Follow The [Dirty] Heros 6
「……分かった、白状するよ。アメリカには息子家族、フランスには娘家族が居るんだ」
「虫がいいというか、都合がいいというか」
あきれ果てたように嘆息する晶に、タルコーニは返す言葉もないと肩を竦める。
愛する家族を守る為にタルコーニが部下とエイリアス・クルセイドを利用しようとしたのは紛れも無い事実なのだから。
「知っての通りアメリカの国防軍はフルメタル・アサルトの威光に縋り続けて凋落し、フランスには彼らにとっての裏切り者が居る。彼らの銃口が君達に向くだけならどうでもいいが、可愛い孫達に向けさせるわけにはいかない。これが組織の撤退命令を無視し、大事なパートナーを利用した理由だ」
タルコーニが口にした聞き覚えのある名前に、フィオナを除いたエイリアス・クルセイドの面々は思わず嘆息してしまう。
フィリッポ・ジョンビーニ。かつて経済戦争継続派の支援を受けていた、D.R.E.S.S.規制委員会の委員。そしてレイと晶で護衛に就き、晶が拉致される切欠となった人物だ。
晶は状況のまずさに頭を抱えたくなる衝動を必死に堪える。
ジョンビーニやD.R.E.S.S.規制委員会の関係者に対して襲撃が行われてしまえば、ようやく浸透し始めたD.R.E.S.S.コードに多大な影響が出てしまう。
エイリアス・クルセイドの誰もが世界平和などという絵空事を描く事はしない。だが、国家にまで裏切られた晶達はこれ以上の争いを望んではいなかった。
10年という長い時を苦しみながら生きてきた少年が、ようやく復讐という戦う理由から解放されたのだから。
しかしタルコーニはそんな晶達の意思を無視するかのように、それでいて縋るように口を開く。
「君達でなければ辿り着けない、君達でなければ破壊する事は出来ない。だからこそ君達と話をしたかった。君達に真っ向から行っても依頼を請けてもらえないのであれば、こうする以外に方法は無いじゃないか」
白々しくも真に迫ったタルコーニの言葉を聞き流しながら晶は再度思考に没する。
確かにアメリカ国防軍に出し抜かれる以前から、エイリアス・クルセイド、引いてはイヴァンジェリンは全ての依頼を断っていた。
エイリアス・クルセイドはレイを守るために作った組織であり、組織を継続する為の依頼はフリーデン商会から請けており、レイの命を危険に晒してまで依頼を請ける必要などないのだ。
そんなイヴァンジェリンを動かす事は正攻法では不可能であり、同時に金には代えられない"何か"が必要となる。そこれそアメリカ国防軍が用意した"軍事衛星のアクセス権"のような。
手段が汚いという罵りすら見当違いだった事実と共に、導かれた答えに晶は胸元のメダイを握り締める。
おそらくパーティ・クラッシャーと呼称された謎の大型D.R.E.S.S.はオブセッション、あるいはイヴァンジェリンですら知らない未確認のD.R.E.S.S.である。
パーティ・クラッシャーは既に修復を完了、あるいは完成しており、いつ起動させられるか分からない。
ターゲットは1番の脅威であるエイリアス・クルセイドである可能性が高いが、D.R.E.S.S.規制委員会に牙を剥く可能性も高い。
エイリアス・クルセイドを襲撃するだけであれば迎え撃てるが、戦力を保有している訳ではない委員達が襲撃されてしまえばどうなるか分かったものではない。
世界が夢中になっている経済戦争を無茶苦茶にする破壊者。
皮肉な名前に深いため息をついた晶は、雇用主であるイヴァンジェリンに視線を向ける。
交渉をして情報を引き出す事は晶でも出来るが、決定権を持っているのはイヴァンジェリンだけなのだから。
判断を託されたイヴァンジェリンは、サングラスの赤いレンズ越しにレイに視線を向ける。
傷は完治したが、戦線に復帰したわけではなく、更に言えば出来る事なら戦場にも出したくは無い。
しかしイヴァンジェリンは自ら生み出した憑執を放っておく訳にはいかないのだ。
ジェローム・リュミエールとドリス・リュミエール。愛する両親と引き換えに生み出したソレを利用させる事など許せないのだから。
そしてレイはそんなイヴァンジェリンの意思を汲んだのか、何を言うでもなく肩を竦めた。
「……いいだろう、私達がその大型D.R.E.S.S.を引導をくれてやる」
「驚いたな、理由も無く断られると思っていたよ」
「いつだって理由はある。彼以外に興味もなければ、くれてやる慈悲もないという理由がな」
感嘆するタルコーニを視線を向けもせず、イヴァンジェリンはウィッグの毛先を毛先を玩ぶ。
プロジェクト・ワールドオーダーの阻止、ディファメイションの撃破、アメリア国防軍への工作。
その全てがイヴァンジェリンの個人的な感情から生まれた事であり、世界を救うために行ったものではないのだから。
そしてイヴァンジェリンは1歩前に出て、アブネゲーションの起動キーでもある人差し指を突き出した。
「ただし、1つだけ条件をつけよう――2度と私達の邪魔をさせるな。仕事、日々の生活、何もかも。何か1つでも公安や国防軍の介入があれば容赦はしない」
「それが報酬代わりという訳か。それと"今度も"容赦しない、の間違いじゃないのかい?」
「さあな。ただ、私はこういった嘘はつかなければ、私の期待を裏切った有象無象に容赦する事も無い。しっかりとその古びた脳に刻み込んでおく事だ――もう行こうかレイ、本当に無駄な時間を過ごしてしまった」
態度と視線を180度変えたイヴァンジェリンは、背後にしていたレイの神妙な顔つきに顔を顰める。
レイが過去に連邦公安局の潜入捜査官を救出した事は知っているが、個人的なかかわりは以降無い事も知っている。
だがそのレイの様子に嫌な予感を感じたイヴァンジェリンは、その予感を胸中で玩びながら問い掛けた。




