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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Reveal To [Oblivion] Egomania
359/460

Against My [Nightmare] 5

「……でも、そんなのどうやってレイ兄さんに言えばいいの?」

「何を言ってるんだコレー、わざわざこんな事を言う訳ないじゃないか」


 当然のように告げられたイヴァンジェリンの言葉に、女達は時間が止まったような錯覚に陥る。

 これまでずっと話して居たのは自分たちの中心であるレイ・ブルームスという男の事であり、その内容をどう告げるかを悩んでいた相手もレイ・ブルームス。


 だというのに、その仮説に最初に辿り着いたイヴァンジェリンがその仮説を隠匿しようとしているのだ。


 他国の軍事思想によって動揺していたエリザベータは、誰よりも早く平静を取り戻して言葉の意味を問い掛ける事にした。


「自分の出生に関わる事を、本人に黙っているおつもりですの?」

「あくまで推測だと言っただろう。ヘンリー・ブルームスと出会った頃のユマさんは物質粒子化の技術を完成させていないただの学者だった訳だし、レイの生まれこそが陰謀だというにはあまりにも証拠がなさ過ぎる」

「ですが、それでもレイさんには知る権利がありますわ」

「だが権利を持っている事は知らない。知らなくて良い事だってあるのは君が良く知っているだろう、元下位議員殿(ジェーブシュカ)?」

「ドクター・リュミエールが仰っているのはそういった話ではなく、ただの不義理ですわ」

「見解の相違だね」

「わたくしは、そんな政治の常套句が聞きたい訳ではありませんわ!」

「なら聞かせてくれ、彼を追い詰める事に何の意味がある? どうして彼は君達の為の任務をこなしてからあんなに不安定になった? 君達は私のレイに何をしたんだ?」


 苛立ったように声を張り上げるエリザベータに、イヴァンジェリンはシニカルな笑みを浮かべて問い返す。


 事実、今回の任務でレイはどこか冷静ではなかった。

 遣い潰せ、敵は全員殺す、存在するための価値。


 それらの発言はイヴァンジェリンに焦燥を煽り、そんな意思が込められた問い掛けにフィオナとエリザベータに悲痛そうに顔を歪ませる。

 フィオナは大人になるための決意を打ち明け、エリザベータは一線を越えて"今度こそ"大事なものを捧げた。

 確固たる決意から生まれた行動だからこそ、2人にはレイの(おもり)になってしまった気がしてならなかったのだ。


 しかし、晶だけは様子が違った。


「答えてみろ、場合によっては絶対に君達を――」

「社長、お言葉が過ぎます」


 それ見たことか、と追求を続けようとする雇用主を晶は冷静に止める。

 若い2人に食って掛かるその様はあまりにも酷いものであり、その気持ちが理解出来ると同時に原因の1つでもある晶だからこそ放っておけなかったのだ。


 あの時のレイは相変わらず晶を突き放して、不器用なほどに晶の幸せを願っていたのだから。


 そしてなにより、晶には確かめなければならない事があった。


「社長。僭越ながらお尋ねしますが、"約束"は覚えていらっしゃいますか?」

「……もちろんだ。忘れたこともなければ、違えるつもりもない」


 かつて交わした雇用条件の1つにイヴァンジェリンは、言われるまでもないとばかりに乱暴に立ち上がって応接間の扉へと向かう。

 レイがリュミエール邸に着くまでは時間があり、イヴァンジェリンがここに居なければならない理由はなかった。

 黒檀製の扉を開いたそこに広がって居たのは、現状と未来を表わすようなただただ薄暗い夜闇だった。


「ネイムレス・メサイアをたった2回の戦闘で使いこなし、より情報量の多いバイザーアイという新技術に戸惑う事無く、あらゆる状況下で確実に勝利を得る。レイ・ブルームスはヘンリー・ブルームスの代替ではなく、象徴に成り下がった切り札(ワイルド・カード)を殺す暴力(モンスター)――しかし、今では"私の剣"だ。君達の誰のものでもなく、私だけのものだ」


 シニカルな声でそう告げるなり、対比するような闇に消えて行った白い背中に、女達はそれぞれの胸中で渦巻く感情を持て余す。


 猜疑心、揺らぐ信頼、得体の知れない焦燥感。


 それらの行き先は、まだ誰にも分からなかった。

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