Dancin' Gonna [Bloody] 11
予想外の言葉に驚愕から目を見開くメリチェル達を余所に、レイは腕時計に粉飾したバングルを腰に打ち付けて敵前へと飛び出す。
バングルはシアングリーンの粒子を一気に飛散させ、粒子は前傾姿勢のまま走り出したレイの体へと集束し、やがて灰色の纏甲へと変容する。
そしてネイムレスは突然予想外の変容を遂げた事態についていけない全てを置き去りにして、その勢いのまま合金製の足で立ち尽くしていたヨメッリとアウラホを正面から"踏み潰した"。
『ぼさっとしてんじゃねえ! さっさと撤退しやがれクソヤロウ!』
聞いた事のない人が圧殺される音と突然の惨状に言葉を失っていたバイラオーラの人間達を怒鳴りながら、レイはシアングリーンの視界で4つの発光現象を視認する。
3機の違法改修ナーヴスと1機のクラック。
肩には交差する2丁の拳銃のエンブレムが描かれていた4機を敵対戦力と把握したレイは、ろくに敵を捕捉もせずに右手のマシンガンを右へと突き出して引き金を引く。
銃口から吐き出された弾丸達はろくな改修もされていない違法改修ナーヴスを抉り、その運動エネルギーでか細い合金の体を躍らせる。
そしてレイは生き残った右側のクラックと未だ無傷の左側の違法改修ナーヴスが銃を構えたのを察知し、バックブースターをフルブーストさせて背にしていた入り口へと退避する。
違法改修ナーヴスだった残骸が地面に叩きつけられると同時に、クラックが引き金を引いたアサルトライフルから弾丸が放たれる。
吐き出された弾丸は対角線上で長身のスナイパーライフルに苦戦していた違法改修ナーヴスの頭部を捕らえてしまう。
出来の悪いコメディのような光景にレイはシアングリーンのマシンアイの下で笑いを噛み殺す。
ビウエラのD.R.E.S.S.部隊が殲滅させられたのはデスティノ側のラッキーショット、もしくはお互いに攻めあぐねた結果の戦果だと理解できたのだ。
つまりジョナサンは圧倒的な強者として作り上げられたラスティバレルの情報に踊らされ、ファイアウォーカーは結果的にこのつまらない状況からの逃避に成功し、レイは貧乏くじを引かされた。それだけの話だったのだ。
ネイムレスは背部ブースターをフルブーストさせて、目前の味方が味方によって撃ち殺された光景に動きを止めてしまった違法改修ナーヴスへと急行する。
薄汚れた白い装甲の隙間から覗く、中身の人間を収めている黒のフレーム。
違法改修ナーヴスの頭部と胴体を繋ぐその部分へ、レイは躊躇いなく左腕の合金製の刃を走らせる。
フルブーストの運動エネルギーを乗せられた斬撃は、あっけないほどに容易く球形の頭部とか細い体躯を分断する。
『ふざけやがって!』
銃口な音を立てて地面に叩き付けられる仲間の頭部に、クラックを纏う男は怒鳴り声を上げてアサルトライフルを腰だめに構える。
まるで20世紀のマフィア映画、時代遅れな素人の構えを取るクラックへ、ネイムレスは首から上を失った違法改修ナーヴスの背を強く蹴り飛ばす。
クラックは出来の悪い悪夢のように迫ってくるかつての仲間に、アサルトライフルの弾丸を浴びせる。
違法改修ナーヴスの残骸はその運動エネルギーによって踊らされ、やがて地面へと叩きつけられたその背後から、本物の悪夢が合金製の刃を煌めかせて現れた。
『ふざけてんのはアンタらだよ、時代遅れのクソ素人どもが』
あきれ果てたような、それでいて苛立ったような言葉を吐き出しながら、レイは左腕を一気に降りぬく。
いとも簡単に切り捨てられた敵対者とは裏腹に、この瞬間にも深まっていく面倒ごとに深いため息をつきながら。




