Day Of The [Dead] 5
サラ・メンディエタ。42歳、メキシコシティ市長。
メキシコシティに潜伏している麻薬カルテルから派生した武装テロ組織の排除、所有施設の爆破を依頼した依頼人。
レイが胸中で情報を諳んじたその依頼人にはD.R.E.S.S.を所有する護衛が既に付いており、メキシコの公用語であるスペイン語を話せないレイを護衛に雇う理由などない。
困惑を押し殺すようにブレスレットを左手首に着けながらレイは肩を竦める。
「俺はテキトウに話をしてただけだ。メンディエタ市長の篭絡は任務に含まれてねえだろ」
「たとえばどんな話を?」
「アンタらが汚してった部屋に不満はねえのかとか、爆破は俺が行うのかとか。そんなどうでもいい話しかしてねえ。それにメンディエタ市長が男慣れしてなくても俺の責任じゃねえだろ」
「……本当に最低ね、あなた」
「最高な人生送ってる奴が金の為に人殺しなんてするかよ」
心底不愉快そうに顔を歪めるコリンズに、レイは鼻で笑うように吐き捨てる。
ただ利用される事を避ける為に、レイはジョナサンに促されるままに傭兵になった。
自分を爪弾きにする俗世から逃れるために、ベックは傭兵として戦場で生きることを選んだ。
どん底から這い上がるために、トレヴァーはアイリーンに手を引かれるままに傭兵になった。
アイリーン、タイスト、ミレーヌが傭兵を志した理由をレイは知らないが、それでも全員が何かから逃れるように傭兵になった事を知っている。
「それで、あなたはこの話を請けるのかしら?」
「指揮官殿の許可が下りるのなら。クロムハーツのゴールドアイテムで欲しいのがあるんだよ、金はいくらあっても困りゃしねえ」
「……本当に救いようのないクズね、あなた」
あまりにも即物的なレイの返事に、コリンズは苛立たしげにショートカットの黒髪をかき乱す。
優秀な傭兵達が命を懸けて守った少年に傭兵としての誇りはなく、少年にあったのは即物的な欲求だけ。
彼らの意思を踏みにじるようなレイの言葉を、戦友を失わされたコリンズが苛立たない訳がなかった。
「この際だから言っておくわ――私は今この瞬間にもあなたを殺してやりたい。アイル達が死んであなたが生き残らなければならない理由なんかない。あなたなんか死んでしまえば良かったんだ」
コリンズはレイの暗い色の碧眼を睨みつけながら告げる。
吐き出された言葉は淡々とした響きを持っているが、その内面には憤怒の熱量を秘めている。
「でも、この作戦であなたを死なせたりはしないわ。スミスの評価も、あなたなんかを生かしたアイルの遺志もどうでもいい。私は私の為にあなたをこの手で殺す、あなたを一生許さない」
唐突の殺害予告にレイは思わず苦笑を浮かべてしまう。
裏切り者。期待はずれ。失望した。
あらゆる言葉を掛けられて来たが、戦場以外で"殺してやる"と言われたのは初めてだったのだ。
そして何より、レイはアイリーン達を死なせた自分を許せていないのだから。
「どうでもいい。行き先なんて決まってるんだからよ、俺もアンタも」
レイはシニカルな笑みに全てを粉飾して、自嘲するような言葉に全てを落とし込む。
ベックが言っていたように、殺しを生業としている自分達の行き先など地獄以外ありえないのだと。