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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Burn To [Lovely] Ashes
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Dancin' Gonna [Bloody] 2

 貸し与えられた客間の赤いベルベッド地のソファにふんぞり返りながら、レイは掛けられた期待の重さに深いため息をつく。


 ガブリエラがレイに最初に求めたのはコルドバという街の正確な把握だった。

 戦場において情報がどれだけ大事なのかをジョナサンに教え込まれたレイはその要請を二つ返事で了承し、その後すぐに自分の迂闊さに後悔する事となった。


 ガブリエラが用意した情報はここ10年の住人の転居、物資の流通、解決未解決問わず起きた犯罪等、コルドバの公式な情報の全てだったのだ。

 最初こそレイも犯罪の情報を中心に情報収集に真面目に取り組んでいたが、1週間もすればその熱も冷め始めていた。与えられた情報は公安や企業等から入手した"都合の良い公式な情報"でしかなく、コルドバという不安定な情勢に置かれた街では不確かな情報でしかないのだから。


 そうしている間にも貸し与えられたタブレットには次々と情報が表示されていき、情報の本流から逃れるようにレイは目を逸らす。

 状況を推察出来るだけの情報さえ分かればいいとは言っても、それを振り分ける事が難しいほどに与えられた情報は膨大だった。


 それでもやらざるを得ない、とレイがネクタイに指を掛けたその時、貸し与えられた部屋の扉がノックされる。

 レイは10年前に起きたカルテル構成員殺害事件を表示するタブレットをソファに置いて扉に向かおうとするが、それより先に来訪者は部屋の主を尻目に率先して扉を開けた。


 頬に走る一筋の傷痕、その傷痕を覆い隠すように伸ばされたアシンメトリーの黒髪、そしてレイと同じように何もかもを黒で統一されたスーツを纏う無表情の女。


 そこに居たのはガブリエラの護衛であるメリチェル・アントニアだった。


「レイ、出発の時間」

「了解、ただ1つだけ先に言わせてくれ。ノックをしたら相手の返事を待つもんだ。覚えたか?」

「覚えた」


 吐き出した皮肉に素直に頷くメリチェルに嘆息しつつ、レイはソファに掛けていたジャケットを手にとってメリチェルと共に部屋を出る。

 ガブリエラに聞かされた情報を信じるのであればメリチェルは21歳と、レイにとっては年上の人間だ。


 しかし無表情で情緒があるようには感じられないメリチェルが、レイにはどうにも同じ時間を生きている人間とは思えなかった。


 良く言えば浮世離れ、悪く言えば歳不相応の幼さ。


 レイがメリチェルに感じているものはそういったものなのだ。


「レイ、情報の整理はどう?」

「全力を尽くしてくれたのは嬉しいんだけど情報が乱雑なくらいに多い。自分の無能を訴えるみたいでだせえけど、任務が終わっても情報の整理が終わるとは思えねえ」


 玄関への道中、顔も向けずに問い掛けてくるメリチェルにレイは肩を竦める。

 現にバイラオーラのアジト兼ビバンコ邸に来てからというもの、レイは情報を眺め続ける事しかしていない。

 レイが出撃せずに済んでいるのはガブリエラの安全が保障されているという事だが、未だ見えない任期の先延ばしでしかないのも事実だ。


「それにしても、コロンビアじゃ気安く人の名前を呼ぶのが常識なのか?」

「分からない。でもガブリエラ様がレイをそう呼べって」

「……何がしてえんだよ、アンタらは」


 いつもいつも任務とは関係のないところで面倒を押し付けられる自分の立場に、レイは思わず額を押さえて呻いてしまう。


 護衛対象の夜の相手、面倒な相手との協働、有事の際の薬の投与、招かれる面倒ごと、偽りの復讐の協力、言葉の通じない子供達とのコミュニケーション、生まれにコンプレックスを持つ女の篭絡。


 その挙句に必要以上に関る必要のない護衛とのコミュニケーションを強要されれば、人嫌いのきらいがあるレイがそう言ってしまうのも無理はないだろう。


「わからない。でもガブリエラ様が望むなら叶えるのがあたし達の役目」

「ならそのガブリエラ様の願いを叶えるついでに俺の質問に答えてくれ」

「構わない。ガブリエラ様もそれを望んでいた、きっと全部把握するのは無理だって」

「……そこまで把握してあの情報量かよ」


 バイラオーラの情報処理能力が高いのか低いのか、理解に悩むレイは思わずしそうになった舌打ちを必死に堪える。

 試されているような感覚をレイはいつまで経っても好きになれそうになかった。

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