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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Reveal To [Oblivion] Egomania
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Persist Pathetic [Pessimist] 2

「傭兵も風邪を引くんだね、なんかビックリ」

「……フィオナ、アンタ俺の事なんだと思ってやがるんだ」


 突拍子もない事を言い出したフィオナに、ベッドで横になっているレイは不愉快そうに眉間に皺を寄せる。

 ディスプレイするように整頓されたアクセサリー達、綺麗に整頓された服や映画の映像ソフト、十字架の革パッチが貼られたブラックレザーのソファ。

 棚から何から何まで黒で統一された室内で4人の女達がベッドを取り囲んでいた。


「ただの風邪引きよ。まったく、真夏に風邪を引くなんてどうかしてるわ」

「好きで引いたんじゃねえよ。大体、たかだか風邪程度に大げさ過ぎんだよ」

「ナノマシン頼りの健康維持でよく言うわ――外出禁止期間の延長、熱が下がるまでは安静にしておくこと。以上が社長からの命令よ、肝に銘じておきなさい」


 呆れたようにそう言いながら、晶はレイの額に濡れたタオルを乗せる。

 時代遅れの体温計のディスプレイには38度5分という決して低くない体温が表示されており、その事を報告した晶はイヴァンジェリンによってそれらの命令をレイに代わって言いつけられたのだ。


 もっとも、雇用主である本人はラボに篭もったまま、レイの顔を見に来る様子すらないのだが。


「そういえば夏風邪を引くのはバカだって聞いた事があるであります。もしかしてシャオをバカにしている師叔(スース)が1番の――」

「お座り、ですわ」


 思いついたとばかりに身を乗り出す小玲に、エリザベータは視線を向けることもなく告げる。

 それは静かにして欲しいというお願いではなく、黙っていろという命令だった。


「しゃ、シャオはワンコじゃないでありますよ!?」

「お座り、ですわ」

「え、いや、その――」

「お座り、ですわ」

「……ワンワン」


 エリザベータの発する威圧感のようなものに圧された小玲は、大人しく部屋の隅で正座をする。

 サイドに1つに纏められた茶髪は消沈した小玲の胸中で表わすように垂れ、今は止められている冷房で冷えた床にむき出しの足はビクリと震える。


 しかし小玲の精神は別の悪寒に囚われていた。


 身長こそ大いに負けてはいるが、華奢なその体躯に力負けする事はない。

 いくつもの戦場を無様であっても生き抜き、手加減されているとはいえ世界最強の銃口を向けられてきた勘が叫んでいるのだ。


 その女とは絶対に何があっても敵対してはならない、と。


「しかし困ったわね。これからちょっと出掛けないといけないのだけど……」

「出掛けるって、護衛は大丈夫なのか?」

「社長がピグマリオンを持たせてくれるそうよ。レイ君の外出禁止が決まってからずっとお願いしてたのよ」


 晶は心配そうに体を起こそうとするレイを、立てた人差し指で突き出して制す。


 安静を言い渡した後での行動とは思えないが、それでも心配してくれているのは彼の優しさ。

 その優しさが嬉しくない訳ではないが、晶はレイに辛そうな顔をさせて心配されるのはゴメンだった。


「だったら、レイ兄さんはあたし達で面倒見ときますか?」

「ごめんなさい、そうしてもらっていいかしら?」


 フィオナの提案に晶は両手を合わせる。

 用事自体はそこまで時間が掛かる訳ではないが、風邪薬を平気でコーヒーで飲もうとするレイを晶は手放しで放っておく事は出来なかったのだ。


「お任せ下さいまし。レイさんの事はわたくしが責任を持って面倒を見ますわ」

「あたし達ですよ。国家間の関係に中立の立場を守らなきゃいけない国連の人がやる事じゃないでしょ、エリザベータさん?」

「失礼いたしましたが、わたくしは国籍で人を差別をした覚えはなく、エリザベータ・アレクサンドロフという1人の女としてここに居ましてよ?」

「そう言うのなら、なおさら回りを見なきゃいけませんよね。エリザベータさんがただ1人の女の人のつもりでも、レイ兄さんはそういう訳にはいかないんだから」


 相変わらず抜け駆けに躊躇いのないエリザベータに、フィオナは笑みを浮かべて告げる。

 まるで病床に臥している誰かのようなその笑顔は牽制するようなものだったが、エリザベータは優美な笑みを浮かべて困ったよう華奢な手を頬に当てた。


「……わたくしが浅はかでしたわ、お許しあそばせ――それにしても、随分ご弁舌が立つようになりましたのね」

「何もしないで欲しがるだけってのはもうやめたの。勉強して舌が回るならいくらでもやればいいし、家には優秀な教師が多いから勉強するには最高の環境なんですよ」


 予想外のカウンターを入れてきたフィオナに、エリザベータは思わず言葉を失ってしまう。


 見下していた訳ではないが、取るに足らないという評価を下していた少女。

 不意打ちとはいえ、その少女はエリザベータを口先だけで負かして見せたのだ。


 そしてエリザベータは獲物を捕捉した猛禽のように、青い双眸を輝かせる目をすうと細める。


 フィオナ・フリーデンというテキサスで泣き喚いていた少女は、言の葉の刃を隠し持つ女へと成長してエリザベータ・アレクサンドロフという革命の魔女と相対しているのだから。


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