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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Burn To [Lovely] Ashes
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Dancin' Gonna [Bloody] 7

 間接照明のみが照らす木目を基調にした家主の部屋で、レイはガブリエラと対面するようにソファに腰を掛けていた。


 レイの目の前にはペリエ、ガブリエラの前には血のように赤いワイン。


 年齢のせいとはいえ、テーブル上で生まれた格差にレイは嘆きたい気持ちを必死に押さえ込む。

 状況は素面で居るには辛いものになりつつあるが、ここで自分が投げ出してしまえばどうにもならなくなる事をレイは理解しているのだ。


「……お前は何も聞かないのだな」

「どうだっていい、そう言ってしまうのは無礼に当たるのでしょうか?」


 そう言ってレイは炭酸の泡が弾けるグラスを煽る。


 タブレットで情報収集をしていたレイは、そのディスプレイに表示された突然の召集命令に息つく間もなく部屋を飛び出した。

 会合を終えたその夜に緊急の召集。最悪の事態すら脳裏によぎりだす事態に、レイは思わず持ってきてしまったタブレットを脇に抱えてガブリエラの部屋に突入する。


 扉には鍵が掛けられておらず、部屋は荒らされた様子もない。

 付け加えるのなら、レイを呼び出した張本人はグラスに満たされた赤ワインを煽っていた。


 そして気付けばレイは対面のソファに座らされ、晩酌の相手をさせられていたのだ。


 正面には護衛対象、脇には放り出されたタブレット、左手には空になったグラス。


 とても護衛中の傭兵には見えないだろうが、それでもレイは依頼人に真摯に向き合っているつもりだった。


 決してあてになるとは言えない勘が囁くのだ。


 この瞬間の面倒を嫌うだけで、後になって更なる面倒がやってくると。


「まったく、女心の分からない奴だ」

「でしたら任務要項に書いておいてくださいよ。こちらは気の利かない粗野な傭兵でしてね」


 レイはそう言って脇に放っていたタブレットを手に取り、見せ付けるようにガブリエラへと向ける。


 そのディスプレイに表示されていたのは10年前に起きたとあるカルテルの構成員、アントニア夫妻の殺害事件について書かれた記事だった。


「……なるほど、気は利かないが察しはいいらしい」

「お褒めに預かり光栄です」


 再度タブレットをソファに放ったレイは、シニカルな笑みを浮かべて肩を竦める。

 いくらレイが頭が良いとは言えなくても、ヒントどころか答えを先に与えれていれば答えに辿り着くのは容易かった。


「テロですか、それとも抗争ですか?」

「ほう、話を聞く気になったのか?」

「そうされるのを望んでいるように察せられましたので」


 気を遣われているのかいないのか、いまいち分かりかねる皮肉の応酬。

 不思議と心地良いソレに釣られるように、ガブリエラはグラスを満たす赤い雫に視線を落としながら口を開いた。


「あの子の両親は暗殺者(ヒットマン)に、な」

「あの顔の傷もその時に?」

「ああ、暗殺者(ヒットマン)は度の過ぎたサディストだったらしくてな。あの子の命だけは救えたが、何もかもというわけにはいかなかった」

「そうですか」

「おいおい、聞いてくれた割にはそっけないじゃないか」


 自らきっかけを作りながらも、興味がないと言わんばかりにグラスに炭酸水を注ぐレイの様子に、ガブリエラは思わず苦笑を浮かべてしまう。


 だがレイは知ったことか、とばかりに吐き捨てる。


「家族が死んだ、両親が死んだ。ありきたり過ぎて何も言えませんよ」

「……お前の親も死んだのか?」

「生きてればこんな仕事しちゃいません。もっとも、仲良しこよしとはいかなかったと思いますが」


 そう言ってシニカルな笑みを浮かべるレイに、ガブリエラは拍子抜けしたように暗い碧眼を見つめてしまう。


 最愛の両親を失い、心の支えとして自分を求めた1人の少女。

 今では部下となった可愛い娘代わりとは違う、どこか擦り切れたような少年の物言いに疑問を感じないわけではない。


 だがシニカルな笑みは少年の全てを覆い隠し、ガブリエラは何も言えないままグラスに口を付ける。


 気に入りの赤ワインは芳醇な香りを口内へと広げ、ガブリエラを酩酊へと緩やかに誘っていく。

 そんなノストラフェトゥ潜入の際に飲まされた物とはクラスが違うのであろうワインから視線を逸らしながら、レイはわざとらしく咳払いをして問い掛ける。


「一応聞いておきますが、今回の案件にその暗殺者の後ろに居る人物が介入してくる可能性は?」

「……いや、それに関しては何も心配しなくていい」

「どうしてそう言いきれるので?」

「私が居る。お前がどう思うかは分からないが、それが唯一にして最大の理由だ―ー悪いな、つまらない話に付き合わせて」

「そう思っていただけるのでしたら、次からはご相伴に預からせてください」

「お前が成人したら考えてやろう。せいぜい勤めを果たして生き延びて見せろ」


 憂いが晴れたのか、どこかいつも通りの尊大な態度を取り戻したガブリエラの言葉に、レイは肩を竦めて深いため息をつく。


 脳裏によぎる疑問、実体の掴めないラスティバレルという敵対戦力、慣れ親しんだ市場からのあっけない撤退を決めた2組織。


 理解が出来ず、納得もいかず、腑にも落ちない。


 それでも状況だけは静かに進展し、レイは決して置いて行かれることがないように神経を張り詰めていた。


 気付かなかったでは取り返しがつかない事を、レイはアイリーンの死で教え込まれたのだから。

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