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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Reveal To [Oblivion] Egomania
370/460

If [Six] Was [Nine] 6

「……なんなんだよ、マジで」


 全身のあらゆる所に圧迫感を感じながら、レイは嘆息混じりの言葉を吐き出す。


 珍しく早く目が覚めた朝。

 たまには晶の手伝いでもしようとキッチンに向かっていたレイは、女達によって確保さて応接間へと連行された。

 そして応接間に辿り着き、ソファに座らされたレイは嫌な予感に顔を強張らせる。


 先日購入したクロムハーツのFワードが縫い付けられたキャップか、それとも断りもなしに買い物をした事か、それとも注文すべきか悩んでいるブーツの話か。

 どんな弾劾(だんがい)裁判が待ち受けているのかとレイが覚悟を決めようとした瞬間、女達は動き出した。


 フィオナはレイの右腕を抱き寄せ、エリザベータはレイの左腕を抱き寄せ、晶は対面のソファに腰を掛けて意味深な視線を向け、イヴァンジェリンはレイの背後から首に腕を回して抱き寄せ、小玲は正面からレイを抱きしめようとしてエリザベータに床へと叩き落された。

 棘のある言葉を覚悟していたレイが、その代わりに温もりを寄せられたのだから戸惑ってしまうのも無理はない。


「……夢見が悪かったんだ、仕方ないだろう」

「ガキじゃねえんだ、それくらいで引っ付いてくんじゃねえよ」


 どこか拗ねたように告げるイヴァンジェリンに、レイはかろうじて動いた肩を竦める。

 後頭部に感じる豊かな膨らみに忌避感を感じる事はないが、理解出来ないまま体を拘束されているのをレイはどこか気持ち悪く感じていた。


「いいじゃん少しくらい。こっちは全然タイプじゃないマッチョと結婚させられそうになってたんだから」

「知らねえよ、それだって夢の話だろ?」


 その夢の内容を思い出したのか、フィオナはレイの言葉を無視して心底嫌そうに顔を歪める。

 未成年、お見合い婚という法的に不可能でものであっても、フィオナの父であるダミアン・フリーデンは不可能を可能に近付けるだけの財力を持っている。

 そしてフィオナの中でダミアンの評価が理不尽に地に落とされるが、レイを含めた誰もがそれを知る事は出来ない。もっともその評価の低下から生まれた面倒はレイに降りかかるのだが。


「恋人であるわたくしの傷心を癒すのはレイさんの役目でしてよ」

「……せめて分かるように言ってくれよ」


 小玲を裏拳で容赦なく叩き落としたエリザベータは、そうある事が当然のようにレイの肩にプラチナブロンドの頭を預ける。

 夢と違い金糸のように美しい髪と、夢の中では失われてしまった体温、夢と変わらずに輝きを讃える金の十字架。

 それらはエリザベータの凍りついた心を溶かしていき、自分の居場所がその腕の届く範囲であることを理解させる。


 レイの足元で額を押さえて蹲る小玲を置き去りにして。


「……なんていうか、いろいろあったのよ。今日くらいは甘んじて受け入れなさい」

「いろいろって何だよ、アンタが説明放棄したら何もかもオシマイだろうが」


 晶はレイの足元に視線を向けないように、それでいてレイの体を気遣うような視線を向ける。

 死に様を示すようなヴィジョンを観た訳ではなく、予知夢というものを信じているわけでもない。

 だが夢の中だというのに容易に"あの答え"に辿り着いてしまった事実が、晶をただただ不安にさせていた。


 しかし小玲はそんな晶の視線を遮るように勢いよく起き上がる。


 その目には涙が浮かんでおり、エリザベータの華奢な拳が見た目以上の破壊力を持っていた事を容易に感じさせた。


「そんな事よりヒ、ド、イ、であります! 師叔はもっとシャオの事を心配すべきであります!」

「そんなヤワな鍛え方してねえだろ。傭兵は傭兵らしく自分の身は自分で守れバカ弟子が」


 未だ痛む額を擦りながら小玲は声を張り上げ、レイは知ったことかと鼻で笑う。

 エリザベータに文句をいう事が出来ない小玲と、自分の事を棚に上げるレイ。

 言ってしまえばどっちもどっちな程に低レベルな師弟だったが、今日の弟子(シャオレイ)は一味違った。


 最近になって正体を知ってしまったが、殺す気は一切持てなかった晶を小玲は夢の中で殺してしまった。

 小玲は人を殺す事には慣れていたが、率先して殺したいと思った事はないと言うのに。


 だからこそ自分は師であるレイに慰めてもらう必要がある。


 そう考えた小玲はローテーブルを避け、レイから距離を取るように後ろに下がる。

 それはまるで助走を付けるようであり、その目は捕食者のようにレイの首に向けられていた。


「まどろっこしいのであります! こうしてしまえばイ、チ、コ、ロ、であります!」

「待てバカ弟子。今はやめろ、マジでやめろ。今はマジで受け止められな――」


 駆け出した小玲はレイの言葉を無視して床を蹴って飛び出す。

 小玲を迎え撃つようにエリザベータの裏拳が再度繰り出されるが、小玲はその打撃を腕を立てるようにして受け流し、レイの首へと腕を回しながら抱きつく。


 しかし小玲は考えるべきだった。


 レイの首は既にイヴァンジェリンによって後ろから抱き寄せられており、その首が前に引かれればどうなるかを。


 すぐそこから聞こえる鈍い音。

 背中に走る悪寒。

 美しい笑みを浮かべる革命の魔女。


 結末は師弟の痛み分けとなった。

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