Screw Up The [Knowman] 1
ロサンゼルス、ロングビーチにあるバーに1人の男が居た。
その男の名前はエリック・ノウマン、ロサンゼルス1の情報屋。
酒とスーツは1流の物しか認めず、その1つ1つが本人の人となりを現すようだった。
情報屋という不安定な職業を営みながらも、息子を1流紙の編集者になるまでに育て上げた優秀な男。
やがて息子は自身の影響からかニューヨークで新聞紙の編集者となり、妻は「家でつまらなそうにされているよりマシ」だとノウマンの仕事を認めた。
そして今日もバーの扉が開かれ、情報を求める客が彼の元に訪れる。
+CASE1 大手武器商会フリーデン商会の1人娘
オフホワイトのシャツに淡いブルーのデニムスカートを纏う、ウェービーな栗色の髪を緑色のリボンで飾る少女。
対面に座る少女にノウマンは深いため息をつく。
レイ・ブルームスが訪れてからというもの、自身の居場所であるこのバーに未成年が平気で入ってくるようになってしまったように感じたのだ。
客も少なければトラブルもほとんどないバーではあるが、未成年をここに居させるのはあまりにも教育に良くない。
そう考えた1子の父はそう考え、話を早急に終わらせる事にした。
「どんな情報をお買い求めで? ミス・フリーデン」
「え、情報?」
そう言いながら首を傾げるフィオナに、ノウマンは脳裏に湧いた嫌な予感に顔をしかめる。
手は自然とスコッチを注いだグラスを口元へと運び、ノウマンは口内に広がるスモーキーフレーバーに舌鼓を打つ。
目前に面倒ごとが控えていようと、その味はいつもと同じで上等な物だった。
「……君は何を求めてここに来たんだい?」
「えっと……ここに来れば聞きたい事の答えが聞けるって聞いて」
当たって欲しくないと願った予想通りの展開に、ノウマンは思わず毛のない頭を両手で抱えてしまう。
バーに未成年が居る事自体が問題ではあるが、情報屋ではなく相談屋だと思っていたのであればそれも無理はないのかもしれない。
無理矢理そう納得したノウマンは、早急に自体を終わらせるべく自ら折れる事にした。
「……わかったよ、相談事なら聞くだけは聞くよ。ギャラもいらない」
「いいんですか?」
「僕は未成年の相談に金を取るほど生活に困っちゃ居ないんだ。ただこれが終わったらすぐに帰って欲しい、ここはバーで君はまだ未成年なんだからね」
父以上に歳が離れている男の言葉にフィオナは頷く。
まだ明るいとはいえここがバーであるのなら、未成年の自身が居ていい訳がないと理解できるのだから。
そしてフィオナは促されるままに話し始める。
「レイ兄さんずっと屋敷でダラダラゴロゴロしてて、だらしないって言っても全然変わる感じがしないんですよ。もうどうしたらいいか分からなくて」
「だらしない? 大いに結構じゃないか、好きなだけダラダラさせてあげればいい」
即答されたノウマンの言葉に、フィオナは呆然としたといわんばかりにポカンと口を開ける。
こんなにも暑いロサンゼルスで、几帳面にスーツを着込む男の返事とは思えなかったのだ。
しかしノウマンはその言葉の意味を分かっていないフィオナに、深いため息をついて分かりやすく説明してやる事にした。
「彼の仕事に懸けられるのは彼1人の命だけど、彼の失敗は君達全員の命に関るんだ。オフくらいゆっくりさせてあげるべきだよ」
「あ」
何かに気付かされたように、フィオナはどこかばつの悪い表情を浮かべる。
確かにレイは屋敷に訪れるフィオナ達のために空港まで送り迎えをし、どこかに行きたいと言えば文句を言いながらも付き合っていたのだ。
ようやく理解をしてくれたフィオナに苦笑しながら、ノウマンは瓶を傾けてスコッチをグラスへと注ぐ。
どうにも子供には甘くなってしまう。
しかし琥珀色の液体は、ノウマンを労わるようにように明かりに煌めいていた。
「それに君達が居る場所が彼の安息の地なんだ、その信頼を裏切ってはいけないよ」
「……はい!」
そう返事を返したフィオナの顔には、満面の笑みが浮かべられていた。
それを肴に煽ったスコッチは、いつもよりも美味くノウマンは感じていた。