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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Burn To [Lovely] Ashes
273/460

Rock'n'Roll [Bitch] 3

 月明かりだけが照らす荒野にマシンアイの曖昧な輝きが軌跡を描いていた。

 1つはルードの単眼の赤いマシンアイ、残り2つは違法改修(イリーガル)ナーヴスの縦横に並んだ複眼。

 レイが纏うネイムレスのシアングリーンのマシンアイは、隆起する大岩の影で巨大なシートの下で3kmほど先のテロリスト達のD.R.E.S.S.を眺めていた。


 デザート迷彩のシートからは長身の銃身が顔を出し、その銃身に付けられた複合スコープ越し光景を眺めながらレイは情報の整理を始める。


 テロリスト達の部隊構成はルードと違法改修(イリーガル)ナーヴスが2機。

 昼間は数時間毎に1機が休息を取り、夜間は3機が対角線を描くように辺りを警戒している。

 テロリスト達に援護が居る様子はなく、プラセオジムの採掘を始める様子もない。

 シーナが言っていたように相手の目的こそ分からないが、彼らの目的が鉱山にある事は一目瞭然だった。


 レイは灰色の装甲の下で深く息を吸う。


 ハッキリ言ってしまえば、レイの狙撃技術はそう高いものではない。

 それでもレイが狙撃に踏み切ったのには2つの理由があった。


 1つは発光現象による察知を避け、確実に1機ずつ仕留めるため。

 もう1つは初弾の命中などに関らず、自分に向かわせる事で鉱山から離れさせるためだ。


 レイの狙撃技術が上等なものであれば発光現象を餌に迫ってくる敵部隊を狙撃できたが、残念ながら近接格闘戦を好むレイにその腕前はない。


 そしてレイは短く息を吐き出すと共に、与えられたスナイパーライフルの引き金を引いた。


 轟音が荒野に轟き、銃身は大きく跳ねてシートを捲くり上げ、高速で吐き出された弾丸は違法改修(イリーガル)ナーヴスの継ぎ接ぎの装甲を貫いた。


『残りは5発、上手くやれるもんかね』


 もう用はないとばかりにシートを投げ捨てて、ネイムレスは腹這いから片膝立ちへと姿勢を変える。

 違法改修(イリーガル)ナーヴス1機の撃破を成功した今、レイは敵部隊の生き残りに誤解してもらわなければならないのだ。


 姑息な狙撃に頼らなければならない弱者なのだと。

 たった1機しか居ない取るに足らない敵なのだと。

 仲間を殺した仇敵にして、退屈しのぎに殺せる絶好のオモチャなのだと。


 レイはスコープとリンクさせたシアングリーンの視界で、思惑通りに自分に向かってきた2機のD.R.E.S.S.に口角を歪める。

 切り札なのだろうルードを撃破してしまえば逃げられてしまうかもしれないが、2対1の構図さえ作っておけば任務と仲間を殺された憤りから逃げる事はない。


 描いた通りの光景に銃口を向けながらレイは続けざまに2回引き金を引く。

 スコープが捉えていたのは幾重に装甲が重ねられたルードではなく、違法改修(イリーガル)ナーヴスだった。

 1発目は虚空の彼方へと消え、2発目は不恰好な装甲に包まれたか細い腕に喰らいつく。

 腕を弾丸に吹き飛ばされた違法改修(イリーガル)ナーヴスは、上乗せされた運動エネルギーに踊らされるように地面に叩き付けられる。


 しかしテロリストのルードは荒野の地表を削りながら減速するかつての仲間に視線を向けることもなく、彼我の距離が1kmを切ったネイムレスだけを見つめていた。


 レイはスコープとの接続を断ち、弾が残っているスナイパーライフルを地面へと放り投げる。

 テロリストが回避機動を取り始めた以上、レイ程度の狙撃技術で仕留められるはずがないのだ。

 ネイムレスは左手を振り払うようにして折り畳みナイフのような機構のブレードユニットを展開し、合金製の刃をテロリストのルードへと突き出して背部ブースターを一気にフルブーストさせる。


 ブレードユニットマシンガンとミサイルを使うには距離が開き過ぎており、ここからはいつも通りの戦いをするしかない。


 一見、安易な勝利を放棄したかに見えるが、レイに不安はなかった。

 自分の実力に対する自信はこれまでの戦いで得て、視野の狭い相手がいかに脆いかはジョナサンによって教えられてきたのだから。


 そしてレイはテロリストのルードを射程に捉えるより早く、右肩部のコンテナのハッチを開いてミサイルをノーロックで射出する。

 命令も告げられずに放たれたミサイルは正面へと突き進んでいくが、やがてその勢いをなくして地面へと緩やかに落下していく。

 荒野の大地へと突き刺さったミサイルは炸裂し、砂塵と共に土塊を上空へと巻き上げる。


 突然奪われた視界にレーダー上で右往左往を始めるテロリストのルードに、レイは思わず舌打ちをしてしまう。


 自分、あるいは彼女らが求めていたファイアウォーカーが何故ここに呼ばれたのか、本当の意味をレイは理解させられたのだ。


 レイは土煙の中を躊躇いもせずにネイムレスを進ませ、手を伸ばせば届くゼロに近い距離にテロリストのルードを捉える。


 振り上げられた合金製の刃は鈍い月光の光を湛え、シアングリーンの光を灯すマシンアイは刈り取る命を見つけた死神のようにルードを見据えていた。


『こんなくだらねえ仕事でここまで来させやがって、死ねよクソ素人』


 恨み言を呟くレイの八つ当たりに近い何かを内包する刃は、唯一装甲に守られていない黄色の光を灯すマシンアイを正面から貫く。

 薄汚れたカーキの装甲を纏う体は断末魔の代わりとばかりにビクリと震え、レイはただの骸と化したその体を乱暴に蹴り飛ばす。


 レイには何もかもが苛立たしいのだ。


 おそらく全てを理解していただろうジョナサンが、どこから仕組まれたのかすら分からないこの茶番が、今この瞬間にもコールしてくる携帯電話の相手が。


 ネイムレスを粒子の光へと飛散させ、左手首にバングルへと集束させたレイはポケットから携帯電話を取り出してコールに応じた。

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