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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Reveal To [Oblivion] Egomania
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Follow The [Dirty] Heros 4

 家族を殺されたイヴァンジェリンが作り、自分を殺すためにジョナサンが纏い、そのジョナサンごと叩き切った憑執の装甲。


 懐かしくも狂おしいほどに求めていた名前に、レイは警戒を解かずにフィオナへと視線をやる。

 レイはイヴァンジェリンの救命を優先し、イヴァンジェリンはレイの旧名を優先した結果、2人はオブセッションの残骸の回収も破壊も出来ないまま見失ってしまっていた。


 いくら探しても見つからなかった憑執の名に僅かに困惑するレイに、フィオナはゆっくりと頷いた。


「……他は全部信用出来ないけど、それだけは多分本当。レイ兄さん達を利用したいだけなんだと思う」

「これは手厳しいお嬢さんだ」

「だって本当だもん。おじいちゃん、自分以外どうでもいいって思ってる感じがすごいよ」


 そう言ってフィオナは、孫以外に初めて呼ばれた呼称に呻くタルコーニの視線から逃れるように晶の背へと隠れる。

 ロンバードの思惑をただ1人察知していたフィオナではあるが、決して荒事に対して抵抗を持っている訳ではない。レイを除けば誰よりも信用ができ、尊敬に値する人間である晶に縋ってしまうのも無理もなかった。


「話してみればいい、特別に聞いてあげようじゃないか」


 それぞれが警戒する一種の修羅場にありながら、イヴァンジェリンは不遜な態度を崩しもせずに肩を竦める。

 ピグマリオンの白い合金の欠片は女達のポケットに忍ばせており、荒事が始まればそれよりも早くレイが決着をつける。

 その確信がイヴァンジェリンにたとえようのない安心感を、グレームレイク基地の独房から救い出されたあの時以上の多幸感を与えていた。


「だがドクター・リュミエール、その前に大事なパートナーを解放してもらいたい。この光景は文明人の理性的な会話とはあまりにも程遠い」

「調子に乗るなよ有象無象(ムシケラ)、私はその件以外の発言を許した覚えは無い」

「こちらとて彼女をオットマンにする許可なんて出してない――"アメリカ国防軍がデータを持つ事すら許せなかったD.R.E.S.S."の所在、見せしめのように扱われている彼女。そちらにリスクは無く、この情報に比べれば彼女の身柄など無価値なはずだよ」

「……レイ、彼女を解放してやれ。ただし、余計な事をすれば――」

「殺すさ、言われるまでもねえよ」


 逡巡するも仕方無しに要求を呑んだイヴァンジェリンの言葉を続けながら、レイはデュケーンから足をどけて女達を背に隠すように距離を取る。

 軍事衛星の使用権を得たとはいえ、この地球上の全てをイヴァンジェリン1人に探らせるのはあまりにも酷だと思えたのだ。


 もっとも、情報が不確かなものであれば生かして帰す気はないのだが。


「おかえりエミリア」

「……よくもまあ、いけしゃあしゃあと」

「君の直情振りを鑑みた結果だ。どちらにしろ君が彼に殴りかかる結果は分かっていたし、私では追いつく事すら出来なかった。それに余計な事を教えればこの会話自体不可能だったろうからね。詫びは国に帰ってからさせてもらうよ」


 タルコーニは殺意とコンバットブーツの分厚いソールから解放されたパートナーに手を差し出し、デュケーンはその手を払ってゆっくりと体を起こす。

 確かにその事を先に言われていれば、自分はそれを口実に実力行使に出ていただろう。

 それを理解しているデュケーンは深いため息をつきながら、先ほど叩きつけられた壁に背中を預ける。


 親友(ダニエラ)は不意打ちを打った上で負けたが、自分(デュケーン)は不意打ちすら打てずに負けた。親友を悲しませている男を殴ることすら、デュケーンには出来なかった。


 情けなさから唇を噛み締めるデュケーンに肩を竦めたタルコーニは、やり場の無い手でデュケーンのブリュネットの髪を撫でてやる。

 たった数年の付き合いでしかないが、弟子はいくら成長しても出会った頃とそう変わる様子はなかった。


「さて、まずお互いが理解している状況を確認するとしよう。プロジェクト・ワールドオーダー陣営の事はどこまで知っている?」

「国防軍、H.E.A.T.、ネイキッド・ガン。それらのパトロンをしてる経済戦争継続派が中心となった組織、でしたよね?」


 視線を傷ついたパートナーから自分の方へと移してきたタルコーニの問い掛けに、躊躇いもなく答えた自分に晶は思わず胸中で苦笑してしまう。


 親と才能に恵まれたフィオナ。

 19歳という若さで国連の委員となったエリザベータ。

 世界を変えて見せた稀代の天才であるイヴァンジェリン。

 そしてたった1人で世界と戦ってみせたレイ。


 そんな彼らが自分を信用し、そんな彼らの期待に応えようと考えもせずに交渉役(ネゴシエーター)を買って出た自分。

 この瞬間にも貼っている虚勢とは裏腹な自分が、晶には妙におかしく感じられたのだ。


 そんな晶のただの会社員として過ごしていた経歴を知っているのだろうタルコーニは、どこか晶を警戒するように目を細めた。


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