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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Reveal To [Oblivion] Egomania
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Bounded [Foolish] Party 6

「今、解放する」


 レイは未だ目を閉じている晶へと歩み寄り、その身を拘束しているロープを解こうとする。

 しかし椅子に触れた瞬間、自分を拒否するように震えた晶の体に、躊躇させられてしまう。

 殺しの瞬間こそ見せては居ないが、レイが生々しいほどの暴力を晶に見せてしまったのは事実なのだから。


「……いつも、上手くいかねえ」


 か細い声で呟かれた言葉に、晶はゆっくりと目を開く。

 黒い瞳に写ったのはしゃがみこんでいるレイと、その背後に夥しい血を広げる赤毛の男だった死体。

 関係者の葬儀を除けば晶が初めて見た死体。

 しかし晶はその無残な死を遂げた男ではなく、シニカルな笑みに何もかもを粉飾しようとする少年に目を奪われていた。


「何を言ってるの?」

「俺達を尾けていた連中を撒ききれなかったのは分かってた。だからアンタとの不仲を演出してエイリアス・クルセイドにとってアンタが価値がないように見せて、連中を俺に引きつけて皆殺しにするつもりだった。全部思い上がってた俺の責任だ。アンタを利用してイヴと取引しようしてたなんて、思いつきもしなかった」


 考えもしなかったレイのことばに、晶は目を見開いてしまう。


 レイは最初から任務を忠実にこなしていたのだ。

 フィリッポ・ジョンビーニを有形無形の暴力から守り、ハニートラップと思われかねない行動の全てを阻止した。

 それがたとえ、フィリッポ・ジョンビーニ自身が行った物だとしても。

 だからレイは晶に触れようとしたジョンビーニの手を捻り上げ、その行動のためらいのなさによって赤毛の男らという潜入者達を威嚇していた。


 晶はジョンビーニが手を捻り上げられたその瞬間、ジョンビーニを背にしていたのだから。


 だからこそ、晶は問い掛けてみる事にした。


「……レイ君は、わたしが居なくなってどう思った?」

「どうしていいか分からなくなった。アンタが消えた路地裏を走り回っても、これしか見つけられなかった」


 珍しく素直な言葉を紡ぎながら、レイは晶の目の前にポケットから取り出した銀のトップを置く。

 それは裏路地で革紐を引き千切られたメダイだった。


「もし誰かがアンタに害をなしたなら全員殺してやるって、誰が相手でも殺し尽くしてやるって思った。だから俺を殺そうとしてた奴らを殺して、生き残った1人を拷問した。でもここの場所すら聞きだせなかった。イヴが教えてくれなきゃ、俺はここに辿り着けなかった。俺のクソみてえな考えのせいで、アンタを傷付けちまった」


 晶がメダイに意識を奪われている間に、レイは袖に隠していたナイフで晶を拘束するロープを切り捨てる。

 ナイフを再度ジャケットの袖に隠したレイは、晶が死体を見てしまわないように気を付けながら後ずさろうとする。


 しかし晶はその手を掴んで、それを阻止する。


 レイの手の甲には人を殴った際に歯でも触れたのか、未だ血が滲む痛々しい傷があった。

 そのレイの思いやりを理解してしまえば、晶がレイを責められるはずなどなかった。


「それでも、レイ君はわたしを探してくれたじゃない」

「過程は関係ねえ、俺はアンタとイヴの期待を裏切った」

「元を正せばレイ君の考えも知らずに、へそを曲げたわたしが悪かったのよ。それに期待を裏切ったかは分からないけど、あなたはわたしの願いは叶えてくれたわ」


 晶はポケットからハンカチを取り出して、傷口を覆うように巻きつけていく。


 レイの晶という素人が着いて来た事に対する不満は、晶・鴻上という女の価値を失わせようとする演出。

 "考えるべき事がある"という発言は、晶に追跡者を警告するための言葉。


 それら1つ1つが、任務遂行と自分を守る事を視野に入れた発言だったと理解させられた晶は、ゆっくりと立ち上がりながら両手で傷ついたレイの手を包み込む。

 その傷ついた手が、庇護すべき対象としか思えなかった少年が、晶にはただ愛しく思えたのだ。


「だから言わせてちょうだい――ごめんなさい、助けてくれてありがとう」


 告げられ慣れていない言葉に、レイは言葉を失ってしまう。

 否定をされ、毒され、利用され続けてきた。

 そんな人生送ってきたレイにその言葉はあまりにも蠱惑的で、いずれ去らなければならないその傍らはあまりにも暖かかった。


「でも休暇には付き合ってもらうわよ。社長を納得させるの、本当に大変だったんだから」

「……最初はどこに行く?」


 冗談めかすような晶の言葉に、レイはどこか諦めたように肩を竦める。

 互いが互いを想って行動していたと分かれば、2人が衝突する事などありえないのだから。


「アクセサリーショップかしらね。革紐とビーズを選んでちょうだい」

「前みたいに鎖にしないのか?」

「あなたが作り直してくれたデザインにしたい。そう思うのは、贅沢な事かしら?」

「……好きにしろよ」


 どこか拗ねたようなレイの顔を見上げながら、晶はレイの腕を取ってただ微笑んでいた。

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