荒野に刻まれたいくつものクレーター、燃え盛る戦車やジープ、その大半を失った兵士達の死体。


 ウーゴの目の前で起きていたのは、正しく戦争だった。


「……ははっ、やった。やった、生き残ったんだ! ざまあみろってんだ、戦争屋共が!」


 そう叫んだウーゴの血まみれの顔には、歪んだ笑みを浮かんでいた。


 レイと名乗ったその少女を1人で敵の中枢へ行かせる事に抵抗を感じたウーゴは、単身でサンドキャニオン軍需工場への潜入を決行していた。

 D.R.E.S.S.を持っているとはいえその少女は明らかに未成年であり、反戦家の何もしないのは間違っているのではないかと思えたのだ。


 しかし結果としてウーゴは捕らえられてしまった。

 顔を殴られ、腹を蹴られ、ライフルの銃床を打ち付けられた体は痛みと恐怖から小刻みに震えていた。

 だというのに死んだのは悪逆非道の兵士達であり、戦争という悪を駆逐しようとしている自身は生き残った。

 ウーゴはその立役者である小玲の存在を背後に感じて、労を労うべく振り向く。


「ああ、お礼を言ってなかったね。助けてくれてあり――」


 ウーゴが紡ごうとしたその言葉は、突然生じた激痛によって遮られる。

 自身の体から鳴る鈍い音をどこか遠くに聞きながら、ウーゴは荒野へと倒れこんでしまった。


「余計な事をするなと忠告したはずです」


 再び訪れた激痛と暴力の気配に体を震わせながらウーゴが視線を上げると、拳を握って自身を見下ろしている小玲が居た。

 小玲の言葉と殴られたという事実に、ウーゴは自身の立場のまずさに気付く。


 ダイナーで別れたあの時、小玲は確かに「邪魔をするな」と言っていたのだから。


「で、でも、僕は君が心配で――」

「お前は私の情報を敵に洩らした、だからあいつらは戦車を用意して私が出てくるのを待ち続けていた。違いますか?」


 その言葉に黙り込んでしまったウーゴに、小玲は苛立たしげに舌打ちをする。


 世界で唯一D.R.E.S.S.を所持しているグリーンアイドモンスターがここに居る。

 その情報を洩らされてしまった以上、小玲は急いでここから離れなければならない。


 D.R.E.S.S.という兵器はあまりにも魅力的で、あまりにも蠱惑的なのだから。


「どうしようもない"クソヤロウ"ですね。大体、人の死を喜ぶなんて結局お前も奴らと同じ穴の(むじな)です」

「ちがう! 僕はあんな連中と同じなんかじゃない!」

「同じですよ。いや、それよりもっと酷いかもしれませんが。いっそ死んでくれていれば良かったのに」


 そう憤慨しながら起き上がろうとするウーゴの顔を、小玲はコンバットブーツで思い切り踏みつける。

 横顔に押し付けられるコンバットブーツの硬さにウーゴは呻き、小玲は何も分からないまま自身を追い詰めたウーゴに深いため息をついてしまう。


「活動のためにいくらもらっているんですか? 理想を語りながらも失ってしまう収益に頭を悩ませていたのでは? 自分のパトロンの正体を実は知っているのでは? 金のための活動が世界を救うなんて、いいお仕事ですね」


 D.R.E.S.S.という戦力が消えてしまった上に、核によってあらゆる地域がが焦土と貸した国家。

 戦争をするには兵器の備蓄が必要となり、国家という枠組みに依存することなく生きることを選んだ人々は民間軍事企業という形を取って戦力の補強に努めていた。


 しかし個人で武器を集めるという事は困難であり、民間軍事企業は生産の他に他者の妨害という手段を視野に入れた行動を始めていた。


 それは反戦活動家の活動支援という形で行われ、反戦活動家達の敵対者は民間軍事企業から軍需工業へと変わっていった。


 いまやウーゴを初めとした反戦活動家達は、新しい戦争の尖兵と成り果てていたのだ。

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