If [Nine] Was [Six] 7
「……やっと来たか」
扉の向こうに人の気配を感じたレイは、アイリーンのライダースジャケットから手を離して呟く。
レイが守らなければならない存在は、D.R.E.S.S.を持っていない非戦闘員だけではないのだから。
そして扉が開き、金髪をサイドバックに流した壮年の男――ジョナサン・D・スミスが今度こそ現れた。
「すいません、遅くなってしまいましたね」
「よく言うぜ、娘を寄越す余裕はあったくせに」
「さて、何の事でしょう?」
とぼける様子も見せずに何やら準備を始めたジョナサンに、レイは舌打ちをしながら椅子に腰を下ろす。
壁に掛けられたディスプレイはゆっくりと起動を始め、頬を赤らめていたアイリーンは恐る恐るレイの隣に腰掛ける。
本人とエルマ以外の誰もが知らないが、誰彼構わず救って来たアイリーンが誰かに恋愛感情を持つのは初めてだったのだ。
しかも初めての相手が10歳も年下とあれば、冷静で居られないのも無理はないだろう。
「それより早速ですが、お2人にご足労いただいた件について説明を始めさせていただきます」
「珍しいじゃねえか、無駄な前置きがねえなんて」
「……無駄な話をした覚えはありませんが、まあいいでしょう。これからする話はそれだけ大事な話という事です」
そう言いながらレイ達の方へと向き直るジョナサンに、レイは不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
エフィボフィリアという下劣な性癖を持ったジョナサンの視界に、十代の少女にしか見えないアイリーンを収めさせるのはただただ不愉快だった。
娼婦として体を売っていたとはいえ、8歳のアネットを抱いていたジョナサン。
アルコールを購入しようした際に拒否されるどころか、勘違いした店員に説教までされていたアイリーン。
その2人を知っているレイにはジョナサンが敵にしか思えないのだ。
「まずはこれを見てください」
レイに敵視されているを知らないジョナサンは、たどたどしい手つきで手にしていたタブレットを操作してディスプレイにデータを表示する。
星条旗のカラーリングに彩られた流線型の装甲、両手に1丁ずつ握られた巨大なバトルライフル、その背中に生える無数の銃身で構成された翼。
D.R.E.S.S.だという事は分かるが、挙句の果てに胸に星を描かれた正体不明の巨体にレイは顔を引きつらせてしまっていた。
ルードでもなく、クラックでもなく、ナーヴスでもない。分かる事は一対多を目的としているだろう設計思想だけ。
だがその巨体は紛れもなくD.R.E.S.S.だった。
「……なんだこのキャプテン・アメリカかアイアン・パトリオットの紛い物は」
「アメリカ国防軍が開発した最新にして最強のD.R.E.S.S.、プライマル・セイヴァーです。私はファスフォルスがいいと言ったんですがね」
「知るかよ。それで、アンタはこのデカブツの自慢がしたかったのか?」
残念そうに眉尻を下げるジョナサンに、どちらにしろセンスは最悪だ、とレイは肩を竦める。
そもそも、アメリカ国防軍の所有物にギリシャ語の名前がつけられる訳もないのだが。
「レイ君にはプライマル・セイヴァーを使用して、とある2名のテロリストを殺害してもらいます」
「冗談じゃない、ダガーハート小隊はこの話は降りさせてもらう」
当然のように告げられたとんでもないジョナサン通告と、珍しく怒気を孕ませたアイリーンの声にレイは驚愕から目を見開く。
怒るよりも諭す事を選び、出会って間もないレイの為に命を捨てようとしたお人好し。
ジョナサンを敵と断定していたとはいえ、そんなアイリーンが怒った事などレイは見た事がなかったのだ。




