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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Burn To [Lovely] Ashes
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Day Of The [Dead] 7

「……路地裏にピンクのパーカーを着た子供を連れて入った男が2人、行くわよ」

「アンタ、俺の言った事分かってねえのか?」


 手を引く事で自分を抱き寄せた来たサラの言葉に、レイは苛立たしげに吐き捨てる。

 普段サラについている護衛はまだこちらの状況に気付いておらず、彼らが駆けつける頃には事態は取り返しの付かないものになっているだろう。

 だがそれは"どういう状況においても考え続ける事をやめてはいけない"、と教え込まれたレイが辿り着いた答え。


 なまじ危険と隣り合わせに生きてきたサラの答えではない。


「レイはともかく、私はこの街の秩序を守る義務があるの――ロドリゴ、テオドラ、状況B発生。私の座標を追ってきなさい」


 説得は無駄と判断したのか、ジャケットの襟に隠したマイクに囁き掛けるなりサラはレイの手を離して路地裏へと駆け出した。


 経済戦争によってジュニアソルジャーの需要が増えた頃、メキシコシティでは児童の誘拐が爆発的に増大した。

 不幸にもメキシコシティには麻薬カルテルから派生した武装テロ組織が多く、手塩に掛けたジュニアソルジャー達を縛り付けておくのに苦労はない。手の平を深く斬りつけて、そこから麻薬という毒を擦り込めばいいだけなのだから。


 そのメキシコシティの情勢と先ほど目にした状況から、サラは今この瞬間に誘拐が行われたのだと理解した。


 サラは薄暗く、薄汚い路地裏を駆け抜けて行き、路地裏にはパンプスのソールがアスファルトを叩く硬質な音が響き渡る。

 そして路地を右へと曲がったサラは、血液が広がる地面に横たわるピンクのパーカーを着た子供と自分に向けられた銃口と相対する。

 銃を握る男達の顔には醜悪な笑みが浮かべられており、サラは辺りの様子を窺うが護衛が来ている様子はない。


 "プライベートで街を観光している叔母と甥"という設定のせいでサラは防弾チョッキなどの装備をしておらず、その上助けようとしていた少女は息をしている様子もない。


 護衛として連れ添ってきたロドリゴとテオドラが裏切るとは思えないが、この状況が考えるまでもなく最悪な物だという事くらいサラにも理解出来た。


 湧き上がる憤怒と心が凍りつきそうなほどの絶望感。


 その間で揺れながらサラは逃走経路を探す。


 前方には5mほど先には少女の遺体と銃を構える2人の男。

 右には来た道が広がっていて、左には人家の入り口、背後には壁しかない。

 理屈で考えるなら引き金が引かれる前に来た道を引き返せば良いとなるが、恐怖で震えているパンプスの足は言う事を聞きそうにない。


 覚悟を決めなければならないか、とサラが嘆息したその時、その薄暗く狭い世界をシアングリーンの光が染め上げた。


 サラを襲ったのは弾丸ではなく、金属球体から撒き散らされたシアングリーンの閃光だったのだ。


「ほら、やっぱり何にも分かっちゃいねえ」


 眩い光から逃れるように顔を手で隠していたサラは、聞き覚えのある声に驚愕してしまう。


「レ……イ……?」

「そうだよ、サラ叔母さん。乱暴な扱いして悪いけど大人しくしてろ」


 レイはそう言うなりサラを路地へと引きずり込み、横抱きにして一気に走り出す。

 銃撃戦を始めてしまえば文字通りお荷物(サラ)を抱えているレイは不利であり、狭い路地裏ではD.R.E.S.S.を展開する事は出来ない。


 だからこそレイは逃げる事を選んだのだ。


 投擲した閃光弾(フラッシュグレネード)はD.R.E.S.S.の光を模した物であり、強烈な閃光を放つと同時にD.R.E.S.S.戦力の介入を相手に刻み付ける。


 路地裏に誘い込んで確実にサラを殺そうとしてきた敵対者達が、圧倒的に不利な戦力差に立ち向かってくるはずがない。D.R.E.S.S.という機動兵器は決して無敵の兵器という訳ではないが、正面からの攻略を試みるのであれば戦車部隊が必要となるのだから。


 事実、後方から追って来る人の気配や銃声が響き渡る様子はなかった。


 いくつかの角を曲がり、路地裏から飛び出した2人を出迎えたのはガイコツの装飾に彩られたソカロ広場。

 レイは周りの目から逃れるようにすぐさまに別の路地へと入り、サラをゆっくりと地面に座らせる。

 前もって作動させていた生体センサーにレイ達以外の反応はなく、狙撃兵でも居ない限りレイ達に危険はない。


 携帯電話で緊急用のメッセージを他の護衛に送ったレイは、壁とサラを挟むように立ったまま辺りの警戒を始めた。



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