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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Talk To [Alias] Messiah
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Drunk It [Poison] Blood 3

「……どういうつもりかしら、ブルームス君。わたしは言ったはずよ、その"ふざけたスーツを職場に着てくるな"と」


 広大な敷地に建てられた社屋にある、そう広くはない部屋。

 その部屋は鴻上製薬第1総務部室であり、目の前に立つ大男にそう告げるアキラ鴻上コウガミは、社長令嬢にして第1総務部部長だった。

 鴻上製薬が1流企業になる前から社で働いていた晶は、血筋によって与えられるポストよりも自身の実力で社を発展させていく事を望み、その結果実力だけで第1総務部部長の座を射止めた。


 そんな晶の仕事は大きく3つに分けられる。

 1つ目は総務部部長としての通常の仕事。

 2つ目は社長令嬢である自身が率先して働く事により、役員の縁者である事を傘に着て働かない、解雇する事も厄介な社員達を働くよう促すという仕事。

 そして3つ目は超短期間で1流企業へ上り詰めた鴻上製薬の情報を盗もうとしている、産業スパイを炙り出すという仕事だ。


 そのため第1総務部には役員の縁者である理佳リカタツミ紅蝶ホンディエリュウ、そして時期外れの新入社員であり同時に産業スパイとしての疑いを掛けられている麗子レイコ花里ハナザトサトシ此花コノハナ、そしてレイ・ブルームスを抱える超少数の部署となっていた。


「いや、俺これしか持ってないんですよ。でもこれ格好良くありませんか? 光に当ててよく見ると蛇柄がうっすらと――」

「うちの会社には外国人が多い、だから服装規定にも比較的寛大よ。それでもその21世紀最初期のホストみたいなスーツは認められないわ――それに今まで着ていたスーツはどうしたのよ?」

「全部捨てました。こっちの方がずっと格好良かったんで」


 あくまで飄々とした態度で受け答える金髪碧眼の大男を睨みつけながら、晶は上司として再三告げた注意勧告を繰り返し、ついには頭を抱えてしまいそうになる。


 染められていない自然な金髪に文句をつける気はない。

 宗教上の理由でその肩まで伸ばされた髪が切れないと言い、それを人事部が許可したのであれば文句はつけられない。

 それでもその光沢感のある蛇の柄が入ったスーツを職場に着て来る事が間違っていると、晶にはっきりと理解出来ていた。


「いいじゃないですかぁ、すごく似合ってますしぃ」

「あのね、会社はファッションショーをする場所ではないのよ? 秘書課の人達が綺麗に飾り立てるのと、ブルームス君のこのスーツでは大きな違いがあるのよ」


 一目で脱色したと理解出来る金髪をサイドテールに纏め、白いスカートスーツを身に纏い、間延びする口調でブルームスに賛同する巽に、あきれ果てたとばかりにため息をつきながら晶は丁寧に説明をする。

 ハイスクール卒業後すぐに鴻上製薬で働き始めた晶には、常軌を逸するほどに箱入りに育てられた巽の思考が理解が出来ない。


「でも見た目が良い方が皆気分良くないですかぁー?」

「あなたが言っている見た目が良いと、世間の考える見た目が良いとは大きな違いがあるのよ。少なくとも鴻上製薬はそんなスーツを推奨していないわ」

「それって本当に社の総意なんですかぁ? そんな事言ってるの、理佳は部長しか知りませんよぉ?」


 取り繕った笑顔を浮かべたまま巽が向けてくる挑むような視線に、晶はブルームスがもたらした悪影響に深いため息をつく。

 元から第1総務部に居た巽は物分りの悪い部下に戻り、劉は無断欠勤を平気で繰り返すようになってしまった。

 不幸中の幸いにもブルームスと同時期に入社した花里と少し遅れて入社した此花の両者はブルームスの影響を受けず、晶がこうしてブルームスと巽に説教をしている間も真面目にデスクに向かっていた。


「こんな格好している人間が居ない事くらい、周りを見て分からないのかしら? 常識を1つ1つを教えるような人が居る訳ないじゃない。ここは学校じゃなくて会社、ここに居る人達は先生じゃなくて社員なの。それでも嫌ならそのスーツを認めてくれる他の会社へ行きなさい。わたしも会社も絶対に止めないわよ?」


 人差し指でデスクを叩きながら告げる晶の正論に、返す言葉も無い巽は笑みを崩して黙り込む。

 こうしている間にもブルームス、巽、そして晶がこなすべき仕事を、入社間もない花里と此花が2人でこなさせてしまっている事実が晶を苛つかせている。

 今までにも巽と劉とのようにコネで入社し真面目に仕事に取り組まない社員は多数居たが、その全員が今では別の部署で責任ある仕事を任されている。しかし巽と劉にはその片鱗も晶には見えないのだ。


「じゃあ部長、俺はどうすればいいですか?」

「今日は有給にしておいてあげるから、スーツを買って帰りなさい。うちの社にホストを飼っておく部署は無いのよ」


 半ば苛立った声でそう問い掛けてくるブルームスに、晶は最大限の譲歩を提示する。

 ブルームスが産業スパイである可能性、そしてそうであった場合にバックを聞き出し、その上で上層部にその身を預けなければならないために見極めるための時間が必要なのだ。


 ――ブルームスのバックには何かが存在している


 レイ・ブルームス。26歳。カナダ人。

 国内の大手の建設会社からの転職者で、転職理由はより大手である鴻上製薬に入社してキャリアアップをするため。

 花里と此花とは少し毛色の違う、不自然な理由と途中入社。

 あれだけ目立つ風貌で、波風を立てようと注意も何もしてこない人事部。

 理解させられてしまっている疑うなという方が難しい材料に、晶はブルームスに疑惑の目を向けていた。

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