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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Burn To [Lovely] Ashes
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Day Of The [Dead] 12

 遠くでは鳴り響く祭りの喧騒、近くでは合金のリールがワイヤーをジリジリと伸ばしていく擦過音と訳の分からない雑音。


 通風孔を真っ直ぐ降下していくレイを支えているのは、決して太くはないワイヤー1本。


 しかしレイは怯える事無く、動きを止めたアンカーシューターから手を離してコンクリート打ちっ放しの地面へと降り立った。

 柱の影に身を隠して灰色のバングルで辺りに生体反応を確認し、レイはバングルの表面に指を滑らして囁いた。


「こちらネイムレス、施設への侵入に成功した」

『こちらキュリオシティ・キラー、ネイムレスの侵入を確認。これより情報攻撃(ジャミング)および包囲を開始する。ネイムレスは工作、脱出が済み次第再度連絡せよ』

「了解」


 コリンズの命令に短く答えて通信を切ったレイは、フィールドジャケットのジッパーを開けて懐からワルサーPPKを取り出す。


 今回の破壊対象であるこの施設が存在する工業地帯は市街地に隣接している。

 そのためメキシコシティの重度の大気汚染を鑑みたメキシコシティ政府によって、ここら一帯の工場には"死者の日"の間の操業停止命令が出されていた。


 策謀を仕掛けた側であるサラ陣営以外には、資金的にも弱り始めている市の為に外資を呼び込む為の策としか思えないはず。

 しかし施設内にはあらゆる音が反響しており、レイは不愉快そうに顔を歪める。


 嬌声、悲鳴、奇声。


 レイはワルサーPPKの安全装置を外しながら、近くの窓から室内を覗き込む。


 絡み合う全裸の男女、一心不乱に女に腰を打ち付ける男、逃げ出そうとする女を囲んで暴行を加える男達。


 レイは込み上げた吐き気を誤魔化すように、ボディバッグから爆弾を取り出す。

 いろいろな地獄を見てきたつもりのレイでも、"欠損した死体と絡み合う人間達の情事"など見た事などなかった。


 レイはボディバッグから天井へと放り投げた。


 粘土質の接着剤が付けられた爆弾は天井へと設置され、レイは次の設置ポイントへと足を動かしながら思考する。

 "まだ"動いている全員の目は血走っており、ここは麻薬カルテルから成長した武装テロ組織の重要施設。

 サラもコリンズもここを"敵に大打撃を与えられる施設"、それこそ麻薬精製所程度にしか考えていなかったが、レイにはもっと別の何かに思え始めていた。


 たとえば神経毒素兵器の精製所。


 直接的な殺傷性があるような物ではなく、脳を蝕んで思考能力を奪うような神経毒を用いた。神経毒はレイが知る限り速攻で麻痺が起きるというものだが、レイが知らない毒を使っている可能性も否定は出来ない。


 思いつきのような考えだが、"腰から上のない女に腰を打ちつける男"を見てしまったレイにはその考えを捨てる事は出来なかった。

 柱の影に2つ目の爆弾を設置したレイの脳裏に更なる懸念が1つ湧いた。


 この施設を爆破した際に毒素兵器が市街地に漏れ出してしまうのではないか。

 既に自分はその毒素兵器に体を犯されているのではないか。


 レイはは嘆息する事でその懸念を1度頭の中から排除する。

 どうあってもこの施設を爆破しなければレイに未来はなく、この施設を把握しない事にはワクチンや毒素兵器自体存在するかも分からないのだから。


 レイは足を止める事無く、ポケットから携帯電話を取り出し、事前に与えられていた施設の見取り図を取り出す。

 施工会社から秘密裏に買い取ったそれは内部の細かい情報こそ乗っていないが、建物の構成は正確に纏められていた。


 この施設は2階建ての長方形型のそう大きくはない工場。

 輸送の関係上、1階にあるであろうと仮定された麻薬の精製所。

 麻薬に対する抵抗力を持つレイの任務は、爆破と瓦礫で1階部分を完全に損壊させる形でこの施設を爆破するという物。


 爆破の規模が大き過ぎれば周りへの被害は避けられず、レイは状況を利用して施設を破壊しなければならない。

 最悪D.R.E.S.S.で施設を破壊すれば良いと考えていたが、毒素が漏れ出さないような形で1階を封する必要が出来てしまった。


 面倒な風向きに代わってしまった任務に、レイは小さく舌打ちをして携帯電話をポケットに滑り込ませる。


 レイが侵入したのは正面玄関から右手の通風孔。

 2階部右側の爆弾の設置を終えたレイは爆破のイメージを脳内で構築しながら、3つ目の爆弾を取り出して消火栓の裏へと設置する。

 2階部最後の設置ポイントへと足を進めながら、レイは麻薬の精製部、あるいは毒素性部は1階にあるだろうと確信する。2階には先ほどの死体の群れが収められた部屋と、書類が散乱する部屋しかなかったのだから。

 時間がない、とレイは急いで4つ目の爆弾を設置して階下へと続く階段を下り始める。

 人の気配はあまりないが、爆弾が発見されるリスクは極力減らさなければならないのだ。


 そして1階に辿り着いたレイは、遠くから聞こえてきた音に不愉快そうに顔を歪める。


 くぐもった女の悲鳴、肉と肉がぶつかり合う音。


 小さく舌打ちをしたレイは柱を背にするようにしてフロアを覗き込む。

 そこの居たのは引き千切られた衣服で体を拘束されている女、その女に腰を打ち付けているチンピラ風の男。

 不幸にも女の顔はレイが居る階段の方へと向けられており、今レイがフロアに出てしまえば敵対者に見つかってしまう。

 しかしフロアで堂々と女を犯しているあの男を殺さなければ、レイは任務を続行する事も出来はしない。

 レイはバングルの生体センサーで回りに2人以外の人間が居ない事を確認して、ワルサーPPKを握りなおす。

 銃声が誰かの耳に届いてしまう可能性から、レイは素早く決着を付けて工作作業にもどらなければならない。


 1つ深い深呼吸をしたレイは意を決してフロアへと踏み込んだ。

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